竹内行夫(たけうち・ゆきお)
最高裁判事 在任期間
2008年10月21日 ~ 2013年7月19日
エピソード |
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少年時代は「白黒つけるところが魅力だった」アメリカの西部劇映画に夢中となった。
国際的な仕事をしたい、と漠然と考えていた学生時代。「高度経済成長の波に乗って、お金のために働く、と決心できなかった」といい、知人の勧めもあり、外交官の道に進んだ。
仕事面では、ガンコに筋を通し、安易な妥協を許さず、自分にも他人にも厳しいことで知られる。
部下の報告書の隅々までチェックして質問責めにする姿を指し、あだなは「千本ノック」。 部下から恐れられながらも語り草になっている。
細かいところにこだわる理由については「大局ばかりをみていると物事の本質を見失う」とのこと。
また、「ブリパン」を自称する。 「ブリキのパンツ」の意味で、口が堅く、マスコミの取材にも「鉄壁の守り」で応じる政治家や官僚を指す言葉とのこと。
外交官として「法の支配に基づいた外交」が持論で、90年代の日米防衛協力ガイドライン見直しでは、当時の北米局審議官らが唱えた「周辺事態」の 解釈拡大に対し、条約局長(現:国際法局長)として「官僚の判断だけで、安全保障政策を安易に変えるべきではない」と説得してみせた。
また、ロシア軍のチェチェン攻撃に対する日本政府の基本方針に関し、ロシア軍が一般市民に対して無差別攻撃を行った点について、鈴木宗男議員が「ロシアの国内問題」との考えを主張したのに対し、欧米諸国と足並みをそろえ、ロシア政府を批判すべきだと真っ向から反論した。
しかし、「(鈴木議員との)激論の事実はない」と、本人は否定している模様。
機密費流用事件や、田中真紀子元外相との「伏魔殿」確執など、外務省が不祥事に揺れた2002年に、外務事務次官に就任。
「(国民の信頼を失った)現在の状況は本当に悔しい。省員全員が悔しい気持ちを持ってもらいたい」と就任あいさつ。また、「ブリパン」の方針を一部修正し、「情報発進力の強化」を掲げた。
それまで外務省に強い影響力を及ぼしてきた鈴木宗男衆議院議員からは「自分のことしか考えない男」と批判もされた。
<北朝鮮問題>
当時の小泉純一郎首相の北朝鮮訪問、そして拉致被害者の一部返還を実現させた、立役者のひとりでもある。
<靖国問題>
小泉首相に対し、靖国神社の参拝を中止するよう求めたこともある模様。 関連して、靖国参拝問題で騒ぎすぎないよう、中国側に働きかけるなどした。
<イラク問題>
当時のアメリカ国務副長官に対し、「まず外交的な解決を目指し、全力を尽くすこと」「“米国対イラク”でなく、“国際社会対イラク”の構図にすること」「仮にイラク攻撃でフセイン政権が崩壊した場合、穏健で民主的な国家を作る、戦後の青写真を考えるべきだ」という3原則を示し、了解を取ってみせた。
その一方、ついにアメリカがイラク攻撃に及んだ際は、「ここを乗り切れば、イラク問題への対応の8割は成功と言われています」と、攻撃を支持するよう、当時の小泉純一郎首相に迫った。
また、戦火に脅かされたイラクを復興支援する指揮を執っている。
「開戦前から“戦争の回避と国際協調”の方針でアメリカを説得し続けてきており、“対米追随”なんて、まったく的外れの批判。 米国の耳元でささやく“静かな働きかけ”こそが日本外交の持ち味であり、そういう水面下の努力が国民に理解されていない」と嘆く。
プライベートの横顔 |
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自宅には西部劇のビデオを300本近く所有。 ジョン・ウェインらが主演の古典的作品を好む。特に好きなのは、ジョン・フォード監督が、無法者と対決した弁護士を描いた「リバティ・バランスを射った男」。
「白黒つけて、責任を取る」のが西部劇の魅力ではあるが、「実際はそんなに単純じゃないけどね。自分の人生は灰色がいっぱい」とも語る。
また、クラシックやオールディーズの音楽鑑賞も趣味。
最高裁判事 就任のあいさつ |
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個人的には新しいチャレンジであり、全力を尽くすということに尽きる。公務員時代は、それぞれのポストで全力を尽くしてきた。その積み重ねの連続だった。
月並みだが、責任の重さを感じる。今は『未知との遭遇』という感じだが、公平、公正で、社会のニーズにあった判断ができるようベストを尽くす。
社会が多様化し、利害関係も複雑になっている状況で、法治主義に基づき、個々人が人間らしい誇りをもって生きることと、社会秩序、この二つの両立を実現することが大事。司法の世界で良い社会をつくるため尽力したい。
外交官だからという、気負った気持ちは全くない。外交官としての経験は、個々の事件の審理で自然に反映できればいい。外交は情報発信が大事だった。司法でも情報発信は必要で、そのあり方を研究していきたい。
外交でも司法でも、日本が国際社会で名誉ある地位を占めるという目標は変わらない。
―――― 記者から「就任の一句」を求められ、
「私の歌は叙情的なので、この場では歌心がわきません」とかわした。
裁判員制度について |
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多様化、流動化する社会で、司法への市民参加は大きな歴史の流れ。いろいろと調整すべきことはあるが、円滑実施に努めていくことが重要だ。
竹内判事の おもな個別意見 |
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特になし。
そのほかの判断 (竹内判事が裁判長として関与・小法廷で全員一致の意見) |
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2009年7月14日 New!
ほかの男3人と共謀し、会社経営者の男性宅で3人にケガを負わせ、現金7万円などを盗み、強盗致傷の罪に問われた被告人に、懲役10年を言いわたした判決を支持。
2009年7月10日
前橋市(群馬)のスナックで、一般市民ら4人が射殺された事件の実行役として殺人罪などに問われた元暴力団幹部に対し、弁護側の上告を棄却し、死刑判決を維持。
2009年4月24日
山梨県の若者就職支援機関「ジョブカフェやまなし」から、60代のベテラン・キャリアカウンセラー(県の推進する廃棄物処分場建設への反対運動の代表者)が、業務から外れるよう命じられ、配置転換させられたのは不当だとする訴え → ×
2009年4月20日
地下鉄サリン事件(1995年)で、猛毒サリンを散布した信者をクルマで送迎したとして、殺人罪の共犯に問われた、オウム真理教の元幹部(杉本繁郎)に、無期懲役を言いわたした判決を支持。
2009年1月30日
石原都知事が「フランス語は数を勘定できず国際語として失格」と発言したことで、名誉を傷つけられたとして、フランス語学校の経営者や研究者など22人が賠償を求めた訴訟。→ × (「関係者に不快感を与える配慮を欠いた発言だが、名誉棄損にはあたらない」と理由づけ)
2008年12月19日
「週刊ダイヤモンド」の記事で、著作権使用料の徴収が「横暴な取り立て」、使用料徴収・分配の基準や実態が「不透明」と批判され、名誉を傷つけられたとして、日本音楽著作権協会(JASRAC)がダイヤモンド社に損害賠償などを求めた訴訟。→ ○ (一部に名誉毀損を認め、ダイヤモンド社側に320万円の支払いを命令)
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