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2005年2月 9日 (水)

限りなく「わざと」に近い「うっかり」

 兵庫県公安委員会は5日までに、同県明石市で闘犬に噛まれ、重傷を負った男児(4つ)に犯罪被害者給付金を支給することを決めた。県警によると、給付金は犯罪に巻き込まれて重傷や重い病気になったり、死亡したりした被害者や遺族に支給されるが、故意の犯罪がほとんどで、過失の事件被害者に支給されるのは極めてまれという。(共同通信)

 過失犯罪の被害者への給付規定は、全国初という。(産経新聞)

【参考過去記事】
「まさかあんな可愛い子に…」(2004/09/15)


■2004/09/14 神戸地裁明石支部

 【 被 告 人 】無職男性(28・神戸市西区)

 【 被 害 者 】男児(3つ・明石市)

 【 罪  名 】重過失傷害

 【 罰  条 】刑法第211条

 【 事件概要 】2003年4月28日午後、兵庫県立明石公園で、被告人が知人から
 預かっていた闘犬(アメリカン・ピット・ブルテリア オス、体長80cm)に、口輪を
 付けるなどの注意義務を怠り、首輪を緩めたまま散歩。2時20分頃、公園内で
 犬が逃げ出し、母親と散歩中だった男児の頭に噛み付き、大けが(全治3ヶ月)
 を負わせた。

 【 検察主張 】

 【 弁護反論 】

 【 判  決 】 ■ 懲役2年4ヶ月 ■ (※求刑…懲役3年)

 【 判決理由 】犬は闘犬として訓練され、事件前にもほかの犬をかんでいた。
 他の者から人通りの多い場所に行かないよう注意されていたのに、児童が遊んで
 いる可能性の高い公園に連れていくなど、過失としては極めて故意に近い。

  男児は今後、頭皮の移植手術を何回も繰り返す必要がある。成長する過程で、
 精神的に苦労することが認められる。一般市民にも恐怖を与えた。

 【 訴追側談話 】

 【 被告人談話 】

 【 被害者談話 】

 【 裁 判 官 】富川照雄

 理論的には、故意と過失を分けるのは、「法益侵害結果の認容」と呼ばれるものです。その「認容」があるかないかによって、この事案であれば、故意犯である傷害罪(最高 懲役10年)と、過失犯である重過失傷害罪(最高 懲役5年)とが分別されていくのです。

 まず、そんな攻撃型のワンちゃんを、ロクに首輪も締めず、放し飼いに準ずるような形で公園に連れていけば、シャレにならんほど危なっかしい、というのは分かるはずです。その無職男性当人が、万一ボーッとしていてそれを予期できなかったとしても、一般的なオトナだったら、十分に認識してしかるべき危険性です。

 そして、その危険が「発生したらマズいな」「気を付けなきゃ」と思っていれば、その危険を実際に発生させた場合、その人は過失犯(認識ある過失)です。一方で、その危険が「発生しても別にいいや」「かまわない」と思っていれば、故意犯(未必の故意)ということになります。

 ただ、その人が犯行当時にどういう意識でいたのかを探るのは、極めて困難です(その困難な試みをあえてやろうとするのが精神鑑定ですが)。そこで、事件を取り巻くさまざまな状況から、被告人を故意犯・過失犯いずれで処断すべきかを読み取っていくんですね。

 ・ アメリカン・ピット・ブルテリアは、大きく、闘犬仕様とドッグショー仕様があって、その犬は闘犬用に訓練されていた。

 ・ 本件の犬は、事件前にも、他の犬に危害を加えていた「前科」あり。

 ・ なのに、被告人は安全器具の取り付けをサボったばかりか、首輪をゆるめて散歩させていた。

 ・ 本来の飼い主ではなく、一時的に預かっている立場。しかも、飼い主から、人通りの多い場所に連れていかないよう注意を受けていた。

 ・ 2003年4月28日は月曜日だが、ゴールデンウィーク(大型連休)の入り口。公園での人通りが、通常の平日より多かったことも想像できる。

 ・ しかし、被告人は首輪を外して、わざと男児に犬をけしかけたわけではない。

 …などの要素が見えてきますので、故意ではないとしても「極めて故意に近い過失」という表現を裁判官は使われたのでしょう。たぶん、彼も強い犬を人前に連れていて得意げというか、優越感に浸っていたんでしょうね。私も、もし、もんのっすごい美人さんと1時間でもデートできたなら、そのこと自体の嬉しさと一緒に、周りの目線も気にすることになるでしょうから、気持ちは分からないでもありません。

 さて、本題の犯罪被害者給付金についてですが、被害者の男の子に支払われたのは「重傷病給付金」というもので、負傷や疾病から3ヶ月間の保険診療による医療費の自己負担分が支給されます。男の子が負った頭のケガも、全治3ヶ月ということですから、この給付金でちょうど治療費に充てられそうですね。
 ちなみに、ここにいう「重傷病」の定義は、加療1ヶ月以上かつ入院14日以上を要する負傷や疾病を指すようです。

◆犯罪被害者等給付金の支給等に関する法律 第4条(犯罪被害者等給付金の種類等)
 犯罪被害者等給付金は、次の各号に掲げるとおりとし、それぞれ当該各号に定める者に対して、一時金として支給する。
  一 遺族給付金 犯罪行為により死亡した者の第一順位遺族(次条第三項及び第四項の規定による第一順位の遺族をいう。)
  二 重傷病給付金 犯罪行為により重傷病を負つた者
  三 障害給付金 犯罪行為により障害が残つた者


 犯罪被害者というのは、「国家権力VS被疑者・被告人」という、戦後の刑事訴訟の構図から、ずっと蚊帳の外に置かれてきた経緯があります。加害者の人権保障も大事なことですが、そこにばかりエネルギーを傾けすぎてきた反省から、1980年(昭和55年)に初めて、この犯罪被害者給付金制度が整備されました。また、公判廷での意見陳述や優先的傍聴、公判資料の開示などを認めた犯罪被害者保護法ができたのが2000年(平成12年)。法廷への遺影持ち込みが認められるようになったのだって、ここ数年のニュースです。

 そして昨年、犯罪被害者基本法が国会で成立しました。その保護を「国や地方自治体、国民の責務」だと謳った点は、たしかに画期的なものですが、具体的に行政が被害者をどう手助けしていくのかは、これから詰めていくことになります。
 そうしたハード面と並行して、捜査機関や弁護人、あるいはマスメディアの中の一部に、被害者や遺族に対して心ない対応をする人もいるようですので、彼らにも社会が厳しい目を向けていくようにすべきなのでしょう。

 ところで、以前も書きましたけど、アメリカン・ピット・ブルテリアのような、どう猛な犬種を連れることについて、何か資格はいらないんでしょうか。何も無ければ、もうそろそろ「闘犬取り扱い資格」の整備を検討してみてもいいんじゃないかなと思っています。急所を噛まれたりして犠牲者が出てからじゃ遅いんですから。

 


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