ライブドア社をめぐる法律問題(1)
彼らがマネーゲームで主導権を掌握するための、巧みな抜け道を探す程度にしか法律に関心がないのと同様に、私も法律が絡んでくるまでは、この「ライブドアVSフジサンケイ」の展開には興味ございませんでした。
---------- 先生、いっつもマイナーな法律系ニュースばっかり採り上げてますけど、たまには世間の話題にも素直に乗っかりましょうよ。
横枕「キミのせいだろう。だいたいキミが、細かい脱力系ニュースしか持ってこんから、ワシはそれを解説するほかないんじゃないか。もう正直、うんざりなのだよ。」
---------- 最近のホットな話題といえば、なんといっても…
横枕「最近じゃ、あんまり『ホットな話題』って言いかたはせんけどな。ライブドアな。」
---------- そうです。また堀江さんが一波乱おこしてらっしゃいますね。今度もなかなか大胆です。あの生ける伝説であるラジオ番組「オールナイトニッポン」で知られるニッポン放送の株を、せっせと買い集めて、ニッポン放送を乗っ取ろうとしているとのこと。
横枕「そのとおり。」
---------- でも、なんで株を買い集めることが、会社の乗っ取りになるんですか?
横枕「えっ、そんなとこから説明せにゃならんの?」
---------- 堀江さんは、ニッポン放送の株を買って、財テクをしたいんじゃないんですか?
横枕「少なくとも、今回は違うんだよ。」
---------- 違うんですか? 株ってギャンブルですよね。本業や対人関係もそこそこに、買いどきや売りどきを逃さないよう、事あるごとに携帯の画面をにらみ付けるためにあるものです。
横枕「……ヒドいな、キミの認識は。 投機性のある、ひんぱんな値上がりとか値下がりは、株式の副産物みたいなものだよ。少なくとも法律上は。」
---------- じゃあ、何なんですか。
横枕「……オマエが何なんだよ。」
---------- 株をたくさん買っていけば、そのうち会社が自分のものになるってことですか。
横枕「端的に言うと、そういうことだ。株式とは、株式会社の所有権を、みじん切りにしてバラバラにした、破片みたいなものなんだよ。」
---------- えぇっ! 会社をバラバラにぃ!! なんてことするんですか。
横枕「いやいや、何をそんなに怒っとるのかね…。」
---------- だって…。たとえば、『株式会社 海山商事』をバラバラにするとしますよね。
横枕「うむ。」
---------- そしたら「この破片は、会社の看板の『海』の字だ」とか、「このカケラは、総務課の電話の受話器だ」とかいうことになりますよね。
横枕「はぁ?」
---------- この破片は、社長の愛用している部分入れ歯だな、とか。
横枕「キミは何を言っておるのかね…。だいたい、そんな会社の破片があったら、気持ち悪かろう。」
---------- おぉっ、この破片は、美人秘書の色香漂うクチビルじゃないか、とか。
横枕「ん、そういう破片なら、ワシもちょっと欲しいけどな。」
---------- 何を言ってるんですか、先生。いくらセクシーでも、クチビルだけだったら、気持ち悪いじゃないですか。
横枕「……キミにだけは、つっこまれたくなかったよ。」
---------- 結局どういうことなんですか。会社がバラバラって…。
横枕「株式というのは、細分化された会社の持ち分なんだよ。株式を持っているということは、その会社を他の株主と一緒に共有しているのと同じ意味。そういうふうに決めたんだよ。抽象的なルールだ。
---------- なーんだ。最初からそう言ってくれたらよかったのに。
横枕「言わなくても、普通わかるだろ。」
---------- つまり、『株式会社ジグソーパズル』の1ピースである株式を、たくさん持てば持つほど、その持ち分の割合がどんどん上がっていって、その会社に対しておよぼす支配力も増していくと。
横枕「おっ、なんだか急に物わかりがよくなったな。」
---------- そして、バラバラになった美人秘書をすべて集めることに成功すれば、『あたしを元の姿に戻してくれてありがとう。チュ。』ということになって、うまくやれば付き合えると。
横枕「……あぁ、やっぱりわかっとらんかったか。」
◆ 商法 第204条
1 株式ハ之ヲ他人ニ譲渡スコトヲ得 (※以下略)
---------- ライブドア社は、先週までにニッポン放送の発行済株式のうち、約43%を取得しているようです。さらに、「今週中に50%越えを目指す」と、堀江さんは高らかに宣言しておられました。
横枕「そうらしいな。」
---------- でも、なんで50%にこだわるんでしょうか。キリがいいからですか。
横枕「キミは、株主総会というのを聞いたことはあるかね。」
---------- 株主総会…。そういえば昔、ニュースで、そのスジの人が騒ぎ回ったとか何とかで報道されてたことがあります。総会屋でしたっけ。
横枕「そう。株主総会とは、年に1回、その会社の所有者である株主が、全国から一堂に会する場だ。1株でも持っていれば参加できる、株式会社の最高意思決定機関とされておる。」
◆ 商法 第230条の10
総会ハ本法又ハ定款ニ定ムル事項ニ限リ決議ヲ為スコトヲ得
---------- ってことは、株主総会は社長よりエライんですか?
横枕「もちろん。だって、取締役を選んだり辞めさせたりは、株主総会の決議事項だからな。」
◆ 商法 第254条
1 取締役ハ株主総会ニ於テ之ヲ選任ス
◆ 商法 第257条
1 取締役ハ何時ニテモ株主総会ノ決議ヲ以テ之ヲ解任スルコトヲ得(※以下略)
---------- つまり株主総会で力を発揮できれば、その会社の取締役に誰を就かせるかも、自分の思い通りにできるんですか。
横枕「さよう。株主総会での決議は多数決で行われるが、普通の多数決のように『1人1票』ではない。『1株1票』なのだ。」
---------- なるほど。だから堀江さんは、株式での過半数にこだわるんですね。金持ちほど、その会社で幅を利かせられるとは、身もフタもない感じもしますが。
横枕「だが、それが株式会社という制度なんじゃ。大株主ほど、その会社に対して経済的に貢献しておるということでもあるからのぉ。」
◆ 商法 第241条
1 各株主ハ一株ニ付一個ノ議決権ヲ有ス
◆ 商法 第239条
1 総会ノ決議ハ本法又ハ定款ニ別段ノ定アル場合ヲ除クノ外総株主ノ議決権ノ過半数ヲ有スル株主出席シ其ノ議決権ノ過半数ヲ以テ之ヲ為ス
横枕「じつは、大株主になると、株主総会での発言権が増す以外にも、さまざまな特典が付いてくる。」
---------- まだ何かあるんですか?
横枕「株主の中でも、限られた一部の者のみが行使できる権利ということで、それらは『少数株主権』と呼ばれておるんだ。
---------- そうか。やっぱり金を持ってると、なんでもできるんですね…。
● 少 数 株 主 権 リ ス ト ●
議決権(株式)の全体に占める割合 | 議決権(株式)の保有期間 | |
・ 株主総会で議題のネタを提案する権利(232-2) | 1%以上or300個以上 | 行使前6ヶ月以上 |
・ 株主総会の不正を専門に調べる人(総会検査役)の選任を求める権利(237-2) | 1%以上 | 行使前6ヶ月以上 |
・ 取締役・監査役の責任が軽減された場合に、モノ申す権利(266XV・280I) ・ 会計帳簿などを見たり、その写しをもらったりできる権利(293-6など) ・ 会社の不正を専門に調べる人(検査役)の選任を求める権利(294) |
3%以上 | - |
・ 「株主総会を始めるぞ、みんな集まれ」と呼びかけてくれ、と取締役に求める権利(237I) ・ 取締役・監査役の解任を求める権利(257Ⅲ・280I) |
3%以上 | 行使前6ヶ月以上 |
・ 会社の解散を命じる判決を、裁判所に求める権利(406-2) | 10%以上 | - |
・ 会社の簡易合併などに、反対の意思表示をする権利(413-3Ⅷ等) | 16.67%以上 | - |
・ 株主総会での特別決議(増資・合併・営業譲渡・取締役選任・定款の変更などの重要事項)を拒否する権利(343I反対解釈) | 33.34%以上 | - |
(※カッコ内の数字は、商法典上の条文番号です。)
横枕「ライブドア社は、以前からニッポン放送株を全体の5%ほど持っておったらしい。」
---------- 今回の、買い増しする前からですか?
横枕「そのようだ。仮に、その5%を半年以上持っておったとすると、現在43%を保有しているライブドアグループは、ニッポン放送株式会社に対して、以上の少数株主権をすべて行使できることになる。」
---------- す…すげぇ。
横枕「で、フジテレビジョンが持っているニッポン放送株は、12.3%。」
---------- でも、フジテレビは今、大々的に買い集めているそうじゃないですか。
横枕「そう。それこそが、今回の騒動の核になるメインテーマだ。 フジテレビの話は、とりあえず、後回しにさせてもらおうか。」
【つづく】
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