第3の株取引 [ライブドア社をめぐる法律問題(2)]
--------- ライブドアが株を買うことは、資本主義社会では当然のことですよね。なんで、こんなに騒がれなきゃならないんでしょう。
横枕「まず、その購入した数そのものの多さが、理由のひとつ。」
--------- でも、その大量の株と引き換えるだけの財力をお持ちなんだから、責められる筋合いはありませんよね。
横枕「もうひとつは、その取引が密かに、潜行的になされた。少なくとも、フジサンケイグループ側がそう主張している、という点だな。」
--------- そうは言いますけど、隠れて買おうが、大っぴらに買おうが、堀江さんの勝手じゃないですか。
横枕「それが、そう簡単にもいかんのだよ。株をこっそり大量購入するというのは、100円ショップでスリッパを大量購入するのとは、ワケが違う。」
--------- どう違うんですか?
横枕「普通、株はどこで買うかね。」
--------- えっ、証券会社ですか。
横枕「その証券会社は、証券取引所を通じて、『売り』と『買い』をぶつけ合うことによって、株の取引を成立させる。そして、その手数料をもらうことによって、経営を成り立たせておる。」
--------- あっ、そうか。100円ショップのスリッパは、売る側があらかじめ『税込105円』と決めているけど、株は値段が決まってない。
横枕「そのとおり。『いくらで何株売りたい』『いくらで何株買いたい』というお互いの希望が合致して、はじめて売買成立となるわけだから、値段と売買量だけでなく、取引の相手が誰かということも、事前には分からない。
--------- それがマーケット、市場原理の仕掛けですよね。でも、それがどうしたんですか。
横枕「何よりもビジネススピードを重視したい堀江さんは、そういうチンタラした市場取引を嫌った。そんなチビチビした買い方では、ニッポン放送をライブドアの傘下に置く野望が、いつ実現できるか知れんからだ。」
--------- スケールのデカい話で、貧乏人にはピンと来ませんが。
横枕「また、市場取引によれば、買い集めていけばいくほど、株価がどんどん釣り上がっていくという欠点がある。『買い』をたくさん入れるということは、売る側にしたら『そんなに欲しがっているんなら、多少高くても買ってくれそう』という心理がはたらくだろうからな。」
--------- じゃあ、マーケットを使わずに、どうするんですか。ニッポン放送の大株主と直接交渉していくんですか。
横枕「まぁ、そうしたかったようなんだが、そんなホリエモンに、法律の大きな壁が立ちふさがった。」
◆ 証券取引法 第27条の2
1 その株券(※中略)について有価証券報告書を提出しなければならない発行者の株券等につき、当該発行者以外の者による取引所有価証券市場外における買付け等(※中略)は、公開買付けによらなければならない。(※以下略)
◆ 証券取引法 第27条の3
1 前条第一項本文の規定により同項に規定する公開買付け(※中略)によつて株券等の買付け等を行わなければならない者は、内閣府令で定めるところにより、当該公開買付けについて、その目的、買付け等の価格、買付予定の株券等の数(※中略)、買付け等の期間その他の内閣府令で定める事項を、時事に関する事項を掲載する日刊新聞紙(※中略)に掲載して公告しなければならない。 (※以下略)
横枕「その株式会社の発行済株式の3分の1以上(33.34%以上)の取得を目指して、市場の外で取引しようとする場合は、『公開買い付け(TOB)』という方法で行わねばならんのじゃ。これに違反すれば、3年以下の懲役もしくは300万円以下の罰金(場合によってはその両方)が科せられる(同法第198条第4号)。」
--------- 義務なんですか。どうして、株の大量買い付けを行うときは、その行動を公開しなきゃならないんでしょう。
横枕「普通、TOBで、世の中に散らばる株式をかき集めようとするときには、株式の時価(市場価格)よりも、買い取り価格を高く設定するもんだ。」
--------- なんでですか。
横枕「そうせんと、誰もその人に売りたがらんだろう。」
--------- あぁ、そうか。
横枕「だから、どの株主にも、その『他店よりも高く買います』という募集に応じるチャンスを平等に与えよう、という趣旨がひとつ。」
--------- そうか。株価の値動きとにらめっこするより、そのグラフを超える高値で買ってくれる人が別にいるんなら、そっちに売り払うほうが手間も掛かりませんしね。投資の面白さは半減するのかもしれませんけど。」
横枕「また、前回『少数株主権』のところで説明したように、全体の3分の1以上の株式を占めていれば、『特別決議の拒否権』というものを発動できる。」
--------- はい。新株の発行や企業同士の合併といった株主総会の決定に、単独でストップをかけられる権利でした。
横枕「そんな強力な権利を取得するまでのプロセスが、他のどの株主にも明らかになるようにしておこう、とする『手続きの透明性確保』という意味合いも大きいな。」
--------- でも、ニッポン放送株の大量買い取り活動は、フジテレビにバラしたくなかったんですよね。日本を代表する巨大企業の、えげつないパワーを恐れたと。」
横枕「いつかはバレるにしても、その強烈な反撃が来るまでの時間稼ぎがしたい。なので、TOBという公開された方法では都合が悪いと考えた堀江さんは、残された『第3の取引』に目を付けたんじゃ。」
--------- だ…第3の取引!?
横枕「『時間外取引』あるいは『立会外取引』と呼ばれる方法だ。」
--------- なんですか、それ。
横枕「証券取引所では、午前中の『前場(ぜんば)』と、午後からの『後場(ごば)』に市場取引されておる。それらのオンタイム以外になされる取引だよ。」
--------- はぁ。
横枕「東京証券取引所では、機関投資家向けの『ToSTNeT-1(トストネット・ワン)』と、個人投資家向けの『ToSTNeT-2(同・ツー)』という、2種類の時間外取引システムが用意されておる。いずれも1998年に開設された新しい方法で、堀江さんは、この『1』のほうを利用した。」
--------- トストネット…。どういうシステムなんでしょう。
横枕「本来は、世の中のいろんなオトナの事情で、気心の知れた人に一定の価格で株を売りたいとか、売った後にすぐ買い戻したいとかいう企業の都合を満たすためのものだ。」
--------- でも、それなら個人的に株を売り買いすればいい…… あっ、そうか!
横枕「そのとおり。個別に市場外で取引するなら、TOBで買い付けねばならん。しかし、トストネットは東京証券取引所のシステムだから『市場内取引』という扱いになり、TOBの義務を免れることができるんだよ。『免れる』という言い方も変だが。」
--------- すげぇ…。フジテレビにバレずに、しかも、取引市場を通すことによる値上がりの危険性を避けながら大量購入ができる…。ホリエモン、ウハウハじゃないですか。
横枕「トストネット・ワンは、平日の前場の前(8時20分~9時)、昼休み(11時~12時30分)、後場終了後(15時~16時30分)に開かれておる。堀江さんは、2月8日火曜日、前場の前に約588億円を投入して、約927万株を購入したとされている。この取引で、ニッポン放送の全株式の3分の1以上を手にすることに成功した。」
---------- ……!
■ 2月8日 ライブドアグループによるニッポン放送株買い取りの全貌
約定時刻 1株の価格(円) 売買高(株) 売買代金(円) 8:22 6,050 348万3220 210億7348万 8:23 6,050 135万7050 82億1015万 8:24 6,050 125万0000 75億6250万 8:36 6,050 90万9360 55億0162万 8:46 6,050 237万0640 143億4237万
※ この他、売買代金50億円以下の取引が1回。
(東証トストネット取引 超大口約定(売買代金50億円以上)情報から抜粋[毎日新聞 2/16朝刊記事より])
---------- でも、こんなに首尾よく買い取れるもんなんですか?
横枕「だから、8日朝の時間外取引に先だって、事前に株式売買の取りまとめが行われていたんじゃないか、と各方面から指摘されておる。」
---------- だとしたら、その市場外で行われた売買の予約を、単に完結させるためにトストネットを利用したにすぎない、ってことになりますね。だとしたら、TOB義務違反の可能性が指摘されても仕方がないかもしれません。なら、最悪で懲役3年…。
横枕「8日夕方の記者会見で『(株の大量買い取りを考えたのは)今日です、としか言いようがない』と発言したが、7日付けの社長日記には、『明日は早い。朝6時起床だもんね・・。』とも記載しておった堀江さん。」
---------- なるほど。前日までに、トストネットでのニッポン放送株取得が、スケジュールに組まれていたことが考えられますね。事前の市場外売買を疑う、情況証拠のひとつにはなりますか。
| 固定リンク
「フジサンケイ「新規参入」騒動」カテゴリの記事
- 平成18年 六本木ヒルズの変(2006.01.16)
- 人生の種目(2005.03.24)
- フジサンケイをめぐる法律問題(1)(2005.03.11)
- 第3の株取引 [ライブドア社をめぐる法律問題(2)](2005.03.04)
- ライブドア社をめぐる法律問題(1)(2005.03.01)
この記事へのコメントは終了しました。













コメント