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2005年6月15日 (水)

信州大学法科大学院の誤算

信州大学大学院法曹法務研究科

>>> 未完成論文を「完成」と申請か 信州大、法科大学院設置で(共同通信)2005/04/03

 信州大(長野県松本市)は、昨年6月に法科大学院設置申請をした際、予定教官の未完成の論文について「完成」と証明する書類を提出した疑いがあると文部科学省に指摘され、調査を始めたと発表した。
 文科省は設置申請以降に投稿予定の論文については、申請書に含めないよう指示していた。

 予定教官で、論文が未完成だった学部長は「申請の時点では完成原稿を出していないが、8月発刊の論文集には掲載されており、問題があるとは考えなかった」と話している。

 
>>> 信州大法科大学院の募集を停止 虚偽申請問題で (朝日新聞)2005/06/15

 信州大学(小宮山淳学長)が法科大学院の設置をめぐり、5人の教員の未完成論文を 「完成済み」として申請した問題で、文部科学省は14日、同大に対して法科大学院の新規学生の募集を停止するよう指導した。再発防止策のほか、この問題で引責辞任する教員の後任を決めるなど教育体制の見直しが実現するまで募集停止を継続する方針。 法科大学院での募集停止措置は初めてとなる。

 信州大学の小宮山学長は「新たな教員の確保ができるまでは来年度の学生募集を自粛する」と話した。

 
 「教員集め」という問題は、とくに地方で法科大学院を設置しようとする組織にとって、悩みの種となります。弁護士などから教員として迎える場合は、今までの高い収入水準を維持することを保障しなければなりません。ボランティア気分ではなかなか来てくれないからですね。
 ただ、法科大学院の教育は少数精鋭ですから、教員の報酬を上げるなら、院生ひとりひとりが負担する学費も引き上げざるをえません。しかし、高い学費を取っておきながら、それにしては司法試験合格者も大して出せていないということであれば、志願者たちは当然離れていくのです。これと似たジレンマ構造はどこかで見たなぁ……と思っていたら、何のことはない。日本の少子化・年金問題でした。

 また、大学教授が教員として就任する場合にも、配置する各科目それぞれについて、文部科学省が要求する数々の条件をクリアしていなければなりません。信州大学は、その条件クリアをねつ造していたわけです。

 有識者でつくる文科省の「大学設置・学校法人審議会」は、設置予定の法科大学院について、施設の状況や、個々の教員が担当科目を受け持つ能力があるかどうかなどの点について審査します。その審査は、法科大学院をつくりたい組織が申請してきた内容をもとに行われます。そして、その申請に関して、文科省が各大学に示した「大学設置申請書類作成手引」では、発行・発表予定の論文や著書につき、申請以降に投稿予定のものは含めないよう指示しています。

 予定教員のデータの中で、何が設置認可のプラス要素で、何がマイナスに作用するのかは、ほとんど知らされていません。たとえば「大学での指導歴が5年以上の者」だとか「教員の年齢構成は、過半数が60歳以下になるように」などは、文部科学省が求めているとされる目安ですが、細かいところは非公表とされています。ただ、「どうやら、過去5年間の論文の内容や数が重要らしい」というのが、暗黙の了解事項になっている模様です。

 「直近5年間の論文実績」と聞いて、ここ十数年ほど論文を書いていない信州大学の教授たちは、あわてて論文を執筆しにかかったのだろうと考えられます。新しく発足する大学院の設置に向けて、つじつまを合わせる目的での学術論文だったのかもしれません。しかし、大学院の申請期日までに書き上がらなかったと。
 そこで、やむなく現在進行形で執筆中の論文を「完成」として申請したのでしょう。「いくらワシが遅筆でも、大学院が始動する頃にゃあ論文は出来上がっとるんだから、文句無いじゃん。 だいたいさぁ、文科省もそこまで厳格にチェックせんだろう。 しょせんお役所だし。うちらみたいな国立大学法人は甘く見てくれるだろう」と踏んでいたのでしょう。残念ながら、そうは問屋が下ろしませんでした。

 「大学設置・学校法人審議会」のやり方は、決してぬるくないぞ、あなどれんぞ、ということは、すでに世間に了解済みだったはずです。信州大学は、なぜそれを忘れてしまったのでしょう。

 2003年に、北は北海道大から南は琉球大まで、全国で72校が、法科大学院の第1次設置に名乗りを上げました。そのころから既に、文部科学省はうるさく各校に文句を付けていたことから、「ひょっとしたら、このうち半数ぐらいは認可されないんじゃないか」として、先行きを危ぶむ声もありました。でも、審査は形式的なもので、どうせ全部認可されてシャンシャンだろ? オレたちにはわかってんだぜ? という予定調和の空気が支配的だったのも確かです。

 しかし、文部科学省はマジでした。関係者たちを震撼させた、同年の「11・21事件」。72校中4校に「設置不認可」を、2校に「設置保留」を言い渡したのです。

 青森山田学園が設置しようとしていた「東京法科大学院」は、某司法試験予備校との提携が嫌がられ、ボツになりました。全般的に新司法試験の受験対応に偏っており、「鋭い人権感覚を持った弁護士の育成」という教育理念が形だけのものだと指摘されてしまったのです。同学園は、募集定員を100名と比較的多めに設定し、社会人挑戦者向けの夜間指導を計画していました。仕事を終えた彼らが夕方から大学院に通いやすいよう、年間1億円以上のテナント料をかけて、渋谷駅前の一等地に校舎とキャンパスを確保していたのです。
 ただ、今年か来年あたりに再申請のウワサもありますので、今後の動向に注目です。

 京都の龍谷大学法科大学院も、某司法試験塾と提携し、東京の施設を借りて運用することになっていました。こちらは6月の段階で、申請書に提携の事実を記載しておらず、しかも、文科省が正式に説明を受けたのは、設置答申(11・21事件)の1ヶ月前だったということで、その不意打ち行為が逆鱗に触れ、マイナス要因になったらしいです。そのおかげで「自ら創造的に思考する法曹を育てる、という理念にかなった教育が実現可能であると判定することは困難」と言われてしまいました。

 残りの不認可2校(愛知学院大学・北陸大学)と、保留2校(大阪大学・専修大学)については、今回の信州大学事件と似たような、教員体制の不備に関する物言いでした。特に国立、しかも旧帝大である阪大がクレームを受けてしまったことは、誇りを傷つけられショックだったようですね。

 1年半前に起こったばかりの、このようなゴタゴタを、ついつい信州大学は「対岸の火事」として捉えてしまったんじゃないでしょうか。そこに、「ウソ申請問題」を生じさせてしまった最大の原因があるように思えてならないのです。

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