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2005年11月23日 (水)

正木ひろしという弁護士

 「かつて共産主義に走った教授、官僚等が、今は全体主義に走る。一貫している部分は、『走る』ということだけ」(個人ミニコミ誌「近きより」昭和15年8月号)

 「あれがいけない、これがいけないといって、段々と枝を切っていくと、しまいには盆栽ができる。日本国を盆栽に仕立てようとしている一派がある」(「近きより」昭和16年6月号)
     何ヶ月か前に、テレビで正木ひろし氏を特集している番組を観て、興味を持ち始めました。

 昭和19年1月に茨城県で起きた、警官による被疑者拷問事件。時は戦局厳しき折。官憲の不法行為を摘発するために、監視の目をかいくぐって犠牲者の死体を発掘し、その頭部を切断。東京に持ち帰り、東京帝国大学法医学教室の古畑教授による鑑定の結果、警官による暴行の証拠をつかむことに成功したのです。  帝国弁護士会を動かして、その警官を起訴。裁判所は当初無罪を言い渡したようですが、戦後、昭和30年12月に最高裁から有罪の判決が下り、正木弁護士の主張は貫徹されたのです。

 その他にも、プラカード事件、三鷹事件、チャタレー事件、八海事件など、法律をかじった人間にはおなじみの裁判に多く携わっておられます。弁護士としての枠にとらわれない活躍ぶりが目を惹きます。

 正木昊は、明治29年生まれ。大正11年に東京帝大法学部を卒業したのですが、弁護士を職業にする気は毛頭なく、「自信のある技術は、画家より他にない」と、解剖学教室に通って人体写生の技術を研究したり、座禅をしたり、哲学書を読みあさったりしていた模様です。

 在学中には学部の講義にはろくろく出席せず、誰の紹介もなく、いきなり東京府立一中の校長を訪ね、その紹介で千葉県立佐倉中学校の教師となったり、長野県立飯田中学校の英語教師をアルバイトでやっていたといいます。

 身なりをあまり構わず、「西洋乞食」という不名誉なあだ名も付けられました。ひろしです。

 その後、新聞記者や雑誌の寄稿を続けているうちに弁護士登録。そして、昭和12年、大正デモクラシー時代からの自由な空気が失われ始めてきた不穏な時代背景に敢然と立ち向かうため、個人雑誌「近きより」を創刊したのです。

 ヘタに権力を叩けば、治安維持法で引っぱられてしまう世の中です。誰もが上からの圧力につぶされ沈黙している中、それでも、手を変え品を変えた巧妙な言い回しで、軍部やそれに追従するエリート達を容赦なく批判してみせる表現が痛快です。

 こういうトリックスターが大好きなんですよね。活躍するフィールドに関係なく。なので、正木ひろし専用の新たなカテゴリを立ち上げました。ま、立ち上げるといってもブログですので、クリック一発なんですが。

 これからも、暇がある限りで「らしくない弁護士 正木ひろし」を追いかけ、ひたすら地味に特集してまいりますよ。





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らしくない弁護士 正木ひろし」カテゴリの記事

コメント

みそしるさんのおかげで、初めて知りました。正木弁護士(’-’*)
こういう、骨太で一時代のスケールにとどまらない方って、本当にカッコいいですよね(≧~≦)
月下も大好物です♪♪
これからも、派手にバシバシ取り上げて、読者に刺激をくださいね(はあと
注:ヒロシは。。。どうかと思います(笑)同音ですけども。。。

投稿: 月下美人☆ | 2005年11月23日 (水) 22:29

まぁ、ヒロシはヒロシですし。(はぁと)

昨日、口頭弁論の傍聴に落選しましたが、ついでに、その足で国会図書館まで行ってきたんです。まぁ、傍聴に成功しても、裁判が終わってからどっちみち行くつもりでしたけど。

そこで、正木ひろしと裁判員制度について腹いっぱい調べてたんですが、正木ひろし氏の資料が、とにかく古い。「マイクロフィッシュ」って知ってます? マイクロフィルムが透明なプラ板になったようなものです。これに刻まれた極小の文字を専用の機械で拡大して、複写したいページを指定して(これに苦戦!)……。

次に乗り込む際には「近きより」の原本にあたりたいんですが、果たして現存するのやら……? 国会図書館に無かったら、世田谷区の大宅文庫かなぁ。あそこは、珍しい蔵書が揃っとるけど、コピーに1枚100円とか200円とか平気で取りますので、いろんな意味で涙が止まらないスポットです。

投稿: みそしる | 2005年11月23日 (水) 23:10

「マイクロフィッシュ」も「大宅文庫」も存じ上げませんでしたぁ!
(@_@*)
しがない大学院生には、国会図書館にない図書なんてないのかと。。。でも、うん。考えてみりゃ、1億人以上の私物にかなうものはないでしょうね。。。

フィッシュも大宅も、この目で見てみたいです!

それにしても、あこぎなコピー代。。。月下には、逆立ちしてもどこからも降ってこないです。そんな大金(笑)。。。

投稿: 月下美人☆ | 2005年11月25日 (金) 13:14

正木先生については、帝銀事件の調査の過程において耳にしておりました。

社会正義について考える事が多くなりましたが、
骨のある弁護士が少なくなっていると感じるのは
私だけでしょうか。

投稿: ハリソン | 2005年11月25日 (金) 19:27

>月下美人☆さま

戦前戦中の、しかも読者に郵送していた個人のミニコミ誌ですので、いくら天下の国会図書館(帝国図書館)でも……と心配してみました。「近きより」は、そんな小規模雑誌だったからこそ、当時の官憲がお目こぼししてた(≒ナメてた)という側面もあったらしいので。

まぁ、一度大宅文庫に行かれると、「これだけの質と量の蔵書を維持するには、こんなあこぎなコピー代も仕方がないのかなぁ」とも思えてきます。正直すごいです。すごいのは分かってるんですが。分かってるんですがぁぁぁぁ!(涙)

ちなみに入館料は500円でしたっけ。それで雑誌10冊を自由にリクエストできます。200円の追加で、もう10冊というシステムです。ただ、私も上京したての頃に、はしゃいで1回行ったっきりなので、ちょっと変更があるかもです。
 
 
 
>ハリソンさま

いらっしゃいませ。

正木弁護士は、帝銀事件にも噛んでおられましたか。彼についての基礎知識を習得するだけでも大変そうですね。

骨のある弁護士が少なくなってきたか否かのご判断は、ハリソンさんはじめ、読者の皆さまに委ねたいと思います。私は、文書などの資料から得られた事実を、ただご紹介していく予定です。

なにも、無駄を撲滅して効率を信仰し、要領と人脈を駆使して与えられた課題を乗り切りたがる、市販のビジネス本から飛び出てきたような人種ばかりではないはずです。
これからの司法試験には、毎年3000人が合格するらしいですから、さすがに1人か2人ぐらいは、周囲のそういった態度を疑うタイプの法曹候補が混じってくるでしょう。というより、混じらなければ不自然です。

投稿: みそしる | 2005年11月27日 (日) 09:53

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