相手との気持ちが合わなければ、契約は成立しない
>>> “ワンクリック詐欺”容疑で、ネット犯罪ジャーナリストを逮捕
岩手県警察は7日、“ワンクリック詐欺”で現金を騙し取ったとして、東京都中野区のインターネットジャーナリストの男性(35歳)ら5人を詐欺の疑いで同日までに逮捕したと発表した。
男性は、「事件簿ネット」というサイトを運営。インターネット関連事件を取材してレポートしていたほか、被害者からの相談も受け付けていた。インターネット犯罪の専門家としてテレビや新聞、雑誌などに多数出演・執筆するとともに、「インターネット犯罪 だます人・だまされる人」「ケータイトラブル完全撃退マニュアル」などの著書もある。国民生活センターが発行する月刊誌にも「ネット社会の落とし穴」という連載を持っていた。(インターネット・ウォッチ)2005/11/08
なるほど。詐欺の被害者だけでなく、世間までをも欺いた正義ぶりっこ。 こいつは罪深いですねぇ。
被疑者は、犯罪の被害相談も受け付けていたとのことですが、ひょっとしたら、だまされた被害者たちは、あろうことか犯人自身に事件解決の相談を持ちかけていたのかもしれませんよ。自分が放った火を自分で消す。マッチポンプ以外の何物でもない、不毛なスパイラルです。
「インターネット関連事件を取材して……」といいますけど、誰のどんな事件を取材したんだか。そんなもん、貴様の実体験レポートなんじゃないのか?
本日の「とくダネ」(フジ系8:00-)では、「それでは“ワンクリック詐欺”とは、どんな犯罪なのか。容疑者ご本人に解説していただきましょう」と、過去のインタビューVTRを流していました。あの構成は良かったです。素晴らしく皮肉っぽくて。
どうでもいいですけど、物書きの中でも「ジャーナリスト」を名乗りたがる人って、異常に多いですよね。まぁ、響きがカッチョイイのは認めますけどね。それだけですけど。
岩手県警の調べによると、5人は共謀して虚偽の携帯電話向けサイトを開設した上で、2004年11月16日ごろ、同サイトへのリンクを記載したショートメールを携帯電話会社を装って神奈川県内の女性(33歳)に送信。リンク先のページには有料の利用契約が表示されるようになっており、このページにアクセスした女性に対して「登録料×万円が未納です。支払わなければ裁判にします」といった内容のメールを送信し、銀行口座に現金を振り込ませて騙し取った疑いが持たれている。(インターネット・ウォッチ)同上
困りましたねぇ。昨年、架空請求詐欺を「振り込め詐欺」と命名して以来、警察庁は「口座にカネを振り込め、などという申し出は、まず疑ってかかれ!」と庶民を懸命に啓蒙してきたわけです。が、被害者が架空請求詐欺だと気づかずに、こちらに支払い義務があるものと勘違いしてしまえば、そんな警告も空しく響くばかりであります。
アダルトや出会い系サイトなどの宣伝メールに書かれたURLを、なんとなくクリックしてしまった後ろめたさに加え、「裁判」という面倒くさそうな脅し文句も手伝って、つい向こうの言い値を振り込んでしまうんでしょうか。
よろしいですか。迷惑メールに書かれてあるサイトを訪問しただけで、なんらかの契約が成立するなんてことは、ありえません。仮にあるとすれば、2クリック以上の操作があった場合でしょうかね。
◆ 電子消費者契約に関する民法特例法
第2条(定義)
1 この法律において「電子消費者契約」とは、消費者と事業者との間で電磁的方法により電子計算機の映像面を介して締結される契約であって、事業者又はその委託を受けた者が当該映像面に表示する手続に従って消費者がその使用する電子計算機を用いて送信することによってその申込み又はその承諾の意思表示を行うものをいう。
2 この法律において「消費者」とは、個人(事業として又は事業のために契約の当事者となる場合におけるものを除く。)をいい、「事業者」とは、法人その他の団体及び事業として又は事業のために契約の当事者となる場合における個人をいう。
3 この法律において「電磁的方法」とは、電子情報処理組織を使用する方法その他の情報通信の技術を利用する方法をいう。
第3条(電子消費者契約に関する民法の特例)
民法第95条ただし書(※意思表示をしたことに重大な落ち度があった場合、その人から「やっぱり勘違いでした」とは主張できない)の規定は、消費者が行う電子消費者契約の申込み又はその承諾の意思表示について、その電子消費者契約の要素に錯誤(※内容の主要部分に重大な勘違い)があった場合であって、当該錯誤が次のいずれかに該当するときは、適用しない。
ただし、当該電子消費者契約の相手方である事業者(その委託を受けた者を含む。以下同じ。)が、当該申込み又はその承諾の意思表示に際して、電磁的方法によりその映像面を介して、その消費者の申込み若しくはその承諾の意思表示を行う意思の有無について確認を求める措置を講じた場合又はその消費者から当該事業者に対して当該措置を講ずる必要がない旨の意思の表明があった場合は、この限りでない。
(※以下略)
なんだかややこしくて、できれば読みたくない文面(実際、ややこしいです)の条文ですけれども、要は、「ネット上で契約を成立させたかったら、契約を成立させてよいかどうか、その確認画面を相手方のために用意しろ」ということです。
そもそも、契約とは何か。契約とは「(法律上のことがらで)自分と相手との気持ちが合わさった状態」です。
たとえば、コンビニの売場に在庫の食パンが置かれた、という事実をもって、そのコンビニにおいて「この食パンを売ります」という気持ちが表れているわけです。そして、客がその食パンを欲しくてレジに持っていけば、この時点で売買契約が成立します。この場合、お金を払うどころか、声を交わすことすら、契約締結のためには必要ありません。
それは、ヒゲ面の店長の「売りたい」という熱い気持ちと、ヒゲ面のあなたの「買いたい」という気持ちが、お互いの間で通じ合い、重なり合い、渾然一体となっておるからです。……気持ち悪いですか? そこは少しガマンしてください。
もし、あなたが「やっぱり食パンやめた。イチゴ大福にしよう」という気まぐれを出せば、その瞬間、いったん成立した契約が合意解除(あるいは契約の錯誤無効)され、イチゴ大福の新しい売買契約が締結されたことになります。小売店ではよくある場面ですが、法律上はちょっと面倒なことになっているというわけです。
一方で、このクリック詐欺。メールを受け取った側には、冷やかしでサイトを訪問してみる気持ちしかないのに、いきなり一方的に「有料契約が締結されています」と言われてしまっている。このスカスカした気持ちのすれ違い。一体、どこに契約が成立する余地があるというのでしょう。まるで、1回一緒にメシを食いに行っただけで「オレの女」扱いするパッパラパー野郎を見ているようです。
架空請求の通知が来ても「無視するのが一番」というのは、そういうことです。法律上、なんらの関係も生まれていないのに、そんな無関係の人間にカネを払わにゃいかん義理など、どこにもありゃしません。なのにカネが動いたのだとしたら、それは民法上の「不当利得」ですので、ただちに利息を付けて返還する義務が生じます。
社会科の公民で、中学生たちに三権分立やら戦争放棄といった抽象理念を吹き込むのも結構かもしれませんが、むしろ、「契約とは何か」とか「クーリングオフの使い方」「連帯保証って、何がどういうふうに恐ろしいのか」などを義務教育の段階で教えておくのも有意義だと思います。
だって、そういった知識のほうが、よっぽど大事でしょ? そんな実践的な法律教育をカリキュラムに組み込むことに、なにか障害でもあるのでしょうか。
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コメント
>「契約とは何か」とか「クーリングオフの使い方」「連帯保証って、何がどういうふうに恐ろしいのか」
これについては現在家庭科の範囲と捉えられてますね。確か「クーリングオフ」は実際に高校でやりました。
確かに義務教育中にやる必要を感じます。それこそゆとり教育の目指した社会で生きていくための能力ですしね。
投稿: ぞにあ | 2005年11月 9日 (水) 20:56
>1回一緒にメシを食いに行っただけで「オレの女」扱いするパッパラパー野郎
まさに!!みそしるさんの「たとえ」って、妙にはまっていて気持ちいいことが良くあるかも★それって、とっても素敵ですよね!
月下は、「うまいたとえ」フリークなので、自分もそんな引き出しが充実した人になりたいのです♪♪
真面目な話も、もちろんできないこたないのですが、真面目な話をいかに噛み砕くか!!そこの方に燃えてしまうので、みそしるさんのブログのふぁんなんでしょうね(≧▽≦)ノノ
でも、なにもコンビ二中をひげにするこたないのに(泣)
想像しちゃったじゃないですか(笑)おぇ~~
投稿: 月下美人☆ | 2005年11月 9日 (水) 23:35
>ぞにあ さま
はじめまして。情報ありがとうございます。
社会でなくて家庭科なんですか? それは存じませんでした。
いや、現にきちんと教育現場で教えられているのなら結構なんです。私が中高生のころには、まったく何も触れられませんでしたので、後になって「こういう肝心なことを学校で教えないというのは、どうなの?」と思っていたのでした。
>月下美人さま
自分のたとえは、そんなにうまいとは思いませんけど、本を読んだりテレビを見たりしているときに「こう書けばいいのに」「こう言えばいいのに」というのは、つい考えてしまうのです。それこそ、ガキのころには授業中「こう説明すればいいのに」と、教師に向かってナマイキにも内心思っておりました。
そういう余計な不満を持たずに済み、既存の解説を素直に受け入れる度量を持つことができれば、受験エリートとして社会で成功しやすいわけで、どっちがいいのやら迷うところですよね。
投稿: みそしる | 2005年11月10日 (木) 07:18