裁判員制度… 誰にどんなメリットが?
今年2月に内閣府が行った世論調査によりますと、国民が裁判員制度について知りたいことの第3位に「裁判員制度が導入される意義」がランクインしております。要するに、「なぜ、どうしてこんなもんを導入するのか??」 「誰がトクして、誰がどう喜ぶのか??」、このミステリーに関してです。
2001年の司法改革審議会「意見書」によると、法科大学院や基本法の大改正などを含めたいろんな司法改革が行われるのは「国民の統治客体意識から統治主体意識の転換を基底的前提とするとともに、そうした転換を促そうとするものである」とのことです。そして「統治者としての政府観から脱して、国民自らが統治に重い責任を負い、そうした国民に応える政府への転換である」と語っています。
すんごい抽象的で、わかりにくいのですが、「日本国民は受け身過ぎる。もっと国の在り方に参加してくれよ」というわけです。ただし、参加しないヤツは刑罰で脅してでも裁判所に引っぱってくるわけで、「統治主体意識」が聞いてあきれます。
さらに「国民のための司法を、国民自らが実現し、支えなければならない」ということです。プロは「国民のための司法」の実現をあきらめてしまわれたのでしょうか。がっかり。
「裁判員制度」(平凡社新書)の著者、関西学院大学法科大学院教授 丸田隆氏によると、「国民が重要な権力機構に主体的に参加するのは民主主義の前提(参加することに価値がある)であるし、主権者たる国民の権利であり義務でもある」と述べています。
国会議員を選ぶ選挙については、たしかにそのとおりでしょうが、「参加することに価値がある」という一種のアマチュアリズムは、司法権についてはあてはまらないと私は考えます。
社会の「あるべき姿」「よりよい姿」という、答えが明らかでないものを、国家は2つのアプローチで探します。
ひとつは「主権者(国民)の全員一致or多数決原理」です。とにかく、多数から支持されることが目的で、理屈や妥協はその手段です。それで国民にとってマズい結果になったら、次の選挙で修正することが期待でき、そういった経験の積み重ねで「あるべき姿」を目指すことができます。この手続はたしかに「国民がひとりでも多く参加することそのものに価値がある」というべきかもしれません。
しかし、多数決原理からこぼれた少数者がいます。その言い分を拾い上げるのが裁判所の役割のひとつです。裁判所は、法律を基盤に「論理」「推論」の積み重ねで「あるべき姿」を目指します。そして、判決で出された結論の、いちおうの正しさを担保するものが「判決理由」ということになります。
そんな手続の中に一般人が食い込むとしたら、ワケがわからないことを、見栄を張らずに「わからない」と鋭くツッコんだり、「日常生活で養った健全な感覚」をもとに、推論のパターンを増やしうる発言などをしてくださらないと、具体的な効果が期待できないわけで、とても「参加することに意義がある」とは言いがたい領域です。
私はてっきり「判決の間違い(誤判)を減らす」のが、裁判員制度の意義だと思っていました。しかし、そんなことは全く言われず、ご立派だけど得体の知れない抽象概念でお茶を濁す始末。
人をバカにしちゃいけません。「普通の感覚」を持った庶民は、「統治主体意識」「民主主義の前提」なんていう、無味無臭のスローガンでは決して動きません。もっと具体的なメリットはないのでしょうか。それとも、国民にメリットがないと最初から分かっているから、罰則でムリヤリ引っぱってくるしかないのでしょうか。全国の店舗や施設の経営者が「どうしたらお客さまに一度二度と訪れていただけるか」と、サービスに腐心するこの時代、気楽なもんです。
日本の司法改革がアメリカ政府からの指示・圧力で行われていることは、「拒否できない日本」(文春新書)の中で詳しく分析されています。しかし意外にも、裁判員制度はアメリカからの要求ではなかったんですね。「年次改革要望書」には、アメリカ経済界が日本に進出しやすくするための布石である、弁護士増員・商法改正などは載せられていますが……。せっかく当たりを付けて調べていたのに、少し拍子抜けしました。
1994年6月に、経済同友会が「現代日本社会の病理と処方」と題して司法改革を提言し、その中で「国民の司法参加」についても触れられています。アメリカからの手紙「年次改革要望書」は、この年から太平洋を渡って送りつけられているんですが、「国民の司法参加」という、この問題意識は、国内で自然に盛り上がってきたものなのでしょうか。
一方、2003年の衆院選に際してのマニフェストで、「裁判員制度」という大衆による裁判関与について、最も詳しく熱心に採り上げていたのは、自民でも民主でもなく、公明党らしい……という情報をネットで見つけました。これは、当時のマニフェストを入手して、実際に比較検討をしてみなければならないようです。
それにしても公明党って……。私、ヤバいところを掘り進めてない? ダイジョーブかぁ?
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