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2006年1月20日 (金)

「公平」には、2種類ある?

 たとえば、ここに1個のケーキがあるとします。

 切り分ける前の、円形のやつを想像していただければわかりやすいかと思います。おいしそうですね。

 太郎と次郎が、これからこのケーキを食べます。ふたりとも甘党で、特にこのケーキが大好きです。さぁ、2つに切り分けてください。双方が納得するように。


 太郎「えーと、半分、半分……。このへんやな」


 太郎は、何のためらいもなく、ケーキにナイフを通し入れました。しかし、そこにすかさず横からクレームが付きます。

 次郎「こっちのほうが、イチゴが1個多いじゃないか」


 そのクレームを受けて、太郎は、そのイチゴ1個を半分に切ります。

 次郎「オマエ、切り方ヘッタクソやな。絶対これ半分じゃなかろうが」

 太郎「やかましいわ。じゃあ、オマエがイチゴ切ってみろや」

 次郎「よし、ちょっと貸してみ」

 太郎「……あーあぁ、これじゃダメやろ」

 次郎「なんでや! どこが!?」

 太郎「ちょっと見てみぃ。赤々と熟してウマいとこが、こっちのほうが多い」

 次郎「だいたい、このケーキも、ちゃんと半分に切れとるかぁ? これ、中心からズレとらんか?」

 太郎「ズレとらんわ! よしんば仮にズレていたとしても、こっちの側に生クリームの乗っている量が若干偏っておるから、その偏りを事前に計算に入れたまでだ」

 次郎「ハイハイ、じゃあ、百歩譲って、生クリームはそれでいいとしようや。ただ、スポンジ部分が平等に切り分けられていない点を、どう説明してくれる?」

 太郎「……なら、こっちのスポンジ、ちょっと削るわ」

 次郎「はぁ?」

 太郎「それで、削ったカケラをこっちに移せば、文句なかろう」

 次郎「コラ、そんなとこに乗せんなよ。 もう…… あきれる。ザツな仕事やぜ、まったく」

 「公平」な切り分けを、目分量で済ませてお茶を濁そうとするから、こうやってモメるのです。彼らが戸棚の奥から、モノサシやハカリを引っぱり出してくるのは、時間の問題でしょう。

 場合によっては、ノギスやレーザー精密計測機器を用いて、「ケーキの半分こ」という客観的真実に迫ろうとします。これを「理数系・自然科学的アプローチ」と呼ぶことにしましょう。
 司法の世界でも、近年、DNA鑑定や音声鑑定、ポリグラフや各種監視カメラ、遺体の肌から指紋を採取する技術など、このアプローチに関する話題は花盛りです。


 では、一方で「文科系・社会科学的アプローチ」とは何でしょうか。われわれ文系の連中は、人間に着目します。いくら道具の性能が優秀でも、その道具を使う人間によって結果が変わりうる……、この現実に強い関心を示す傾向があるのです。面倒なので、あえてそう決めつけます。

 どんなに「客観的立場」を装いたいと思ったところで、どうしても人間は、意識的にせよ無意識にせよ、自分が得する方向に結果を動かしたがるクセが拭いきれないんですよね。
 そこで「自分勝手にトクしようとしたら、結果、ソンをするんだぜ」という仕組みを作りました。この発想が、法律というものの原点にあるんじゃないかと思うのです。ひょっとしたら、経済学・マーケットなどにも当てはまるかもしれません。
 

 この「ケーキを公平に切り分ける」という命題の場合、まず、

 「ひとりが切り分けて、もうひとりが好きなほうを選択する」

 ……こういう「手続法」を構築することが考えられます。もし、切り分け担当の人間が、「オレだけトクしたい」と考えて、明らかにいびつな切り方をしたならば、もうひとりが大きいほうのケーキを選ぶまでです。切り分け担当者は、結果として小さいほうを取らされてソンしますよね。

 この手続法は、一見よくできたシステムです。しかし、そんなシステムをかいくぐってでもトクをしたいと考える輩はいるものです。
 たとえば、ふたりのうち片方が、人一倍の腕力を持っていたりして、事実上の立場の差がある場合、もうひとりに対して有形無形の圧力をかけることによって、ゆがんだ切り分け方や選び方をさせて、ケーキを多くぶんどろうとするかもしれません。これでは、せっかくのシステムが台なしです。

 そこで、

 「相手から圧力をかけられたら、そのケーキナイフで腹を刺してよい」

 という決まりごとをつくりましょう。このペナルティを許すことによって、お互いのチカラの格差が埋まっていくことも期待され、再び手続法が機能し始めます。

 他方、ちゃんと平等に分けられたように見えても、実は片方のケーキの中に大量のイチゴや生クリームがビッシリ埋め込まれていたり、逆に中が空洞にされていたりという不正があってはたまりません。
 そのときは、ケーキの分け前につき利害関係のない第三者が、キッチリ不正を取り締まりましょう。同時に、その第三者がケーキを切り分けて、「太郎はこれ。次郎はこれ」と、どちらを取らせるかまで決めてしまう場合もありえます。

 そうなれば、その公正であるべき第三者に、太郎や次郎がひそかに「袖の下」として、イチゴを2~3個ワイロとして渡し、その見返りとして、分け前につき便宜を図ってもらおうと企む可能性もあります。それはそれで、別個に取り締まらにゃならんでしょう。

 いずれにせよ、決まりごとを増やす方向性でしか「公平」を保てない社会は、悲しく、そして貧しいものだと私は思いますけどね。





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コメント

こんにちわ。
僕は早稲田を目指している現役生です。本当は慶応も好き。でも、父が慶応だから、早稲田に決めました。同じじゃ嫌なんです。
僕は以下の3つのブログを読んで、
早大受験のやる気を保っています!

1位 現役女子大生芸能プロ社長の日記
(22歳・早大政経学部4年の天才女社長が熱く語る)
   http://blog.livedoor.jp/riddler/

2位 闘う早大生:夏川潤香の「高校・大学受験講座」
(小泉総理が愛読しているという噂の注目ブログ)
   http://yaplog.jp/uruka_natukawa/

3位 輝女KIRAJYO 輝女ブログ
(社会貢献を目指す女子大生サークル。
早大生も参加しています。
メンバー登録受け付け中)
http://kirajo.jugem.jp/

この人たちとキャンパスで出会えるように頑張ります。

投稿: 源太郎 | 2006年1月20日 (金) 21:06

いらっしゃいませ。貴重なご意見ありがとうございます。


> この人たちとキャンパスで出会えるように頑張ります。

そうですか。頑張ってください。

投稿: みそしる | 2006年1月21日 (土) 01:02

 気づいてないかもしれませんが、文系的手法での最大の欠点は、切る側と選ぶ側に分かれることです。
 切る側はどんなに頑張っても主観で半分しか取れないのに対し、選ぶ側は主観で半分より上を取ることができるからです。
 すると、切る側と選ぶ側の選択方法も別の公平な方法で行う必要が出てきます。決定法がジャンケンの場合、負けた方の不満が残るので論外です。それなら切ったケーキをジャンケンで分けても一緒だからです。

他にも出てきていない問題は色々あるのですがそれは長いので省略します
では

投稿: ぬ | 2006年1月27日 (金) 11:26

 はじめまして。ご意見ありがとうございます。

 たしかに私は、ぬさんが指摘してくださったことについて気づいておりませんでした。どうもありがとうございます。
 このエントリは、ただいま水面下で「一般向けの刑事手続き本」という出版企画が進行中なのですが、その書き出しの原案として執筆しました。ですので、ぬさんのコメントは非常に参考になります。

 私は別に、文系アプローチの優位性を述べているのではありません(優位なわけがないです)。刑事司法が採用する2つのアプローチには、それぞれの限界があるんだ、ということについて、「ケーキの切り分け」というモデルを借りて説明しているのです。

 私は「結果として“半分”に近づいていく決まり事を考えればいいか」ぐらいにしか意識していませんでした。しかし、おっしゃるとおり、双方の主観面での不公平感は拭えませんね。(ただ、この不公平感が、かえって訴追側vs被告人の現実のアンバランスを表現しているように思えなくもありませんけれども)

 では、こうしましょう。ケーキを2つ用意するのです。そして、それぞれについて、切る側と選ぶ側を入れ替えるようにすれば、ご指摘いただいた点での不公平感は解消されます。
 ケーキが1つしかなければ、それを2つに分けて、同様の手続きを踏むようにします。この場合、最初に2つにする段階では、どんな切り分け方をしようと構わないことはおわかりかと思いますが、念のため、これも交互にナイフを入れるようにすればいいでしょうか。(太郎が中間あたりまで切って、そのつづきを次郎が切るなど)

 他にも問題はいろいろあるそうですが、長文になっても大丈夫です(当ブログの残り容量は、たっぷりございます)ので、よろしければご教示くださいますよう、お願い申し上げます。

投稿: みそしる | 2006年1月27日 (金) 18:11

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