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2006年4月29日 (土)

ホントに詐欺で立件できる? 耐震偽装 <1>

 昨日はたまたま、裁判所で詐欺事件ばっかり立て続けに4件を傍聴してきましたけどね。 キャバクラの無銭飲食から、交通事故を偽装しての保険金詐欺まで。 人生いろいろ、騙しもバリエーションに富んでいます。

 昨年、マンションに関する耐震強度の偽装問題が発覚したとき、たしかに「えらいこっちゃ」とは思いましたが、私の頭に「詐欺」という文字は浮かんできませんでした。 なので、「詐欺での立件を目指す方針」なんて言われても、あんまりピンと来てなかったんですけどね。

 もちろん、本当に耐震強度の不足を心得たうえで売ってたら別ですよ。

 

◆ 刑法 第246条(詐欺)
1 人を欺いて財物を交付させた者は、10年以下の懲役に処する。

◆ 刑法 第60条(共同正犯)
 2人以上共同して犯罪を実行した者は、すべて正犯とする。

◆ 組織的犯罪処罰法 第3条(組織的な殺人等)
 次の各号に掲げる罪に当たる行為が、団体の活動(団体の意思決定に基づく行為であって、その効果又はこれによる利益が当該団体に帰属するものをいう。以下同じ。)として、当該罪に当たる行為を実行するための組織により行われたときは、その罪を犯した者は、当該各号に定める刑に処する。
 9. 刑法第246条(詐欺)の罪 1年以上の有期懲役(※最高20年)

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◆ 建築基準法 第20条(構造耐力)
 建築物は、自重、積載荷重、積雪、風圧、土圧及び水圧並びに地震その他の震動及び衝撃に対して安全な構造のものとして、次に定める基準に適合するものでなければならない。
  1.建築物の安全上必要な構造方法に関して政令で定める技術的基準に適合すること。
  2.次に掲げる建築物にあつては、前号に定めるもののほか、政令で定める基準に従つた構造計算によつて確かめられる安全性を有すること。
   イ 第6条第1項第2号又は第3号に掲げる建築物
   ロ イに掲げるもののほか、高さが13メートル又は軒の高さが9メートルを超える建築物で、その主要構造部(床、屋根及び階段を除く。)を石造、れんが造、コンクリートブロック造、無筋コンクリート造その他これらに類する構造造としたもの

◆ 建築基準法 第101条(罰則)
 次の各号のいずれかに該当するものは、50万円以下の罰金に処する。
6.(※中略)第20条(※中略)の規定に違反した場合における当該建築物、工作物又は建築設備の設計者(※以下略)

◆ 建築基準法施行令 第36条の2(構造設計の原則)
 建築物の構造設計に当たつては、その用途、規模及び構造の種別並びに土地の状況に応じて柱、はり、床、壁等を有効に配置して、建築物全体が、これに作用する自重、積載荷重、積雪、風圧、土圧及び水圧並びに地震その他の震動及び衝撃に対して、一様に構造耐力上安全であるようにすべきものとする。
2 構造耐力上主要な部分は、建築物に作用する水平力に耐えるように、つりあいよく配置すべきものとする。
3 建築物の構造耐力上主要な部分には、使用上の支障となる変形又は振動が生じないような剛性及び瞬間的破壊が生じないような靭性をもたすべきものとする。

◆ 建築基準法施行令 第77条(柱の構造)
 構造耐力上主要な部分である柱は、次に定める構造としなければならない。ただし、第2号から第6号までの規定は、国土交通大臣が定める基準に従つた構造計算によつて構造耐力上安全であることが確かめられた場合においては、適用しない。
  1.主筋は、4本以上とすること。
  2.主筋は、帯筋と緊結すること。
  3.帯筋の径は、6ミリメートル以上とし、その間隔は、15センチメートル(柱に接着する壁、はりその他の横架材から上方又は下方に柱の小径の2倍以内の距離にある部分においては、10センチメートル)以下で、かつ、最も細い主筋の径の15倍以下とすること。
  4.帯筋比(柱の軸を含むコンクリートの断面の面積に対する帯筋の断面積の和の割合として国土交通大臣が定める方法により算出した数値をいう。)は、0.2パーセント以上とすること。
  5.柱の小径は、その構造耐力上主要な支点間の距離の15分の1以上とすること。
  6.主筋の断面積の和は、コンクリートの断面積の0.8パーセント以上とすること。

◆ 建築基準法施行令 第79条の4(鉄骨鉄筋コンクリート造に対する第5節及び第6節の規定の準用)
 鉄骨鉄筋コンクリート造の建築物又は建築物の構造部分については、前2節(第65条、第70条及び第77条第4号を除く。)の規定を準用する。この場合において、第72条第2号中「鉄骨相互間及び鉄筋とせき板」とあるのは「鉄骨及び鉄筋の間並びにこれらとせき板」と、第77条第6号中「主筋」とあるのは「鉄骨及び主筋」と読み替えるものとする。

 

 ……たぶん、以上の引用でおおかた合っていると思います。 この建築基準法の政令を読んでいたらですね、後半は数式が連続して載っとって、軽いじんましんが出てきそうでしたので、戦意喪失して早々に引き上げざるをえませんでした。 無念。

 それにしても、インチキの構造計算書を作る罪に設定された法定刑が「50万円以下の罰金」というのは、いかがなものでしょう。 この「地震大国」で、建築の専門家が、建物の耐震強度を偽る、という行為の潜在的にして現実的な危険性の高さを、立法者は軽く見すぎていたのではないか、と思えます。
 中規模程度の地震で、あっさり倒壊してしまうかもしれない。 そんな決定的な欠陥のある建物を、長期ローンを組んで購入し、実際に生活の拠点とする人たちの顔や気持ちを、立法者は数秒間でも意識できていたのかどうか。

 そもそも、ホリエモンの被疑事実(証券取引法違反)ですら、最高刑は懲役5年なんですから。

 ま、罰則がたくさんありすぎて、ワケわかんなくなってる事情はわかりますよ。 あんまり、わかりたくもありませんけど。

 

<最高刑が罰金50万円の犯罪 あれこれ(※ごく一部)

  •  失火罪(刑法116条)
     
  •  賭博罪(刑法185条)
     
  •  過失致死罪(刑法210条)
     
  •  (森林法) 過失によって、他人の森林を焼失させてしまった者。
     
  •  (航空法) 滑走路に立ち入った者。 航空機から物を投げた者。 航空機から落下傘で降下した者。
     
  •  (高速自動車国道法) 過失によって、高速道路を損壊したり、高速道路の附属物を移転・損壊した者。
     
  •  (道路運送車両法) 認証を受けず勝手に自動車解体整備業を営んだ者。指定を受けず勝手にナンバープレートを登録自動車の所有者に交付する業を営んだ者。
     
  •  (医師法) 医師でもないのに、医師と紛らわしい名前を使った者。 厚生労働省への2年ごとの届出を怠った医師。
     
  •  (競馬法) 相手が未成年者や競馬関係者であることを知りながら、馬券を販売したり譲り渡したりした者。
     
  •  (郵便法) 詐欺、恐喝又は脅迫の目的で、真実に反する住所や氏名などを記載した郵便物を差し出し、又は他人にこれを差し出させた者。
     
  •  (鍼灸マッサージ業法) 免許もなしに、あんまや針灸指圧マッサージを業として営んだ者。
     
  •  (景観法) 景観計画区域に、災害などで緊急に仮設の建造物をつくったが、市町村長の許可を得ずに不当に存続させ、景観のジャマをした者。
     
  •  (鳥獣保護法) 柵などで囲まれた土地や作物のある土地で、土地の占有者の承諾なしに鳥獣の捕獲等や鳥類の卵の採取等をした者。
     
  •  (武力攻撃事態法) 放射性物質等による汚染の拡大を防止するため、国民に向けて発せられた、人や物、資源の移動・使用などの禁止命令や廃棄命令に違反した者。
     
  •  (人クローン技術規制法) 文部科学省に届け出た「特定胚」について、作成日などの記録をしなかった者。
     
  •  (家畜排せつ物適正化法) 家畜排せつ物の管理基準に従わないために発せられた、都道府県知事の基準遵守勧告に従わなかった畜産業者。
     
  •  (感染症予防法) 感染症に感染した患者や動物を診たのに、保健所等に届けなかった医師や獣医師。
     
  •  (臓器移植法) 移植に使用しなかった臓器を、政令にしたがって適正に廃棄しなかった者。
     
  •  (鉄道事業法) 届出せずに、あるいは虚偽の届出をして、鉄道施設やその工事計画を変更した者。
     
  •  (暴力団対策法) 対立抗争中の指定暴力団につき、公安委員会が「事務所使用禁止命令」を出す際、事務所施設に目印として貼った標章を損壊したり取り除いたりした者。
     
  •  (救急救命士法) 守秘義務に違反した救急救命士。
     
  •  (著作権法) 著作物の出所を明らかにせずに、引用したり教育目的等の複製をしたりした者。
     
  •  (駐車場法) 届出をせずに駐車場の経営を始めたり廃業したりした者。
     
  •  (原子炉等規制法) 国や都道府県の立ち入り検査を拒み、または質問に答えなかったり、虚偽の陳述をしたりした原子力事業者。
     
  •  (特定外来生物 被害防止法) 外国政府の許可証なく、生きている特定外来生物を輸入し、わが国の生態系の多様性をジャマした者。
     
  •  (気象業務法) 気象庁でもないのに勝手に警報を出した者。
     
  •  (公職選挙法) 制限に違反して選挙の街頭演説に関する立て札やポスターを掲示したり、街頭演説が終わったのになかなか撤去しない政党。
     
  •  (温泉法) 都道府県知事が、温泉の成分や注意事項などの表示内容を変更するよう命令したのに従わない者。
     
  •  (計量法) 「非法定計量単位」を使った計量器を販売目的で陳列したり、「非法定計量単位」を証明や取引に用いた者。
     
  •  (南極地域環境保護法) 環境大臣の確認を受けた南極活動地域へ、届出せずに勝手に立ち入った者。

 

 内閣が提出する予定の法案は、すべて「内閣法制局」というお役所のお目通しをさせられることになっています。 そのチェックした法案に不備があれば、担当官庁にすかさずツッコミを入れ、書きなおしを命じるといいます。

 というわけで、内閣法制局の皆さんは、自分たちがどれだけ高度で緻密な調整をしているかは、事あるたびに喧伝しておられます。 現に、内閣が提出して成立した法律に、違憲無効の最高裁判決が出たことはありません。 少なくとも、私が司法試験を受けていたころまでは。 最近の法令違憲判決はわかりませんけど。

 ただ、以上に並べた、日本国の法律上「50万円以下の罰金」とされている、それぞれの犯罪行為。 これらは姉歯氏のやってきたことと本当に釣り合うの? ……とも思えます。 また、これら相互間でも、なんとなくバランスを失しているような気がしないでもありません。
 「これで50万も取られるのか?」と思いたくなる構成要件もある一方で、「これが罰金で済むのか?」と、心配になってくるものもチラホラ。

 「刑事上は、この程度の扱いで済むのか」 ……そんな素朴な驚きは、もちろん、構造計算書の改ざん行為にも向けられるわけです。

 

 「姉歯が罰金では、国民が納得するまい」

 そこで訴追側は、懲役刑の設定された めぼしい罪名を探します。  ……詐欺か。なるほど。 しかし、本件は、従来から一般的に認識されているような詐欺のイメージとは違うようです。

 いや、固定観念にとらわれるな。 「詐欺」「懲役刑」という結論ありきで、柔らか頭で考えろ。 法理論を駆使するとともに、都合のいい事実関係を探し出せ。

 新たな事実関係を見いだすためにはどうするか?

 そんなもん、ヤツらを取り調べて吐かせりゃいいに決まっとるだろ。 愚問である。
 

 「世論が腑に落ちる結論」を目指して、懸命に詐欺罪での立件を目指す。 そんなふうに、国民の目を気にしているのは誰でしょう。 当然、警察や検察であるわけがございません。 それは、背後にいる政治家の先生たちですよね。

 大きな罪名で立件し、それをマスコミが大声で全国に伝えることで、国土交通省等の失政を覆い隠す目くらましにしようとしておる、と。 なかなか出来た作戦です。

 

<次回の更新につづく>

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 考える時間ほしさの、引き延ばし政策です

 

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 岩波新書ですので、やはり四角四面のマジメな中身なんですけどね。

 しかし、裁判官経験者の弁護士さんが、あえて本書で「なぜ誤判や冤罪が起こる?」と問う。その真意は。

 現状での支配的な裁判官像を、筆者は「ペーパー的優秀性」「働き蟻」「沈黙という名の保身」といった言葉で痛烈に批判します。 ただ、それは同時に、司法権の真ん中にいた時代のご自身をも叩いていることになりますよね。

 肉を斬らせて骨を断つ。 その覚悟あるご意見は、さすがに重みが違います。

 特に、ラストの『職業裁判官に対する十戒 ─ ささやかなる提言』は必読です。

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