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2006年6月 5日 (月)

音楽を止めないなら

>>> 強要逮捕:「店内のBGM変えぬと殺害」 埼玉
 埼玉県警川越署は4日、同県日高市、派遣社員の男(34)を強要容疑で逮捕した。
 調べでは、容疑者は5月14日、川越市脇田本町の生活雑貨販売店内に設置された意見箱に「曲を改善しろと何度言っても聞かないなら、店の1人を殺害する」と書いた脅迫文を入れ、同月15~29日の間、店内のBGMを止めさせた疑い。
 容疑を認め「本気ではなかった」などと供述しているという。
 同店は、様子をみるためBGMを一時止めた。容疑者は4月下旬から数回、「音楽なんて流すな」と意見箱に投かんしたり、従業員に苦情を言っており、4日午後3時ごろ来店したため従業員が交番に届け出た。 (毎日新聞) 2006/06/05 11:56

 

 なるほど。 「殺す」と脅せば、どんな願いごともひとつだけ叶えてくれるらしいです。 ドラゴンボールを7つ集める手間も省けて、便利ですね。

 一方で、「殺すぞ」と、国家が国民を脅すことの上に、死刑制度が成り立っていることも事実です。  問題は、その脅しから「何が生まれるのか」というところでしょうか。 昨今では、「死刑は脅しになっていない」という声も出てきているようですが。

 それはともかく、記事によると、店側はBGMをいったん止めたものの、5月30日から6月4日にかけては、また流し始めたということのようです。

 理不尽な客の要求に、いつまでも付き合っていられるほど、店側もお人好しじゃないでしょうし、ほとぼりが冷めたと判断したのでしょう。

 そうして、「呪い」の効き目が、わずか半月で減退してしまったことを知り、店側の「ナメた対応」を許せなくなった彼が、またネチネチと訪問してきたと。

 イヤなら行かなきゃ済む話だろうと、普通は思ってしまうわけですが、そうはまいりません。 彼はよほど、その生活雑貨店を愛してやまないのでしょう。 ときに愛は、憎しみに変わることもあるのです。

 

 お客様は神様です。 小売店に意見箱を設置すると、的を射たご指摘の中に紛れて、なかなかファンキーでアナーキーなご意見をお寄せくださる方もいます。 これも、匿名だからこその強気なのでしょうか。 それとも、“素”なのでしょうか。

 どうしても、家事やレジャーを優先させるパートさんが多くなる週末、出てこれる少ない従業員のみで、店の回転を支えなければなりません。 レジ係も、1人で2人ぶん以上動いて、延々伸びるお客さんの列をさばいていくことになります。

 ま、お客さんの99%以上は、気持ちよくお会計を済ませてくださる『神様』です。 変なのが占める割合は、誤差の範囲内とはいえ、それでも、どうしても「早くしろよ!」と、自身の都合とこちらの不手際を、誇張しながら主張してくる『怒りの神』はいるものです。

 お怒りの気持ちはわかりますが、「ありがとうございましたー」と、お客さんを送りだし、「いらっしゃいませー」と、次のお客さんを迎える間にも、レジ係には細かい仕事があるんです。

 小銭ジャラジャラでお支払いいただいたら、その小銭を逐一仕分けしてドロアに収納しなきゃいけません。 置いていったレシートは破棄して、万券が入ったらチェックして、領収書を発行したら、控えを紛失しないよう集約して、レジ台が汚れたら拭いて……、ときには10秒ぐらいお待たせするかもしれません。

 そのあたりの事情を読みとっていただけない神様は、なぜか総じて、週末の昼間にお買い物にいらした中年男性ですね。 「オマエ、名前は何だ。『意見箱』に入れておくから」という、ありがたい『神のお告げ』もあったりします。 面倒なので、「承知しました」と、素直に名乗っておくことで、さっさと場を治めておきます。

 その点、本件の被疑者は、独自の見解をゴリ押ししてはおりますけど、意見箱の『匿名性』へ安易に逃げ込んでいません。 店側としては、彼の面は割れているんですから、対応しやすくて助かりますね。

 

 お店が有線放送を導入している場合ですと、きっちり2時間周期でおんなじ曲が流れてきます。
 

「♪あーたし さくらんぼー」

「♪さかなさかなさかなぁーーー」

「♪あーなーたと あーたし さくらんぼー」

「♪たーたーたこやき たーたーたこやき」

「♪さくらんぼーー」
 

 なので、レジを打っていると、最新のチャート曲が強制的に頭に染み付いてきますね。 女の子との話題に最低限食いついていけるようになり、たいへん良い勉強になります。

 個人的には、民生さんやユニコーンが、有線の永久ループに組み込まれると、自然とテンションが上がって、素晴らしい活躍ぶりを見せるようになります。 2時間経つのを、ひそかに心待ちにしていたり。

 それでも、スーパーのBGMは、そこに短期間しか滞在しないお客様にとってすら、ときに耳障りになることもあるでしょうね。

 意見箱にも「音楽のボリュームを、もう少し絞れないか」というツッコミが投入されることだってあります。 「私にとっては不快な音楽だが、楽しみにしている人も中にはいるだろう」と悩み、葛藤した上で出した折衷案でしょう。 こういうお客さんのご意見は尊重したい。

 本件の被疑者も、そんなお客さんと共通の感情を持っていたのでしょう。 ただ、彼の場合は、自らの気持ちのみを純粋に増幅させていったわけです。 その結果、騒々しいBGMにイラついたあげく、店員1人をランダムに殺してみたくもなったのでしょう。

 ただ、BGMを止めたら止めたで、どこぞの古本チェーン店みたいに、あちこちからバイトが『いらっしゃいませー!』『いらっしゃいませぇーー!』と、声を嗄らして叫んでいれば、それはそれで、バイトひとりを殺したくなるんでしょ?

 結局のところ、こういうタイプの人々の脅しに屈してみたところで、それが解決の糸口になることはなかろうと思います。

 

 ま、この件に限らず、小売店に、わけわからん理不尽な要求をしてくるお客さん(ひとことで言えば「クレーマー」ってヤツなんでしょうか)というのは多いのです。 ただ、そういったお客さんは勝手なもので、要求内容の実現・店舗運営の改善なんか、最初から求めていない気もします。
 仕事場や家庭で抱えたストレスを勝手に店に持ち込み、単に解消したいだけのケースが、ほぼ100%のようです。

 お客様が神様扱いされることをイイことに、店から反論される可能性を気にせず、腹いっぱい呪い、縛り、攻撃していけるのです。 自分を安全圏に置かなければ一歩も踏み出せない、ナイーブな方々です。

 その証拠に、私が店員としての立場から、ちょっぴり言い返してみると、いきなりウロたえて、「……あんまり頑張るなよ」などと、よくわからんセリフを吐いてくるオッサンもいます。   アンタこそ、もっと頑張れよ。

 こちらとしても、「あぁ、このオッサン、会社でイヤなことがあったんだな。 かわいそうに」というスタンスでクレーム処理に臨めば、腹も立ちませんしね。 言わせておくのが正解なのでしょう。

 店に八つ当たりしてストレス解消するのは、まぁ、別に構いません。 ただ、あんたのストレス解消をお手伝いしたぶん、割増料金を置いてっていただくのがスジです。

 

 被疑者の職業は、派遣社員だそうです。 派遣社員は、職場で最終的な責任を負わなくて済んで、お気楽なぶん、派遣先の正社員が日々溜め込んでいるストレスの矛先が、モロに向かってきます。

 ただ、派遣先も『お客様』。すなわち『神様』なのですから、神様たちのストレス解消も、すすんで引き受けるようでなければなりません。

 『派遣なんて』『定職に就かないヤツなんか』という彼らの捨て台詞を、広い心で甘んじて受け入れることも、業務のひとつです。

 このギスギスした世の中で、しかも安価で動いてデフレ社会に貢献する、派遣やフリーターの重要性は、確実に高まってきています。

 

◆ 刑法 第223条(強要)
1 生命、身体、自由、名誉若しくは財産に対し害を加える旨を告知して脅迫し、又は暴行を用いて、人に義務のないことを行わせ、又は権利の行使を妨害した者は、3年以下の懲役に処する。

 

※ 後記 … こんなニュースも見つけました。

  音楽って、フ・シ・ギ

>>> 迷惑な「不良車」撃退にバリー・マニロウ? (ロイター)
 [シドニー 5日 ロイター] オーストラリアのシドニーでは、大音響を鳴り響かせて近隣住民を悩ませている「不良車」を一掃する手段として、米歌手バリー・マニロウの曲が利用されることになった。不良のたまり場になっている駐車場に、スピーカーでバリー・マニロウの曲を流すという。
 オーストラリアでは数年前にもショッピングセンターで「ビング・クロスビー」の曲を使った迷惑ティーン撃退の実績があり、当局職員らは、若者にとって「クールじゃない」マニロウの曲なら今回も成功すると考えている。
 5日付の現地紙で地元議員は「近くにはレストランもあるが、人々は不良たちを恐れて駐車場を利用できなくなっている」と指摘。その上で「流行り物でない音楽」に耐えられなくなって不良は立ち去ることになるだろうと述べた。 [ 2006年6月5日19時7分 ]

 若者にとってクールじゃない、でも「利用価値」のある唄…… こりゃ、日本だと誰に該当するんですかね。

 ……って、ヘタにそんなこと具体的に書けるわけありませんけど。 いちおー私も、毛の生えたオトナですから。

 

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 このところ、いろんな重大事件の犯人として、疑いをかけられた人の摘発が続いています。 いやがおうにも「裁判」「司法」の動きに注目が集まるわけですが、ただ注目しているだけでは、キャスターが言っていることの受け売りで終わってしまいます。

 今、行われている捜査が、本当に正しく機能しているのかどうかを観察するためには、ちょっとした知識が必要です。

 犯人憎しで、警察や検察が突っ走ってしまわないよう、法律は慎重な捜査を求めています。 また、ひとつの方向から光を照らすだけでは、過去に起こった出来事の本当の姿は見えてきません。
 せめて二方向から照らしていく。 そこに、被告人の利益を守る弁護人の役割があります。

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