この問題にはフタをするな ― 埼玉ふじみ野市営プール死亡事故
>>> 埼玉プール事故「合うボルトがない」
小2女児が死亡した埼玉県ふじみ野市の市営プール事故で、脱落した吸水口のふたは4隅とも針金で固定されていたことが2日、埼玉県警の調べで分かった。下請けとして実際にプールを管理していた「京明プランニング」も、6、7年前から針金で固定していたことを認めた。県警は、不透明な下請け発注などで管理がずさんになった可能性があるとみて、管理業務委託契約を市と結んでいた「太陽管財」や「京明-」などを業務上過失致死容疑で近く家宅捜索する。
県警によると、京明の現場責任者(36)は脱落したふたについて「4カ所の固定穴全部を針金だけで固定していた。プール開きの7月15日前に、古くなった針金を新品に交換した」と説明。ふたはボルトで固定する構造だが、実況見分では、切れた状態の針金が1カ所に残っていた。プールには、事故があった吸水口のほかに2カ所の吸水口があるが、いずれも一部をボルトの代わりに針金で固定。針金使用は常態化していた。
京明の佐藤昇社長(48)も現場から6、7年前に「吸水口のねじ穴の位置がずれており、合うボルトがないので針金で留めた」と報告があったことを明らかにした。社長は「うまく対応したと信じていた。針金はボルトの補強として使っていると思っていた」と弁明。針金だけによる固定というずさんな管理を事実上、黙認していた。 (ニッカンスポーツ)
プールの吸水口は、ふつう、人の手足が吸いこまれないよう、奥からプロペラで水を押し出す流れをつくりだしているといいます。
そんな水流のなんともいえない感触から、吸水口は、しばしば子供の遊び道具になります。 ふざけて手だとか尻を当てて、「ふひゃひゃ、気持ちいい」やら「うえー、気持ち悪い」などと言い合うのがガキってもんです。
だったらなおのこと、プール吸水口の安全性は、しっかりと確保されなければなりません。
流れるプールの吸水口は特殊で、効率の良い吸水を実現させるためには、プールに面するほうに向かってラッパ状に太くする必要があるそうです。 なので、フタがなければ、近くにいる人の手足を、排水と一緒に引き込んでしまう危険性があります。
ただ、だからといって、この不幸な事故をきっかけに、吸水口の周りを厳重に囲ってしまえば、大人の都合で子供の遊びを1つ減らすことになり、あまりいい措置とも思えません。 ふじみ野の市営プールの営業が今後も続くかはわかりませんが、3ヶ所あるという吸水口に優先的に監視員を配置するようにすべきでしょう。
それにしても、プール監視員の仕事は、いつから「楽勝バイト」のひとつになったんでしょうか。 私など、泳ぎが苦手な金づちの人間は、プール監視員の仕事を自主的に選択肢から外す。 それが、われわれ運動神経がブチ切れている者の務めであるべきです。
また、水流のものすごい負荷がかかっているフタ(重さ約8キロ)を、針金のみで固定していた、なんちゅうのは論外です。 今まで脱落事故が起こらなかったのが不思議なくらいで、この点は、長年にわたる針金のたゆまぬ努力に敬意を表するべきでしょう。 「京明プランニング」と「太陽管財」の関係者は、針金に足を向けて寝られません。
事故が起こった直後、プールの担当スタッフは、「フタはボルトで固定されており、その上から針金で補強して、安全性には万全を……」って言ってませんでしたっけ? これと同様の言い逃れを社長も聞かされて、信用していたみたいですね。
2年前の夏にも、新潟で同様の事故が起こっています。 つい先日、刑事事件としての一審判決が出ています。
>>> 旧横越町民プール死亡事故:2職員、過失認め罰金刑--地裁 /新潟
旧横越町(新潟市)の町民プールで04年7月、町立横越小6年の男児が排水口に足を吸い込まれておぼれ、死亡した事故で、業務上過失致死罪に問われた元同市横越支所総務課副主幹、神田勝利(60)、同支所副参事、田中十二男(58)両被告に対する判決公判が3日、新潟地裁であった。 斎藤千恵裁判官は両被告に罰金50万円(求刑・神田被告に禁固1年6月、田中被告に同1年)の有罪判決を言い渡した。
判決によると、両被告は事故当時、町内の体育施設の安全管理を担当。県教委などからプールの排水口のふたをボルトなどで固定するよう指導されていたにもかかわらず放置し、プールを開放していた。男児は04年7月29日、遊泳中にふたが外れた排水口に両足を吸い込まれ、2日後に死亡した。
斎藤裁判官は、両被告に対し「対策を講じることなく漫然とプールの開放を続けてきた過失は重い」としながらも、「事件の偶発性は否定しがたく、両被告だけに全責任を負わせるのは酷」などとして禁固刑は重いと判断した。
男児の父親は判決について「罰金刑は納得できない」と悔しさをにじませた。(毎日新聞) 2006年7月4日
◆ 刑法 第211条(業務上過失致死傷等)
1 業務上必要な注意を怠り、よって人を死傷させた者は、5年以下の懲役若しくは禁錮又は50万円以下(※事故当時。 今年5月以降は100万円以下)の罰金に処する。重大な過失により人を死傷させた者も、同様とする。
わが子の命を突然奪い去ったことの刑事責任が、なぜ50万円納めれば果たされるのか、ご両親は、到底納得することはできないでしょう。 無理もありません。
では、民事での不法行為責任はどうなるでしょうか。
この新潟の件は、プールの管理を外注せず、公務員の皆さんだけで行っていたようです。 こういう場合は、公務員個人の法的責任は、おおっぴらには問われません。 その地方自治体としての「町」が、遺族に対して損害賠償義務を負うことになるでしょう。
◆ 国家賠償法 第1条
1 国又は公共団体の公権力の行使に当る公務員が、その職務を行うについて、故意又は過失によつて違法に他人に損害を加えたときは、国又は公共団体が、これを賠償する責に任ずる。
2 前項の場合において、公務員に故意又は重大な過失があつたときは、国又は公共団体は、その公務員に対して求償権を有する。
プールの安全管理って「公権力の行使」なのか? とも思った方もいらっしゃるでしょう。 ここにいう「公権力の行使」が意味するところは相当に広いらしいんです。 公立学校の部活動で教諭がする指導監督や、役所で住民票の原本にいろいろ書き入れる行為なども、判例によると「公権力の行使」なのだそうですし。
ということは、多くの場合に国家賠償法が適用され、公務員の誰かの不法行為を、国や公共団体が民事上、肩代わりすることになります。
この社会にある組織というのは、誰かの責任を分散させ、うやむやにするために存在するのでしょうか。 組織の意思に付き従うのと引き換えに、なにかあったときには組織がガッチリと守ってくれる。 最高の人生だと思います。
>>> プール管理会社 15年間に13回落札
埼玉県ふじみ野市の市営ふじみ野市大井プールで同県所沢市の小学校に通う女児(7つ)が吸水口に吸い込まれて死亡した事故で、プール管理業務を請け負っていた施設管理会社「太陽管財」(さいたま市北区)が1992年の初受注以降、15年間で13回受注していたことが、2日分かった。こうした連続受注や同社が施設管理会社「京明プランニング」(同市見沼区)に“丸投げ”していたことが、安全対策の不備につながったとの指摘もあり、埼玉県警も受注や丸投げの経緯について調べを進める。(東京新聞)
「太陽管財」が、ふじみ野市からプール管理業務を“請け負い”、さらに“孫請け”という形で「京明プランニング」が、実際の管理をしていたと、各マスメディアは報じておられるようですね。
しかし、本件で、“孫請け”や“下請け”という表現を持ち出すのは、厳密には誤用です。
この場合は、ふじみ野市と太陽管財とが結んでいたのは、民法上、請負契約ではなく、準委任契約であると考えられます。 そして、受任者である太陽管財が、京明プランニングに復委任していたという関係になります。
孫請け・下請け契約と違い、復委任は、原則として許されません。
◆ 民法 第643条(委任)
委任は、当事者の一方が法律行為をすることを相手方に委託し、相手方がこれを承諾することによって、その効力を生ずる。
◆ 民法 第656条(準委任)
この節の規定は、法律行為でない事務の委託について準用する。
◆ 民法 第104条(任意代理人による復代理人の選任)
委任による代理人は、本人の許諾を得たとき、又はやむを得ない事由があるときでなければ、復代理人を選任することができない。
準委任契約は、委任者(ふじみ野市)と受任者(太陽管財)との信頼関係に基づいています。 なので、同じく当事者の信頼関係に基づく「代理」の考え方を借りて、『(1)その委任者の許可があったとき』か、『(2)やむを得ない事情がある』かしないと、受任者は、他の人に仕事をさせることはできないことになっております。
もちろん、「京明プランニングと仲がイイから」などという私的な理由により、ふじみ野市に無断で業務委託するような契約は無効となります。 そして、そんな勝手な復委任をした太陽管財に対して、ふじみ野市は契約の解除を主張したうえで損害賠償を求めることができるのでしょう。 理論上は。
でも、ふじみ野市が空気を読める自治体なら、そんな請求はしないでしょうけどね。 経費節減・合理化という名のもとに「他人まかせ」としていたふじみ野市にも、責任の一端があることは否定できませんから。
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子どもはときに、予想できない行動を取るもの。 だからといって、他人の子を預かるよう頼まれたとき、「リスクを引き受けたくない」と、ひたすら敬遠しつづけますか?
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ほぼこの「事故」のみについての、事実は明らかになってきた。 大井町の施設として建設されて20年近く、警察の捜査が、この件についての過失を焦点とするのは当然なのだが。 [続きを読む]
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コメント
公の営造物には当たらないんですかね。
投稿: 匿名 | 2006年8月 3日 (木) 19:46
あ、そうでした。2条がありましたよね。
ご指摘ありがとうございます。助かりました。
◆ 国家賠償法 第2条
1 道路、河川その他の公の営造物の設置又は管理に瑕疵があつたために他人に損害を生じたときは、国又は公共団体は、これを賠償する責に任ずる。
2 前項の場合において、他に損害の原因について責に任ずべき者があるときは、国又は公共団体は、これに対して求償権を有する。
2条には「故意又は過失によつて」というキーワードが書かれていません。たとえ「うっかり」していなかったとしても、万全な対策を採ったつもりだったとしても、客観的に欠陥が存在すれば責任を負うべき「無過失責任」となっています。
被害を受けた人々にとっては、より心強い規定です。ふじみ野市側にとっては、法的な言い逃れがますます困難になることでしょう。
投稿: みそしる | 2006年8月 3日 (木) 23:05