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2006年9月25日 (月)

にわかに高まる「飲酒運転叩き」の論調、司法判断にも影響か

>>>「1人1人意識変えないと」  危険運転判決 裁判官が説諭
 飲酒運転の発覚を恐れてパトカーから逃走、事故を起こしたとして、危険運転致傷と道交法違反(酒気帯び運転など)の罪に問われた福岡県大牟田市三池の会社員の男(22)の判決公判が14日、福岡地裁久留米支部であり、沢村智子裁判官は「飲酒運転をはじめ、交通規範順守の意識が非常に低い」として懲役1年6月、執行猶予4年(求刑懲役1年6月)を言い渡した。
 沢村裁判官は、被告人に「(過去にも飲酒運転の経験があり)一歩間違えば大事故になるところだった。(最近)報道されていて分かるように1人1人が意識を変えなければならない」と言い聞かせた。
 判決によると、被告人は昨年5月8日未明、同県久留米市国分町で乗用車を飲酒運転し、赤信号を無視。パトカーに追われたが、飲酒運転の発覚を恐れて逃走、同市諏訪野町でも赤信号にもかかわらず車5台を追い越して時速約70キロで交差点に進入し、同市内の女性=当時(21)=の軽乗用車に衝突、女性に軽傷を負わせた。被告人からは呼気1リットル当たり0.15ミリグラムのアルコールが検出された。 =2006/09/14付 西日本新聞夕刊=

 

 ニュースで裁判の判決について報じられるとき、裁判官の名前や訓戒に注目する人はいても、その裁判官の年齢まで気にしている人は、あまりいないのではないでしょうか。

 ま、私も気にしてこなかったんですが。 マスコミも情報として報じませんし。

 私、先週の金曜日に、国会図書館の開館から閉館ギリギリまで、裁判官の経歴総覧や、新聞の縮刷版など、細かい文字ばっかりみっちり読みこんでおりました。 ひさびさに図書館の中で一日じゅう引きこもれて、とても幸せでした。

 それで、この沢村智子裁判官についても、なんとなく調べてみたんですが、そしたらビックリ。

 昭和48年7月2日生まれ。33歳ですよね。私の2コ上ってことですか。

 51期ですから、平成8年、ちょうど10年前の司法試験合格組(のはず)です。 まだ判事補の身分じゃないでしょうか。たぶん。

 そういう方でも、遠慮なく説諭をしたりするんですね。 もちろん、変に肩ひじを張って人生を語ったりしているわけではありません。 無理に背伸びせず、「意識を変えねば」という一般論を、11歳年下の男に忠告しているわけです。 結構なことだと思います。
 

 考えてみたら、裁判官が、自分の親ぐらい年上の被告人に説諭する場面だってありうるんですよね。 あらためて、大変な仕事だなと心中お察しします。

 

 平成8年11月、京都地裁(当時)の藤田清臣裁判官が、ある飲酒運転の交通死亡事故で、「交通事故被害者の命の重みは、駅前で配られるポケットティッシュのように軽い」と宣言し、当時、日本の刑事司法史上初になるという、求刑超えの判決(懲役3年)を言い渡したことがありました。

 

 また、平成11年11月、東名高速で泥酔トラックドライバーが引き起こした、幼い女児2人の死亡事故。 理論上は、業務上過失致死罪と道路交通法違反(酒酔い運転罪)の合わせ技(併合罪加重)で、めいっぱい懲役7年まで言い渡せるはずです。 しかし、当時の量刑相場では、懲役4年を告げるのが精一杯でした。

 遺族の無念は、民事で十分な損害賠償を命じる判決が出されることにより、なんとか晴らされた感がありますが、刑事面では課題が残る結果となりました。

 この事故・裁判をきっかけに平成13年、刑法で危険運転罪が新設されまして、量刑上限のリミッターが外されることになったのです。 翌年には道路交通法でも、飲酒運転の基準がより厳格なものに変更されましたね。

 
 そういう話題が届いてくるたびに、マスコミの論調は沸騰していたはずなのに。 世論も繰り返し覚醒していたはずなのに。 悲劇も相変わらず繰り返されなければならないのでしょうか。

 そして、今年8月、福岡・海の中道で、男児3人の命が強引に踏みにじられました。

 

 「酔ってないから大丈夫」 「すぐ近くだから大丈夫」
 

 運転免許が、自動車という『危険物』の取り扱い資格だという、当たり前の自覚すら欠落しているのでしょうか。 公務員のクセに。

 

>>>酒気帯び死亡事故:「時節柄、刑軽すぎ」 1審より半年重く
 酒気帯び運転で死亡事故を起こし、業務上過失致死と道交法違反の罪に問われた大阪府内の内装業の男(35)に対し、大阪高裁は14日、懲役1年とした1審・大阪地裁判決を破棄して懲役1年6月を言い渡した。白井万久裁判長は「やはり時節柄というか、そう簡単には済まされない。1審の刑期は軽すぎると言わざるを得ない」と付言した。被告側は、福岡市で幼児3人が死亡した飲酒運転事故後の厳罰化の流れが量刑に影響したとみており、弁護人は「世論に左右されるのはおかしい」と話している。
 判決によると、男は05年10月21日午前7時10分ごろ、同府豊中市内を軽トラックで走行中、安全確認を怠ったまま車線を変更。後続のバイクを転倒させ、男性(当時45歳)を死亡させた。未明に500ミリリットル缶の発泡酒を3本飲み、3時間ほど寝た後、運転していた。
 白井裁判長は量刑理由で、男に違反歴があることなどを挙げ、判決理由に続いて「(飲酒運転は)最近、非常にやかましく取り上げられており、厳しく責任を問われる」と述べた。(毎日新聞)2006/09/16

 

 この白井判事の言いまわし、どうなのかなぁ。 ご本人にしてみたら、あんまり深い意味を込めてらっしゃらないのかもしれませんが。

 ちなみに、お名前は「しらいかずひさ」とお読みします。 兵庫県出身。京都大学卒。 昭和16年9月26日生まれ。明日、65歳のお誕生日ですね。

……あれ? 今気づきましたが、ひょっとして今日で定年退官なのでは?
 

◆ 裁判所法 第50条(定年)
 最高裁判所の裁判官は、年齢70年、高等裁判所、地方裁判所又は家庭裁判所の裁判官は、年齢65年、簡易裁判所の裁判官は、年齢70年に達した時に退官する。

 

 どうも長い間、お疲れさまでした。

 白井判事は、和歌山カレー事件に続き、奈良の騒音おばさん事件でも控訴審を担当してこられ、面倒な個性を持つ中年女性たちの世話で大変でした。

 ほんの気持ちですが、私から、白井判事に花束をお送りしたいと思います。 心の花束を。

 

 

 

 いやぁ、『心の』という枕詞をくっつけると、何でも有りがたい代物のように聞こえてきますから便利ですよね。
 

 民主的手続きにのっとって制定された、それぞれの犯罪の法定刑と違い、「こういう状況の事件では、こういう刑が言い渡されるもんだ」という量刑相場は、裁判所内部での不文律です。 時の民意には基づいていません。

 ただ、似たような事件を起こした被告人の間で、言い渡される刑罰の内容に、格段の開きがあるというのでは考え物です。

 裁判官同士が互いに空気を読み合って形成されてきた量刑相場なのですが、これだって、憲法14条1項「法の下の平等」の問題として、尊重されるべきなのです。

 できれば、「時節柄」だとかで変えていただきたいものではありません。 司法は独立してるんですから、「マスコミの論調に影響された」という誤解を与えるような表現は、裁判所にとっても損でしょう。

 

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 私も、つい間違えて、パソコンが変換したとおりに書いてしまうんですが、「減刑」と「(刑の)減軽」は、意味が違います。

 どんなに良いことを書いてみても、専門用語の使い方を間違えてしまえば台無しですからね。 電話回線や光ファイバーの向こう側にいる読み手・専門家に、鼻で笑われてしまうのがオチ。 「誰かが注意してくれるだろう」なんて、期待すべきではありません。 

 歴代の法令エリートたちが、自らの優位性を醸成するために積み重ねてきた、面倒なジャーゴン群……、と、腹立ちまかせに批判してみても仕方がありません。 微妙に使い分けなければならない法律用語というものが数多く存在する。それは、厳然たる事実。 不安な方は必携です。

 

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コメント

最高裁判事の定年年齢が高いのは、一般企業の役員と社員、小中高教員と大学教員、などの例からなんとなく想像がついたのですが、簡裁判事の定年年齢が高いのは意外ですね。
どういう理由があるのでしょうか?

投稿: SM | 2006年9月26日 (火) 17:12

>SMさま

こんにちは。コメントありがとうございます。

 
えー、ご質問に対する答えですが……、改めて正面から問われますと、とても難しく悩んでしまいましたので、昨日調べてまいりました。

その名もズバリ「裁判所法 逐条解説」(法曹会)という本の、50条に関する説明文(中巻p.156)を引用しますと


===============================

 このように、簡易裁判所判事についてとくに高い年齢の定年が定められたのは、主として次の理由によるものと思われる。

 (1)簡易裁判所判事は、国民と最も密接に接触する裁判官であり、とくに老練熟達した法曹が任命されることが望ましいこと

 (2)一般の裁判官の定年は、年齢65年、一般の検察官の定年は、年齢63年であるから、これにより定年に達して退官した裁判官または検察官をも、さらに簡易裁判所判事として任命しうることとなること

 (3)簡易裁判所で取り扱う事件は、事案が比較的軽微なものが多いから、一般の裁判官の激務に比べれば、老齢者にとり、それほどの負担とならないこと

================================
 

……という事情があるのだそうです。

私も、「司法ライター」を名乗る以上、この程度の資料は手元に備えておくべきなんですけどね……。すぐに回答できず、お待たせしてすみませんでした。

これからもよろしくお願いします。

投稿: みそしる | 2006年9月29日 (金) 09:06

はじめまして。弁護士秘書のののです。
なるほど!
私も不思議に思ってたので、すごくスッキリしました。いつも楽しく拝読してます。
頑張ってくださいね。

投稿: のの | 2006年9月30日 (土) 14:48

いつも大変興味深く拝見しています。
最近、飲酒運転が問題になっていますが、それにともない病院でも法的な問題が生じてきました。病院は自宅待機料やタクシー代を支払う必要があるのかどうか、ご専門の立場からみていかがでしょうか、コメント宜しくお願いいたします。
TBもさせていただきました。

投稿: secondopinion | 2006年10月 2日 (月) 17:20

>ののさま

どうもはじめまして。

弁護士秘書の方から「頑張ってください」と言われたからには、多少しんどくても頑張っちゃいますよ。好きでやっとることですからね。

ただいま執筆している原稿を、来年にもデビュー作として出したい!と切望しているのですが、どうなりますことやら。

かなり面白いぞぉ、という自負だけはありますけど。

 
>secondopinionさま

ごぶさたしております。

今回提示されている問題を法的に斬るのは、私にはちょっと荷が重いです。病院と、そこに勤務する医師は、雇用契約(労働契約?)を締結しているということでよろしいのでしょうか。

労働法は守備範囲外なので、うかつなことは書けませんし。常識的に「公平の観点から、職務に当然付随する費用として支払われるべきだろう」「契約や就業規則(みたいなもの)の内容を見なおすべし」としか申し上げられません。

お力になれず、すみません。なにせ、法律のプロになれなかった人間なので、こんなもんです。

詳しい方、どなたかフォローをお願いできますでしょうか。

投稿: みそしる | 2006年10月 3日 (火) 21:46

早速のお返事ありがとうございました。
確かにビミョーなところを白か黒かで決めるのは困難で、私の方こそ難しい質問をしてしまいまして申し訳ありませんでした。
今後ともよろしくお願いいたします。

投稿: secondopinion | 2006年10月 4日 (水) 17:33

ご返事ありがとうございます。
勉強になりました。

投稿: SM | 2006年10月 9日 (月) 17:12

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最近、飲酒運転による死亡事故が立て続けに発生し社会問題となっています。警察による取り締まりは強化され、職場での処分も厳しくなっています。私の職場でも飲酒運転が発覚すれば 懲戒処分となる通達がありました。そこで感じたことです。 これらの事に関して、病院という職場の場合はかなり微妙な舵取りが要求されるのでないかと思います。病院では、一度帰宅した医者が緊急手術など再度職場に呼び出されることがありま�... [続きを読む]

受信: 2006年10月 2日 (月) 17:21

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