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2007年1月24日 (水)

良質のホラー映画「それでもボクはやってない」

 観てます? 日曜9時のTBSドラマ「華麗なる一族」。なかなかイイですね。

 ひさびさに「留守録してでも観たい」と思わせてくれる、しっかりしたテレビドラマが出てきました。うれしいです。

 ま、私はドラマを観ているというより、ハセキョーを観ているのですが。

 
 相変わらず美しい長谷川京子さんは、「裁判員制度の女神」の座を仲間由紀恵さんに奪われるという悲しみを乗り越え、気丈に振る舞ってられますね。

 いや、それとも余計なお荷物から解放されてセイセイしているのか。 あるいは、彼女のキャリアの黒歴史として完全に忘れ去っているのか。

 ……これ以上は言わないことにしましょう。 切なくなりますので。

 
 それにしても、西田敏行は料亭シーンが似合いますねぇ。一瞬「白い巨塔」のデジャヴかと思いましたよ。

 

 さて、裁判員制度が動き出すのも、いよいよ再来年に迫り、しかもチマタは空前の「裁判傍聴ブーム」だといいます。

 マニアの皆さんは、じつに熱心に裁判所へ通われてますよね。 感心いたします。 傍聴マニアのブログを「傍聴」するのが趣味のマニアもいるようで。

 私は近ごろ、週2回行ければイイほうですよ。 他人様の人生を傍観する前に、まずは自分の人生の建て直しを優先させにゃならんところですので。

 これだけ「裁判」というものが注目される中で、あの映画「Shall we ダンス?」で著名の周防正行監督・脚本の最新作「それでもボクはやってない」が封切られました。

 「このジャンルの映画料金なら、司法ライターとしての経費になるはず」という、個人的なセコさもあって、行ってまいりましたよ。 バイトが終わった後にレイトショーで。

 映画館へ映画を観に行くのは、ひさしぶりです。 司法浪人の最後の年に「ゼブラーマン」を観て、どんなに傷ついても何度も何度も空を飛ぶ特訓を繰り返すゼブラーマンの姿に涙して以来でしょうか。(赤恥)

 
 電車のドアにスーツがはさまってしまい、それを抜き取ろうとモゾモゾしていただけなのに、近くの女子中学生から「チカン」と誤解されてしまう男。 容疑をずっと否認しつづけていると、逮捕→勾留→起訴と、みるみる泥沼にはまっていきます。

 しかし、公判担当の裁判官は「疑わしきは罰せず」という鉄則を忠実に守り、否認事件では無罪判決を多く出すことで有名な方。 主人公に一縷の望みが出てきます……。

 日本の「決めつけ司法(命名:みそしる)」の問題点を見事にあぶりだした作品です。 その「決めつけ司法」という巨大な敵に敢然と立ち向かい、あきらめずに闘う弁護人や支援者の努力や苦悩がストレートに胸を打ちます。

 私も観ていて、………なんだか、弁護士になりたくなっちゃいました。

 

 冗談はさておき、出色の完成度なのは法廷シーンです。 東京地裁の傍聴マニアならビックリすると思います。 実際の法廷と違いがまったくわかりませんから。

 私はツッコミどころを探そうと、意地悪く細かく注目していきましたが、法壇の材質や寸法、マイク、傍聴席の柵やイス、それぞれの器材の距離関係、被告人や裁判官が出てくる扉の奥の雰囲気、壁の時計、果ては女子中学生が法廷で証言する場面での遮蔽スクリーンまで……。

 おんなじですねぇ。

 まさか東京地裁がロケに協力したってことはないでしょうし。

 唯一、壁の色が違って、新しい壁紙に見えるぐらいですか。 やっぱり撮影用のセットをつくったんでしょうね。 それにしては、よくできてます。

 ツッコミどころを探せば探すほど感心のしどおしで、一般に非公開である留置場や取り調べのシーンは、逆に「へぇ~」と、発見の連続でした。 法廷をあそこまで忠実に再現なさるぐらいですから、こちらも質量ともに尋常でない取材を重ねて、実際の様子と遜色なく描かれているのでしょう。 私のライターとしての活動が、いかに底の浅いものか思い知らされます。

 撮影セットの見た目だけでなく、ウソをつこうとしていないのに証言が現実の出来事と食い違っていくさまもリアルですし、主人公に当番弁護士を頼まれたときの警官の反応や、弁護人の「しかるべく」「差しつかえです」などのお決まりのセリフがおかしいですね。

 現実の法廷では「異議あぁぁりっ!」なんて派手に叫んだりしていません。 というより、争いのある刑事事件そのものが稀少ですし。

 時系列をぐちゃぐちゃに入れ替えて魅せるような演出に凝る映画が多い中、本作は、事件当時の回想シーンを除いて、物語が時間の進み方に素直に展開していきます。 とても見やすくできているうえに、まったく退屈しません。

 この作品は、じつはホラー映画に分類されるべきかもしれません。 一般的なホラー映画だと、突拍子もない展開につい笑ってしまう私ですが、こればかりは本気で怖かったです。 何の誇張も飾りもなく、司法の現実が淡々と描かれていますから。

 容疑者逮捕のメディア報道をもって「事件は解決した」と思いこみがちな、法律学の予備知識がない一般の皆さんにも、私が感じた怖さがわかってもらえるはずです。

 「誤認逮捕は決して他人事ではない」と痛いほど気づき、「『疑わしきは罰せず』の鉄則が守られない恐ろしさ」を理解していただけるかと思います。 そのへんを説教くさくなく仕上げているところに、人気映画監督らしい仕事の跡が見て取れます。

 そして、周防監督ご自身もおっしゃっていますが、この映画は現職の裁判官にこそ目を見開いて観ていただきたいものです。 というより、裁判官に観せるためにつくったとしか思えないのですがね。

 ラストに近づくにつれて、現実の司法を鋭くえぐるセリフの数々が飛び出します。 監督自身のお考えを、ストレートに登場人物に代弁させているのでしょう。

 ひさしぶりに映画館に行って、楽しかったです。1回分の映画代金があれば2,3日暮らせますから、ついつい私はケチってしまいますが、今度は話題沸騰、「愛ルケ」のハセキョー濡れ場でも拝見しますか?

 

 ……ただ、テレビならまだしも、カネを出してまで逢いに行く気にならない私。ハセキョーへの惜しみない愛も、それまでか。

 いっそのこと「ハセキョーライター」を名乗ったら、愛ルケ代も必要経費で…… とりあえず黙って「贅沢日和」でも飲んどこ。
 
 
 冗談はともかく、「鶴橋康夫監督作品」という要素は気になるなぁ。かつてのドラマ「リミット」や「砦なき者」が実に素晴らしかったので。

 

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» それでも私はやりました [天下の大悪法・裁判員制度徹底糾弾!!高野善通の雑記帳]
 今年4月からは、裁判員制度対象事件のすべてが公判前整理手続にかかるそうです。検察当局の方針ですが、こうなると重罪刑事担当弁護士も本当に大変なことになりそうです。短期集中型裁判となるため、ほとんど当...... [続きを読む]

受信: 2007年1月25日 (木) 11:51

コメント

はじめまして。
僕は将来法曹を志す高校生です。
いろいろなブログやHPを見ていたら、
このブログにたどりつきました。
色々な法律や事件がクローズアップされていて、
とても勉強になります。

さて、僕もこの映画を見て来た者の1人です。
おっしゃるように、登場人物たちの言葉遣い、
審理が進んでいく様子など、非常にリアルで、
さすが時間をかけただけあるな、と思いました。

しかし、現行司法制度の問題点を、
すべて国家権力(裁判所・検察庁・警察庁)に
集約させすぎてはいないでしょうか?

僕が映画を見て感じたのは、
まだまだ弁護士がやるべきことがあったのではないか、
ということでした。
どうも、映画を撮っている人の観点が、
弁護側サイドによりすぎているような気がします。

朝日新聞では、弁護士の特集記事が連載されています。
そこからは、あたかも
「弁護士だけが一般市民の心情を理解し救済出来るんだ!」
というような雰囲気さえ伝わってくるようです。

誤認逮捕や冤罪は許されることではありません。
しかし、今回の映画は
少しオーバーに描き過ぎているのではないでしょうか?

そういった観点ではどうでしょう?
長嶺さんの意見が伺えれば幸いです。

投稿 A.Ryunosuke | 2007年1月28日 (日) 19:50

■… 以下のコメントには、少し【ネタバレ】があります。映画「それでもボクはやってない」をこれからご覧になる方は、くれぐれもご注意ください …■


>A.Ryunosuke 様


いらっしゃいませ。コメントありがとうございます。

おっしゃいたいことはわかります。「もっとバランスよく、いろんな角度から物事を見て作っていくべきだ」というご主旨なのでしょう。

しかし、本文にも書きましたとおり、あの映画での描き方はあながち誇張とも言いきれません。いろんな角度からバランスをもって物事を見た結果が、ああなっているのだと思います。

あの映画が、単に弁護士業界の宣伝映画なのだとしたら、登場する裁判官は、ずっと小日向さん演じる室山判事だけでよかったはずです。 主張や請求をことごとくしりぞけていく裁判官に対抗してこそ、「市民の利益のために戦うカッチョイイ弁護士」のイメージが浮かび上がってきます。

「市民の心情を、唯一くみとり救済する素晴らしき弁護士業界」を演出しようとするとき、いわゆる「無罪病」に罹った裁判官も出てくるのでは主張がボヤけますから。

それにしても、あの2人の裁判官が持つキャラの対比が、かえってドラマを引き立たせた面もありそうですけどね。
 

弁護士というのは、「対 庶民」との関係では、あたかも強大な力を持っているように見えます。弁護士が民事トラブルに介入して「わたくし、○○さんの代理人で、弁護士の……」と名乗ったり、内容証明を送りつけるだけで、ひるむ人たちも多いでしょう。

しかし、「対 国家権力」という視点では、弁護士資格者は単なる私人、いち自営業者という側面を突き付けられるもののようです。

被疑者に弁護人が就く前に、警察や検察が、刑事事件の現場から人海戦術で証拠をごっそり持っていき、その後で弁護人がちまちまと「証拠開示」を請求していくという哀しい現状があります。

A.Ryunosukeさんは、「もっとできることがあるはず」と、刑事事件の弁護人に期待を寄せて過大評価なさっているようですが、弁護人が打てる有効な手というのは、そんなに無いのです。

独自に目撃証人などを探して駆けずり回ってみたり。あとは、手持ちの少ない証拠を、いろいろ組み合わせてみたり、見方を変えたりして、被告人にとって有利な主張の決め手に少しでもならないか考えるなど、頭を酷使するぐらいですかね。

また、裁判官や検察官が、自分たちに都合の悪い法令の建て前をわざと守らなかったり、ゆがめて運用する現実もあります。法律家のはずなのに。

こんなことを書いていると「偏ってるなぁ」「アカっぽい」と思われるかもしれませんが、「様々な視点からバランスよく」描こうとしたら、いつの間にか反権力クサくなってしまうのが、司法の世界なのです。

それだけ「最初から一方的にハンデがついてるゲーム」というわけです。 特に刑事裁判や行政裁判は。
 

私だって、「許せない権力の横暴!」「不当きわまりないナントカかんとか!」みたいな、読まなくても結論が見える文章は書きたくないですよ。(笑)

とはいえ、このブログにも、最初から流れがミエミエの話が盛りだくさんですけど……。 物書きのプロを志向する者の文章としては疑問符がつきますが、それでもボクは、けなげに生きていきます。
 

朝日新聞の記事については、不勉強で私は拝見しておりませんが、各新聞社は、それぞれの読者層にウケがいいように書きます。そうでなければ解約されますからね。「顧客満足」は商売の鉄則です。
 

こういう変な書き方しかできませんが、ご理解いただけましたでしょうか。

投稿 みそしる | 2007年1月29日 (月) 07:56

長々と丁寧なお返事、ありがとうございました。

知り合いの弁護士さんたちと以前お話しした時、
「刑事事件はやりにくいから辛い」とか、
「勾留期間が長過ぎる」とか、
色々愚痴っていたのを思い出しました笑
たしかに、おっしゃる通りなのかもしれません。

そして、あの映画が司法の問題点をしっかりと突いていることは、疑いありません。
では、裁判員制度が始まろうとしているこの時期に公開されると、裁判員が導入される重罪事件において、
逆に「無罪病」が蔓延してしまう…
というようなことは考えられなくはないでしょうか?
あるいはその逆も…。

多少脱線しますが、僕は、裁判員制度は日本向きではなく、導入すべきではないと思っています。
というのも、各地方裁判所で裁判員制度に向けて民間人を交えての模擬裁判を実施していますが、同じ事件でも地方によって有罪と無罪が二分するという結果が出ているそうです。

これでは今まで良くも悪くも判例主義をとり、「裁判の公平性」を保ってきた裁判所も、今後維持していくのが困難になりはしないでしょうか?

まだまだ勉強不足ですし、高校生の浅知恵ですので、論理の欠陥は多々見受けられることと思います。
しかしなかなかこういったことを話す場がなく、このブログは僕にとって救世主のような(笑)存在でした。
今後も時折覗いては、質問を残すことと思います。
お仕事のお邪魔になり、ご迷惑かと思いますが、これからもよろしくお願い致します。

投稿 A.Ryunosuke | 2007年1月29日 (月) 17:45

私は「いわゆる『無罪病』」判事は大歓迎ですよ。バンバン蔓延していただきたいものです。

「疑わしきは罰せず」「たとえ10人の悪事を見逃しても、1人たりとも無辜を罰するな」という、当たり前であるべき原理原則を守れる裁判官たちですからね。具体的なお名前は伏せますが、少数ながら現実にいらっしゃいます。
 

私も今のままの裁判員制度は問題おおありで、「やめたほうがいいんじゃないか」というのがホンネです。

ただ、庶民が再来年から裁判所に召喚されるのは規定路線ですから、ちゃんと裁判員制度を活かして「無罪であるべきものを無罪にできる」ような運用が行われるにはどうすればいいかなぁと。物書きとしてできることはないだろうかと。

この問題に関しましては、理想と現実の2本立てで悩んでおります。


>というのも、各地方裁判所で裁判員制度に
>向けて民間人を交えての模擬裁判を実施
>していますが、同じ事件でも地方によって
>有罪と無罪が二分するという結果が出ている
>そうです。


私は、この理由で裁判員制度に疑問を抱いたりはしません。

事案にもよりますが、仮に裁判官で「模擬裁判」をおこなったとしても、やはり裁判官によって、裁判所の構成によって、有罪と無罪が二分する事案は出てきて当然ですよ。

裁判員裁判との違いがあるとすれば、程度の問題です。「職業裁判官だけでやるよりも、裁判員が混じるほうが意見がわかれやすいかも」という量的な差です。

公判を傍聴していて、「もし、あの裁判官が担当なら、どんな審理になっただろうかなぁ」と思うこともあります。現実には、その疑問の裏を取ることなど叶いませんけどね。

裁判所は「どの裁判官も、同じ事案については同じ判決を導ける」ということにしたいようです。しかし、それが幻想であることに、私たちは気づいています。

ただ、「貨幣」や「愛」などと同じように、それは人間社会を成り立たせるために不可欠な幻想なのかもしれません。

「量刑相場」という言葉もあるとおり、できるだけ個々の裁判官による判断の差を無くしていく努力は必要でしょう。しかし、一方で裁判官の判断はそれぞれ独立しているのが建て前です。

そもそも、日本全国どの裁判官も同じ判決を出せるのなら、三審制なんか不要でしょう。控訴や上告、あるいは再審などで、当事者が裁判のやりなおしを求めていくのは、「人間が裁く以上は、個体によって導く結論に違いが出る場合がある」という前提があるからです。

 
> まだまだ勉強不足ですし、高校生の浅知恵です
> ので、論理の欠陥は多々見受けられることと
> 思います。

十分だと思いますよ。私が高校生のころなんか、何も考えてませんでしたから。考えていたとしたら、自作のマンガやパソコンゲームのネタぐらいです。あとは部活をどうやってサボるかとか。

論理なんか、ものを伝えるための手段でしかありませんし、訓練でどうとでもなります。破綻さえしていなければ十分です。

法曹を目指すなら、今の時期は遊んで、どんどん恋もして、どしどし恥をかいて、本格的に受験勉強を始めるまでは、教科書に書いてあることをどんどん疑ってほしいですね。

でも、それとなく「議論のマナー」を心得ておくのは結構いいと思います。これは一朝一夕に身につけるのは無理ですから。

どんなファンキーな意見を持っていたとしても、議論の相手を尊重すること。

水掛け論を防ぐために、必ず相手の主張に乗っかって崩すこと。

自分の意見を論破されたからといって、まるで人格を否定されたかのようなヘコみ方をしないこととか(笑)。

でも、Ryunosukeさんは大丈夫そうですね。

こうやって、若者に期待をかけているのが、オヤジの証拠ですが。

仕事は、今はデビュー作の原稿執筆が一段落して、編集者の方に委ねており、「次はどうしようかなぁ」と考えているような段階です。長々とコメントできるのも、今のうちです……? 別に、あんまり気にしないでくださいね。
 
 
これからもよろしくお願いします。

投稿 みそしる | 2007年1月29日 (月) 23:18

こんにちは。勉強になるので楽しみに読ませていただいてます。このブログはいつもとても参考になります。映画150分と長いので躊躇していたのですが、みそしるさん推薦ということで見てこようと思いました。今日これからいってきます!

投稿 K | 2007年2月 2日 (金) 06:28

どうもこんにちは。

上映時間の長さはビックリするぐらい気になりません。ラストで「もう終わりか?」と思ったぐらいですから。


このブログが、Kさんの参考になりますか。ありがとうございます。

でも、まともな法律的議論の主流から外れたこのブログを、なんの参考になさるんだろう……。参考のために教えていただけませんか。(笑) うそです。

投稿 みそしる | 2007年2月 2日 (金) 11:27

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