【マイナー罰則(6)】 人の健康に係る公害犯罪の処罰に関する法律
いよいよ今週末に発売の「罪と罰の事典」(小学館)に、残念ながら紹介できなかった罰則たちを、ここでひっそりと紹介しております。
なお、早くも公式サイトにて、「罪と罰の事典」が、ちょっとだけ立ち読みできるようになっていますので、わずかでも興味のある方はのぞいてみてくださいね。
公害罪 (人の健康に係る公害犯罪の処罰に関する法律)
<緊急逮捕が可能>※過失公害を除く
<時効7年>※公害致死傷のみ
<時効3年>※その他■どんな犯罪?
工場や事業場の事業活動によって、人の健康を害する物質(身体に蓄積した場合に人の健康を害することとなる物質を含む)を排出し、公衆の生命や身体に危険を生じさせること。
■どんな刑罰?
1カ月~3年(懲役)
1万円~300万円(罰金)
※[両罰規定あり] 法人に300万円以下の罰金。(公害致死傷罪)
1カ月~7年(懲役)
1万円~500万円(罰金)
※[両罰規定あり] 法人に500万円以下の罰金。(過失公害罪) ※うっかり
1カ月~2年(懲役・禁錮)
1万円~200万円(罰金)
※[両罰規定あり] 法人に200万円以下の罰金。(過失公害致死傷罪) ※うっかり
1カ月~5年(懲役・禁錮)
1万円~300万円(罰金)
※[両罰規定あり] 法人に300万円以下の罰金。
この法律は、高度経済成長にともなう大気汚染や水質汚濁が大きな社会問題となった1970年代、鳴り物入りで成立しました。
損害賠償の問題はともかく、公害の発生を犯罪として処罰する法律は、当時世界初だったそうです。
しかし、この法律が施行されて約40年、適用は非常に低調で、実際に公害罪で処罰された業者は、ほとんどいません。 キッチリ調べてはいませんが、有罪の裁判例は1件か2件ぐらいじゃないでしょうか。
そのほかは、通常の業務上過失致死傷で有罪になっているようです。 こっちのほうが使いやすいんでしょうかね。
公害を法的に取り締まる上で、大きな問題は「因果関係」です。
ある工場で、ある有害物質が排出されていた。 同じ有害物質が原因で、ある人が健康を害した。 この2つの事実があったとして、だからといって、その健康被害の法的責任を、その工場に負わせてよいと断定することは極めて難しいのです。 よっぽど特殊な有害物質でない限りは。
そうなれば、被告人の有罪を立証しなければならない検察官は、とてもストレスがたまるのですね。
この「公害罪法」の5条には、 「工場又は事業場における事業活動に伴い、当該排出のみによつても公衆の生命又は身体に危険が生じうる程度に人の健康を害する物質を排出した者がある場合において、その排出によりそのような危険が生じうる地域内に同種の物質による公衆の生命又は身体の危険が生じているときは、その危険は、その者の排出した物質によつて生じたものと推定する」 ……とあります。
これは、検察側が、因果関係を立証する負担を軽くして、全体のバランスをとるための規定です。 有害物質をかなり出している事実があって、実際に周りの地域で健康被害のリスクが生じているなら、「その工場が悪い」と考えるわけです。
あとは弁護側が「そんなことはない」と反論・反証する責任を負います。 それができなければ自動的に有罪になります。
しかし、裁判所(最高裁)が、この法律を極めて限定的に適用するよう、厳格に解釈しているのです。 これはこれで、司法が独自にバランス感覚を発揮している結果なのでしょう。
いまは、大気汚染・水質汚濁どころか「エコブーム」の時代ですので、この公害罪法が今後適用される可能性だって、ますます下がっているかもしれません。
とはいえ、せっかく多くの時間的・政治的リソースを費やして制定された法律が、いつの間にか「宝の持ち腐れ」になっている現状も、もったいない話です。
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コメント
>これは、検察側が、因果関係を立証する負担を軽くして、全体のバランスをとるための規定です。
公害罪法5条の推定規定は、推定無罪「疑わしきは被告人の利益に」を原則とした刑事法則に反するんじゃないですかね?
冤罪やら推定無罪やら主張する人達が公害罪法の推定有罪規定にダンマリなのは、
公害の甚大な被害を食い止めやすくするためとか色々理由があるんでしょうが、
どうもダブルスタンダードに見えてしまう。
投稿: ささ | 2009年10月14日 (水) 11:45
>ささ さま
毎度コメントを寄せてくださいまして、ありがとうございます。
たしかに、5条の規定は、実質的な「推定有罪」を定めるものとして批判する文献がチラホラみられます。
それもあって当局は、公害罪での検挙はなるべく避けてきたのかもしれません。違憲立法審査の問題になったら面倒でしょうし。
投稿: みそしる | 2009年10月15日 (木) 21:36
さささんの指摘はもっともです。
が、憲法の要請には互いに矛盾するものもありますよね。
例えば旧ドイツのボン基本法に(というか今もその規定は生きているかもしれませんが)たたかう民主主義という考え方が条文化されており、
ナチスを生き返らせるような言論は禁じるという規定があったそうです。
原子力損害法だったとおもうのですが無過失責任を規定している法律があると教わった覚えもあります。無過失責任も通常の刑事法の考え方からすればありえないことですが、原発事故のあまりの大きさから、特別にこういう例外規定を作ったといえないでしょうか。
原発事故については因果関係の立証が緩められているという読み込みを
することは、罪刑法定主義なり刑事手続きに関する憲法の諸規定に必ずしも反しないという立論は可能なのではないでしょうか。
できればメールをくださいますようお願いいたします。
三陸の海を放射能から守る岩手の会のメンバーです。
投稿: 元司法浪人 | 2012年2月27日 (月) 12:35