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2009年6月17日 (水)

刑事裁判の量刑は、やっぱり検察官が決めちゃうのか?

>>> 懲役1年2カ月…申し訳ない、2年にします 求刑勘違い

 秋田地裁で8日、窃盗罪に問われていた横浜市の無職男性被告2人の判決公判の言い渡しの際、裁判官が検察側の求刑を勘違いしており、読み上げの途中でいったん休廷し、改めて判決を言い渡すミスがあった。

 2人は共謀して東北各地でカーナビゲーションを盗んだとされる。馬場純夫裁判官は冒頭、検察側の求刑をそれぞれ懲役1年6カ月として、1人に同1年2カ月、もう1人に同1年6カ月執行猶予4年と伝えた。

 しかし、読み上げの途中で、検察官から「求刑は2年6カ月だったはず」と指摘があった。馬場裁判官は手を止めて判決文の草稿をめくり直し、「(求刑は)1年6カ月だったよね」と検察官に問い直した。間違いがわかると、両被告を退席させ、約30分の休廷をはさんだ。

 馬場裁判官は改めて、懲役2年と同2年執行猶予4年をそれぞれ言い渡した。その後、両被告に「実刑、有罪の判決であることに変わりはないが、2人には迷惑をかけ、申し訳ない」と陳謝した。

 秋田地裁は、記者団に「どのような過程でミスが起きたかわからない。裁判体の判断事項なのでコメントは差し控えたい。通常は求刑に、裁判官の判断が拘束されるものではない」と説明。今後ミスの原因を調べるという。

 秋田市の法律関係者は、休廷した30分間で判決が変わったことを問題視し、「検察側の求刑によって判決が変わるというのはおかしなこと。(独立した判断が求められる裁判官の)判決が求刑に引っ張られている実態が明らかになった」と話した。

 また、この裁判は検察側の論告を書面ではなく、口頭でやりとりしていたことから、「裁判員制度の導入にあたり、論告を口頭でやり取りすることが多くなった。その弊害ではないか」とも指摘した。(2009年6月9日 アサヒコム)


 

 マズいですよ~、これは!

 裁判官の量刑は、検察官の求刑に一切影響を受けないのがタテマエです。

 求刑よりも重い刑をたまに言いわたしちゃう、大阪地裁の杉田宗久判事のような例すらあります。

 その一方で、刑事裁判官の量刑は「求刑の8掛け」とか「2割引」なんていわれて、検察官から懲役5年という求刑が出たら、懲役3~4年が“相場”だと、まことしやかにウワサされてきました。

 実際、いろんな判決ニュースを見聞きしていると、その法則があてはまる場面が多くみられます。

 が、「求刑の8掛け」について、もちろん、裁判官は公式に一切認めてきませんでした。 私も新聞記事や法律の専門誌などで、いろんなインタビューを読んでまいりましたが。

 

 今回の馬場裁判官は、「検察官が言った求刑によって、私の判決はブレます」と、自白してしまったようなものです。

 2年6カ月の求刑に対し、判決が2年では、ちょうど「求刑の8掛け」になってしまうという、恥ずかしい結果に。

 それじゃあ、検察官と裁判官の関係が“なあなあの馴れ合い”になってしまっている事実を、正直に暴露してしまったも同然。

 もしかして馬場判事、ウソをつけない、まっすぐな性格でいらっしゃるのでしょうか。

 

 同じ件を報じた読売新聞の記事によると、書記官が作成した事件記録のほうが「求刑:1年6カ月」だと間違っていたみたいです。

 そういえば過去に、こういう騒動もありましたし、ときに「1」と「2」は聞き違えやすいんでしょうね。

 

 じゃあ、

 検察官から求刑の勘違いを指摘されたとしても、裁判官は判決を変えなかったほうがよかったのか? ……という話になるでしょう。

 私は、決して変更すべきではなかったと考えます。

 検察官の求刑と、裁判官の量刑は何の関係もない、という本来のタテマエを貫くのであれば。

 もっとも、検察官と裁判官の馴れ合いを、あからさまに認めてほしくない、この勘違いをキッカケに断ち切ってほしかったという、個人的な願望が含まれていることも否定できませんけれども。

 

 特に今回は、本来の求刑より軽い方向で勘違いしていたわけで、被告人らにとっては、ある意味で自分たちに不利益な方向に(重く)判決を変更されたようなかたちです。

 執行猶予つきならともかく、ひとりは実刑ですからね。 いきなり8カ月も懲役を長くされるのは、不意打ちだといわれても仕方ありません。

 カーナビ盗んで実刑ということは、初犯ではない可能性も高く、被告人なりに、ある程度の覚悟はできていたのかもしれませんが、それはそれとして。

 

 ちょっと調べてみました。

 馬場純夫裁判官は、昭和36年12月15日生まれの47歳、神奈川県出身。 新聞記事を検索しましたが、過去に特に大きな問題を起こしたことはないようですね。

 最近では、卵を産めなくなったタダ同然の雌鳥(廃鶏)を「比内地鶏」と偽装して販売した業者の社長に、懲役4年の実刑を言いわたしています。

 ちなみに、このときの求刑は懲役7年でした。 求刑の「6掛け」以下ですね!

 おかしいなぁ……。

 馬場判事が関わった量刑について、もっと調べてみました。

 
 

2009年4月22日 詐欺 懲役3年6月(求刑・懲役4年)

2009年4月7日 詐欺 懲役2年6月(求刑・懲役3年6月)

        詐欺 懲役1年6月(求刑・懲役2年)

2009年3月31日 傷害致死 懲役12年(求刑・同じ)

        現住建造物放火など 懲役5年(求刑・懲役6年)

2009年3月27日 強姦 懲役4年(求刑・懲役5年)

2008年12月24日 強姦傷害 懲役8年(求刑・懲役10年)

2008年12月3日 強盗傷害 懲役6年(求刑・懲役7年)

2008年10月27日 詐欺 懲役12年(求刑・同じ)

2008年10月17日 傷害 懲役4年6月(求刑・懲役5年)

2008年7月30日 覚せい剤密売など 懲役4年(求刑・懲役5年)

 

 以上、実刑判決のみピックアップしました。 以上の太字が「求刑の8掛け」法則があてはまる判決です。

 こうしてみると、法則があてはまる場合のほうが少数派…… って、そりゃそうか。 裁判所はキリのいい数値を量刑に採用するのが好きですから、キッチリ割り切れるほうが珍しいですしね。

 とにかく、今回は、求刑の変更によって、量刑を動かすべきではなかったと思えて仕方ありません。

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コメント

はじめまして。
私は最近裁判傍聴にハマりだした者で、裁判官や検察官目当てで足を運んでいるところがあります。
長嶺さんの黄色い文庫本を両方拝読したご縁で、今回お邪魔しました。

私はこのニュース、裁判官がいかに忙しいかを物語る例として単純に解釈していました。
事の次第を知った今、私も長嶺さんと同意見で、裁判官は訂正すべきではなかったかと思います。
一番いけないのは検察官で、訂正を促すなんて思いあがりの証だと思います。
傍聴をしていると、裁判官が検察官に論の上で負けてしまっているのがめずらしくなく悲しくなります。

長嶺さんのご著書では裁判官に敬語を使われているのが印象的でしたが(以外に少数派です。)、裁判員が登場しても、裁判官には最大限の敬意を払うべきだと思います。
それでは。

投稿: ぬのちゃん | 2009年6月19日 (金) 19:01

>ぬのちゃんさま

いらっしゃいませ!
お言葉集を読んでくださったそうで、感謝です。

ここで書いた文章は、あくまで一個人の私見であって、正解ではありません。この件に関しては、いろんな考え方があっていいと思います。

おっしゃるとおり、「お言葉集」で、私が裁判官の言動について敬語を使って説明したことに対して、いろんなご意見を頂戴しました。

私は裁判官に敬語を使っているというより、年上の方に向けて敬語を使っているにすぎないのです。

一方で、個人的に好みの裁判官のことを「○○判事」と言わず「○○さん」と呼んだりしますので、じつは重々しい敬意は払っていなかったりします(笑)

投稿: みそしる | 2009年6月19日 (金) 20:04

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