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2009年7月31日 (金)

裁判員参加裁判をめぐる、検察の“こすい?作戦”その1

>>> 検察“罪名落とし”か 裁判員対象起訴が大幅減

 裁判員制度の施行から2カ月間に起訴された裁判員裁判の対象事件は、計276件だったことが共同通信社の集計で分かった。月平均は138件で、過去5年の月平均起訴件数(258件)を大幅に下回った。弁護士らは「検察が裁判員裁判を避けるため、強盗致傷を対象外の窃盗と傷害罪で起訴するなど“罪名落とし” をしている」と指摘している。
(※中略)
 これに対し、検察幹部は「立証ができなくて罪名を落とすことはあっても、意図的にすることはない」と罪名落としを否定する。ただ「(地検トップの)検事正が裁判員裁判にしてトラブルを起こすよりも、裁判官だけに裁いてもらった方がいいと判断した事件があるのではないか。検事正次第だ」と話す現場の検事もいる。
 元早稲田大法科大学院教授の高野隆(たかの・たかし)弁護士は「検察は『勝たねばならない』とメンツにこだわり“堅い事件”だけ起訴しているのではないか。実質的に検察官が有罪・無罪を判断していることになる。検察の有罪判断を国民に追認させる形になれば、裁判員制度も形骸(けいがい)化する」と危惧(きぐ)する。(2009/07/23 共同通信)


 

 これは、法律的になかなか面白い記事ですね。

 「強盗致傷」を「窃盗と傷害」に分解しちゃおうという話です。

 両者は、客観的な犯行内容としては、おそらく大して変わらんだろうと思います。

 要するに、「強盗致傷」をやっている犯人と、「窃盗と傷害」をやっている犯人を比べたとき、見た目で厳密に区別できる人は、あんまりいないんじゃないかと。

 

 強盗致傷とは、「暴力を手段にして」他人のモノを盗んだ結果、その被害者を含む誰かにケガを負わせてしまう犯罪です。

 一方で、窃盗と傷害の併合罪だというとき、暴力が盗みの手段になっているという関係性はありません。

 盗みと暴力(負傷つき)という、ふたつの違法行為が、たまたま近いタイミングで行われたことを示しているにすぎないのです。

 

 たとえば、日常的に妻に暴力をふるっている夫がいるとして、ある日、妻へケガを負わせた後、妻の財布からお金を抜き取った、という事案の場合、

 その日の暴力が、お金を抜き取るために行われたのか、それとも、いつものDVの延長なのか、ハッキリしません。

 ですから、その件は「強盗致傷」なのか、それとも「傷害+窃盗」なのか、見る人によって、きっと判断はわかれるんだろうなと思います。

 究極的には、夫に質問して「夫の答え次第で罪名が決まっちゃう」ってコトなんでしょうね。

 

 もっとも、盗みと暴力とが、近いタイミングで行われた事実があるなら、「盗みを完結させるために暴力がふるわれた」と考えるのが、たしかに自然です。

 たぶん、常識的な判断でしょう。

 しかし、「盗みの手段として、暴力がふるわれた」と証明するのは検察です。

 だから、検察は「手段性を証明できなかった」と言い張れば、強盗致傷を2つに分解し「罪名落とし」する、なんてことができてしまうんですね。

 

 強盗致傷の最高法定刑は無期懲役ですが、窃盗+傷害(併合罪)の最高刑は、懲役22年6カ月となります。

 無期懲役囚も、実質的には30年前後で仮釈放されることを考えに入れても、盗みと暴力を分解すれば、実質的に罪は軽くなりますね。

 裁判員裁判の対象からも外れますから、一般人を法廷に入れたくない検察官としては、うれしい選択です。

 

 このほかにも、

 殺人未遂(裁判員対象)を、傷害(対象でない)にしてみたり、

 危険運転致死(裁判員対象)を、自動車運転過失致死(対象でない)にしたり、

 覚せい剤の密輸(裁判員対象)を、覚せい剤の営利目的所持(対象でない)にしたり、

 通貨偽造(裁判員対象)を、通貨模造(対象でない)にしたり、

 「罪名落とし」のパターンは、いろいろと考えられます。

 

 あとは、傷害致死を、暴行+過失致死に分解したりとか。

 ……って、コレはさすがにムリがありそうですが。


 

 ただし、裁判官には「訴因変更命令」という権限があります。

 

◆ 刑事訴訟法 第312条
2 裁判所は、審理の経過に鑑み適当と認めるときは、訴因又は罰条を追加又は変更すべきことを命ずることができる。


 

 裁判官 「検察官は、窃盗と傷害で起訴なさってますが、被告人質問で、被告人が答えたところによると、本件は、盗みを完結させる目的で被害者にケガを負わせたという話のようです。 なので、やっぱ、強盗傷害に切り替えられないですかね?」

 

検察官 「わかりました。その方向で検討いたします」

 

裁判官 「弁護人も、それでよろしいですか?」

 

弁護人 「そうですね。しかるべく」

 

 ……という話になったら、いったいどうなるのか?

 

 この点につき、裁判員法が施行される前の2003年の段階で、司法制度改革推進本部によって開かれた「刑事検討会(第14回)」によると、

 裁判員を入れない罪名から、裁判員を入れる罪名へと訴因変更された場合、その段階から裁判員6名を召集するけれども、それまで進めてきた裁判はやり直さない、という結論に至ったようです。

 たしかに、そのへんが落としどころなんでしょうね。

 

 あしたは、検察のこすい作戦「その2」をお送りする予定です。

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