裁判官だって、テレビでドキュメンタリー番組を観るのだ、の巻
【 裁判傍聴録 】
東京簡易裁判所
6月**日 罪名:窃盗
被告人の男は、住居不定無職の47歳。
ギャンブルで作った借金を、家族の協力も得て完済したところ、生活が立ちゆかなくなったことをきっかけに、10年以上もホームレスを続けているという。
そして、自販機荒らしの常連でもあり、過去にも窃盗罪で検挙されたことがある。結局は不起訴になったそうだが。
今回も、路上に設置されている自動販売機の釣り銭(約2万円)を盗んだとして逮捕・
起訴された。 初めての法廷に、要領を得ない感じ。
弁護人は、住むところがない被告人を、更生保護施設に収容する手配をしており、そこを足場にしながら、じっくりと腰を据えて仕事を探していく支援をしたいと主張。
「ガマンができない自分の性格を直す努力をしますね」と、被告人に質問を投げかけ、意識改革の様子を確認した。
検察官は、職を失って仕方なく、という事情もなく、10年以上もダラダラとホームレス生活を続けてきた被告人に「ガマンができないんですね。堪え性がないというか」と責め立てる。
さらに、「あなたが裁判所に来たという意味はわかりますか? これから罰を受けるという意味なんですよ」と、口を酸っぱくして注意を喚起した。
この裁判は、即決裁判手続きで行われていたため、法律上、被告人に言いわたされる懲役刑には必ず執行猶予が付く。
そのため、被告人が自らの犯行を甘く見ないよう、厳しく叱責して、今後の更生をうながしていく、検察官としての“親心”もあるのかもしれない。
そして、江波戸直行判事による補充質問。
この方は、いつも「自分の言葉」で、被告人に話を投げかけようと努力しておられるので、質問手続きというより、ほとんど助言か説教のような時間となる。
裁判官 「私も、テレビでドキュメンタリー番組とか観ていると、ホームレスになった人々の特集なんかやっててね、私も詳しい事情はわからないんだけれども、自分をいったんホームレスだと認めちゃうと、そこから抜け出せなくなってしまう、というようなことを言ってましたが」
被告人 「はい」
裁判官 「あなたも、そういうふうにホームレス生活から抜け出せなくなったうちの、ひとりなんですか?」
被告人 「いえ、抜け出せなくなってしまうのは、年齢的な事情もあると思います」
裁判官 「そうですか、あなたは47歳で、まだ若いですが、もっと年上の人が、抜け出せなくなるということですか」
被告人 「そうだと思います。 60歳とか、そういう人たちです」
裁判官 「あなたの周りにも、そういうお年寄りのホームレスがいたりしたんですか?」
被告人 「はい」
裁判官 「しかし、あなたもね、今まで10年以上もホームレスを続けてきたんだから、何か居心地がよかったりしたんではないですか?」
被告人 「そんなことはありません」
裁判官 「10年前は、今ほど職を探すのは難しくなかったでしょう」
被告人 「……はい」
裁判官 「今までできなかったことが、これから、ちゃんとできるんですか?」
被告人 「はい、こうして裁判を受けて、目が覚めました。これからは心を入れ替えて頑張ります」
結審して5分後、被告人には懲役1年6カ月(3年間の執行猶予)が言いわたされた。
江波戸裁判官は最後に「さきほど言ったことを守って、生き方を立て直してくださいね」
と説諭した。
私の気のせいかもしれないが、窃盗に関する刑事裁判の半分近くは、被告人が「住居不定無職」だ。
そして、ホームレスの「ベテラン」が、「新入り」に対して、盗みをそそのかすような話も聞く。
ホームレスにもコミュニティがあって、その中でも、要領や力関係の差というのが如実に出ていたり、そうしたコミュニティのわずらわしさを嫌って、今回の被告人のような「一匹狼型」のホームレスが周辺にいたりする。
やはり人間社会の縮図のような思惑が渦巻いているのかもしれない。
(※ 以上、メールマガジン「ウィークリーながみね」今週号に掲載した記事に、加筆してエントリしました)
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