« 「○○君を殺して何になる」を、世に送り出して何になる | トップページ | 山梨県「歯の健康条例」案を、いきなりつまずかせた元素 »

2009年10月15日 (木)

札幌・書店の本棚転倒重体事故 … 刑事立件の可能性

20091015200942

 

 今売りの「週刊文春」が、書評コーナー“文春図書館”にて、私の文章を載せてくださっています。

 しかも、文春の編集者から「いい書評ですね」と褒められるという奇跡が起きました! ありがたい!

 当方は、書評の正しい書き方なんて露知らず、手探り状態で原稿をでっち上げたのに、すみません……。

 

 今回ご紹介させていただいたのは、米カリフォルニア州の地方都市で、身重の妻を殺した疑いで、夫が陪審裁判を受け、死刑の評決に達した一部始終につき、つぶさに記録するため、12人の陪審員のうち、7名が著者として参加した本。

 一般に陪審制で、陪審員は量刑に参加しないのですが、カリフォルニア州の刑事陪審では量刑までやるモノみたいです。

 恥ずかしながら、この本を読むまで知りませんでした。
 

 対岸の火事ではありません。 そう遠くない将来、日本の裁判員が死刑の判断に加わる日は来ますから、われわれ日本人にとっても大いに参考になり、考えさせられる本です。

 ただ、日本の裁判員には、非公開評議の核心などにつき、終身守秘義務が課せられているので、いまの制度上、「裁判員体験記」を出版することは難しいでしょうね。

 


>>> 「危険認識なかった」本棚転倒で書店経営者

 札幌市東区の古書店「デイリーブックス」で本棚が倒れ、小学生女児1人が重体、女児の姉ら2人が軽傷を負った事故で、書店の経営者は14日昼、同書店近くで記者会見し、「多くの方に迷惑をかけた。申し訳ない。女の子の無事を祈っている」と謝罪した。

 本棚を床や天井に固定していなかったことについては、「地震の時も倒れなかった。危ないという認識はなかった」と改めて語った。

 また、事故当時、店内にいて軽傷を負った従業員は、書店のインターネットサイトに掲載するため、本の写真を撮影していたと説明した。(2009年10月14日23時03分  読売新聞)

 
 

 将来ある子ども、それも読書に興味がある子どもが、無事に助かりますように、遠く東京から願うしかありません。
 

 この古本屋の店長さんは、経営者(オーナー)に雇われている形のようですね。

 オーナーはテレビ画面で観る限り、けっこう若い青年実業家という風情でした。

 

 本件については、業務上過失致傷の罪に該当する疑いで、捜査が進められているようです。

 子どもがひとり、意識不明の重体になっており、今なお生命の危機に瀕している事故ですから、不起訴ということは考えにくいと思います。 きっと裁判には持ちこまれるのでしょう。

 
 

◆ 刑法 第211条(業務上過失致死傷等)
1 業務上必要な注意を怠り、よって人を死傷させた者は、5年以下の懲役若しくは禁錮又は100万円以下の罰金に処する。 重大な過失により人を死傷させた者も、同様とする。

 
 

 「必要な注意を怠り」という部分は、一般的に4つに分解して解釈されます。

・ 人身事故が起こる結果に、あらかじめ気づく義務が存在すること
・ その義務(予見義務)に違反したこと
・ 人身事故の結果を避ける義務が存在すること
・ その義務(結果回避義務)に違反したこと

 

 高さ2メートル以上にも古本を積み上げた本棚が倒れる可能性、その結果、人が負傷する可能性は、常識的につかむことができます。

 棚同士の上部を1枚の板でつないで、いちおう補強をしているみたいですが、申し訳程度の措置だといわれても仕方がないでしょう。

 だとすれば、少なくとも「まさかこんな事故が起こるとは!」という類のものではない。

 現場の店長はもちろん、現場に張り付いていないオーナーにも、予見義務・回避義務は課され、その義務に違反したことは明らかだと思います。

 たとえオーナーが「危険だという認識はなかった」と弁解しても、今回は「危険性を認識すべきだ」という法律上の義務づけがあると考えられますので、弁解になりえないのです。

 

 あとは、古本屋の経営が「業務」といえるかどうか。

 「業務に決まってるじゃないか」とツッコミが入りそうですが、業務上過失致死傷でいうところの「業務」は、仕事や経営といった意味とは切り離されています。

 以下の3つの条件を満たす必要があります。

(1) 社会生活上の地位(職業的な地位)に基づき
(2) 何度も繰り返し行われ、
(3) 他人に危害を加えるおそれがあるもの

 

 古本屋の運営は、(1)(2)を満たすことに間違いないでしょうが、たとえば医師やパイロットなどの仕事と同じように、「古本屋は人の命を預かる商売」だという一般的な認識があるといえるかどうか……?

 (3)を満たすかどうかは微妙ですね。 裁判で争われてもおかしくありません。

 

 もっとも、古本屋の運営が「業務」にあてはまらず、業務上過失致傷にならなくても、「重過失傷害」にあたる可能性は、かなり高いでしょう。

 もう一度、刑法211条1項を確認してみます。

 
 

◆ 刑法 第211条(業務上過失致死傷等)
1 業務上必要な注意を怠り、よって人を死傷させた者は、5年以下の懲役若しくは禁錮又は100万円以下の罰金に処する。 重大な過失により人を死傷させた者も、同様とする。

 
 
 

 重過失傷害罪の刑罰の重さの定めは、業務上過失致死傷と同じです。

 もしかしたら、本件書店の責任者らは、はじめから重過失傷害の罪で起訴されるかもしれません。

 被害を受けた女の子に、身体的な障害が残ることになれば、判決は禁錮1年前後でしょうか……。

 もしも、女児に万が一の事態が訪れれば、刑事責任はもっと重くなります。

 もちろん、民事上の金銭賠償も求められますね。

 こういう場合に、古本屋サイドへ保険金がおりたりすることが、ありうるのかどうか、私は不勉強ゆえわかりません。

|

« 「○○君を殺して何になる」を、世に送り出して何になる | トップページ | 山梨県「歯の健康条例」案を、いきなりつまずかせた元素 »

法と生命」カテゴリの記事

コメント

この記事へのコメントは終了しました。

トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.cocolog-nifty.com/t/trackback/3002/46494164

この記事へのトラックバック一覧です: 札幌・書店の本棚転倒重体事故 … 刑事立件の可能性:

« 「○○君を殺して何になる」を、世に送り出して何になる | トップページ | 山梨県「歯の健康条例」案を、いきなりつまずかせた元素 »