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2010年9月16日 (木)

裁判員制度に警鐘! “直感的にわかる証拠”の罠… 『CSI効果』って何だ?

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 本日行ってまいりました。

 慶応大学のキャンパスって、たぶん初めて行きましたけど、すごいド都会の中にあるんですなー。

 海外からやってこられた講師は、ニール・ファイゲンソン教授と、ジェイヒュン・パク准教授。

 通訳抜きで全部英語で講演しますと言われ、「これはヤバイ! 慶応義塾恐るべし」と、最初は頭の中で警戒警報が鳴り響いたのですが、配付された資料の中に、お二人のなさる話の日本語訳があらかじめ入ってまして、ホッと一安心。

 それをかろうじて目で追いかけながら聞いておりました。 悲しいかな、英語は断片的にしか聞き取れませんけど。

 

 ニール・ファイゲンソン教授のお話の中では、「CSI効果」というものが印象に残りました。

 これは、アメリカの人気社会派ドラマ「CSI:科学捜査班」にちなんだもの。 日本でも放送しているテレビ局がありますので、ご存知の方も少なくないでしょう。

 犯罪事件の隠れた背景を、劇的に、科学のメスを用いてサクサクと捌いてしまう、ああいう気持ちいいドラマに慣れてしまうと……

 陪審員(日本では裁判員)の任務に就いているときにも、目で見て直感的に認識できるような、インパクトの強い映像証拠を欲しがっちゃいがちなんだと。

 また、パソコンソフトを使って綺麗に整えられたプレゼン資料が示されることを期待してしまうのだと。

 これが「CSI効果」なんだそうです。

 むしろ、そうした映像証拠、あるいはパワーポイントで編集されたビジュアル文書が提出されなければ、そのこと自体が裁判員にとってマイナス査定となり、判断に不利に作用してしまう危険があるそうです。

 

 さらに、証拠提出者の意図する方向へ(それが“わざと”か“うっかり”かはともかく)、裁判員の心理を誘導してしまう可能性も指摘されました。

 たとえば、犯行の証拠である、被害者の身体に付けられた歯形を強調するため、フォトショップのような画像編集ソフトで、立体的に浮かび上がらせたり、ノイズとなるようなシワやシミなどを消してみたり、

 本来はカラー映像なのに、あえてモノクロ映像として提示することにより、好ましくないと思われたデータを見えにくくしてみたり、 (映像の改ざんではないので、不正として異議を唱えるのが難しい)

 あるいは、これも実際にアメリカであったケースで、ある鎮痛薬のメーカーが、その薬に心臓発作を引き起こすリスクを知りながら放置して、製造・販売を続けていた法的責任をめぐり、その責任を追及する側の代理人が、最終弁論の際、そのメーカーのテレビCMを法廷で流して、陪審員の大衆心理に訴えかけたこともあったそうです。

 

 ジェイヒュン・パク准教授は、ある興味深い心理実験の成果を紹介してくださいました。

 複雑な数式が出てきて、文系の私は途端に萎えてしまいましたが(心理学もいちおう文系だけど…)、要するに、

 ○ パワーポイントを使って、数枚の単純なスライドを見せただけで、陪審員役の被験者は、その当事者に有利な判断に傾いた。

 ○ パワーポイントを使って作成した証拠の効果が、最も顕著に出るのは、そうした類の証拠を、片方の当事者だけが提出した場合であった。

 ○ ビジュアル証拠を用いない代理人は、準備不足で説得力に欠ける印象を、陪審員役の被験者に与えてしまいがち。

 ○ ビジュアル証拠として、片方がアニメーション(動画)を用い、もう片方が静止画像を用いた場合、アニメーションのほうが判断に有利に作用する傾向がある。

 私は質問をしてみました。

 「いっそのこと、ビジュアル的な証拠を裁判所が採用しない、提出を禁止する、あるいは大幅に制限することはできないのでしょうか?」と。 (もちろん日本語です。 英語の通訳が入りました)

 ファイゲンソン教授は、「イッツ・エクセレント・クエスチョン」と、気遣ってくださった上で、

 「現在のところ、どのような映像証拠を制限すべきなのか、明確なルールは整備されていません。 映像証拠にも大きなメリットがあるので、すべて禁止するのでなく、危険性とトレードオフの関係にあることを意識して扱っていくことが大切。 また、反対側の法律家が、疑わしい映像証拠に、異議を唱えて反論できる機会を保証することが重要です」と答えてくださいました。

 そして、

 さきほどの、歯形の写真をフォトショップで編集された画像をもとに、逆質問されちゃいました。

 「では、逆にあなたに尋ねます。 この映像が証拠として提出された場合、どのような影響があるでしょうか」

 わたしは突然のことに動揺しながら、ありきたりのことを答えました。

 「証拠の提出者や、一般人の判断者にとっては有用かもしれませんが、裁かれる側にとっては必ずしも良いこととはいえないのではないでしょうか」

 それを聞いて、ファイゲンソン教授は、ビミョーな表情をしていましたが、大きく外してはいなかった模様です。

 

 今日知ったことを、いろんなメディアを通じて、書いたり話したりして、皆さんにお伝えしたいと願っています。

 最近、ようやく時間に余裕ができてますので……

 ズバリ、仕事をください。(笑)

 

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