隣国の「ゴネ得」をあっさり許す、よわよわ法治国家 ― 尖閣諸島問題
>>> 中国人船長釈放:「独自の決定」強調 那覇地検会見
拘置期限まで5日間も残る中、供述拒否に転じた被疑者を釈放するという異例の措置を取った那覇地検。鈴木亨次席検事は会見で「福岡高検および最高検と協議の上で決定した」としたが、日中関係への影響に言及するなど、検察当局を超えた政治判断が色濃くにじむ。
会見では「今後の日中関係を考慮」との釈放理由について、記者から「政治的判断もあるように読める」「日中関係とはどういうことを想定しているのか」などと質問が相次いだ。
鈴木次席検事は資料をめくりながら言葉を選ぶように説明。「今回の決定は日中両国の外交その他の関係に与える影響について、あくまで本件に関する諸事情の一つとして考慮した」などと終始政治判断を否定。検察独自の判断であることを強調した。
拘置満期前の釈放も「必要な捜査がほぼ終結する見込みとなった」と捜査上の判断とした。
(琉球新報 2010/09/25)
◆ 刑事訴訟法 第248条(起訴便宜主義)
犯人の性格、年齢及び境遇、犯罪の軽重及び情状並びに犯罪後の情況により訴追を必要としないときは、公訴を提起しないことができる。
えーと、もう一度お願いします。 どの事情で起訴猶予にしたんですって?
犯人の「境遇」ですか?
……って、さすがにムリがある。
「外交その他の関係に与える影響」で訴追を必要としないとき、検察は被疑者を起訴しないことにできるって、何法の何条に書かれてるんでしょう?
それとも、法律上の根拠が無いから「独自の決定」なんでしょうか?
起訴するかしないかを、担当検察官の専権で決められる起訴便宜主義は、刑事政策、つまり犯罪を防ぐという目的の限度で、ある程度の政治的な判断も許す概念です。
もちろん、だからといって、検察官が外交官を兼務しないことは言うまでもありません。
そういえば、今回の件について、政治家たち(特に閣僚や与党議員)は、「司法当局の判断を尊重」みたいなことを、及び腰で口々に言ってますね。
まるで三権分立うんぬんを根拠にして、裁判所の出した判決にノーコメントを貫くように。
司法とは、あくまで裁判所機構のことを指します。
そりゃ、「司法当局」という特殊表現を使ったなら、そこには裁判所に加えて、警察・検察・海上保安庁・麻薬Gメンなどの捜査機関まで含む意図もあるものです。
しかし、三権分立での一般的な分類上、検察の判断は「行政」の判断でしょう。
だったら、行政府の長である内閣の皆さんは、検察の不起訴(起訴猶予)判断について感想を述べてもバチは当たりません。
だから、「司法当局」という便利な言葉を隠れ蓑にして、検察の判断にコメントしないのは、なかなかズルい。
残る頼みの綱は、沖縄の検察審査会ですね。
ただ、仮に検察審査会が「不起訴不当」や「起訴相当」の議決を出したところで、中国サイドが律儀に被疑者を日本へ返してくれるとはとても思えませんし、もどかしいところです。
尖閣諸島が日本固有の領土とされている歴史的背景などは、あいにく伝聞でしか知らず、史料などを実際に調べたことはありませんが、尖閣諸島に「領土問題は存在しない」とする日本政府の立場上、ここは領海内での海上保安庁船舶に対する妨害行為“以上でも以下でもない”刑事事件として扱い、手続き形式にのっとって粛々と裁くべきでした。
幸か不幸か、日本人は島国に住んでいますので、国境や領土というものをシビアに意識しないで生活していられます。
その半面、中国や韓国、そしてロシアは、周辺諸国との領土問題に慣れているとはいわずとも、意識は高いのかもしれません。 ですから、尖閣諸島や竹島、北方四島などのそばに引かれているはずの国境線が狡猾にグダグダにされ、いつの間にか彼の国に絡め取られつつあるんです。
いや、国境線付近だけでなく、沖縄の米軍基地問題だって、領土問題そのものだといえます。
今回の検察の不起訴処分を「司法当局」の問題ということにして、国民に向けてのノーコメントを正当化する、前述したような政府の狡猾さを、ぜひ外交にも活かしていただきたいなぁと。
「領土問題はない」の一点張りで、強気なフリした見て見ぬフリをするのはやめて、いっそのこと尖閣諸島問題を、国際紛争仲介機関である「国際司法裁判所(ICJ)」に訴え出て、客観的な証拠や証言に基づき、白黒ハッキリ付けるという手もあります。
ICJが、どのようにして領土問題を裁くのか、私は不勉強ゆえ知りませんが、今回の不起訴の件で「本気で尖閣諸島を守ろうとしてないんじゃないか?」と思われ、日本にとって不利な情状として考慮されていく可能性もあります。
それに比べて、中国(や韓国)は、自国の島として地図に書き入れ、独自に命名し、しれっと既成事実化を図るなど、極東アジア以外へ向けた世界的なアピールに余念がありません。
国際法というジャンルは、まだまだ整備されておらず、国家間の問題は、まだまだ弱肉強食、なだめスカシ脅しといった理不尽がまかり通ってしまう「野生の王国」です。
ときに、目に見えない法の理屈よりも、目に見える事実としての実際的占拠のほうが、重たい価値を持ちうるのです。
ICJも、「裁判所」というネーミングながら、国連の一機関ですし、国際政治的な動向は無視できない、いや、むしろ敏感であろうかと思います。
ヘタに一国のみの全面勝訴を言い渡せば、新たな戦争が起こってしまう危険がありますから、普通の裁判所よりも「落としどころ」を必死に探しそうなイメージですね。 なんとなく。
今のところ、世界各国のマスメディア報道では「中国側のやり口がひどい」という論調が大勢を占めているようですが、
それは「日本は臆病で弱腰」という認識と、「ホントにニンジャとサムライの国デスか?」という素朴な懐疑が前提にありますから、決して日本に対して同情的ではない。
おっとりした態度の日本を、ICJすらも救ってくれない可能性だって、予め覚悟しておく必要があるんじゃないですかね。
歴史的背景や証拠史料はともかく、「この島は、ウチのもんだ!」という、美味しそうなモノにツバをつけるがごとき既成事実化が苦手な日本は、ICJで有利にコトが進む見込みが少ないことを、政府も薄々感づいているのでしょうか。
それで尖閣諸島に「領土問題はない」と言っておいて、むしろICJでの解決を避けようとしているんですかね (そもそも、捕鯨の問題で今、日本がオーストラリアに訴えられてるって把握している人、少ないんでしょうか……)。
尖閣諸島あたりの海底には、天然ガスが大量に埋まっていると聞きます。
ガス田という素敵な彼女がすぐそばにいるのに、好きな気持ちをごまかして、駆け引きでもするつもりで、付かず離れずのプラトニックな関係を続けていたら、いつの間にかガタイの良い男に、半ば強引に奪われて泣きを見る……ってことにもなりかねません。 (もう奪われつつあるかも)
そう考えると、今回の不起訴処分は、ますます解せませんね。
ただ、記者会見に出てこられた、あの那覇地検の方の、渋い表情……。
ご本人は起訴したいと願っても、その背後で、何か強大な力が作用したに違いありませんね。
最悪のシナリオは中国との戦争勃発、米国の黙殺ってことになりますから、百歩譲って、緊急避難的な超法規的措置にて、今回の中国籍被疑者を起訴猶予処分として釈放するのを、仮に許容するにしても、です。
勾留期限はまだ5日も残っていたわけだし……、どれほど良心的に解釈しても、「拙速な釈放」との批判は免れないでしょう。
◆ 国際司法裁判所(ICJ) 現役判事一覧 (※英語です)
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コメント
>残る頼みの綱は、沖縄の検察審査会ですね。
検察審査会法第2条2の
・告訴若しくは告発をした者
・請求を待つて受理すべき事件についての請求をした者
・犯罪により害を被つた者(犯罪により害を被つた者が死亡した場合においては、その配偶者、直系の親族又は兄弟姉妹)
に当てはまるんですか?
投稿: xxx | 2010年9月29日 (水) 12:50
はい、検察審査会の審査開始は、被害を受けた海上保安庁サイドが動くことが条件になります。
また、同じ条文の3項では「検察審査会は、その過半数による議決があるときは、自ら知り得た資料に基き職権で第1項第1号の審査を行うことができる」とありますので、検察審査会が自発的に審査を始めることも可能です。
しかし、実際問題として、検察審査会の議決の実効性が薄いと考えられますので、本件で検察審査会は頼みの綱にはならない可能性が高いという主張をさせていただいてます。
投稿: みそしる | 2010年9月29日 (水) 13:29