« 桜島の夜明けでゴワス | トップページ | 柳田サンの舌禍にちなんで… 歴代法務大臣お言葉集! »

2010年11月 9日 (火)

なぜバス運転手は、シートベルトを締めなくていいのか

Photo_4

 

 コーヒーひとつを出すにも熱いハートを欠かさない鹿児島に滞在して、はや1週間。

 問題の強盗殺人裁判に関する取材も少しずつ進めてまいりました。

 

 先週金曜日には、史上初となる裁判員の皆さんによる現場検証も行われました。 私もクルマを借りて、当日の朝から事件現場となった一戸建て住宅の周りをウロウロしていたんですが、現場周辺には警備員や裁判所職員が10人以上張り付いていまして、反対側の歩道に突っ立っていた私をちょくちょくにらみつけてました。 たまにパトカーが通りかかったりね。

 無理もありません。 見るからにテレビや新聞の人間じゃないし、怪しいもん、オレ。

 彼らに声を掛けられたり、パトカーから職質受けたりするのも覚悟で、懐に名刺や免許証も持っていましたが、特に何のお咎めもありませんでした。 なーんだ。

 

Photo_2

 
 

 怪しまれながらも、現場検証を終えた裁判員の皆さんを乗せている(ものとみられる)ワゴン車両を5時間待ちで撮影してみたり、ひとりで動き回って、現場検証の様子をいろいろと写真に残してきたので、とりあえず「これでヨシ」ということにします。

 

 ところで、この現場取材中に浮かんだ素朴な疑問。

 ワゴン車の運転手はシートベルトを着用しなければいけないのに、これより大きなバスの運転手で、シートベルトをしてない人がいますよね……? どうしてだ?

 福岡の道路はバスで溢れているんですが、学生時代、バスに乗って大学へ行っていたときに、ふと抱いた疑問を、15年ぶりに思い出しました。

 条文を調べてみました。


 

◆ 道路交通法 第71条の3(普通自動車等の運転者の遵守事項)
1 自動車(大型自動二輪車及び普通自動二輪車を除く。以下この条において同じ。)の運転者は、道路運送車両法第三章 及びこれに基づく命令の規定により当該自動車に備えなければならないこととされている座席ベルト(以下「座席ベルト」という。)を装着しないで自動車を運転してはならない。ただし、疾病のため座席ベルトを装着することが療養上適当でない者が自動車を運転するとき、緊急自動車の運転者が当該緊急自動車を運転するとき、その他政令で定めるやむを得ない理由があるときは、この限りでない。
 [※以下略]

 
 

 ふーん、「政令で定めるやむを得ない理由があるとき」には、運転手も例外的にシートベルトをしなくてOKみたいです。

 それでは政令を見てみましょう。

 
 

◆ 道路交通法施行令 第26条の3の2(座席ベルト及び幼児用補助装置に係る義務の免除)
1 法第71条の3第1項 ただし書の政令で定めるやむを得ない理由があるときは、次に掲げるとおりとする。
  一  負傷若しくは障害のため又は妊娠中であることにより座席ベルトを装着することが療養上又は健康保持上適当でない者が自動車を運転するとき。
  二  著しく座高が高いか又は低いこと、著しく肥満していることその他の身体の状態により適切に座席ベルトを装着することができない者が自動車を運転するとき。
  三  自動車を後退させるため当該自動車を運転するとき。
  四  法41条の2第1項 に規定する消防用車両(次項第4号において「消防用車両」という。)である自動車の運転者が当該消防用車両である自動車を運転するとき。
  五  人の生命若しくは身体に危害を及ぼす行為の発生をその身辺において警戒し、及びその行為を制止する職務又は被疑者を逮捕し、若しくは法令の規定により身体の自由を拘束されている者の逃走を防止する職務に従事する公務員が当該職務のため自動車を運転するとき。
  六  郵便物の集配業務その他業務のため自動車を使用する場合において当該業務に従事する者が頻繁に当該自動車に乗降することを必要とする業務として国家公安委員会規則で定める業務に従事する者が、当該業務につき頻繁に自動車に乗降することを必要とする区間において当該業務のために使用される自動車を運転するとき。
  七  自動車に乗車している者の警衛若しくは警護を行うため又は車列を組んでパレード等を行う自動車に係る交通の安全と円滑を図るためその前方及び後方等を進行する警察用自動車(緊急自動車である警察用自動車を除く。次項第7号において同じ。)により護衛され、又は誘導されている自動車の運転者が当該自動車を運転するとき。
  八  公職選挙法 (昭和25年法律第100号)の適用を受ける選挙における公職の候補者又は選挙運動に従事する者が同法第141条 の規定により選挙運動のために使用される自動車を当該選挙運動のため運転するとき。

 
 
 
 この規定、なかなか面白いですね。

 そうか、バックして進むときは公道でもシートベルトをしなくていいのか(3号)。 どうしてもシートベルトを締めたくない人には朗報ですね。

 男は黙って、ギアをRにして突き進め!! ……ま、そんなやつがいたら、シートベルトうんぬん以前の問題で、周囲のクルマは迷惑でたまらないですが。

 それか、シートベルトを締められないほどの、著しい肥満になるか(2号)。 太りすぎてハンドル回しづらくなったら、また別の危険性が生じそうです。

 また、選挙カーの運転手がシートベルトをしなくていいというのは、意外でした(8号)。

 そして、バス運転手のシートベルト問題に関係ありそうなのが…… 6号かなと思われます。

 「頻繁に当該自動車に乗降することを必要とする業務として国家公安委員会規則で定める業務に従事する者」とありますので、その国家公安委員会規則とやらをチェックしてみましょうか。

 
 

◆座席ベルトの装着義務の免除に係る業務を定める規則
(昭和60年8月5日国家公安委員会規則第12号)

 道路交通法施行令 (昭和35年政令第270号)第26条の3の2第1項第6号 の国家公安委員会規則で定める業務は、次に掲げるとおりとする。
1 民間事業者による信書の送達に関する法律 (平成14年法律第99号)第2条第6項 に規定する一般信書便事業者又は同条第9項 に規定する特定信書便事業者が行う同条第3項 に規定する信書便物の取集め又は配達の業務
2 廃棄物の処理及び清掃に関する法律 (昭和45年法律第137号)の規定に基づき、市町村又は一般廃棄物の収集を市町村から委託された者若しくは一般廃棄物の収集につき市町村長から許可を受けた者が行う一般廃棄物の収集業務
3  貨物自動車運送事業法 (平成元年法律第83号)の規定に基づき行う貨物自動車運送事業に係る業務、道路運送法 (昭和26年法律第183号)第78条第3号の規定による許可を受けて行う貨物の運送に係る業務又は貨物利用運送事業法 (平成元年法律第82号)の規定に基づき行う第二種貨物利用運送事業に係る業務のうち、貨物の集貨又は配達を行う業務
4 米穀、酒類、牛乳若しくは清涼飲料の小売業その他物品の小売業(販売の方法として物品の配達(当該物品に係る容器の回収を含む。以下同じ。)を行うものに限る。)又はクリーニング業に係る業務のうち、戸別に当該物品の配達又は洗たく物の受取若しくは引渡しを行う業務
5 清涼飲料、パンその他の飲食料品の製造業(飲食料品を製造し、かつ、製造した飲食料品の配達を行うものに限る。)又は卸売業に係る業務のうち、当該飲食料品の小売業その他当該飲食料品を使用して営む営業に係る店舗その他これに類する施設ごとに当該飲食料品の配達を行う業務

 
 

 ずいぶんとディープなところまで辿り着いてしまいましたけど…… ここにバス事業(旅客運送事業)は載っていないですね。

 そういえば、バスの乗客は乗り降りするけども、バス運転手自身が頻繁に乗り降りするわけじゃないので、ここには該当しないのかなと思われます。

 じゃあ、やっぱり、バスの運転手もシートベルト着用義務があるのでは?

 

 と思ったら、このようなサイトを発見!

 ……なーんだ。 まさかバスの車両が古いか新しいかの違いだったとは。

 法律上の義務化が1987年で、私がバスで大学に通っていたのが1994~5年ですので、シートベルトが装備されていない旧式のバスも現役で結構残っていた時期だったのかもしれません。

 

 また、このサイトでは、2つの説を唱えてらっしゃいます。

 『運行中に不測の事故が発生したとき、乗客の安全を守るために、素早く行動ができるようにするため』というお客様優先の意識から、
 そして、『乗客がシートベルトをしていない以上、運転手だけが命を守るシートベルトをするわけにはいかない』という勇ましい覚悟……

 いやいや、もしそれがホントだったら面白いけど、ホントかよ?  だとしたらタクシー運転手にも同様のことがいえるのでは?

 ただ、この人、条文の読み方を間違えてますな。「やむを得ない理由」さえでっちあげれば、シートベルトをしなくていいわけじゃなくて、前述の通り、道交法は「政令で定めるやむを得ない理由」というふうな限定を付けているわけなので。

 そういえば、沖縄で高速バスに乗って、インターチェンジを通過したとき、座席のシートベルトを締めるようアナウンスがあったなぁ(後部座席ベルト義務づけの2008年6月道交法改正よりも前の話)と思い出しました。 でも、その運転手さんがシートベルトしてたかどうかは思い出せませんが。 

 

 さらに、このサイトによると、再来年からは、高速バス乗客のシートベルトも、普通のクルマのものと同じ3点式(斜めがけ)になると伝えています。 マジすか?

 近ごろバスに乗っていないので、今度乗る機会があったら、運転手さんの胸元にベルトが斜めがけされてるかどうか、さりげなく確認してみようと思います。

 もちろん、ベルト着用義務の有無にかかわらず、どうか安全運転で!


 

Photo_3

 

 この鹿児島バスの運転手がシートベルトをしてたかどうかは……

 フロントガラスがテカって、よく判別できませんでした。無念。

|

« 桜島の夜明けでゴワス | トップページ | 柳田サンの舌禍にちなんで… 歴代法務大臣お言葉集! »

交通安全 ふしぎ発見!」カテゴリの記事

コメント

バス運転士はシートベルトの着用義務ありますよ以前某料金所で着用義務違反で反則キップを切られた乗務員がいましたし、社内的にも処分の対象ですし。ちなみによくご存知の福岡の会社ですが

投稿: NNR403 | 2010年11月 9日 (火) 22:13

貴重なコメントをくださいまして、どうもありがとうございます。やはり着用義務はあるんですね。

事情にお詳しい方から寄せていただく情報はありがたいです。

今回調べていて、一定の配送業務でシートベルト着用義務が無いというのは、たしかに合理的で、私にとっては目からウロコでした。

バスとは違って、配送業務中の運転手さんと客が同乗するわけじゃないため、気づきにくい点かもしれません。

投稿: みそしる | 2010年11月10日 (水) 07:36

全然事情に詳しいものではございませんが、僕も常々不思議に思っていました。
地方住まいなので、良く運転代行を頼みますが、シートベルトをする人に当たったことがありません。
自分が運転する時はシートベルトをして、同じ車でも代行で運転する人はシートベルトをしない上に、それが法律的な処罰・非処罰の対象になるのはやや違和感ありますね。

投稿: 不思議に思ってました | 2010年11月14日 (日) 14:20

コメントありがとうございます。

あいにく運転代行を使ったことがないのですが、やはり運転手さんはシートベルトをしていないものなのですか。

現行法上は違法だと考えられるのですが、やはり警察による取り締まりの態度が一貫していないのかもしれません。

あるいは「プロドライバーはシートベルト不要」と条文に明記するか。

とにかく、シートベルトを締めるのがバカバカしくならないよう、世間で納得されうる理由でハッキリさせてほしいものですね。

投稿: みそしる | 2010年11月15日 (月) 19:04

代行も装着義務あるはずです、単に遵法意識が他のドライバー業と比べて格段に低いだけだと思います。

飲酒取締り強化でここ数年のうちに飛躍的に伸びた業種ですからね。

投稿: TD | 2010年11月17日 (水) 09:49

>TDさま

どうもありがとうございます。運転代行業に従事する方々は、そんなにもシートベルトを締めていないものなのですか。勉強になります。

もし、運転代行ドライバーの皆さんからの反論がございましたら承ります。ただし感情的な書き込みにならないようにお願いしますね。

投稿: みそしる | 2010年11月18日 (木) 21:01

シートベルトはしてますよー。
普通の車と違ってタスキがけタイプのシートベルトではなく、
腰だけを固定するタイプのシートベルトなので、外からは多分判別は不能です。

投稿: バスの運転手より | 2013年8月 6日 (火) 03:46

バスの運転手もシートベルトをしなければいけません、バスの年式の古いものは3点になってなく2点のシートベルトですので外からは確認できなく、締めてないように見えるのではないでしょうか、、、
(現行バス運転手A)

投稿: | 2014年1月 3日 (金) 12:08

この記事へのコメントは終了しました。

トラックバック


この記事へのトラックバック一覧です: なぜバス運転手は、シートベルトを締めなくていいのか:

« 桜島の夜明けでゴワス | トップページ | 柳田サンの舌禍にちなんで… 歴代法務大臣お言葉集! »