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2011年1月18日 (火)

魚つき保安林って?

 
◆ 森林法 第25条(指定)

 農林水産大臣は、次の各号(指定しようとする森林が民有林である場合にあつては、第1号から第3号まで)に掲げる目的を達成するため必要があるときは、森林(民有林にあつては、重要流域(2以上の都府県の区域にわたる流域その他の国土保全上又は国民経済上特に重要な流域で農林水産大臣が指定するものをいう。以下同じ。)内に存するものに限る。)を保安林として指定することができる。


 ……括弧がたくさん入り組んでいて、とても読みにくい条文なので、括弧内の文章を消してみました。

 
 

 農林水産大臣は、次の各号に掲げる目的を達成するため必要があるときは、森林を保安林として指定することができる。

 
 

 要するに、これだけのことしか言っていません。

 「最初からそう書けよ」と言いたくなりますが、現実の手続きでは、条文の括弧の中でうたっていることが、意外と重要なのでしょう。

 では、ある森林を保安林として保護する目的としては、どんなものがリストアップされているのか。

 
 

  1. 水源のかん養
  2. 土砂の流出の防備
  3. 土砂の崩壊の防備
  4. 飛砂の防備
  5. 風害、水害、潮害、干害、雪害又は霧害の防備
  6. なだれ又は落石の危険の防止
  7. 火災の防備
  8. 魚つき
  9. 航行の目標の保存
  10. 公衆の保健
  11. 名所又は旧跡の風致の保存

 

 まぁ、なんとなくわかりますが、8号の「魚つき」って、何なんでしょうね。

 なんで森林に魚がくっついてくるのか。

 ↓のブログで、詳しい解説がありました。
 

 水ブログ「山紫水明」
 
 
 

 昔から漁師は、海沿いの森林を大切に保護してきたといいます。

 もちろん、船に乗って森林へ行けるわけも、魚が獲れるわけもありませんが、森と海が密接につながっていることを彼らは経験的に知っていたのです。

 海沿いの森林がしっかりしていると、地面に枯れ葉が蓄積して豊かな土壌となり、そこに生える草を求めて草食動物や昆虫が集まり、ひいては肉食動物も集まります。

 こうした動物の死骸も、森林の腐葉土中のミミズやカビが分解し、生命の維持に必須の有機物となり、やがて雨と一緒に海に流れ込んで、そうした海中の有機物を、プランクトンが取り込んで増殖し、さらにそれをエサとする魚も多くなると。

 ゆっくりすぎて目に見えなくても、そこには大切な生命の連鎖があるんですなぁ~。

 このほか、森林の木陰が海面にかかれば、それが魚たちの隠れ家になるとの説もあります。いずれにしても、豊かな海で囲まれた水産国ニッポンにおいて、「魚つきの森林」は、政策的にキッチリ保護されてしかるべき天然資源なわけです。

 

< 「魚つき保安林」一夜漬け豆知識コーナー >

神奈川県・真鶴半島の魚つき保安林
 ⇒ 江戸時代から地元の藩が保護し、明治時代には皇室の資産にもなったという、相模湾沿いの森林です。美しいですねぇ。

魚つき保安林 (すべての水は海に注ぐ)
 ⇒ なんと、海無し県として有名な埼玉にも、魚つき保安林があるそうです。 最近では河川の上流域でも魚つき林の造成が行われているようで、森と海が距離的に離れていても、豊穣さのつながりが必ずしも途切れたりしないことがわかります。ちなみに、魚つき保安林の6割は北海道にあるとのこと。

襟裳魚つき保安林/北海道幌泉郡えりも町
 ⇒ そんな北海道の魚つき保安林の写真集。なんだかスケールが違う!

サケを呼ぶ森があるって本当?
 ⇒ 新潟県内の魚つき保安林の様子。こちらも雄大です。中には滝や神社もあるそう。このサイトも詳しい。

関の河畔、「魚つき保安林」 県内初指定 (岐阜新聞)
 ⇒ こちらも海無し県、岐阜の長良川沿いで指定された魚つき保安林。鵜飼いの方のコメントも。

魚つき保安林 (高梁川日記)
 ⇒ 岡山県内の魚つき保安林の看板。まるで危険を知らせる標識みたいだが。

山口県・魚つき保安林等海岸林整備事業
 ⇒ 県内の魚つき保安林の荒廃が著しいので、県が年間500万円負担して保護するという内容です。

魚つき保安林 (仁淀川日記)
 ⇒ 高知県内、横浪スカイライン沿いにあるという魚つき保安林の看板。すごく良い景色ですね。

諫早湾干拓と魚つき保安林
 ⇒ 長崎・諫早湾の干拓事業によって、有明海の水産業が大きな損害を被ったのは、例の防波堤によって、森林と海のつながりが切断されて、プランクトンが減ったからだ、という趣旨の指摘です。なるほど、わかりやすい。

魚つき保安林 (FUMIのよだぎ~ブログ)
 ⇒ 大分県内のものと思われる魚つき保安林の写真。 ブランド魚「関あじ」「関さば」で有名な県ですね。 看板で「魚つき保安林」とだけ書かれると、「なんのこっちゃ」と不思議な感覚をおぼえます。

森林総合研究所 「森林の多面的機能」解説シリーズ 第5回
 ⇒ 「魚つき保安林」という発想が、わが国固有のものであること、定置網漁師の約8割が森林の魚つき機能を実感していること、などの事実関係が紹介されています。

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コメント

大変分かり易い説明ありがとうございます。最近、外国資本による日本の森林地買収が話題になっていますが、日本の緑は日本人の手で守りたいものですね。今年は一緒に魚つき保安林を一つ買いませんか?

投稿: にしざわ | 2011年1月20日 (木) 18:54

>にしざわさま

そうですね。戦後ほとんど死文化していた外国人土地法が改正される方向だそうで、再び外国資本での土地取得規制がされようとしてますね。

魚つき保安林取得のお誘いありがとうございます。 荒れ果てて、われわれで保護しないとヤバそうな魚つき保安林って、どこですかねえ……。

かつ、バーベキューついでにビールを1杯できたりとか、タケノコやキノコがとれたり、ヤブ蚊がいなかったりするところがいいです。(贅沢)

投稿: みそしる | 2011年1月21日 (金) 16:33

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