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2011年2月25日 (金)

このスピード時代に、民事裁判は付いてこられるか? …「民事審判」という試み

 気づいてみたら、すっかり金曜日になってしまいましたが、日曜に大阪で開かれた「日本裁判官ネットワーク」シンポジウムの模様をお送りします。

 テーマは「民事紛争解決の新しい試みに向けて」。
 
 この新しい試みとは、主に民間人同士の法律的トラブルを、この高度情報化・ビジネス化時代に即して、いかに“スピーディー”に解決へと導くか、そういう方向への取り組みのようですね。

 民事訴訟法での争点整理と集中審理方式が形骸化していると危惧し、民事裁判の真の集中審理を目指して、京都で積極的な実践に取り組んでいる井垣敏生弁護士(元高裁裁判官)の話もありましたが、それ以降、メモを残しているところを重点的にお送りしたいと思います。
 
 細かいニュアンスの面で、元の発言と違っている可能性がありますが、ご容赦ください。

 
 

■ 中本和洋弁護士 (日弁連 立法対策センター副委員長)

 数年前にできた新しい制度「労働審判」は、労働事件を専門に扱う制度であるが、平均七十数日で、ほとんどが解決している。迅速な紛争処理に貢献し、実際に成功しているといえる。
 これをもとにして、「民事審判」というものを創設したい。

 「民事審判」で想定しているのは、それほど複雑な事案解決がいらないものを類型化して取り上げるようにしたい。あまり専門的な知識がいらないのではないか。
 それほど多額でない紛争。私は1000万円程度まで、という想定をしている。そうすれば3ヶ月ぐらいの間で解決できるのではないか。
 そこで力をつけた弁護士が、ゆくゆくは何千万、何億という「重装備」の民事紛争の解決に乗り出して欲しい。

 「一審の審理は2年以内で終わらせる」という法律ができて、裁判官は忠実に守り、迅速化が図られている。

 そもそも裁判というものは、時間とお金がかかる。8割の国民がそう思っているというアンケート結果もあるようだ。
 
 訴額1億円の訴訟に要する印紙代(訴訟費用)は、一審・32万円、二審・48万円、最高裁・64万円。他の先進国と比べて、あまりにも高すぎる。そのわりに認められる賠償金が少ないというアンバランス。
 民事扶助制度という、国が訴訟費用を立て替える制度もある。だが、生活保護受給者以外は償還制となっている。

 収入が低くて、民事訴訟を提起したくても訴訟費用を負担できず、思いとどまっている人のために、裁判保険制度を創設したい。日本ではせいぜい交通事故処理の場面で、自動車保険が活用されているのみ。「権利保護保険」という案もあるが、ネーミングが良くない。「弁護士費用保険」がいい。
 
 ドイツは離婚裁判などにまで広く保険が適用されているようだ。

 日本の民事裁判、約23万件のうち、14万件が過払い関係。一般事件はむしろ減っている。景気は回復しない、正義は実現されない、では、裁判に対する世間の期待が減退してしまうのもムリはない。

 

(会場からの質問)

●私は民事提訴をしたことがあるが、弁護士運が悪い。代理人の行動が間違っている場合には、どれだけ依頼人は修正できるのか。

 ⇒ 一般論としては裁判に臨む権利はある。その場で発言を修正することもできる。ただし、その場でしかできない。自分の名前で追加で証拠を出すこともできる。
 
●録音申請、昔と違って誰にも迷惑をかけない。弁護士は誰も申請しない。弁論の更新は、裁判官が自分の名前を名乗ることすらしない。裁判官は突然結審しようとする。行政訴訟では、被告の国を、思っても見なかった理由で裁判官が勝たせる。これは暗黒裁判。裁判所のコピー代も高すぎる。

 ⇒ 次回期日が2ヶ月後とか、非常に審理の間隔が開きすぎると思う。日本の民事裁判官が忙しすぎることも原因。二回試験で上位100人、のような優秀な人は、昔は渉外事務所へ行っていたが、今は不景気ゆえ裁判官になる。
 突然結審することについて、大阪はマシだが、東京では1回で結審させて和解期日を入れる傾向。

●訴額1000万円の裁判は、すでに高額だと思う。これを迅速化することに国民は納得するだろうか。保険があるためにムダな上訴がなされるのではないか。誰が負担するのか。

 ⇒ 訴額の話は感覚的なもの。60万以下は本人でできる。140万以下は簡裁の管轄。ほとんど代理人は就かない。1000万だと、1年ぐらいかけたら合わないと考える国民が多いのではないか。

 ⇒ 保険は、安い弁護士を保険会社が探して契約する。弁護士費用が低く抑えられるのは、業界にとって弊害かもしれないが、乱訴のおそれというのは、諸外国で意外に例がない。訴訟やること自体が負担。今は訴訟数をボトムアップさせる時期だと思う。
 
●陳述書を「陳述します」と言うだけで裁判が終わってしまう。 傍聴人には何をやっているのかわからない。

 ⇒ 刑事の公判前整理の参考にして、事前に準備をしている。傍聴人に理解できるようにするために、弁論の書面を読み上げることは時間の無駄だと思っている。
 
●日本でも弁護士強制主義を採用してはどうか。

 ⇒ ドイツなど、個人の負担なく弁護士報酬をきっちり確保できるところでないと難しい。日本では国民の理解が得られないと思っている。簡裁代理司法書士については、現状のままでいいと思っている。しかし、士業それぞれの業務は一部重なるところが多いので、いずれ弁護士資格に包含されるのではないかと思っている。

 
 

■ 浅見宣義裁判官 (神戸地裁伊丹支部長)

 
 労働審判手続きで採用されている「L方式」。私はこれを知り、裁判官として非常に感動した。日本人が作った「宝物」であると。これは民事手続きに広く導入したい。
 
 札幌と福岡では、すでに近いものが進めてられている。
 3回の審理で本当に終わるのか危ぶまれていたが、だいたい2回で終わっている。
 
 労働審判は、審理の迅速化により利用者が増え、今まで埋もれていた紛争の「掘り起こし機能」を果たしている。
 平均74.6日間で終わっている。調停委員会方式を採用
 交通事故・不動産取引などで、ある程度主張が予想できるので、計画的に審理でき、迅速化が図られると考えられる。
 証拠書類の「一括提出主義」について、立法者は「迅速化の秘密兵器」だと語っているが、そういう部分もあると思う。

 17条決定では、柔軟な和解的な解決を図れる。
 A類型(ほとんど2回以内で解決) B類型(難しい争点がありそうなもの、訴訟手続きも混じる)
 労働審判の経験者は、「早く導入しましょう」という声が多い。

 
 
 
■ 井土正明さん (元高裁判事→簡裁判事(退官))

 民事調停には2つある。訴訟を進めていた事件を調停に移す場合と、簡裁が調停申し立てを受けて、最初から調停の場に付する場合がある。
 
 民事調停は、容易・安価・柔軟・非強制・当事者尊重など、非常に優れた点がある。しかし、相手が協力的に応じなければ進まない難点もあり、充分に活用されていない。
 
 調停を活用するためには、広報に頼るだけでなく、調停委員の経験や意見をくみ入れて、国民が利用しやすいものになるよう、裁判官が工夫の努力をしていく必要もある。
 
 調停官(パートタイム裁判官)制度、これは非常に成功している。
 
 訴訟上の和解に似ているが、和解の場合、もし成立しなかったら判決へ進むことになる。一方で調停は成立しなければそれまで。強制的要素が少ない。
 
 特に弁護士資格のある調停委員は、まず先に調停室に入って冷暖房をつけて、電気つけて、それから当事者を迎え入れるような態度をとるべきだ。「さぁ、行きましょうか」と、当事者を連れて行くのは、紛争解決を担当する立場としてどうだろう。
 
 人間同士の紛争解決は、芋を洗うようなもの。芋同士をこすりあって、転がして、泥や皮をはがしていくように、当事者主導で進めなければならない。お上が解決を指示するようではいけない。

 

(会場からの質問)

● 新たな迅速紛争解決手続きを日弁連でも「民事審判」と名付けて推進している。3回以内で審理を終える。交通事故・貸し金・売買代金・金利紛争など、訴訟の内容を類型化できるものを想定している。審理手続きも定型化できるし、不意打ち主張防止の手続き保障にも資する。浅見さんに質問だが、もしL方式が導入され成功すれば、われわれが検討している民事審判は必要ないのではないか。調停委員を活用するのがL方式の特色だが、福岡の例では活用が想定されていない。また、B類型で訴訟からL方式に移行するのなら、最初からそのまま和解に進めばいいのではないか。
 
 ⇒ なるほどなと思いました。B類型について、迅速化ということを重視すれば、裁判官がやればいいが、法曹とは違う知恵も入れるのであれば調停委員の活用が有効だと思う。しかし、二者択一という問題ではないので、札幌や福岡の事例も尊重されるべきだ。(浅見氏)

● 「このへんで折り合わんか」と案を出すなどして、当事者をリードした何十年か前の調停委員と違って、今の調停委員は自分の意見というものを持たない。まるで、双方の意見を2で割るような解決策しか出せない。調停委員は、良識的で穏和な人というだけでは足りず、専門的な知識も求められるので、裁判官の経験者に任せたい。また、本人訴訟の経験者だが、あれは勝てないようになっているのか。裁判官は、相手方弁護士の顔をつぶさないように、弁護士の就いている側を勝たせているのでは?

 ⇒ そういう批判があることは承知している。裁判所が決めた期日は変えないと言うことで私は徹底している。弁護士が期日変更の申し立てをすれば、不公平と思われるのが不本意(井土氏)
 
 ⇒ 弁護士不足の「ゼロワン地域」問題、少なくとも本州ではすべて解消された。なのに、最近は大都会で本人訴訟が増えている。みんな、本人訴訟のマニュアル本を読んでやっている。なるべく弁護士を活用して欲しい。弁護士人口は増えているので。(中本氏)
 
 ⇒ 調停に臨む裁判官が、多忙ゆえに減っている。調停委員がどれだけ案を出せるか、限界があると思う。家事調停でも、最後どうなるのかと見極めた上で案を出すとなると難しい。とんちんかんな案は出せないので裁判官のサポートがいる。L方式や調停とよく似たADRとの棲み分けも問題。法律家が解決案を出して関与する点が差別化だと思ってる。(浅見氏)
 
 合意の斡旋をするのが今の調停委員のやり方。すぐには結論がでない。
 
 
● L方式は優先すべきなのか、それとも次善の策か。裁判官が介入することで、チャッチャと進められてしまう危険があるのではないかと思う。

 ⇒ 正直まだきちんと考えてはいない。そうなる危険は肝に銘じているところ。当事者に対し、何か消極的な意見を言いたいときは、時間をかけてタイミングを計ってアドバイスするようにしている。それを権力者の介入と言われるかも知れないが、そうしている。(浅見氏)
 
● レジュメに書いてある「調停官と調停委員の関係が大きな課題」とはどういう意味か。

 ⇒ いずれも民間活力を導入することを念頭に置いていて、非常に優れた制度。しかし調停官が主導して前へ前へ出すぎると、調停委員の活躍する場面が無くなる。そういう意味だ。(井土氏)

● 私は、民事調停やL方式に若干の懸念がある。裁判官は判決も出す存在。調停も判決も行い、証拠の一括提出、3回解決など、事前に積極的に踏み込めば、予断を生んで公正さをそぐ可能性があるのではないか。“重装備”の民事訴訟だけでは柔軟に対応できないというのはわかるが、判決を出す裁判官が調停にも出るのは疑問。別の裁判官(非常勤)が調停に臨むのではどうか。

 ⇒ 労働審判にも同じ問題があって、当事者や代理人から異議が出されたこともある。効率の面からは、同じ裁判官がやったほうがいい。一方で予断排除を重視し、おっしゃるとおり公正さから別の裁判官に、という意見もある。扱いとしては両方あるのではないか。全体としては、どちらかというと公正さ重視の方向に傾いているのではないか。私は伊丹支部で調停官がおらず、調停は自分ひとりでやっているが、重要な視点だと思う。(浅見氏)

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