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2011年8月22日 (月)

セピア色の味わい…? 昭和初期の裁判官お言葉集

 ひょんなきっかけで、国会図書館にて戦前の東京朝日新聞の記事をパソコンで検索できることを知りまして、ついでに、戦前(おもに昭和初期)の裁判官のお言葉を拾ってみました。

 なんともいえない味があるんですよね。

 

 

『馬鹿な真似をしちゃいかんぜ』

 1927(昭和2)年10月19日 (東京控訴院・遠藤裁判長)

 若槻禮次郎首相(当時)の官邸へ、白木の三方(神事に使う台)に短刀一口、さらに棺おけ1個をかつぎこんだとして、「暴力行為取締法違反」に問われた某結社(おそらく右翼団体)の「首領」(39歳)に、懲役6月(3年間の執行猶予)を言いわたして。

 

『この種の犯罪は刑法上でも軽い犯罪に属し、路傍で行われた場合にはおそらく起訴もされなかったであろう。場所がたまたま神聖な議場であった故に、ついにこの結果を致したことは遺憾である。法律を曲げることはできぬ。無罪にしえないことは誠に気の毒にたえない。将来この種のことがないように望む』

 1927(昭和2)年12月16日 (東京地裁・垂水裁判長)

 国会議事堂で代議士の演説中に演壇の上に駆け上がって、殴打したり、背後からのどを締め付けたり、演説草稿を破ったりして、演説を妨害した10人の代議士が起訴され、9人に懲役3ヵ月などの有罪判決を言い渡して。

  政治家に対して「無罪にできないのは気の毒」と、権力作用への同情を寄せる本音を裁判官が露わにしたのは、やはり時代性かなと思います。……ただ、一部の代議士には罰金50円の求刑に対して、罰金300円という求刑越え判決を言い渡すなど、判決内容には厳格さも見られました。

 

『刑事訴訟法の規定により、被告人の陳述を聞かずに判決したが、このような異例の裁判をしたことは遺憾である。被告人の父親も心配していることもわかっているだろう。よく周囲を考えなければならぬ』

 1932(昭和7)年8月4日 (東京地裁・藤井裁判長)

 治安維持法違反で起訴された被告人(26歳)が、法廷で不規則発言を繰り返して、ついに退廷命令をくだすに至り、その後、懲役3年の実刑判決を言い渡して。

 

『時間があるから聞こう。ただし、これは裁判所としてでなく、個人として会談しているのだから。ただ、共産党の被告人の場合、もし出所後も運動するでは保釈できないではないか。これは法律でなく常識だ。被告人は妙に意地を張るように見えるが、これは改めるように忠告する』

 1933(昭和8)年9月19日 (東京地裁・西村裁判長)

 5・15事件の判決公判で、なおも被告人が保釈のことや無罪主張をくどくど述べ立てたことを受けて。

 

『他人に金を貸すのに、自分から、しかも役所にご持参するとは、たぐいまれなる親切ぶりだね』

 1931(昭和6)年9月30日 (東京地裁)
 
 福澤桃介が勲3等に叙せられた見返りに、福澤と関係の深い増田次郎(大同電力社長)らから3000円が渡り、賞勲局総裁の天岡直嘉が1000円の小切手を受け取ったとされ、天岡の私設秘書である鴫原亮暢が逮捕された、いわゆる「勲章疑獄事件」。
 鴫原被告人が、「金銭に窮した天岡氏が、元北海道鉄道の渡辺・兵頭両氏にお金の融通を頼んで、私の一存で自分を介して天岡氏に渡した。渡辺・兵頭両氏が1500円ずつを賞勲局へ持ってきたのも、自分に対してのことだ」と供述したことを受けて。

 

 
 

<< 番外編 >>

『裁判長、過分に思うぞよ』 [※被告人の言葉]
 

 1930(昭和5)年2月13日 (東京地裁・大野裁判長)
 
 母親から預かっておつかいに出ていた9歳の女の子が、踏み切りを通りかかった際、持っていた6円を奪って、強盗の疑いで起訴された27歳の男。 朝日新聞紙上に、法廷でのやりとりの一部が記されていた。
 
 裁判長 「住所は」
 被告人 「赤いレンガ造りの大きな家で…… 今、自動車に乗ってきたばかりだ」
 裁判長 「どうして金を盗った」
 被告人 「(女の子は)嫌だ嫌だと言ったが、構わずグイと盗りましたよ」
 裁判長 「あんなことをして、悪いと思はぬか」
 被告人 「とにかく、腹が減ったね」 (傍聴に来ていた女子高生たちを笑わせた)
 
 裁判長 「今回は、このくらいにしておこう」
 被告人 「裁判長、過分に思うぞよ」 (演劇ばりの台詞もどき)

 ⇒ 当該新聞記事は「次回は精神鑑定が行われるだろう」と結んでいる。 昔の新聞って、けっこうな毒舌を平気で吐いている気がする。

 

 

 国会図書館の端末で可能な戦前新聞検索は、[東京朝日新聞]の[見出し]だけなので、他の新聞、しかも記事全文で探せればいいのになと思います。
 本腰を入れてアナログ的に捜索を始めれば、もっとたくさん見つかるかもしれませんが、あくまで個人ブログのネタですので、この程度の精度でご勘弁を……。

 なお、2年以上にわたってお送りしてきた、裁判傍聴記事のメールマガジン『ナマの犯罪法廷!人生と世の中を「感じて」「考える」裁判傍聴録』は、残念ながら諸事情により、先月いっぱいで配信終了させていただきました。 購読してくださった方々、まことにありがとうございます。

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2011年8月 5日 (金)

住民が裁判員になりやすい都道府県、なりにくい都道府県ランキング! (2009年実績)

 まず、前提事実として、46都府県に地方裁判所(本庁)は1つずつあります。 そして、北海道はでっかいので、4つの地方裁判所が設けられています。
 これらの裁判所では、重大刑事事件につき、一般から裁判員を召集しての裁判を行うことになっています。

 さらに、地方裁判所の支部が全国に200ぐらいあります。 そのうち、主要な支部には裁判員裁判を行える特権が与えられています。

 裁判員裁判が実施される地方裁判所は、全国に60カ所あります。

 
 

※ 裁判員裁判を実施する地方裁判所が複数ある都道府県 ※

(北海道)札幌本庁・旭川本庁・函館本庁・釧路本庁
(福島県)福島本庁・郡山支部
(東京都)東京本庁・立川支部
(神奈川県)横浜本庁・小田原支部
(静岡県)静岡本庁・沼津支部・浜松支部
(長野県)長野本庁・松本支部
(愛知県)名古屋本庁・岡崎支部
(大阪府)大阪本庁・堺支部
(兵庫県)神戸本庁・姫路支部
(福岡県)福岡本庁・小倉支部

 

※ お住まいの市町村がどの地方裁判所の管轄に入っているかは、とりいそぎ、このサイトで確認してください。 >> 裁判所の管轄区域

 

 

 以上のことを前提に、60の裁判所の各管轄にいる住民が、1年間に裁判員候補に選ばれる確率、そして、裁判員候補が最終的に裁判員(補充裁判員)に選ばれる確率を、2009年の実績をもとに計算してみました。

 明日からの話のネタにしてみてください。

 統計の参考資料は『平成21年における裁判員裁判の実施状況に関する資料』(最高裁判所事務総局 編)です。

 

 

【そこの住民が、裁判員候補者の名簿に載る確率(%)】

01.大阪      0.47
02.千葉      0.45
03.名古屋    0.40
03.津       0.40
05.東京      0.39
06.前橋      0.37
06.福岡      0.37
08.函館      0.36
09.高松      0.35
10.宇都宮    0.33
10.甲府      0.33
10.大津      0.33
10.高知      0.33
14.静岡(沼津) 0.32
14.福岡(小倉) 0.32
16.水戸      0.31
16.名古屋(岡崎)0.31
18.さいたま   0.29
18.宮崎      0.29
20.神戸      0.28
20.和歌山    0.28
20.徳島      0.28
23.横浜      0.26
23.神戸(姫路) 0.26
25.京都      0.25
26.旭川      0.24
26.福島      0.24
26.富山      0.24
26.大阪(堺)   0.24
26.大分      0.24
31.奈良      0.23
31.松山      0.23
33.札幌      0.22
33.仙台      0.22
33.山形      0.22
33.横浜(小田原)0.22
33.広島      0.22
33.岡山      0.22
39.鳥取      0.21
40.福島(郡山) 0.20
40.長野      0.20
40.長野(松本) 0.20
40.岐阜      0.20
40.松江      0.20
40.山口      0.20
40.熊本      0.20
47.那覇      0.19
48.金沢      0.18
49.東京(立川) 0.17
49.静岡      0.17
49.静岡(浜松) 0.17
49.佐賀      0.17
49.長崎      0.17
54.鹿児島    0.16
54.盛岡      0.16
56.新潟      0.15
56.釧路      0.15
56.青森      0.15
56.福井      0.15
60.秋田      0.13

<平均>   0.30

 

(((寸評)))
 やはり大阪(本庁管轄)は、不動のトップですね。とにかく、人口あたりの犯罪検挙数が多いので、裁判員制度が始まる前から住民が裁判員候補になる確率が高いことは予想されていました。 実際に始まってからもその強さは揺るぎないですね。
 このほか、千葉や名古屋などの確率が高めなのは、国際空港を擁するので裁判員対象の覚せい剤密輸事件の発覚が多いからでしょう。 去年に羽田空港も国際化されるので、これからは東京本庁も上昇すると思われます。
 なお、津(三重県)がどうして高めなのかは不明です。

 

【裁判員の候補者が、実際に法廷で裁くことになる確率(%)】

01.鳥取     1.54
02.大津     1.17
02.鹿児島    1.17
04.熊本     1.09
05.仙台     1.06
06.岐阜     1.03
07.徳島     0.98
08.青森     0.94
08.福井     0.94
10.長崎     0.90
11.岡山     0.87
12.佐賀     0.83
13.松江     0.75
14.横浜(小田原)0.74
14.甲府     0.74
16.福島(郡山) 0.72
17.広島     0.71
17.山口     0.71
19.福島     0.70
20.秋田     0.67
20.和歌山    0.67
22.宮崎     0.59
23.東京(立川) 0.57
24.札幌     0.56
25.京都     0.52
26.千葉     0.50
27.静岡(沼津) 0.49
28.静岡(浜松) 0.45
28.那覇     0.45
30.長野     0.44
31.大阪     0.41
32.山形     0.37
32.さいたま   0.37
32.神戸     0.37
35.富山     0.36
36.奈良     0.33
36.大分     0.33
38.福岡     0.30
39.松山     0.29
40.東京     0.28
40.高松     0.28
42.神戸(姫路) 0.26
43.名古屋    0.23
44.宇都宮    0.17
44.大阪(堺)  0.17
46.横浜     0.16
46.名古屋(岡崎)0.16
49.前橋     0.15
49.津       0.15
50.水戸     0.11

 

<2009年、裁判員裁判ゼロだった主要裁判所>
函館
旭川
釧路
盛岡
静岡
長野(松本)
新潟
金沢
高知
福岡(小倉)

 

(((寸評)))
 裁判員制度の施行は2009年5月で、実際に裁判員裁判がスタートしたのは東京地裁の殺人事件(2009年8月3日)です。実質5カ月間しか実施されていない中での集計です。 よって、2010年以降は、この確率が大幅に上昇するものと予想されます。
 
鳥取がダントツだという意外性。 候補者人口が50万人足らずと少ないのに、裁判員裁判が2件あったというのが原因でしょう。 管轄内の裁判員対象事件が1件増えるだけで、この数字は大きく変動します。

 これら2種類の統計から、1年間に裁判員に選ばれる確率は、「数万人に1人」レベルだということがわかりますね。
 選ばれる前から「選ばれたらどうしようか」と心配するほどの割合じゃないといえます。でも、偶然選ばれれば、その一事が万事ですので。

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