小学生からわかる 裁判所のつくりかた (1)
皆さん、お久しぶりです。
この半年ほどは個人的に取り巻く状況の動きが激しく、なかなか、このブログの更新に手が回らなかったのですが、これから何とか更新を続けていこうと思います。
今回は、今ひそかに温めている「子供向け法律本」の企画を、ここで少しずつ公開していこうと思います。
「人が人を裁く」という行為に、何が必要で、何をやってはいけないのか、小学校の教室を舞台に、物語形式で解説する、新しい刑事手続きの解説本ができないかと、ここ数年考えてきました。
ただ、刑事手続きを体系的に並べて説明するよりも、物語の登場人物たちが、悩み、不満を言い合いながら、少しずつ「よりよいもの」を築き上げていく過程を経て、「なぜ、この手続きが必要なのか」を、心で感じられるものができないかなと。
まずは、冒頭部分を試しに書いてみました。
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こうへい君は、声を上げて泣いています。日に焼けた顔じゅうから、涙をしぼり出すかのように。
「オマエ、何泣いてんだよ。気持ちわりぃ」
「謝れよ、こうへい! オマエがやったんだろ!」
みのる君とまこと君が、ワイワイ騒ぎ立てて、こうへい君を、じわじわとメンタル的に追いこんでいきます。
「うぇぇぇぇぇぇ~ん、ヒック、ヒック、うわわあああぁぁぁぁぁ」
「ヤ~バいぜー、ヤ~バいぜー! せ~んせえに、言うてやろ~」
「せーんせーに、言うてやろ~~」
「おい? 何を先生に言うんだ?」
教室での騒ぎを聞きつけて、担任の先生が、みのるの背後から近づいてきました。
担任は、みんなから「えんま先生」というあだ名で呼ばれています。
えんま先生は、ウソをつく人が大嫌いらしいです。
えんま帳という記録を読みながら、死んだ人を裁く……と言い伝えられている、えんま大王の話を聞いたことありますか。
「ウソつきはね、えんま様に舌を抜かれて、二度としゃべれなくさせられるんだよ」と、親が子供をしつけるとき、しばしば話題にあがる、有名な怖いおっさんです。
死んだあとでなきゃ会えないはずのえんま大王が、まるで冥界から降臨して、この桜ふぶき小学校に現れたかのよう。
えんま先生はクラスのみんなから恐れられています。最近は子どもたちに厳しくて怖い先生が少なくなったので、えんま先生の存在を頼もしく思う先生方もいますが、たまに、別のクラスの揉め事にまで首を突っ込むので、一部の先生たちからは うっとうしがられています。
ちなみに、担任は遠藤マサルという名前なので、それを略して「えんま先生」と呼ばれ始めたんじゃないか、という説も有力です。
最近結婚してムコ養子に入り、本名が阿久根マサルに変わりましたが、結局、略せば「あくま先生」になるので、それはそれで合ってるね、という話にもなっています。
「えんま先生っ! これです!」
ハキハキした口調の仕切りたがり屋、クラス委員の のりこさんが、教室の隅っこの床を指さしました。廊下から見ると、その箇所だけキラキラと美しく光って見えます。割れたガラスのかけらが散らばっているのです。
「うわっ、割れてんじゃねえか! 誰だよ!」
えんま先生の怒号が、教室じゅうに響きわたります。のりこさんが手ぎわよく、ほうきとちりとりを持ってきました。
「先生、このままだと危ないから、掃除したほうがいいですよね」
「ちょっと待て! まずは事件現場を確保せねば!」
えんま先生は、クラスの子どもたちがケガをしていないか心配する余裕を、すっかり失っていました。
ぎざぎざにひび割れた窓ガラスの隙間から、風が吹き抜けてきて、泣きじゃくる こうへいの髪をそっとなでました。こうへい君も、その心地よさにひたる余裕などありませんでした。
「誰がやったんだ! いつから割れてんだよ! 知ってるやついるか?」
一方的にまくしたてるえんま先生の目を見ながら、告げ口したのはみのる君たちでした。
「こうへいがやったんだと思います」
「こうへいです。最初に」
その言葉を聞いて、こうへい君の両肩がピクンと縮みました。
「こうへい、そうなのか?」
「………」
「どうなんだ?」
「…………違います」
「え?」
「ぼ、ぼくじゃないです」
「よし、職員室に来い」
えんま先生の「職員室に来い!」は、もはや言い逃れできっこない合図なのです。
ウソが嫌いなので、何か悪いことをしても、「本当のことを正直に言えば許すぞ」と、かっこいいことを言います。それで理由を答えると「言いわけするな!」なんて、ムチャを言うこともあります。それで、何時間も説教が続くこともあるんです。
「ぼくじゃないです! ぼくじゃないです!」
こうへい君は、震える声で、そう繰り返すしかありませんでした。
■考えてみよう
これを読んで、えんま先生がやったことの、よいところと、よくないところを発表してみましょう。 よくないところは、どうしたほうがいいと思いますか。
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- 小学生からわかる 裁判所のつくりかた (1)(2012.06.05)
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