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2012年6月 7日 (木)

東京・東大和の放火事件…… 確かに被告人を「真犯人」だと断言できないけれど

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 今日は久しぶりに、東京地裁の立川支部で、朝から夕方まで1件の裁判員裁判(被告人質問の手続き)を傍聴しました。傍聴するだけでもかなりくたびれるのに、裁判員の方々は連日にわたって、法廷での立会いに加えて評議にも参加するのですから、本当にお疲れ様です。

 2009年1月6日に東大和市の酒屋で起こった現住建造物放火事件。8歳の女の子が亡くなるという痛ましい大事件でした。
 9月になって、ひとりの住所不定・無職の男性が逮捕されました。かねてより空き家などで寝泊まりして窃盗を繰り返すホームレス生活を続けてきたといいます。

 直接の証拠はありませんが、現場付近で被告人の顔見知りによる目撃証言、さらには被告人の姿を記録したと思われる防犯カメラ映像も残っています。

 彼は一時期、放火の罪を認めたものの、やがて一転、無罪を主張し始めました。1月6日は、かつて勤務していた建築会社の社員寮ロビーで寝ていたと、アリバイの存在を挙げたのです。
 現に、1月7日にその社員寮に侵入した罪で、有罪判決を受けていました。ただ、1月6日のアリバイは不明です。
 
 そして当初、罪を認めた理由として、「精神疾患があり、ホームレス生活が大変なため、通報してもらい、自分を措置入院させてほしかった」「お世話になった女性警察官が好きで、手柄を取ってほしかった」「嫌いな警察官がいて、捜査をかく乱させたかった」などと供述しています。
 
 これってどうなんでしょうね。警察や検察の連日にわたる厳しい取り調べに耐えかねて、初めは罪を認めてしまった…… という話なら聞きますけれども、警察を挑発する目的で、というのは、どのように考えればいいんでしょう。

 また、措置入院が目的なら、急に翻って容疑を否認したりするのも不可解です。

 

 精神疾患により、「自傷他害のおそれある」人を発見した警察官の「通報義務」は、以下の条文に定められています。

 

◆ 精神保健福祉法 第24条 (警察官の通報)
 警察官は,職務を執行するに当たり,異常な挙動その他周囲の事情から判断して, 精神障害のために自身を傷つけ又は他人に害を及ぼすおそれがあると認められた者を発見したときは,直ちに,その旨を,もよりの保健所長を経て都道府県知事に通報しなければならない。

 

 

 考えがうまくまとまらない精神疾患を抱えていれば、いろんな理由で、あるいは特に理由なく、罪を認めたり、認めなかったり、そういった不可解な言動をする……というのも、理解できる気がします。
 
 ただ、今日の被告人の説明を聴いていると、どうにかして様々な矛盾を解消しようとして、理路整然と、いちおうの理屈をつけているように感じました。
 しかし、様々な面で被告人の気づかない矛盾点が続々と噴出してきて、検察官からいろいろと責められ、「疲れてたから憶えてない」「~だと思う」などと言葉を濁したり、口ごもったりする場面も多かったです。

 その具体的な内容を、逐一細かく挙げていくと非常に長くなってしまいますので割愛しますが、少なくとも本日の被告人の言動に精神疾患の影響は感じられず、ただ、自分の以前の発言と今の発言との食い違いに、どんどん追い詰められていく様子があるのみでした。

 ひとりの裁判員の方が、とても的確な質問をしました。「今はともかく、当時の精神状態はどうでしたか。いろいろと歩き回っていたようですし、それほど精神状態は悪くなかったんじゃないですか」と。
 それに対しては、「確かに悪いってほどではなかった」そうです。

 また、逮捕当時、警察官に向けて被告人が書いた抗議文に「無実」「疑わしきは罰せず」「あの日着ていた服は、もう無い」などという文章が記されていて、とても気になりました。本当に犯行をおこなっていない人が「疑わしきは罰せず」と、裁判のルールにすがったり、証拠のなさをアピールしたりするだろうか……と。
 
 「無実、とは、どういう意味で書いたのですか」と、裁判長が尋ねると、「どういう意味って……」と、またしても口ごもってしまう被告人。
 どうして「自分が犯人ではない」という説明が、スッと出てこないのだろうかと、ますます疑問に思いました。

 確かに、被告人を有罪とする直接証拠はありません。仮に被告人を放火の犯人だとしても、犯行動機がよくわかりません。間接証拠(情状証拠)の積み重ねで有罪の心証を得ることを一切許さない立場からは、被告人に無罪が言い渡されても決しておかしくないのでしょう。

 しかし、「冤罪(≒無実)」と言ってしまっていいものか……? と、私は今、とっても心苦しい立場に置かれています。なにせ、この東大和放火事件の傍聴記録を、『冤罪File』誌の次号(9月下旬刊行予定)に載せるというので。

 ……ね、ぶっちゃけ、コメントしづらいですよ。

 同誌の他のライターさんや編集部は「冤罪だ」と言い切っているだけに、今日から何だか四面楚歌な気分です。

 ここは、裁判で白黒つけたりせずに、措置入院を優先しては…… と言いたいところですが、それでは愛娘を亡くしたご両親(傍聴席にいらしてました)が、とうてい納得できないでしょう。弱りました。

 

 あ、そうそう!
 
 私が本日、法廷にこもっている間に、東電OL事件の犯人として服役している、ネパール国籍のゴビンダさんに、裁判やり直し決定が下りました! 本当におめでとうございます!
 きっと、あと一息です。再び母国の土を踏めるのは。

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コメント

>ネパール国籍のゴビンダさんが再び母国の土を踏めるのは。
殺人罪で無罪となると本人はうれしいんだけど、
妻帯者のクセに女に買春をすることはネパールの文化から見てどうなのですか?
もしネパール社会で不倫が悪とされているなら
ネパール社会で周囲からまともな人間として見られるんですかね?

ネパール民法で離婚や妻への財産分与がどうなっているか知らないけど、
国から刑事補償を貰った後に妻から離婚を言い渡されて財産を奪われるとかされたあげく、
周囲に不倫男と陰口を叩かれながら、後ろめたい暮らしを続けるかもしれない。

投稿: | 2012年6月 7日 (木) 21:04

>名無しさん

私もあなたと同じくらい、「ネパール社会」について、よく知りません。ごめんなさい。

投稿: みそしる | 2012年6月 7日 (木) 21:28

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