石巻に乗り込んだ、ボランティア偽医者のお言葉集
>>> 被災地で活動の自称医師の男に懲役3年
東日本大震災の被災地、宮城県石巻市で偽造した認定証を使って医師を自称したなどとして、医師法違反(名称の使用制限、無資格医業)などの罪に問われた住所不定、無職米田吉誉被告(42)に仙台地裁(須田雄一裁判官)は8日、懲役3年の判決を言い渡した。求刑は懲役3年6月。
検察側は論告で「医師を詐称して得ていた信用を失うのを恐れ、医療行為に及んだ」と指摘。弁護側は「詐称は、被告が医者であるとの周りの誤解が発端だ」と寛大な判決を求めていた。
起訴状によると、米田被告は石巻市で昨年6月ごろ、医師国家資格認定証の写しを偽造して社会福祉法人に提出。昨年4~7月、1歳男児ら3人に、医師資格がないのに薬の塗布の指示や鎮痛剤の投薬といった医療行為をしたとしている。
米田被告は石巻市でボランティア活動をしていたが、医師と報道されたことなどで不正が発覚した。(共同)
[2012年6月8日12時11分]
今日は仙台地裁におりました。
昨年から東日本大震災に乗じた各地の犯罪を追いかけている一環で、この件は初公判から観続けてきたわけですが、単なるカネ目当てでない犯行です。
こういう表現がふさわしいかわかりませんが、「新鮮」に感じました。
震災発生直後から、特に何の縁もない石巻へ飛び込み、海外からの医師団に同行して、いろいろと身体を動かして手伝いをしているうちに、彼も医師だと勘違いされ……
詐欺師の前科があって、なかなか話を信じてもらえない自分だって、「医師を名乗れば周囲が頼ってくれる」という事実に快感をおぼえたのでしょう。
義侠心や見栄、自尊心やボランティア批判など、人間の様々な感情がごちゃまぜになった、様々な意味で興味深い事件でした。
もちろん、医師でもないのに、知ったかぶりの治療をして被災者やボランティアメンバーの健康を危険にさらした罪は重いし、日本財団に100万円の支援金を申請して騙し取っているわけですから、途中からカネ目当てに切り替わっていることは非難されるべきです。
詐欺の罪で起訴されている人の言動は、話半分で聞かなければならないのかもしれません。
でも、3月12日の時点で南相馬に入り、さらに縁もゆかりもない石巻へ飛び込んで、炊き出しや物資調達などに奔走した行動力と勇気は現実にあったわけで。
そのうえで、彼の法廷における数々の発言を振り返ってみます。
◆第1回被告人質問(2012/02/10) 弁護側
「テレビやインターネットで、大震災の深刻な被災状況を知った。(私が当時いた)福井は何ともないが、『これは日本が引っくり返る』と思った。過去に結婚をしていたこともあり、子供たちの将来の為にも、このままじゃいけないと」
「経験上、今までもらっていたものと同じ薬をもらうと患者は安心すると知っていた。同じ薬が無かったら、似たものを処方していた」
「本来、メディカル面の支援は日赤がやるべきなんです。災害支援協議会がすべきではない。具体的ニーズを日赤が拾い上げないんです」
(具体的に、石巻で何をすればいいと考えていましたか?)
「とにかく『役に立てればいい』という状態でした」
(薬やマスクも持って行ったのは、何のためですか?)
「人の役に立つんじゃないかと思い、手当たり次第に調達した。大阪の西成界隈で安く手に入れました。西成では処方箋が必要な薬を普通に売っているんです。薬は自分たちの為に使うつもりで、あとはもともと車の中に常備してあったもの」
(過去にも医師の肩書きを名乗ったことがあったそうですが、別に医療知識があったわけではないんじゃありませんか?)
「勉強は、ずっとやってました。でも、医師になれるはずないと思ってましたし、お金を取って医療行為をしたこともありません。仮に国家試験に受かったとしても、前科があるので」
(医師でなくても、がれきをどけることでも、石巻の人の役には立てたんじゃないですか)
「正直、医師の肩書きがあったほうが、より役に立てるのでは、とは思いました」
(では『医師』として、被災地で何を達成したいと思っていたんですか?)
「特に具体的に…… やりたいことはなかったです」
◆第2回被告人質問(2012/03/16) 弁護側
(あなたの当初の所持金、10万円は何に使ったんですか?)
「炊き出しや移動のための費用です。炊き出しにはガスを使いますし、自分たちは炊き出しの素人なので、どうしてもガスを使いすぎる。また、電気は発電機から供給するので、そのガソリン代がかかる。1日7000円ぐらい。それと車のガソリン代。 でも、ボランティアに対して寄付で支援してくれる人がいて、手持ちのお金はあまり減らなかった」
(そういった費用は、あなたたちの持ち出しなのか?)
「ボランティアは『自己責任・自己消化』といわれてます。本来は自分たちで用意しているし、大きなボランティア団体はかわるがわる物資を被災地にもってきていた。 私たちは、たまに支援物資で腐りそうになっているものを許可を得て炊き出しに使ったりしていた。1日1回、夜に300人以上を相手に食事を配った」
(医師を名乗って日本財団から詐取した100万円の助成金を何に使ったか)
「45万円は炊き出しや移動のガソリン代・ガス代、25万円は車の修理・パーツ代、25万円は彼女に渡した。競艇に5万円ぐらい使った。パチンコに1万円ぐらい。スナックで10万円以上は使った」
(それを合計したら100万円以上になるが、それは自己資金も含めてのことか)
「はい」
(あなたは100万円のうち、どれくらいを被災地のために使ったという認識か)
「炊き出しの45万円と、車の修理25万円」
(あなたが実際に行っていた医療行為について尋ねますが、まったく的外れということではない。以前にも医師を名乗っていたときに勉強したのか)
「はい」
(どうやって勉強したのか)
「インターネットで」
(なぜ、医師を名乗りたかったのか)
「昔から、何でも知識を吸収したいということがあって、そのひとつ」
(そこまであなたを駆り立てたものとは何なのか?)
「………わかりません」
(石巻にはいつまでいたのか?)
「8月初旬ぐらいまで」
(そのあと、秋湯温泉に行っていたのはなぜか)
「このままじゃ、自分が壊れちゃうんじゃないかと思いまして。社会が騒ぎ出していることと、自分のやってきたことの間に温度差があって。今回起訴されている内容は、検察が調べてきたことであって、私はもっと多岐にわたって活動してきた」
(それで?)
「…………。」
(自分を偽って活動してきたことが、自分の重荷になってきたということか?)
「(涙声で) 実際に被災地の現実を見て、現実ってこうなんだなと。震災から何カ月も経って、テレビとかで『私はこういう活動をしてきました』とか『自衛隊の活躍』とか報道されてますが、私のやってきたことは、そんな綺麗なことではなく、街で会った人に対して責務を果たす、ボランティアはそれだけです。それを給料をもらいながらやっている人とは……」
(どういうことか?)
「あんまりオフィシャルには言えないかもしれませんが、被災地に医師が早い段階で入っていれば、救えた命があった。医師がいないから亡くなった方もたくさんいた。茶番だなと正直思った。もっと困っている人はたくさんいた」
(そのあと、北海道に行っていますね)
「はい、育った場所なので」
(なぜ、育った場所へ行ったのか?)
「………頭を切り替えたかったから。いずれ、警察にぱくられることはわかっていたので、そろそろメディアが騒ぎ始めた頃だったので」
(北海道のどこにいたのか)
「湖です」
(湖で何をしていたのか)
「昔から、フライフィッシングが好きで、釣りをやっていました。そういうフィールドが好きで」
(どうして釣りをやりたかったのか)
「ストレスが当時は物凄かったんです。いろんな人からいろんなことを言われて、自分の心を違う方向へ向けたかった。警察が、日赤とかそういう病院に調べをかければ『そんな医者は知らない』と言うでしょう。でも、私は石巻の人たちから治療依頼の電話をガンガン受けていて、でも、行きたくないんですよ、正直」
(被災地で医師と呼ばれて、気分は良かったか?)
「気持ちよくはない。今思えば、なぜそんな流れになってしまったのか」
(身の丈以上に、自分を大きく見せたいという願望はあったか?)
「あったと思う。これからは、身の丈に合った生き方をしていきたい」
(あなたの活動は石巻の役に立ったと思うか)
「役に立ったとか……。こんなところ(法廷)に来てまで、いろいろ役に立ったと言えるような立場ではないです」
……ほかにも、いろいろと発言はありますが、ブログの投稿がやたら長くなって、それで一人で潰れて3日坊主になるのが私の癖なので、今日はこれくらいで抑えさせていただきます。
まだどうなるかわかりませんが、今後、ある媒体で記事になるかもしれません。良くも悪くも「こういう人間がいた」という事実を、私なりに残したいと思います。
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