日本史上に燦然と輝き、シビれる「弁護士弁論」の備忘録(3) 『大阪空港訴訟・第一審原告最終準備書面』 木村保男弁護団長ほか7名 1973.6.20
( 画像 : LoveFreePhoto )
大阪空港騒音訴訟。
プロの法律家を目指そうという方なら、誰でも知っている判例だと思います。
飛行機が夜間に上空を飛んでうるさい。ろくに眠れない。……だとして、飛行機の夜間離着陸を強制的に止める力が司法にはあるのか?
また、将来なされるであろう不法行為について、損害賠償は請求できるのか?
そういう法律上の有名な論点がありますね。
ただ、判例集や予備校テキストには決して載らない準備書面の中には、弁護団が原告らの話を徹底的に聞き取り、その嘆きを掬い上げ、心を痛めながら紙の上に刻み込んだのであろう、生々しく哀しい言葉たちが書き残されていました。
第一審・数百ページに及ぶ原告最終準備書面の冒頭部分です。
法廷での朗読が行われたのかどうかわかりませんが、もし朗読がないと、ヘタすれば裁判官、こういう法律の理屈と関係ない部分はサッサと読み飛ばしちゃうかもしれませんよね……。
110ホンに達する航空機騒音。しかも、一日の離着陸回数は443機にも及ぶ。
地元の人々は騒音とは言わない。爆音、激音、轟音、痛音。口々に訴える。表現は異なっても、その音が頭上からおおいかぶさり、おそいかかり、のしかかり、おさえつけ、耳をろうし、身体をすくませ、腹の底をえぐり、頭をなぐりつけ、心臓をしめつけ、動悸を早め、精神を異常にする狂気の音であることには変わりはない。
排気ガスは子供らの鼻血を誘発し、ぜん息をもたらす。一日中たれこめる悪臭は嘔吐をもよおす。植木も枯れた。
地響きをともなう振動は、病床に臥する人々の身体を震わせる。家屋は損傷し、小動物は町や部落から逃げて行った。
神経がたかぶる。ノイローゼ気味だ。ヒステリーではないか。胃病がある。高血圧になった。昏倒する。胸がしめつけられて息苦しい。生理不順。流産。
精神安定剤。睡眠剤。胃腸薬。頭痛薬。強心剤。血圧降下剤。常用。
老母はリューマチの手で必死に耳をおさえようとする。発熱の子供のしとねの上にも容赦なく音は襲う。航空機のヘッドライトが室内に飛び込む。墜落するのかと恐怖におののく。
夜中、今日も目が覚める。眠れない。かたわらの妻は眠れないまま、蒲団の上でジッと耐えている。異常ではないかとギクッとする。明日の仕事を考える。眠れない。イラ立つ。打ち落としたい。
健康な生活はどこへ行ったのか。航空機公害は人格を変えないか。人生を変えないか。子供の情操をそこなわないか。親は子供の教育環境の悪化を心配し、将来の姿を想像して暗然とする。
子供は親に、静かなところへ移ろうという。妻は夫と別れて暮らし、老人は子供や孫らと別居する。
人々は言葉を奪われて沈黙する。やがて、沈黙は憤りに変わる。人々は相語らい、励まし合って、市役所、県庁にその苦しみを訴え、空港、運輸省にその怒りを投げつけた。
以上、『大阪空港公害裁判記録1』(大阪空港公害訴訟弁護団 著・ 第一法規出版 刊)より
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