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2012年10月 6日 (土)

日本史上に燦然と輝き、シビれる「弁護士弁論」の備忘録(4) 『極東国際軍事裁判(東京裁判)一般最終弁論』 日本側弁護人・高柳賢三弁護士 1948.3.4

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 (Illust ACより)

 

 東京裁判。
 太平洋戦争当時の内閣総理大臣・東条英機などの首脳陣が、アメリカなどの戦勝国などから招集された裁判官により、「戦犯」としてことごとく死刑判決を言い渡されたアレです。

 その罪名が「人道に関する罪」という、どこから引っ張り出してきたのか不明なシロモノ。少なくとも、戦争が始まった時点では存在しない罪であり、そんな守りようのないルールで人を裁けないことは、法学部の1年生でも理解できます。

 

 仮に戦争責任というものがあるとすれば、その国内において、国民一人ひとりの自省なども踏まえて問われるべき概念。 せめて、戦争で何らかの被害に遭った国の人々が追及するのなら、まだ理解の範囲内です。

 ただ、戦勝国が「日本が起こした戦争が違法なので、それによる殺害行為も違法」とし、当時の政府首脳に対し、一般的な殺人の罪を着せようというのは、無茶な企みでしょう。

 

 確かに戦争は良くない。軍人・民間人問わず、おびただしい数の人命が犠牲となった。

 ただ、勝った国による殺害を棚に上げて、敗けた国の殺害ばかりを犯罪として裁く行為を、公正な裁判と呼ぶことは不可能です。
 裁判のやり直しを求めたくても、今では法廷そのものが存在しない。 力に物を言わせた理不尽なリンチなのです。

 少なくとも、民間人を狙って焼夷弾や原爆を落としたような国に責められたくありません。

 

 というわけで、日本側弁護団のひとりである高柳氏は、一国の首相らを殺人罪に問う「裁判」に鋭い異議を唱え、次のような弁論を行いました。

 

 

 

 「兎の手品」の比喩は、今日の流行であるようだ。

 イギリス国会において国内輸送機関の国有に関する政府の計量を批判するにあたって、レディング卿は、政府は比較的短い期間に「国有という帽子の中から社会主義の兎」を取り出すことに、すこぶる堪能であることを示したと言った。

 また、全印議会において、アチャリア・クリバラニ
(原文ママ)氏は、イギリス側の提示した憲法草案を批判して、ヒンドスタン語で、イギリス人は都合の好いときにいつでも帽子の中から兎や卵を取り出すと言った。

 私もこの世界的流行を真似て、検察側の議論を特徴づける精巧に編み上げられた詭弁の網を一気に解消せしむるために、兎の手品にたとえることを許されたい。

 手品師は通常の帽子を借りてきて、これをテーブルの上に置く。そして、これに向かって何やら呪文を唱える。

 さて、帽子を取りあげる。すると、テーブルには小さな兎がうようよ走り回っている。帽子の中にもともと兎がいたのではない。手品師が兎をその中に入れたまでである。

 検察側の議論は、まさにこれと同様である。
 検察側は普通の帽子、すなわち国家国民を拘束する国際法という綺麗な、そして上品な周知のシルクハットを持ってきて、これをテーブルの上に載せる。そして、これに向かって呪文を唱える。

 その呪文の中から「違法」とか「犯罪的」とか「殺人」とかいう言葉が次第に大きく響いてくる。

 そして、帽子を取りあげると、たちまち裁判所の中には国内法のここかしこから借りてきた新生の国際法理論が現れて観衆を驚かせる。

 どこからそれらを持ってきたかは重要ではない。もともとそれらの理論がシルクハットの中に無かったことだけは確かである。検察側において、それらをシルクハットの中に入れたのである。

(『東京裁判却下未提出弁護側資料 第7巻』 国書刊行会 P.49~50)

 

 

 ……うーん、ウマイたとえなのかどうかは微妙ですが、なかなかユニークな展開の主張ですので、個人的には気になりました。

 参考資料名は「却下未提出」となっていますけど、この最終弁論は実際に法廷で行われています。

 ちなみに、「アチャリア・クリバラニ」は速記者の誤記らしいのですが、正しい氏名は不明です。

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コメント

少し前ですが、偶然、スカパーの無料チャンネルで「南京の真実」という映画の特別編集版を観ました。
A級戦犯で処刑された7人の男たちが描かれていました。
極東軍事裁判はひどい裁判ですね。ただインドのパール判事の存在を知り気持ちが少し楽になりました。

投稿: きたひろさとう | 2012年10月 8日 (月) 18:02

>さとう様

コメントを頂き、有難うございます。『南京の真実』ですか。私はまだ観ていないので、チェックしてみたいと思います。

確か、少数意見のパール判事以外は、全て欧米諸国から招集された裁判官だったかと思います。つくづく「裁判と呼ぶに値するのか」との疑問が拭えませんね。

ただ、被告人(日本)側に就いたアメリカ人弁護人もいたようで、彼らの熱心な弁論には辛うじて、政治的立場を超えた弁護士としての職業意識を感じました。

投稿: みそしる | 2012年10月 8日 (月) 18:41

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