渋谷駅前の歩道橋の上から、こんな感じの光景が見えます。
(ケータイのカメラでは、これ以上寄ると、デジタルズームに切り替わって、絵が思いっきりボヤけちゃいます。 はよ一眼レフ買えよって話ですが)
黄色く光る看板が見えますね。
司法試験界の元祖カリスマ講師にして、自称「憲法伝道師」、伊藤真さんが、大手資格予備校LECを飛び出し、今から15年前にゼロから立ち上げた『伊藤塾(旧:伊藤真の司法試験塾)』の総本山です。
私は司法試験で浪人して、博多にいた頃、この『伊藤塾』ってトコの「在宅生(通信教育)」でした。
まだDVDが珍しかった1997年6月から、8ミリビデオの映像教材で六法を一から学び直しました(その次の年から、DVD教材になったみたいですが)。
ホント、憲法だけで入門編と『応用マスター』『論文マスター』『択一マスター』などの基本講座、そのほか、いろんな個別講座などなどありますし、
六法合わせたら、全部で段ボール大小50箱ぐらいテープが送られてきたんじゃないですかね。
それから7年が経ち、
司法試験合格を諦めて、大量に溜まった8ミリビデオテープを、この本部あてに送り返す梱包作業をしているとき、ラベルに書かれた『憲法』や『民事訴訟法』『破産法』などの文字を見ながら、いろんなことを思い出してしまいまして、その悔しさったらなかったですが、
……そんなつまらん話はさておき、
この「伊藤塾」渋谷総本山の一室で、外交官から最高裁判事に就任し、現在は「西村あさひ法律事務所」で弁護士として稼働する、福田博さんの講演が実施されました。
この講演会は、開塾以来続いている「明日の法律家講座」ってヤツで、本来は志のある塾生に向けられた企画なのですが、われわれ一般の人間も自由に観覧できることになっています。
受付の女性に、「一般の者ですが、元塾生です」なんて、余計なことを告げ、多くの大学生や司法浪人が入り交じる、懐かしい雰囲気の中へ溶け込みます。
福田さん、外交官時代は『日本の国益』を最重要視してこられたわけですが、だからといって保守的な考え方だと単純につながるわけでもなく。
最終学歴は、なんてったって、米国イェール大学ロースクール修了ですしねぇ。 キッチリとした本場の“リーガル・マインド”ってやつをお持ち。
最高裁時代は、国政選挙の「一票の格差」問題で、在任中に一貫して憲法違反の個別意見を出し続けた方としても知られます。
最高裁の法廷以外の場所で、(元)最高裁判事の方をお見かけするのは初めてなのですが、福田先生は終了予定時刻より30分以上も押しながらも、熱のこもった講演をなさいました。
テーマはでっかく『日本の民主主義』について。
そのお言葉の中で、私の心に残ったことを、備忘録として箇条書きにしてみます。
■ 「一票の格差」問題について
・ 民主主義の基本原則は多数決。 しかし、まずは投票価値が平等でないと、何が多数かわからない。
・ 「衆議院は3倍まで、参議院は6倍までOK」という、最高裁の「格差論」は、まず選挙区割りありきの議論であり滑稽。 他国では、まず「投票価値の平等」から考えるので、たとえば米国では「1.08倍」以上の格差は認められない。
・ 現代の中国は共産党独裁だが、人口13億に対し、共産党員は7600万。 投票価値の格差を算出すると、約12倍。 日本の格差論を用いれば、共産党独裁だって政府の裁量権の範囲内ということで決着してしまわないか。
・ 都道府県の境界線だって、絶対のものではない。 法律上の手続きで変更できる。
・ 先日、日本国の借金が882兆円に達したというニュースが報じられた。 直接の法律論ではないが、これも投票価値の歪みが遠因にあるのではないか。
・ 投票価値の平等が損なわれたなら、司法は直ちに正すべきだ。 そのうえで選ばれた政治家が示す方針については、司法は一歩引いて謙抑的であるべきだ。
■ 矢口元長官について
・ 第11代長官の矢口洪一さんは『(司法は)今まで二流の官庁だったものが、急速にそんな権限(※違憲審査権のこと)をもらっても、できやしないです』と発言したことがある。
・ また、『日本司法の違憲審査権は、謙抑的というより臆病なのだ』と発言したこともある。
■ 政治一般について
・ 特定の優秀なリーダー・カリスマに頼るのは、民主主義・代表民主制の意図するところではない。 しかし、カリスマ的リーダーの出現で、国が一気に発展するキッカケとはなりうる(マレーシア・マハティーニ首相の例など)。
・ 民主主義と平和が直結するかどうかわからないが、民主主義国同士では、武力に頼る戦争は起こりにくいのは確か。 皆で民主的な議論で平和的解決を目指すからだろう。
■ 外交官時代の経験について
・ 他国の外交官から『日本は一流の民主主義国ではない』といわれ、ずっと頭に残っている。
・ 米国女性初の連邦最高裁判事、オコーナーさんと、パーティでご挨拶したことがある。 私は知的な雰囲気の女性が好きなので(笑)、どんな職業なのか尋ねてみると「最高裁に勤めている」と。 何の仕事か尋ねると「判事」だというので、失礼なことをしてしまった(笑)。 オコーナー判事が京都で講演したとき、東京にいる私の所へも挨拶しに来てくれて感激した。
・ 学生時代はほとんど講義に出ず、友人としゃべってばかりいた。 しかし、米ロースクールでは、「よくこれだけ人間を勉強させるな」と思うぐらい勉強させられた。 人間にはそんな時期も必要。
・ 日本人は識字率が高いだけに、外国の本を読んで、何かわかった気になる風潮がある。 できるだけ外国に足を運ぶ機会を見いだして欲しい。
■ 最高裁時代の経験について
・ 最高裁判事15人は、たしかに多いが、事件数も多い。 年間2万2千件ほど。
・ そのうち、何を言いたいのか主張がよくわからない上告を『雑件』という。 言葉は悪いが事実(笑)。 これが年間5千件ぐらいある。
・ 10年もやっていたので、最後は半ば惰性でやっていたかもしれないと反省しているが、判事同士で話す機会をもてたのは有意義だった。 最高裁には非常に優秀な人々が揃っている。
・ 判決を出した後に、自分の考えが変わったということは無い。 一部、少数意見を書いたのは納得いっていないからだが(笑)、大多数の全員一致判決は、すべて納得して出している。
・ イスラエルの最高裁長官(元?)、バラク氏と話したことがある。 彼の国の憲法には『イスラエルはユダヤ人国家であり民主主義国家』だと書いてあるが、バラク長官は民主主義を貫き、パレスチナ人など外国人も助ける判決を書き続けたので、多くのユダヤ人から憎まれており、警護が強化されているらしい。
■ 司法・法律一般について
・ 最高裁に入りたての頃、「外交官出身の裁判官が、いい裁判官とは限らない」と、きついことを言われたことがあった(笑)。 私に言わせれば、純粋培養の裁判官が必ずしもいい裁判官とは限らない。 いろんな経験を積んだ方がいい。
・ 「視野は広く、発想は柔軟に」。 法律を勉強していると、ややもすると視野が狭くなりがちなので、意識して視野を広く持って欲しい。
■ 私の質問
Q 「最高裁判事は“多忙”だといわれますが、何が一番大変でしたか」
A 「そりゃあ、記録を読むことですね(会場笑) 平均すると1日に8件ぐらい読んだ計算になります。 速読術ってのは役に立ちますね。 これから法律家を目指す人も、スピードを上げて読んで、自分の意見をつくってほしいと思います」
■■■ お知らせのコーナー ■■■
● 次の木曜日(27日) 17時ごろから、TBSラジオ『荒川強啓デイキャッチ』に生出演します。 今年早くも3回目のオファーで、ありがたく思います。 しゃべるテーマは「ポエムな地方条例」について。
● すでに収録済みなのですが、このたび、ラジオ番組『ベストセラーズチャンネル』に出演させていただく運びとなりました。 今月末、おもに全国のミニFM局で流されます。 ネット配信は6月末ごろとのこと。
おかげさまで「そういえば自分は昔、世間でベストセラーと呼ばれる本を書いたんだっけ?」と、遠のいた記憶を呼び起こす、いいキッカケとなりました(苦笑)。 ありがたいことに、ちまたで「説諭ブーム」を巻き起こし? 3年前にたくさんの方が読んでくださいましたよね。 今となってはいい想い出です。
かといって、このまま一発屋で終わる気は微塵も無いけど。
● そんな拙著『裁判官の爆笑お言葉集』ですが、このたび、株式会社オトバンクのご協力で、内容の一部始終が朗読され、まもなくオーディオブック(音声データ)となります。
オーディオブックは、視覚に障害がある方だけのモノではありませんよ。 この際、通勤電車の中で、裁判官の感動的なお言葉を聴き、泣き濡れてください、皆さん。
なにしろ女性の読者を中心に「爆笑お言葉集を読んで、泣いちゃいました!」と、著者を戸惑わせるご感想を全国各地から頂戴した本ですし…。
「オーディオブックだけの特典音声を入れたい」と、オトバンクさんからご提案を受けましたので、『爆笑お言葉集』を世に問うて以降の後日談も入る予定です。 これも麹町で収録済み。
● 「笑っていいとも!」(フジテレビ)の月曜日、『せまいハカセの発表会』コーナーに生出演させていただく(かも?)というオファーを頂戴しました。 久しぶりのテレビか?と密かに気を張ってましたが、先月にコーナー自体が終了して、残念ながら立ち消えとなりました。
● プレジデント誌の『世のなか法律塾』コーナー、月2回の連載を担当して、もうすぐ3年目に突入します。
2月の明石遠征に続き、今度は大阪出張かもしれません。 インタビュー取材を申し込む弁護士さんのアポ次第ですが。
ま、もし大阪出張となれば、スター裁判官ぞろいの大阪地裁傍聴を、ついでに決行するまでなので、ノープロブレム。
● 来月号の『会社法務A2Z』(第一法規)より、新連載『おもしLAW(ロー)ニュースで、世界を覗こう!』が始まります。 「お堅い法律記事の中で、のんびり息抜きとして読めるような企画を」とのことで、ありがたいことに、編集部の方が私に白羽の矢を立ててくださいました。 グサッ。(←白羽の矢が、私の頭頂部に刺さった音)
記念すべき第1回は、インド発『結婚式で泥酔した新郎の代わりに、その弟が新婦と結婚』という珍ニュースから、インドの結婚事情やインド憲法の内容、さらにはカースト制度にまで迫る、深いのか軽いのかよくわからない記事になっています。
挿し絵イラストが巧いですし、ページレイアウトも明るい雰囲気なので、イラストレーターやデザイナーの方々にも感謝です。
今まさに、第3回の原稿に着手しています。
● 今売りの月刊「サイゾー」47ページにて、福岡の暴力団追放条例についてペラペラしゃべらせていただいた内容をまとめたインタビュー記事を掲載してくださっています。
● 今売りの「冤罪ファイル」110ページで、「特急あずさ冤罪事件」の再審開始請求が始まらない、その知られざる理由について、冤罪被害者ご本人や弁護団にお話を伺い、記事を書いています。 ホントは4ページの特集だったのですが、オトナの事情がいろいろいろいろありまして(笑)、1ページ構成となっています。 続きは次号に持ち越し。
● 今月27日(木曜)発売、人気漫才コンビ「キングコング」西野亮廣さんの小説『グッド・コマーシャル』ですが、民家に立てこもり住人を人質にとって、身代金を要求する刑事事件がテーマということもあり、私めが担当編集の方を通じて、法律的なアドバイスを2,3させていただきました。 西野さんは感激なさったそうで、あとがきに私の氏名を入れてくださってます。
シンプルな物語なのですが、いろいろと計算されつくされていて、一方で登場人物がことごとく愛すべきマヌケキャラで面白いです。 たとえを多用し、元気になれる読後感が、芸人さんの書いた小説らしさでしょうね。
● 早稲田法学部の学生で、「法律フリーペーパー」を創刊しようと計画する有志がいることを、知人から聞きつけまして。 「法学部の学生に向けて、何かメッセージになる文章を書いてほしい」と、彼に頼まれたので、先ごろ寄稿しました。 さすがに原稿料をもらう気にはなりませんでした。
● 「週刊新潮」で、裁判員制度1周年記念の企画が水面下で進行中です。 詳細は言えません。 誰かにマネされたらイヤなので。
つまり、思いつきさえすれば、誰にでも書ける企画だってコトですが……。 今のところ、7月下旬ごろの発売号に掲載予定。
● 6月1日のNHK総合『爆笑問題のニッポンの教養』(PM10:55~)、テーマは「取調室の心理学」。 まさか、あの浜田寿美男先生?
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