2010年7月 8日 (木)

藤子・F・不二雄ワールドの架空法律 『航時法』 (「のび太の恐竜」編)

 今から30年前に公開されたアニメ映画『ドラえもん のび太の恐竜』では、白亜紀のピー助(首長竜の子ども)をタイムマシンで現代(未来)へ連れて帰る行為を、「航時法違反」として描いています。

 はじめは、現代でのび太が恐竜の卵の化石らしきものを見つけました。化石にタイムふろしきをかぶせて、生きた卵に戻し、その卵からピー助を孵化させ、元いた白亜紀の時代に戻そうとしました。

 しかし、タイムトラベルの途中で、珍しい生き物として未来の世界でピー助を高く売りさばこうとする「恐竜ハンター」に狙われてしまいます。

 そんな恐竜ハンターの企みは「航時法違反」の犯罪行為ですから、それを取り締まるタイムパトロールが目を光らせていました。タイムパトロールは、のび太らを助け、恐竜ハンターを追い払います。

 白亜紀に到着してから、いろいろと大冒険があり、その間に、ピー助に対して完全に情が移ってしまったのび太。最終的には、ピー助を置いて現代に帰ることになり、その別れが感動を呼ぶ結末となるわけですね。

 ……ただ、刑罰付きの法律には「罪刑法定主義」という大原則があてはまります。

 ある行為に対して、法律で罪と罰を書き記していない限りは、その行為を犯罪として取り締まることはできず、私たちは自由に行えるのです。

 当たり前といえば当たり前の話です。

 しかし、現代に、まして白亜紀の時代に「航時法」はありません。航時法は未来(22世紀)の刑罰法規という設定です。

 こんな法律を、過去の時代にいるのび太や恐竜ハンターたちに適用することは、罪刑法定主義に反しないのでしょうか?

 罪刑法定主義とは、「犯罪とは何なのか」「その犯罪を行ったら、どんなペナルティが科されるか」を、前もって法律にキッチリ書いておくことで、合法行為と違法行為の境界線がハッキリさせ、わたしたちの自由な行動を保障するための概念です。

 恐竜ハンターは、タイムマシンが発明された未来の時代(原理的に過去へのタイムトラベルが可能かどうかという物理学的観点は脇に置くとして)から来ているはずです。

 その時代には、タイムトラベルを規制する航時法も制定されているでしょうから、恐竜ハンターは、恐竜を未来に持ち帰ることが犯罪だと知っています。

 自分の企みが犯罪だ、航時法違反だと心得ている限り、たとえ航時法が存在しない過去に飛んだとしても、彼らはタイムパトロールからの取り締まりはキッチリ受けるべき道理となるでしょう。罪刑法定主義とは矛盾しません。

 でも、のび太は航時法の制定されている時代の人間ではありませんし、航時法違反としておとがめを受けなければならない筋合いがあるかどうか、罪刑法定主義という理屈を念頭に置くと、ちょっとギモンですね。

 もしかしたら、のび太がビー助をタイムマシンで現代に持ち帰ってしまうと、ドラえもんが航時法違反で捕まってしまうのかも?

 ドラえもんは、航時法がある22世紀のロボットですから、のび太を道具にして過去の動物を未来に持ち帰らせようとした、となると、航時法違反の罪の「間接正犯」?が成立してしまう。

 だから、ドラえもんは、ピー助を白亜紀に置いて帰るよう、のび太に厳しく忠告したのかも。

 うーむ…… ロボットに法律が適用されるんかなぁ?

 現代の価値観では、ロボットは「物」あつかいなので、たとえばホンダのアシモが犯罪に該当するような行動をしても、アシモが懲役を受けたり罰金払ったりすることはありません。

 たしかに、あれだけスイスイと二足歩行する機能が備わっていることは凄いことですが、罰を受けて反省する機能は、まだ付いていないはずです。

 この場合、悪い意図に基づくプログラムでアシモを操作した人間がいれば、そいつが処罰を受けることになるんでしょうね。

 ただ、ドラえもんは、人間の操作からは離れて、立派に独立して行動することができますから、22世紀には人間と同様、ロボットにも法律を遵守する義務が課されると考えるのが自然でしょう。

 ということは、22世紀には、ドラえもんのようなロボットにも、国会議員として立法に関与したり、選挙で投票したりする権利が与えられなきゃ、筋が通らないですね。

 ……いろいろと突き詰めて考えてたら、相当めんどくさい深みにドップリはまりました。

 

 次の機会には、同じく藤子F不二雄原作の漫画「T.Pぼん」での『航時法』について考えてみたいと思います (こないだ、調べ物のついでに国会図書館で読みました)。

 T.Pとは、タイム・パトロールの頭文字ですが、この「T.Pぼん」という作品のほうが、航時法についてさらに詳しい設定が盛り込まれています。

 

       ◇

 

 あの村上博信裁判官(『裁判官の爆笑お言葉集』204ページ参照)が、まさか急逝とは……。 享年60。

 去年、プレジデント誌での取材の関係で横浜市内へ行ったとき、アポ時刻になるまで横浜地裁で時間をつぶしてました。

 その際に、村上判事の裁判をひさびさに傍聴したんですが、相変わらずオーラがビンビン出ている方だなと嬉しく思っていました。

 まさかあれが、村上判事の勇姿を拝める最後の機会だとは。

 あの時点で既に体調がお悪かったのかもしれません。 非常にショックです。

 ご冥福をお祈りいたします。

 村上さん、生まれ変わったら、また司法試験に受かって裁判官になってください。

 ジジイになった私が、必ず傍聴しに行きます。

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2010年5月24日 (月)

松本零士『銀河鉄道999』作中の、架空法律

 漫画・ゲームや小説の中に登場する“架空の法律”を分析して、

 現実の法と比較したり、

 法制度を間接的に学べたり、

 あるいは“架空の法律”の全貌を勝手に想像する本

  という、ざっくりした企画を先日、某出版社の編集者にご相談したところ……

 「その企画は、ウチでは難しいですけど、そういう法律、『銀河鉄道999』でも出てきますよね?」と、ひとこと。

 すみません、あんまり存じ上げない、との返答をすると、

 「今度、コピーをお送りします」

 とのこと。

 仕事に繋がらないのに、ホントかね?

 あんまり期待しないで待っていましたら、なんと、その発言にウソはありませんでした。

 その編集の方、『銀河鉄道999』劇画の写しをたくさん、宅配便で送ってきてくださいましたよ。

 素晴らしいですねぇ。 ありがとうございます。

 いつか、仕事をご一緒してみたいもんです。(ボソッ)

 
 

■ 宇宙鉄道運行規則(銀河鉄道規則)

 

 『銀河鉄道999』の作中では、「宇宙鉄道の運行規則」というものが存在します。

 その第17条で、

 いったん宇宙鉄道に乗った者は、途中下車できない。

 また、列車が引き返すことも許されない。

 と定められているそうです。 (『出発(たびだち)のバラード』より)

 

 また、銀河超特急999号が盗賊に乗っ取られ、その盗賊が軌道を変えるよう求めたのですが、

 機関車の制御コンピュータは、「軌道ノヘンコウハデキマセン!! 銀河鉄道キソク第27条デ!」と返答し、拒否しました。(『大盗賊アンタレス』より)

 なぜ途中下車できないのか、どうして引き返せないのか、その立法趣旨は不明ですし、「銀河鉄道キソク」と「宇宙鉄道運行規則」が同じものなのかどうかも作中からは確認できませんが、

 物語世界に緊張感を与えるのに、架空のルール設定が一役買っているといえそうです。

 

 

■ 完全睡眠法

 

 銀河鉄道が停車した「夜のない街」という駅。

 その街では、夜間に外出してうろつきまわると、「完全睡眠法違反」として取り締まりを受けます。

 夜7時ごろに、人気のない道を歩いていたメーテルを見つけて、警察は「抵抗すれば射殺する!! 指示に従わない場合も射殺する!!」と、かなりムチャで物騒な警告をしています。

 なぜ夜間外出が許されないのか。

 それは街の郊外にある、光り輝く湖に棲む巨大飛行生物「ヘローン」を守るため。

 ヘローンは、人間に危害を加えない、とても恥ずかしがり屋の生物だそうで、真夜中にだけ空を飛び、朝方にまた湖に戻るのです。

 「人間とヘローンが、昼と夜を分け合う」という立法趣旨により、夜間はヘローンの行動が優先される模様です。

 ちなみに、メーテルの発言によると「ヘローン飛行妨害罪」というのもあるそう。

 まぁ、いくら飛行中のヘローンが、人間に姿を見られたくないといっても、夜間外出しただけで警察に射殺されてしまうとは極端ですけど、

 一方で、人間の都合だけを優先しない「環境法」の理念を先取りしている話といえそうです。 完全睡眠法。

  

■ 楽国法

 

  『銀河鉄道999』作中世界において、土星の衛星タイタンでは、個人の自由が最優先され、反対に個人の自由を妨げると罪になるという「楽国法」が定められています。 (『タイタンの眠れる戦士』より)

 もともとは、勇気と誠実さにあふれる人々がタイタンに移住し、この星を理想郷として作り上げたようなのですが、いまや人殺しも自由。

 「楽園に住む人間の心は、だんだんすさんで、あれはてていくみたいだね」と、鉄郎は悟ります。

 
 

■ 「花の都」の法律

 

 到着する前から、花だらけの素敵な星だと、鉄郎が喜んだ「花の都」駅。

 この惑星を覆っている花は、その昔、誰かが持ちこんだ外来植物であり、見た目はキレイだが、毒の花粉を持っているというのです。

 星の住人によると「人口が100年間で80%も減った」といいます。

 しかし、この星の法律で「花に手をかけたりしたら死刑」、「もっと強い天敵になる花を持ちこむことも禁止」。

 ある家族は苦渋の決断をし、大量の毒花に一斉に火を放ち、星の住人たちの犠牲として、みずから命を絶ちます。

 「宇宙の人柱ね……」とつぶやくメーテル。

 

 外来生物による環境危機の問題だけでなく、「悪法も法として遵守すべきか?」という哲学的な問題まで突きつける。

 表現者としての松本零士先生、あなどれません。

 でも、提訴はお手柔らかに。

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