平成18年 六本木ヒルズの変
ホリエモンの まばたきの回数がますます増えてしまいそうな、衝撃的で、でもライブドアらしいニュースが飛び込んでまいりましたねぇ。
おととし、ライブドアの関連会社が、ある出版社を株式交換(※買収したい企業の株主たちから株式をもらって、代わりに自社の株式をあげること。当座の現金が無くても企業買収が可能になる便利な制度で、1999年商法改正で日本に導入)によって傘下に入れたと発表されたのですが、実際には、その半年も前に、出版社の株主へ現金を渡しており、すでに「事実上の買収」が行われていたようなのです。
とすれば、その買収した時期をズラし、事実と異なる内容を発表したことになります。
◆ 証券取引法 第158条(風説の流布、偽計、暴行、脅迫等の禁止)
何人も、有価証券の募集、売出し若しくは売買その他の取引若しくは有価証券指数等先物取引等、有価証券オプション取引等、外国市場証券先物取引等若しくは有価証券店頭デリバティブ取引等のため、又は有価証券等の相場の変動を図る目的をもつて、風説を流布し、偽計を用い、又は暴行若しくは脅迫をしてはならない。◆ 証券取引法 第197条(罰則)
1 次の各号のいずれかに該当する者は、5年以下の懲役若しくは500万円以下の罰金に処し、又はこれを併科する。
七 第157条、第158条、第159条第1項若しくは第2項(これらの規定を同条第4項及び第5項において準用する場合を含む。)又は同条第3項(同条第4項において準用する場合を含む。)の規定に違反した者2 財産上の利益を得る目的で、前項第7号の罪を犯して有価証券等の相場を変動させ、又はくぎ付けし、固定し、若しくは安定させ、当該変動させ、又はくぎ付けし、固定し、若しくは安定させた相場により当該有価証券等に係る有価証券の売買その他の取引又は有価証券指数等先物取引等、有価証券オプション取引等、外国市場証券先物取引等若しくは有価証券店頭デリバティブ取引等を行つた者は、5年以下の懲役及び3000万円以下の罰金に処する。
たしか、産業廃棄物を勝手に山奥へ捨てる行為が、懲役5年以下 罰金1000万円以下ですから、そのような環境破壊に匹敵するほど重大な犯罪だと位置づけられているようです。
この風説流布罪は、ただ単にウソの事実を世間に流しただけでは足りません。 158条をごらんください。たとえば株式は、ここにいう「有価証券」にあてはまるのですが、風説流布罪成立のためには、ウソ情報をアナウンスすることによって、そういう株式取引などで得をしよう、誰かを儲けさせようとする「目的」も必要なのです。これを「目的犯」といいます。
ライブドア側が「ウソ」を発表したとき、ホリエモンたちに、そのような利益を得ようとする「目的」があったのかどうか、当時の心理状態を直接証明するのは極めて難しいことです。なので、物的証拠や証人などを集めて、客観的事実をもとに「目的」があったのかどうかを類推する作業が必要となるのです。おそらく、そのための家宅捜索なのだろうと思われます。
ニュースによると「現金を渡していた」とは言ってますが、そのときに株券と引き替えにされたということは報じられていませんね。だとすれば、ライブドア側は、まだその出版社の新株主にはなっていなかった。簡単にいえば、「会社を“先払い”で買おうとした」ということになるのでしょうか……?
民法の原則では、売り手の「売りたい」という気持ちと、買い手の「買いたい」という気持ちが合致した瞬間、早々に売買契約が成立し、商品の所有権も買い手に移ってしまいます。商品を実際に手渡すことも、現金を払うことも契約成立・所有権移転のためには不要です。
ただし、株式は、ちょっと例外的な扱いになっています。
◆ 会社法 第128条(※現行)
1 株券発行会社の株式の譲渡は、当該株式に係る株券を交付しなければ、その効力を生じない。(以下略)◆ 商法 第205条(※2004年当時)
1 株式を譲渡すには株券を交付することを要す
つまり、ライブドア側が出版社の株主となるには、つまり、出版社の持ち主としての地位を引き継ぎ、買収が完了するには、株主に現金を渡しただけでは足りず、株券を彼らから譲り受けることが必要なのです。(もっとも、「われわれライブドアグループが新しい株主だ」と出版社側に主張するためには、株主名簿の書き換えも求められますが)
だから、少なくとも法律上、まだ買収は終わっていなかった。これはライブドア側の反論のひとつとしては成り立ちそうです。ただ、相手方企業の株主に現金を渡しているということは、「これから、この会社を買うぜぇ。そこんとこヨロシク」というアピールには違いないでしょう。それが「事実上」というキーワードが示す意味だと考えられます。
まさか、ライブドアが恵まれない株主に愛の手を差し伸べたわけではなかろうと思いますから。そもそも、タダであげたんなら贈与税かかるでしょうし。
私は証券取引法やM&Aに関しては、まるっきり素人でして、以上に書いたことは、あくまで基礎的な法律論から導いた推測にすぎません。間違いがありましたら、遠慮なくご指摘ください。私まで「風説の流布」をしていたら困りますから。
そもそも、水面下で実質的な買収が進んでいた事実をあえて隠すことによって、株式相場にはどんな影響が出てくるんでしょうか。ライブドアになにか得があるんでしょうか。なかなかイメージが持ちにくいところではあります。
むしろ、ライブドア得意の忍法「株式分身の術」など、風説流布以外の要因が複合的にからむことによって株価が高騰したようにも思えます。なので、この強制捜査は、ヒルズ住人の虚業体質にメスを入れる点で歓迎したい一方、なんとなく違和感もあるんです。
昨年騒がれた、ライブドア社によるニッポン放送株の大量取得ですが、あれも「法律上」と「事実上」の食い違いが争点でした。法の抜け道を見つけたければ、そういう「法律と現実のズレ」を意識的に観察していくのが基本中の基本です。
株式をたくさん買い付けるときは、不平等な結果にならないよう、みんなに公開しながら行うことになっています。これを株式公開買い付け(TOB)と呼びます。ニッポン放送との主従関係を逆転させるために、証券取引法にのっとり、同社の株式をオープンに買い付けていた最中だったフジテレビ。
しかし、ホリエモンはTOB期間中、朝ちょっと早起きして、午前9時より前に、東京証券取引所の時間外買い付けシステム(トストネット1)をコンピュータ上で行い、数百億円を注ぎ込んでニッポン放送株を大量取得しました。
トストネットは、株主ひとりひとりと交渉して契約を結ぶわけではなく、公共の株式市場を介して行われる取り引きには違いありません。ただ、「時間外」にコソッと買い付けたという印象は否定できず、当時、世間の非難を浴びました。
たしかに、法律上はギリギリセーフなのかもしれませんが、証券取引法の立法趣旨に反していた。つまり、このTOB制度をつくった人たちの「フェアで気持ちのいい資本主義社会を実現させたい」という願い・祈りに背く行為だったのではないでしょうか。
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