2006年1月16日 (月)

平成18年 六本木ヒルズの変

 ライブドア家宅捜索関連のニュース(Googleニュース)

 ホリエモンの まばたきの回数がますます増えてしまいそうな、衝撃的で、でもライブドアらしいニュースが飛び込んでまいりましたねぇ。

 おととし、ライブドアの関連会社が、ある出版社を株式交換(※買収したい企業の株主たちから株式をもらって、代わりに自社の株式をあげること。当座の現金が無くても企業買収が可能になる便利な制度で、1999年商法改正で日本に導入)によって傘下に入れたと発表されたのですが、実際には、その半年も前に、出版社の株主へ現金を渡しており、すでに「事実上の買収」が行われていたようなのです。

 とすれば、その買収した時期をズラし、事実と異なる内容を発表したことになります。

◆ 証券取引法 第158条(風説の流布、偽計、暴行、脅迫等の禁止)
 何人も、有価証券の募集、売出し若しくは売買その他の取引若しくは有価証券指数等先物取引等、有価証券オプション取引等、外国市場証券先物取引等若しくは有価証券店頭デリバティブ取引等のため、又は有価証券等の相場の変動を図る目的をもつて、風説を流布し、偽計を用い、又は暴行若しくは脅迫をしてはならない。

◆ 証券取引法 第197条(罰則)
1 次の各号のいずれかに該当する者は、5年以下の懲役若しくは500万円以下の罰金に処し、又はこれを併科する。
 七 第157条、第158条、第159条第1項若しくは第2項(これらの規定を同条第4項及び第5項において準用する場合を含む。)又は同条第3項(同条第4項において準用する場合を含む。)の規定に違反した者

2 財産上の利益を得る目的で、前項第7号の罪を犯して有価証券等の相場を変動させ、又はくぎ付けし、固定し、若しくは安定させ、当該変動させ、又はくぎ付けし、固定し、若しくは安定させた相場により当該有価証券等に係る有価証券の売買その他の取引又は有価証券指数等先物取引等、有価証券オプション取引等、外国市場証券先物取引等若しくは有価証券店頭デリバティブ取引等を行つた者は、5年以下の懲役及び3000万円以下の罰金に処する。

 

 たしか、産業廃棄物を勝手に山奥へ捨てる行為が、懲役5年以下 罰金1000万円以下ですから、そのような環境破壊に匹敵するほど重大な犯罪だと位置づけられているようです。

 この風説流布罪は、ただ単にウソの事実を世間に流しただけでは足りません。 158条をごらんください。たとえば株式は、ここにいう「有価証券」にあてはまるのですが、風説流布罪成立のためには、ウソ情報をアナウンスすることによって、そういう株式取引などで得をしよう、誰かを儲けさせようとする「目的」も必要なのです。これを「目的犯」といいます。

 ライブドア側が「ウソ」を発表したとき、ホリエモンたちに、そのような利益を得ようとする「目的」があったのかどうか、当時の心理状態を直接証明するのは極めて難しいことです。なので、物的証拠や証人などを集めて、客観的事実をもとに「目的」があったのかどうかを類推する作業が必要となるのです。おそらく、そのための家宅捜索なのだろうと思われます。

 ニュースによると「現金を渡していた」とは言ってますが、そのときに株券と引き替えにされたということは報じられていませんね。だとすれば、ライブドア側は、まだその出版社の新株主にはなっていなかった。簡単にいえば、「会社を“先払い”で買おうとした」ということになるのでしょうか……?

 民法の原則では、売り手の「売りたい」という気持ちと、買い手の「買いたい」という気持ちが合致した瞬間、早々に売買契約が成立し、商品の所有権も買い手に移ってしまいます。商品を実際に手渡すことも、現金を払うことも契約成立・所有権移転のためには不要です。
 ただし、株式は、ちょっと例外的な扱いになっています。

◆ 会社法 第128条(※現行)
1 株券発行会社の株式の譲渡は、当該株式に係る株券を交付しなければ、その効力を生じない。(以下略)

◆ 商法 第205条(※2004年当時)
1 株式を譲渡すには株券を交付することを要す

 つまり、ライブドア側が出版社の株主となるには、つまり、出版社の持ち主としての地位を引き継ぎ、買収が完了するには、株主に現金を渡しただけでは足りず、株券を彼らから譲り受けることが必要なのです。(もっとも、「われわれライブドアグループが新しい株主だ」と出版社側に主張するためには、株主名簿の書き換えも求められますが)

 だから、少なくとも法律上、まだ買収は終わっていなかった。これはライブドア側の反論のひとつとしては成り立ちそうです。ただ、相手方企業の株主に現金を渡しているということは、「これから、この会社を買うぜぇ。そこんとこヨロシク」というアピールには違いないでしょう。それが「事実上」というキーワードが示す意味だと考えられます。
 まさか、ライブドアが恵まれない株主に愛の手を差し伸べたわけではなかろうと思いますから。そもそも、タダであげたんなら贈与税かかるでしょうし。

 私は証券取引法やM&Aに関しては、まるっきり素人でして、以上に書いたことは、あくまで基礎的な法律論から導いた推測にすぎません。間違いがありましたら、遠慮なくご指摘ください。私まで「風説の流布」をしていたら困りますから。

 そもそも、水面下で実質的な買収が進んでいた事実をあえて隠すことによって、株式相場にはどんな影響が出てくるんでしょうか。ライブドアになにか得があるんでしょうか。なかなかイメージが持ちにくいところではあります。

 むしろ、ライブドア得意の忍法「株式分身の術」など、風説流布以外の要因が複合的にからむことによって株価が高騰したようにも思えます。なので、この強制捜査は、ヒルズ住人の虚業体質にメスを入れる点で歓迎したい一方、なんとなく違和感もあるんです。

 昨年騒がれた、ライブドア社によるニッポン放送株の大量取得ですが、あれも「法律上」と「事実上」の食い違いが争点でした。法の抜け道を見つけたければ、そういう「法律と現実のズレ」を意識的に観察していくのが基本中の基本です。

 株式をたくさん買い付けるときは、不平等な結果にならないよう、みんなに公開しながら行うことになっています。これを株式公開買い付け(TOB)と呼びます。ニッポン放送との主従関係を逆転させるために、証券取引法にのっとり、同社の株式をオープンに買い付けていた最中だったフジテレビ。
 しかし、ホリエモンはTOB期間中、朝ちょっと早起きして、午前9時より前に、東京証券取引所の時間外買い付けシステム(トストネット1)をコンピュータ上で行い、数百億円を注ぎ込んでニッポン放送株を大量取得しました。

 トストネットは、株主ひとりひとりと交渉して契約を結ぶわけではなく、公共の株式市場を介して行われる取り引きには違いありません。ただ、「時間外」にコソッと買い付けたという印象は否定できず、当時、世間の非難を浴びました。
 たしかに、法律上はギリギリセーフなのかもしれませんが、証券取引法の立法趣旨に反していた。つまり、このTOB制度をつくった人たちの「フェアで気持ちのいい資本主義社会を実現させたい」という願い・祈りに背く行為だったのではないでしょうか。
 



| | コメント (0) | トラックバック (0)

2005年3月24日 (木)

人生の種目

スポーツ紙一面:大物芸能人が続々ホリエモン拒否(毎日新聞)

 この反応はねぇ、無理もないと思いますよ。だって、既存の価値を組み合わせて、新たな価値を世に問いたいと思っている人と、既存の価値をコレクションすることに躍起になっている人とは、お互いに友達としても付き合えませんって。ましてや、ビジネスパートナーなんて。

 信じているものが、自分の内側にあるのか、それとも外側にあるのか。おもにどっち側にあるのかで、参加している「人生の種目」は、まるで違ってくると思います。種目が違うのに「どっちがスゴいか」と張り合っても意味ありませんし。

 私ですか? 私はとりあえず、バイトする時間を執筆に回せる程度の金銭的余裕は欲しいです。

| | コメント (0) | トラックバック (0)

2005年3月11日 (金)

フジサンケイをめぐる法律問題(1)

 すみません。執筆したい気持ちだけは満々なんですが、悲しいことに書く時間がないのです。
いや、書く時間というより、調べる時間が足りないと言った方が正しいですけども。

 でも、先に挿し絵だけ描きましたのでアップしておきます。

050310yoyaku





商法 第280条の19
1 新株予約権トハ之ヲ有スル者(以下新株予約権者ト称ス)ガ会社ニ対シ之ヲ行使シタルトキニ会社ガ新株予約権者ニ対シ新株ヲ発行シ又ハ之ニ代ヘテ会社ノ有スル自己ノ株式ヲ移転スル義務ヲ負フモノヲ謂フ(※以下略)

商法 第280条ノ10
 会社ガ法令若ハ定款ニ違反シ又ハ著シク不公正ナル方法ニ依リテ株式ヲ発行シ之ニ因リ株主ガ不利益ヲ受クル虞アル場合ニ於テハ其ノ株主ハ会社ニ対シ其ノ発行ヲ止ムベキコトヲ請求スルコトヲ得

民事保全法 第23条(仮処分命令の必要性等)
1 係争物に関する仮処分命令は、その現状の変更により、債権者が権利を実行することができなくなるおそれがあるとき、又は権利を実行するのに著しい困難を生ずるおそれがあるときに発することができる。
(※以下略)



Click Here!

| | コメント (0) | トラックバック (1)

2005年3月 4日 (金)

第3の株取引 [ライブドア社をめぐる法律問題(2)]

--------- ライブドアが株を買うことは、資本主義社会では当然のことですよね。なんで、こんなに騒がれなきゃならないんでしょう。

 横枕「まず、その購入した数そのものの多さが、理由のひとつ。」

--------- でも、その大量の株と引き換えるだけの財力をお持ちなんだから、責められる筋合いはありませんよね。

 横枕「もうひとつは、その取引が密かに、潜行的になされた。少なくとも、フジサンケイグループ側がそう主張している、という点だな。」

--------- そうは言いますけど、隠れて買おうが、大っぴらに買おうが、堀江さんの勝手じゃないですか。


050302horie

 横枕「それが、そう簡単にもいかんのだよ。株をこっそり大量購入するというのは、100円ショップでスリッパを大量購入するのとは、ワケが違う。」

--------- どう違うんですか?

 横枕「普通、株はどこで買うかね。」

--------- えっ、証券会社ですか。

 横枕「その証券会社は、証券取引所を通じて、『売り』と『買い』をぶつけ合うことによって、株の取引を成立させる。そして、その手数料をもらうことによって、経営を成り立たせておる。」

--------- あっ、そうか。100円ショップのスリッパは、売る側があらかじめ『税込105円』と決めているけど、株は値段が決まってない。

 横枕「そのとおり。『いくらで何株売りたい』『いくらで何株買いたい』というお互いの希望が合致して、はじめて売買成立となるわけだから、値段と売買量だけでなく、取引の相手が誰かということも、事前には分からない。

--------- それがマーケット、市場原理の仕掛けですよね。でも、それがどうしたんですか。

 横枕「何よりもビジネススピードを重視したい堀江さんは、そういうチンタラした市場取引を嫌った。そんなチビチビした買い方では、ニッポン放送をライブドアの傘下に置く野望が、いつ実現できるか知れんからだ。」

--------- スケールのデカい話で、貧乏人にはピンと来ませんが。

 横枕「また、市場取引によれば、買い集めていけばいくほど、株価がどんどん釣り上がっていくという欠点がある。『買い』をたくさん入れるということは、売る側にしたら『そんなに欲しがっているんなら、多少高くても買ってくれそう』という心理がはたらくだろうからな。」

--------- じゃあ、マーケットを使わずに、どうするんですか。ニッポン放送の大株主と直接交渉していくんですか。

 横枕「まぁ、そうしたかったようなんだが、そんなホリエモンに、法律の大きな壁が立ちふさがった。」
 


◆ 証券取引法 第27条の2

1 その株券(※中略)について有価証券報告書を提出しなければならない発行者の株券等につき、当該発行者以外の者による取引所有価証券市場外における買付け等(※中略)は、公開買付けによらなければならない。(※以下略)

◆ 証券取引法 第27条の3

1 前条第一項本文の規定により同項に規定する公開買付け(※中略)によつて株券等の買付け等を行わなければならない者は、内閣府令で定めるところにより、当該公開買付けについて、その目的、買付け等の価格、買付予定の株券等の数(※中略)、買付け等の期間その他の内閣府令で定める事項を、時事に関する事項を掲載する日刊新聞紙(※中略)に掲載して公告しなければならない。 (※以下略)
 

 横枕「その株式会社の発行済株式の3分の1以上(33.34%以上)の取得を目指して、市場の外で取引しようとする場合は、『公開買い付け(TOB)』という方法で行わねばならんのじゃ。これに違反すれば、3年以下の懲役もしくは300万円以下の罰金(場合によってはその両方)が科せられる(同法第198条第4号)。」

--------- 義務なんですか。どうして、株の大量買い付けを行うときは、その行動を公開しなきゃならないんでしょう。

 横枕「普通、TOBで、世の中に散らばる株式をかき集めようとするときには、株式の時価(市場価格)よりも、買い取り価格を高く設定するもんだ。」

--------- なんでですか。

 横枕「そうせんと、誰もその人に売りたがらんだろう。」

--------- あぁ、そうか。

 横枕「だから、どの株主にも、その『他店よりも高く買います』という募集に応じるチャンスを平等に与えよう、という趣旨がひとつ。」

--------- そうか。株価の値動きとにらめっこするより、そのグラフを超える高値で買ってくれる人が別にいるんなら、そっちに売り払うほうが手間も掛かりませんしね。投資の面白さは半減するのかもしれませんけど。」

 横枕「また、前回『少数株主権』のところで説明したように、全体の3分の1以上の株式を占めていれば、『特別決議の拒否権』というものを発動できる。」

--------- はい。新株の発行や企業同士の合併といった株主総会の決定に、単独でストップをかけられる権利でした。

 横枕「そんな強力な権利を取得するまでのプロセスが、他のどの株主にも明らかになるようにしておこう、とする『手続きの透明性確保』という意味合いも大きいな。」

--------- でも、ニッポン放送株の大量買い取り活動は、フジテレビにバラしたくなかったんですよね。日本を代表する巨大企業の、えげつないパワーを恐れたと。」

 横枕「いつかはバレるにしても、その強烈な反撃が来るまでの時間稼ぎがしたい。なので、TOBという公開された方法では都合が悪いと考えた堀江さんは、残された『第3の取引』に目を付けたんじゃ。」

--------- だ…第3の取引!?

 横枕『時間外取引』あるいは『立会外取引』と呼ばれる方法だ。」

--------- なんですか、それ。

 横枕「証券取引所では、午前中の『前場(ぜんば)』と、午後からの『後場(ごば)』に市場取引されておる。それらのオンタイム以外になされる取引だよ。」

--------- はぁ。

 横枕「東京証券取引所では、機関投資家向けの『ToSTNeT-1(トストネット・ワン)』と、個人投資家向けの『ToSTNeT-2(同・ツー)』という、2種類の時間外取引システムが用意されておる。いずれも1998年に開設された新しい方法で、堀江さんは、この『1』のほうを利用した。」

--------- トストネット…。どういうシステムなんでしょう。

 横枕「本来は、世の中のいろんなオトナの事情で、気心の知れた人に一定の価格で株を売りたいとか、売った後にすぐ買い戻したいとかいう企業の都合を満たすためのものだ。」

--------- でも、それなら個人的に株を売り買いすればいい…… あっ、そうか!

 横枕「そのとおり。個別に市場外で取引するなら、TOBで買い付けねばならん。しかし、トストネットは東京証券取引所のシステムだから『市場内取引』という扱いになり、TOBの義務を免れることができるんだよ。『免れる』という言い方も変だが。」

--------- すげぇ…。フジテレビにバレずに、しかも、取引市場を通すことによる値上がりの危険性を避けながら大量購入ができる…。ホリエモン、ウハウハじゃないですか。

 横枕「トストネット・ワンは、平日の前場の前(8時20分~9時)、昼休み(11時~12時30分)、後場終了後(15時~16時30分)に開かれておる。堀江さんは、2月8日火曜日、前場の前に約588億円を投入して、約927万株を購入したとされている。この取引で、ニッポン放送の全株式の3分の1以上を手にすることに成功した。」

---------- ……!

 

■ 2月8日 ライブドアグループによるニッポン放送株買い取りの全貌

約定時刻1株の価格(円)売買高(株)売買代金(円)
8:226,050348万3220210億7348万
8:236,050135万7050 82億1015万
8:246,050125万0000 75億6250万
8:366,050 90万9360 55億0162万
8:466,050237万0640143億4237万

※ この他、売買代金50億円以下の取引が1回。

 (東証トストネット取引 超大口約定(売買代金50億円以上)情報から抜粋[毎日新聞 2/16朝刊記事より])
 

---------- でも、こんなに首尾よく買い取れるもんなんですか?

 横枕「だから、8日朝の時間外取引に先だって、事前に株式売買の取りまとめが行われていたんじゃないか、と各方面から指摘されておる。」

---------- だとしたら、その市場外で行われた売買の予約を、単に完結させるためにトストネットを利用したにすぎない、ってことになりますね。だとしたら、TOB義務違反の可能性が指摘されても仕方がないかもしれません。なら、最悪で懲役3年…。

 横枕「8日夕方の記者会見で『(株の大量買い取りを考えたのは)今日です、としか言いようがない』と発言したが、7日付けの社長日記には、『明日は早い。朝6時起床だもんね・・。』とも記載しておった堀江さん。」


---------- なるほど。前日までに、トストネットでのニッポン放送株取得が、スケジュールに組まれていたことが考えられますね。事前の市場外売買を疑う、情況証拠のひとつにはなりますか。

 

Click Here!


| | コメント (0) | トラックバック (2)

2005年3月 1日 (火)

ライブドア社をめぐる法律問題(1)

 彼らがマネーゲームで主導権を掌握するための、巧みな抜け道を探す程度にしか法律に関心がないのと同様に、私も法律が絡んでくるまでは、この「ライブドアVSフジサンケイ」の展開には興味ございませんでした。


---------- 先生、いっつもマイナーな法律系ニュースばっかり採り上げてますけど、たまには世間の話題にも素直に乗っかりましょうよ。

 横枕「キミのせいだろう。だいたいキミが、細かい脱力系ニュースしか持ってこんから、ワシはそれを解説するほかないんじゃないか。もう正直、うんざりなのだよ。」

---------- 最近のホットな話題といえば、なんといっても…

 横枕「最近じゃ、あんまり『ホットな話題』って言いかたはせんけどな。ライブドアな。」

---------- そうです。また堀江さんが一波乱おこしてらっしゃいますね。今度もなかなか大胆です。あの生ける伝説であるラジオ番組「オールナイトニッポン」で知られるニッポン放送の株を、せっせと買い集めて、ニッポン放送を乗っ取ろうとしているとのこと。

 横枕「そのとおり。」

---------- でも、なんで株を買い集めることが、会社の乗っ取りになるんですか?

 横枕「えっ、そんなとこから説明せにゃならんの?」

---------- 堀江さんは、ニッポン放送の株を買って、財テクをしたいんじゃないんですか?

 横枕「少なくとも、今回は違うんだよ。」

---------- 違うんですか? 株ってギャンブルですよね。本業や対人関係もそこそこに、買いどきや売りどきを逃さないよう、事あるごとに携帯の画面をにらみ付けるためにあるものです。

 横枕「……ヒドいな、キミの認識は。 投機性のある、ひんぱんな値上がりとか値下がりは、株式の副産物みたいなものだよ。少なくとも法律上は。」

---------- じゃあ、何なんですか。

 横枕「……オマエが何なんだよ。」

---------- 株をたくさん買っていけば、そのうち会社が自分のものになるってことですか。

 横枕「端的に言うと、そういうことだ。株式とは、株式会社の所有権を、みじん切りにしてバラバラにした、破片みたいなものなんだよ。」

---------- えぇっ! 会社をバラバラにぃ!! なんてことするんですか。

 横枕「いやいや、何をそんなに怒っとるのかね…。」

---------- だって…。たとえば、『株式会社 海山商事』をバラバラにするとしますよね。

 横枕「うむ。」

---------- そしたら「この破片は、会社の看板の『海』の字だ」とか、「このカケラは、総務課の電話の受話器だ」とかいうことになりますよね。

 横枕「はぁ?」

---------- この破片は、社長の愛用している部分入れ歯だな、とか。

 横枕「キミは何を言っておるのかね…。だいたい、そんな会社の破片があったら、気持ち悪かろう。」

---------- おぉっ、この破片は、美人秘書の色香漂うクチビルじゃないか、とか。

 横枕「ん、そういう破片なら、ワシもちょっと欲しいけどな。」

---------- 何を言ってるんですか、先生。いくらセクシーでも、クチビルだけだったら、気持ち悪いじゃないですか。

 横枕「……キミにだけは、つっこまれたくなかったよ。」

---------- 結局どういうことなんですか。会社がバラバラって…。

 横枕「株式というのは、細分化された会社の持ち分なんだよ。株式を持っているということは、その会社を他の株主と一緒に共有しているのと同じ意味。そういうふうに決めたんだよ。抽象的なルールだ。

---------- なーんだ。最初からそう言ってくれたらよかったのに。

 横枕「言わなくても、普通わかるだろ。」

050301kabu---------- つまり、『株式会社ジグソーパズル』の1ピースである株式を、たくさん持てば持つほど、その持ち分の割合がどんどん上がっていって、その会社に対しておよぼす支配力も増していくと。

 横枕「おっ、なんだか急に物わかりがよくなったな。」

---------- そして、バラバラになった美人秘書をすべて集めることに成功すれば、『あたしを元の姿に戻してくれてありがとう。チュ。』ということになって、うまくやれば付き合えると。

 横枕「……あぁ、やっぱりわかっとらんかったか。」



◆ 商法 第204条

1 株式ハ之ヲ他人ニ譲渡スコトヲ得 (※以下略)


---------- ライブドア社は、先週までにニッポン放送の発行済株式のうち、約43%を取得しているようです。さらに、「今週中に50%越えを目指す」と、堀江さんは高らかに宣言しておられました。

 横枕「そうらしいな。」

---------- でも、なんで50%にこだわるんでしょうか。キリがいいからですか。

 横枕「キミは、株主総会というのを聞いたことはあるかね。」

---------- 株主総会…。そういえば昔、ニュースで、そのスジの人が騒ぎ回ったとか何とかで報道されてたことがあります。総会屋でしたっけ。

 横枕「そう。株主総会とは、年に1回、その会社の所有者である株主が、全国から一堂に会する場だ。1株でも持っていれば参加できる、株式会社の最高意思決定機関とされておる。」


商法 第230条の10

 総会ハ本法又ハ定款ニ定ムル事項ニ限リ決議ヲ為スコトヲ得


---------- ってことは、株主総会は社長よりエライんですか?

 横枕「もちろん。だって、取締役を選んだり辞めさせたりは、株主総会の決議事項だからな。」


商法 第254条

1 取締役ハ株主総会ニ於テ之ヲ選任ス

商法 第257条

1 取締役ハ何時ニテモ株主総会ノ決議ヲ以テ之ヲ解任スルコトヲ得(※以下略)


---------- つまり株主総会で力を発揮できれば、その会社の取締役に誰を就かせるかも、自分の思い通りにできるんですか。

 横枕「さよう。株主総会での決議は多数決で行われるが、普通の多数決のように『1人1票』ではない。『1株1票』なのだ。」

---------- なるほど。だから堀江さんは、株式での過半数にこだわるんですね。金持ちほど、その会社で幅を利かせられるとは、身もフタもない感じもしますが。

 横枕「だが、それが株式会社という制度なんじゃ。大株主ほど、その会社に対して経済的に貢献しておるということでもあるからのぉ。」


商法 第241条

1 各株主ハ一株ニ付一個ノ議決権ヲ有ス

商法 第239条

1 総会ノ決議ハ本法又ハ定款ニ別段ノ定アル場合ヲ除クノ外総株主ノ議決権ノ過半数ヲ有スル株主出席シ其ノ議決権ノ過半数ヲ以テ之ヲ為ス


 横枕「じつは、大株主になると、株主総会での発言権が増す以外にも、さまざまな特典が付いてくる。」

---------- まだ何かあるんですか?

 横枕「株主の中でも、限られた一部の者のみが行使できる権利ということで、それらは『少数株主権』と呼ばれておるんだ。

---------- そうか。やっぱり金を持ってると、なんでもできるんですね…。


● 少 数 株 主 権 リ ス ト ●

  議決権(株式)の全体に占める割合 議決権(株式)の保有期間
 ・ 株主総会で議題のネタを提案する権利(232-2) 1%以上or300個以上 行使前6ヶ月以上
 ・ 株主総会の不正を専門に調べる人(総会検査役)の選任を求める権利(237-2) 1%以上 行使前6ヶ月以上
 ・ 取締役・監査役の責任が軽減された場合に、モノ申す権利(266XV・280I)
 ・ 会計帳簿などを見たり、その写しをもらったりできる権利(293-6など)
 ・ 会社の不正を専門に調べる人(検査役)の選任を求める権利(294)
3%以上 -
 ・ 「株主総会を始めるぞ、みんな集まれ」と呼びかけてくれ、と取締役に求める権利(237I)
 ・ 取締役・監査役の解任を求める権利(257Ⅲ・280I)
3%以上 行使前6ヶ月以上
 ・ 会社の解散を命じる判決を、裁判所に求める権利(406-2) 10%以上 -
 ・ 会社の簡易合併などに、反対の意思表示をする権利(413-3Ⅷ等) 16.67%以上 -
 ・ 株主総会での特別決議(増資・合併・営業譲渡・取締役選任・定款の変更などの重要事項)を拒否する権利(343I反対解釈) 33.34%以上 -

  (※カッコ内の数字は、商法典上の条文番号です。)

 

 

 横枕「ライブドア社は、以前からニッポン放送株を全体の5%ほど持っておったらしい。」

---------- 今回の、買い増しする前からですか?

 横枕「そのようだ。仮に、その5%を半年以上持っておったとすると、現在43%を保有しているライブドアグループは、ニッポン放送株式会社に対して、以上の少数株主権をすべて行使できることになる。」

---------- す…すげぇ。

 横枕「で、フジテレビジョンが持っているニッポン放送株は、12.3%。」

---------- でも、フジテレビは今、大々的に買い集めているそうじゃないですか。

 横枕「そう。それこそが、今回の騒動の核になるメインテーマだ。 フジテレビの話は、とりあえず、後回しにさせてもらおうか。」


   【つづく】



Click Here!

| | コメント (0) | トラックバック (1)

その他のカテゴリー

( 日本全国 マニアック博物館の世界 ) ★『47都道府県これマジ!?条例集』(幻冬舎新書) ★『サイコーですか? 最高裁!』(光文社) ★『ズレまくり! 正しすぎる法律用語』(阪急コミュニケーションズ) ★『罪と罰の事典』(小学館) ★『裁判官の人情お言葉集』(幻冬舎新書) ★『裁判官の爆笑お言葉集』(幻冬舎新書) ★恋の六法全書(阪急コミュニケーションズ) ☆『裁判傍聴マガジン』(イースト・プレス) 『話題』『重大』の判決日程表 【採り上げてくださったメディア】 とほほ権力 ぬれぎぬという理不尽 はじめてのお改憲 らしくない弁護士 正木ひろし クローン人間が誕生したときの法律問題 ニッポン「違法状態」探訪 ニッポン全国 これマジ!?珍部署 ニュース フィクション(架空)世界の法 フジサンケイ「新規参入」騒動 ミラクルニュースの研究 メールマガジンの追補 交通安全 ふしぎ発見! 人権擁護法案の「危険部位」を検証する 出版企画「疑似恋愛で乗り切る受験」 司法浪人いろはガルタ 司法試験挫折後…… 人生再建あれこれ 地方 ふしぎ発見! 地方 ふしぎ発見! ⇒ 珍イベント集 実定法としての皇室典範 文明VS大自然 日記・コラム・つぶやき 書籍・雑誌 本日の乱暴者 条例で見る“地方の時代” 〔その他〕 条例で見る“地方の時代” (中国・四国) 条例で見る“地方の時代” (中部) 条例で見る“地方の時代” (九州・沖縄) 条例で見る“地方の時代” (北海道) 条例で見る“地方の時代” (北陸) 条例で見る“地方の時代” (東北) 条例で見る“地方の時代” (近畿) 条例で見る“地方の時代” (関東) 死刑という刑罰 法と実態の矛盾 法と生命 法律の種(法案) 法律の芽(新法) 法律家の語録集 法科大学院 ふしぎ発見! 法解釈という名の言葉遊び 泥棒 ふしぎ発見! 私の知らない『原発裁判』の世界 私の知らないマイナー法の世界 第22回 最高裁判事国民審査へ向けて 第20回最高裁判事国民審査に向けて 第21回 最高裁判事国民審査に向けて 自由と正義の三百代言 ― 弁護士 自由業者の行き当たりバッタリ取材旅行 薬物犯罪と芸能界 街で見つけた「なんじゃこりゃ」 裁判ニュースつまみぐい 裁判傍聴録「レペタな私」 裁判傍聴録「レペタな私」〔ダイジェスト版〕 裁判員制度を裁く! 裁判員制度を輝かす 100の改善案 裁判所 このワンダーランド 裁判所が認めた「あたりまえ」 講演・シンポジウムの観覧録 逮捕ニュースつまみぐい 音楽 ( 小学生からわかる 裁判所のつくりかた ) ( 映画「ショージとタカオ」 ) 18禁法律学 4コマまんが