先日、某出版社から「『弁護士お言葉集』を書きませんか」という打診があったのですが、丁重にお断りして、別の企画で進めさせてもらうことにいたしました。
だって、現代の弁護士の言葉を取り上げて、面白いと思います?
誰かが与えてくれたメニューから人生の進路をチョイスし、何年か先の転職のことを考えながら就職し、ちょっとした困難にぶち当たったときは、まずコネ(他人の頭脳)を使って乗り切ろうと発想する連中をインタビューしたところで、「人々の心を響かせるお言葉が返ってくるはず」と期待するほうが無茶です。
そのうえ裁判官と違って、すでにテレビ番組や注目の法廷などで活発にあれこれ発言しておられる方も多いですし、いまさら弁護士が「犬のウンコ」とか「ど変態」とか言ってみたとしても、たいしてインパクトないでしょ。
>>>「司法試験合格者3千人、多すぎる」 法相が「私見」
司法制度改革の柱として司法試験合格者を年に3000人程度に増やす政府の基本方針について、鳩山法相は31日、報道各社によるインタビューで「ちょっと多すぎるのではないか」との見解を示した。法科大学院の現状についても「質的低下を招く可能性がある」と述べ、現在の政府の計画に疑問を呈した。
(※中略)
法曹人口を増やすために新設された法科大学院についても「法科大学院の発想は(修了者の)半分か、半分以上が法曹になるというもの。検事や裁判官も含め、格別に難しい試験を通った人だから信用しようという考えが、我が国にはある」との考えを述べた。 2007年08月31日 (朝日新聞)
なるほど……。 だったら、法務大臣になるのも「格別に難しい試験」を課してからにしましょうか。
あ、どなたかと思えば、第2次安倍内閣、新法相の鳩山邦夫さんじゃないですか。 はじめまして。 今後の動向によっては、ついついツッコミを入れてしまう場面があるかもしれませんが、よろしくお願いいたします。
これから弁護士になるのは、ますますお金がかかって仕方がないみたいですね。 まぁ、旧司法試験を受け続けるのも、かなりの経済的な負担がありました。
まずは予備校の基礎講座受けて、年中行事の答案練習会やら模試やら、あるいは苦手科目や改正法の特殊講義などをそのつど受講してたら、びっくりするぐらいお金が飛んでいきます。
司法試験予備校も、かつらや美容整形、ダイエットなどと同じく、一種のコンプレックス産業ですから、そのへんは抜け目ありません。
あまりにお金がかかるので、母校にある「松法会」という司法試験の自主勉強会の門をたたいてみたことがあります。 たしかに答練も模試もゼミもやっとるし、受験生の同志もたくさんいて楽しかったのですが、やはり人員もお金も潤沢にある司法試験予備校と比べたら、さまざまな面でクオリティが劣ってしまうのは、致し方ないところでしょう。
ただ、結果として挫折するんなら、どっちでもかまいません。
受験生によって個人差は大きいでしょうが、私の場合、出費はわりと抑えたほうだと思います。 それでも、司法浪人中の7年間でトータル200万円弱は注ぎ込んだでしょうか。
大半は両親に負担させてしまったので、今後の親孝行は大変ですけど、本が売れたので幸いにも助かっています。
新しい制度では、法科大学院を修了して法務博士号を取らなければ、司法試験の受験資格はありません。 法律家が全員ドクターという、いよいよ身もフタもない時代の到来です。 ちなみに、医師(ドクター)は、医学部を卒業しただけで博士号(ドクター)をもらえるわけではありませんけどね。
ドクターはドクターでないのに、法科大学院を出たらドクターという…… しかも法科大学院を出た法務博士は、博士論文を書いた法学博士とは扱いが区別されるといいます。 じゃあ、最初から「博士」と名づけなきゃいいのに。 なんだか難しすぎる仕組みです。
これから弁護士になりたい人は、まず適性試験というのを受けるにあたって予備校に通い、法科大学院の入試に受かるまで予備校へ通いつめ、法科大学院に合格したら2年から3年通って、年間100~200万円ほどの授業料を上納するそうですね。
もちろん、司法試験の受験準備のため、大学院の放課後は相変わらず予備校に通うわけです。 並のポテンシャルでは、カラダもサイフももたないことでしょう。
あとは、司法試験を受けるにあたって、出題・採点する考査委員の皆さんにも、いくらか包まないといけませんよね。 便宜を図っていただくんですから、先方さまにもそれ相応のメリットが要ります。
そうですねぇ…… 考査委員のジィさんバァさんたちが、ちゃんと老後を健やかに過ごせるよう保証すべく、一人あたま5千万~1億は握らせる必要があるでしょう。 あとは、自分の答案だと判別できるよう、なにか答案用紙に印を付けておけばOKです。
もちろん、人一倍お歳を召されている委員については、残された人生が少ない関係で、渡す額も少なめでよかろうと思いますが、今、考査委員って何人ぐらいいますかね? だいたい200人ぐらいですか?
とすれば、確実に弁護士になるには、ざっと100億ぐらいの出費を覚悟しなければなりません。 「弁護士業が、ボンボンやお嬢様の道楽になってしまう」といわれるゆえんです。
もちろん、出費を抑える方法はあります。 法科大学院によっては、合格者輩出の実績をつくらんがため、模擬試験の問題を通して、本試験問題をタダで漏らしてくださる先生がいらっしゃいます。 なので、そういう先生方が揃っている法科大学院に通えば、ワイロをいくらか節約できますよね。
ただ、そんな手っ取りばやく合格させてくれる法科大学院は、要領のいい法曹志願者からの人気を集めてますから、受験競争も激しいですし、本試験情報リークの付加価値があるぶん、授業料が吊りあがってしまうことも予想されます。 ただ、これも市場原理のあらわれですから仕方のないところです。
>>> 司法修習生、就職先未定が100人超す 日弁連の調査
来月から年末にかけて修習を終える司法修習生約2500人のうち、現時点で少なくとも100人以上の就職先が決まっていないとみられることが日本弁護士連合会の調査で分かった。例年なら行き先が固まっている時期だが、今年は、司法制度改革で司法試験合格者が増えている影響で、当初から「就職難」が予想されていた。調査結果は懸念を裏付けた形だ。 (朝日新聞)2007/08/26
このニュースは朗報だと思いますね。 一筋の光が見えてきましたよ。
「順当エスカレーター」に乗り遅れてしまい、取り残された100人超の「就職先未定」となった皆さんに対して、私はひそかな期待を寄せています。
なぜなら、史上はじめて、しょーもないエリート意識を削ぎ落とした弁護士が、この国に誕生する可能性が出てきたからです。 私は、彼ら彼女らを勝手に「オルタナティブ弁護士」と呼ぶことに決めました。
従来のオーソドックスな弁護士さんも頭脳明晰な方々ですから、社会的に立場の弱い人たちのことも、いちおう想像力で把握しようとなさるのでしょう。
しかし、オルタナ弁護士の皆さんは一味違います。 想像力なんか持ち出すまでもなく、現に自分たちが弱い立場へと放り出されているからです。 リアルに。
とすれば、人生に行き詰まった依頼人の気持ちも、その身体と気持ちで丸ごと理解することが可能でしょうね。
* 「むしゃくしゃして、ついやってしまったんです。 申し訳ありません! これでも反省してるんです!」
* 「オトコって、なんでいつもこうなの? どうして私だけ幸せを掴めないんだろう」
* 「明朝までに150万用意できないと、手形が不渡りになるんです! 先生、なんとか従業員を救ってください! なんでもしますから!」
……といった、せっぱ詰まった民衆からの悩みを大きく包み込み、自らの体験をもとにアドバイスできるだけの、度量や強靭さを身につけています。 オルタナさんは。
人間、追い込まれないと本領を発揮できませんし、試行錯誤の工夫もしたがりません。 その点、既存の受け入れ先から見放され、完全に金づるを絶たれたオルタナ弁護士は強いですよ。 「窮鼠猫を噛む」思いでしょうから。
もはや、イチから法律事務所をつくって、各方面へアグレッシブに営業を仕掛けるぐらいしか道はありません。
「どうせ作るなら、考えうる最高の法律事務所を立ち上げよう」という、その無謀きわまりない試みは、退屈きわまりない法曹界の中でも異彩を放ちます。 きっと「依頼人本位」を意識した施策を次々と打ち出し、なんとか経営を維持しようとすることでしょう。
「依頼人本位、顧客満足という市場原理に基づく発想は、弁護士業界を過当競争に巻き込み、従来の『良心的』な弁護士を駆逐するおそれあり」と考える人もいるかもしれませんが、それはそれで程度問題ですよね。
今までの弁護士業界が長い間、受け身の殿様経営でお茶を濁してきたために、あくまで反作用としてオルタナ弁護士が新たな動きを見せるにすぎません。
弁護士という職業の持つ醍醐味のひとつに「契約さえ結べば、誰の味方にだってなれる」という要素がありますよね。 権力者から大企業、各種有名人、犯罪者に至るまで、いろんな立場で知恵を絞れる仕事は楽しかろうと思います。
とはいえ、周囲から話を聞くと、特に現在の弁護士志望者たちは「勝ち馬に乗ろう」「長いものに巻かれよう」という発想で凝り固まっておいでの方が、明らかに増えているそうですね。 とりあえず「力を持ってる人が大好き」という、わかりやすい傾向が見られます。
もともと司法試験(殊に短答試験)が、「合格経験者の多数派解答」という名の勝ち馬に乗るテストですから、そうした訓練の賜物ではあるのですが。
もちろん、「つねに弱者の味方たれ」なんて説教する気は最初からありません。 社会的地位が盤石な者のそばにベッタリ、足元が擦り切れるぐらい立ち続けるのも自由でしょうよ。
ただ、そういった類の弁護士たちの態度は、着実に世の中を「つまんない方向」、ひいては「気持ち悪い方向」へと向かわせていますね。
勝ち馬から振り落とされる恐怖におののき、必死でしがみついていたいのは結構です。 とはいえ、弁護士もいちおう国家資格ですから、社会全体のバランスやダイナミズムを無視してまでやるこっちゃないでしょ。
えーと、弁護士バッジの中央に描かれているモノって、何でしたっけ? あいにく私の手元にはありませんので、弁護士さんは各自で確認していただきたいと思います。
法曹界ではかねて「2007年問題」として就職難を危ぶむ声が高まっていた。合格者は10年には3000人に増える見通しで、来年以降はさらに深刻になる恐れがある。
このため、日弁連は全国の弁護士事務所のほか、企業や自治体などにも雇用を呼びかけ続けている。弁護士業務総合推進センターの副本部長を務める飯田隆弁護士は「昨年末時点では最悪で500人が就職できないとみていた。全国の弁護士会を通じて雇用を働きかけ、最終的に40~60人程度に収めたい」と話している。 (同上)
「最悪」でも「深刻」でもありません。 もうねぇ、放っときゃいいんです。
オルタナ弁護士へと変貌するポテンシャルを秘めた人材を、わざわざ減らすこともないでしょ。 よけいなマネすんな。
法曹、特に弁護士というのは「ズル賢いお人よし」でなければならない、というのが私の持論です。 頭が切れるだけじゃ頼れませんし、優しいだけじゃ使えません。 最低でも、これら両方を兼ね備えているのが「オル弁」だとお考えください。
もし、このたび就職しそびれた弁護士の中に、「生まれてきた時代が悪かったんだ!」と、世の中を恨んでみたり、「とりあえずカネが要る!」と、やばい道に足を踏み入れたりする輩がいたならば、そりゃ彼らは、その程度の人材でしかなかったということです。
ただ、年間3000人も合格させてたら、さすがに1人や2人は「オル弁の卵」が混じってるはずでしょう。 もし、いつまで経ってもゼロのまんまなら、それは選抜試験のあり方のほうを疑うべきかもしれません。
ニッポンのどこかで、逆境から這い上がった掃き溜めのツル…… そう! つまり、真の「オル弁」が出現したなら、私は真っ先にお話を聞かせていただきたいですし、経営などの面でお困りなら、いくらか支援してもいいと思ってます。
日頃から、冗談やイヤミしか書いてませんので、「ひょっとして、これもナガミネ流の皮肉か?」と捉える向きもあるでしょうが、なにを隠そう、ここだけは本気なんです。 「ここだけは」って何だ。
「オル弁」の活躍を下支えする…… そんな日が来るのを夢見て、私は物書きとしてもっと稼いでいかなきゃなと思いますね。 そして今日も、次回著作の原稿がまるで進まないまま、こうしてブログで現実逃避しております。
一番「つまんない」のは自分やな。 そう痛いほど感じつつ。
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