2010年7月29日 (木)

しずかちゃんの入浴シーンは児童ポルノ!? 東京都条例案の反対イベントを観覧

 ちょっとご無沙汰してました。

 ここ10日ぐらい、いろんな〆切りが集中していて、テンヤワンヤでしたが、なんとか無事に山を越えることができました。

 

 今さら感のある話題ですが、先週の火曜日(20日)の19:30より開かれたイベント

月刊「創」プレゼンツ / LOFT/PLUS ONE 15th Anniversary 「非実在青少年」とは?「マンガの性表現規制問題徹底討論」

に、顔を出してきたことをご報告します。

 
 

20100720202339
 

 お笑い好きなので、芸人のトークライブが多い「ネイキッドロフト」のほうへは何度も足を運んだことがあるんですが、ロフトプラスワンは初めて。

 ということで、ちょっと道に迷いました。 間違えて、音楽ライブハウスの「ロフト」のほうに入ってしまって、店員さんに尋ねる始末。

 このイベント、堅苦しいシンポジウムとは違って、ビールや軽食などもサービスされ(というより、必ず1品以上は注文しなきゃいけないんですが)飲み食いしながら気楽に聴けるイベントです。

 気づけば、ひとりで3800円も使ってました。 店の思うツボ……。
 

 問題の「架空キャラ児童ポルノ規制」改正案ですが、

 漫画やアニメなどで登場する18歳未満という設定の架空キャラクター(改正案では「非実在青少年」という特殊な呼び方をしています)の、

 性交や性交類似行為(フェラチオやAFなど)を「みだりに性的対象として肯定的に描写」することで「青少年の性に関する健全な判断能力の形成を阻害し、青少年の健全な成長を阻害するおそれがあるもの」を、

 不健全図書(18禁)として指定できるというものです。

(改正案条文)

【業界による自主規制対象】(改正案7条2号)
 年齢又は服装、所持品、学年、背景その他の人の年齢を想起させる事項の表示又は音声による描写から十八歳未満として表現されていると認識されるもの(以下「非実在青少年」という。)を相手方とする又は非実在青少年による性交又は性交類似行為に係る非実在青少年の姿態を視覚により認識することができる方法でみだりに性的対象として肯定的に描写することにより、青少年の性に関する健全な判断能力の形成を阻害し、青少年の健全な成長を阻害するおそれがあるもの

【都による不健全図書指定対象】(改正案8条2号)
 販売され、若しくは頒布され、又は閲覧若しくは観覧に供されている図書類又は映画等で、その内容が、第七条第二号に該当するもののうち、強姦等著しく社会規範に反する行為を肯定的に描写したもので、青少年の性に関する健全な判断能力の形成を著しく阻害するものとして、東京都規則で定める基準に該当し、青少年の健全な成長を阻害するおそれがあると認められるもの

 

 しずかちゃんの入浴(シャワー)シーン」は、非実在青少年の性的な描写だから、ドラえもんは成人漫画になるのか? ……という疑問がよくいわれますが、

 改正案条文中の「性交又は性交類似行為に係る」という部分を強調すれば、ここでいう規制には引っかからないように読めますけどね。

 さすがに、シャワー浴びるのが性交類似行為ということにはならないでしょう。 普通に考えて。

 ただ、この世界には「拡張解釈」という(ゴリ押しにも使える)テクニックがありますので、「シャワーを浴びるのは、性交の準備を連想させるのでダメ」とかいう言い分で、規制をねじ込むことも、いちおう可能になってしまいます。


 今回のイベントの話し手ですが、以下のようなメンバー。


【出演】
山本直樹(マンガ家)
藤本由香里(明治大学准教授)
永山薫(評論家)
長岡義幸(インディペンデント記者)
谷雅志(日本雑誌協会編集倫理委員会副委員長)
西沢けいた(民主党都議)
兼光ダニエル真(翻訳家)
大野修一(『COMICリュウ』編集長)
揖斐憲(『サイゾー』編集長)、他。
【司会】
篠田博之(月刊『創』編集長)

 

 この中の長岡さんとは面識があるので、ご挨拶しようかと思ったのですが、皆さんのエロ漫画談義が白熱して、終了予定時刻より1時間以上もオーバーし、終電に間に合わなくなりそうだったので、中座しました(そもそも終了すべき時刻を過ぎてるんだから、中座とはいわないかも)。

 

◆ イベント内で、印象的だった話

 (4時間以上も観て、これだけかい……↓ と自分でも思いますが、全般的には面白かったです)

 


・ 男だけで改正案に反対していると、「自分がエロ漫画を読み続けたいだけだろ」という偏見が避けられないから、女性メンバー(特に子を持つ母親)に、反対側に加わってもらうことは重要。

・ 秋葉原などでアピールするのも大事だが、そのへんの爺さん婆さんや女子大生などに対して説得力のあることをどうやって伝えていくかが課題。

・ 「反対だ」とたくさん言えばいいってもんじゃない。相手に合わせて、反論のスキルアップをしていかなければならない。

・ 大阪府では「BL(やおい)規制」も検討されている。 東京都でも議論が始まった模様。

・ 欧米諸国では、この性的表現の類の規制は、どの出版物でも一律に行われる。 日本では、一般誌には厳しいが、専門誌(美術誌やアングラ誌など)には比較的寛容というダブルスタンダード(二枚舌の基準)がみられる。

・ 「非実在青少年」は、本来はゾーニングの問題(仮に規制が加わっても子どもに読ませないだけで、18歳以上なら問題なく読める)なのだが、未成年が登場人物のエロ漫画をそもそも取り扱わない大手書店やネット書店も多い。だとしたら表現の自由などの問題とも衝突しうる。

・ 東京弁護士会は、改正案の条文を挙げて、さまざまな問題点を指摘しているが、東京都側は「誤解がある」などと反論している。法律家が誤解するような条文というのは、いかがなものか。

・ 石原慎太郎東京都知事は、「非実在青少年」のことを「非現実青少年」と言い間違えていた。

・ 刑法学者の前田雅英教授(東京都青少年健全育成審議会委員)は、参考人聴取でため息混じりに「他の問題も、これくらい真剣に議論してくれたらいいのに」とこぼしていた。

・ アメリカの子どもにとって、アルコールを手に入れるより、規制図書や成人漫画を手に入れるほうが難しくなっている。

・ アメリカの統計によると、エロ本を読まない人に性犯罪者が多いとか!? 子どもの頃に、エロ本をたくさん読んでも、みんな立派な大人になっている。

 

◇◆ お知らせ ◆◇

 先日、詐欺被害に遭った友人ですが、警察と消費生活センターに届け出た結果、相手方弁護士を通じて、振り込んだ金はすべて返ってきたそうです。めでたしめでたし。

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2009年6月22日 (月)

臓器移植法の改正について、気合いを入れて考えてみる

 臓器移植法の改正案が、衆議院を通過し、現在は参議院で審議されています。

 A~Dまで4つの改正案があったものの、最も臓器移植の「規制緩和」につながるA案が、衆議院議員の過半数の賛成を得たのです。

 その内容は、脳死者が前もって明確に、臓器移植を拒む意思を示していない限り、その家族の承諾を事後に得れば、臓器移植が可能であると書かれています。

 現在は、15歳以上の者が前もって、脳死や心臓死の場合の臓器移植について、認める意思をカードなどで示していない限りは、臓器移植できないことになっていますから、大幅な規制緩和です。

 これは、自分の財産などの処分について最終意思を文書で示す「遺言」が、民法上、15歳以上の者にしか認められていないことに準じた措置だとされています。

 問題は15歳未満の場合です。

 肝臓などは切断しても機能するので、成人の臓器を子どもに合わせたサイズにして移植することもできるかもしれません(違っていたらお知らせください)が、心臓や腎臓などは、それができません。

 なので、同じくらいの年齢の子ども同士で移植を行うことになります。

 しかし、日本国内では、この臓器移植法によって、15歳未満の子どもからの臓器摘出が禁止されてきたので、そうした制限のない外国で移植を受けるしかないという選択をするしかなくなります。

 「選択をするしかなくなる」というより、ここにあるのは、わが子を思う親の感情に他なりません。

 50年前、100年前なら、「これも運命」と延命をあきらめるしかなかった不治の病が、医療技術の飛躍的な進歩によって実現にこぎつけたのです。

 しかし、ヨーロッパでは、すでに日本人患者の受け入れを拒むようになっています。 親日的な国として知られるオーストラリアでも同様です。

 移植でまかなわれる臓器は、その国の患者に優先して「分配」されるという、無理もない方向性です。

 すがるべき国として残っているのはアメリカ合衆国。なので、幼児の心臓移植といえば、決まって「渡米」という流れになっています。

 ただ、アメリカで日本人に臓器移植をする場合は、極めて高額のデボジット(要はお金)を負担させられることになります。 本来は、日本円で1千万円台で可能だといわれる心臓移植も、アメリカで行えば1~2億円、最近では約4億円を要求されるようです。

 客観的には「足元を見られている」としても、仕方のない状況かもしれません。

 これも、アメリカ側にだって「自国民を優先して救いたい」という、素朴な国民感情が背景にあるからではないでしょうか。

 

 しかし、技術の進歩によって救われる命もあれば、臓器を摘出されて、確定的に還らぬ者となった、幼き脳死者もいます。

 脳死とは、人工呼吸器などを付けている限りは、自発的に心臓を動かして生きていける状態を指します。 人工呼吸器など延命装置が発明されて、初めて生じる状態といえるのでしょう。

 少なくとも現在の医学によって、その脳死者の目を覚まさせることは不可能です。ただ、心臓が動いている間は、脳死状態の人でも髪の毛や爪が伸びたりするなど、身体の成長がみられます。

 ここに、脳死を「死」だと、にわかに受け入れきれない家族の感情が湧きおこる源があると考えられます。

 臓器移植法について議論するとき、「日本人の死生観」というキーワードが盛んに叫ばれます。

 たとえば「生前はどれだけ悪事を働いても、自分たちの敵であっても、亡くなったら丁重に弔う」というのは、日本文化に独特のメンタリティかと思います。

 ただ、そのメンタリティを、臓器移植の問題と結びつける根拠として持ち出すのはだいぶ弱いかな、むしろ関係ないんじゃないかという印象です(ほかに日本人に独特の死生観があるとすれば、ご教示くださるとありがたいです)。

 日本人は情緒的で、欧米人は合理主義、非常に大ざっぱにいえばそうかもしれません。

 しかし、脳死状態の子どもを持つ個々の親にとってみれば、呼吸もあるし心臓も動いているわが子から臓器を取り出されることに抵抗があるのは、国や文化圏の差など関係ないと思うのです。

 それでも、諸外国の人々は、どこかで「脳死と死」の問題について、ギリギリのところで折り合いをつけて、ドナーに名乗り出て、今救える命を救っているのでしょう。

 この問題に限らず、持論を補強する根拠として、安易に「文化的背景」や「国柄」を据えるような人たちを、私は疑います。 そこまで世の中は一面的でない。

 そんなに世の中が単純にできているなら、私たち思い悩む必要もないし、書店に山ほど本が売られている意味もないのです。

 

 「臓器移植の場合に限って、脳死を人の死とする」という、今までの扱い自体、お世辞にも自然の摂理に合うとはいえない、きわめて技術的なものでした。

 それをA案は、広く一般的に、脳死を人の死とするという扱いにしようというんですね。「臓器移植の場合」という限定が外れたぶん、不自然さは薄れました。

 そもそも、臓器移植法という、一種の手続きを定める技術的な法律に、「死とは何か」という、哲学的・宗教的・人道的な根幹テーマを据えることは、荷が重すぎるといいますか、ムリがあると思うのです。

  「死とは何か」の定めは、臓器移植法という一種の手続法より、民法や医師法など、もっとふさわしい場所がある気がします。

 こうした基本法の改正問題として話が持ち上がったなら、もう少し国会内での議論も深まった可能性が高かったろうと思います。

 

 また、A案で、仮に可決成立したとして、今現在、脳死状態の人の世話をしている方々へのフォローはどうするのかも問われます。

 「あなたは、死者を世話してるんだよ」という心ないことを、面と向かって言う人はいないでしょうが、そう言っているに等しい内容の法案なのです。

 もしかしたら、今現在、脳死状態で、家族が奇跡を信じて延命措置を続けている人については、適用から外すという選択肢もあっていいかもしれません(法技術的に不可能だったらすみません)。

 そのうえで、脳死者が臓器ドナーになることに同意した家族については、臓器移植を推進する国から、一時金の支給や、年金の大幅上乗せなど、ある程度の「お礼」があっていいと思います。1度の臓器移植で、複数の自国民を延命できるのですから。

 これをもし「臓器移植のインセンティブ」だと考えれば、ちょっと合理主義が過ぎる感はありますが、それは見方や呼び方の問題にすぎず、あくまで「ドナーとなることに同意したお礼」だと位置づけることが肝要でしょう。

 もし「日本人の死生観」という特殊なものがあるとして、それに基づき、脳死者を含む死者を、穏やかに丁重にとむらうためには、ある種、逆説的な意見かもしれませんが、人工臓器(被移植者自身のIPS細胞で作成した臓器も含む)の開発を推進して、安心して実用できるレベルにまで持って行く必要があると考えます。

 景気対策という免罪符をもとに、よくわからないハコ物に国家予算をつぎ込むより、人工臓器研究に今まで以上の費用を投じる一方、臓器移植法には「人工臓器が実用水準に至るまでの経過的措置である」ことを明記すべきだと考えます。

 傷病により機能を失った臓器に代わるものは、生体にそっくりの機能を果たす人工臓器であるべし。

 他者から移植された臓器を使わせていただくのは、あくまで、その技術が確立されるまでの間に許される、次善の策ではないだろうか、というのが、私の現時点での立場です。

 (以上、メールマガジン「ウィークリーながみね」の、冒頭からの転載です)

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2009年6月15日 (月)

皆さ~ん! これからは、違法コンテンツをダウンロードするのも違法になりますよ!

 著作権者(プロアマ問わず)に、なんの許可も取らず、映像・写真・文章・音楽などの作品(著作物)を、インターネット上に勝手にアップした人は処罰されたり損害賠償を請求されます。

 けれども、そういう違法に流通する著作物を、自分のパソコンに取り込んだ人まで、違法性を問われることはなかったわけです。

 たとえはよくないですが、たとえば、裏DVDを作ったり売ったりした人は処罰されるけれども、買った人は処罰されないよとか、そういった話に近かったのです。

 

 あるグラビアアイドルが載った、写真集や週刊誌から、ページをスキャナで取り込んで、ネット上に勝手に並べたら違法だけれども、そのアイドルのファンが、そうした違法サイトを訪れて、写真をダウンロードするのは合法でした。

 まぁ、中高生の男子なら、やってる輩も少なくないかもしれませんね。

 しかし、来年の正月から、そうしたダウンロード行為まで違法として扱われます。

 安易な気持ちでやってしまいがちなので、十分にご注意ください。

 

 そんな内容が盛り込まれた、著作権法の改正案が、先週の金曜日、国会を通過し、可決成立しました。

 ナメちゃいけませんよ。最高に悪質な場合で、懲役10年と罰金1000万円が、両方とも科せられる可能性がありますから。

 かりに刑事事件としての立件はなくても、民事で著作権管理会社から多額の損害賠償が請求され、人生がパーになってしまうかもしれません。

 

 ただ!

 皆さん、感づいていらっしゃる疑問でしょうけれども、

 その疑問、あえて私も書いちゃいます。

 

 「ダウンロードなんか、どこまで警察が把握して取り締まれるんだ?」

 ……そのナゾは、つねに付きまとうところでしょう。 単に掛け声だけで終わってしまうのでしょうか。

 

◆ 著作権法 第30条
1 著作権の目的となつている著作物(以下この款において単に「著作物」という。)は、個人的に又は家庭内その他これに準ずる限られた範囲内において使用すること(以下「私的使用」という。)を目的とするときは、次に掲げる場合を除き、その使用する者が複製することができる。 ←ここまでは今までどおり。

【改正法】(※衆議院公式サイトより)
第三十条第一項に次の一号を加える。

   三 著作権を侵害する自動公衆送信(国外で行われる自動公衆送信であつて、国内で行われたとしたならば著作権の侵害となるべきものを含む。)を受信して行うデジタル方式の録音又は録画を、その事実を知りながら行う場合

 


 

 ここでいう「自動公衆送信を受信して行うデジタル方式の録画」とは、MPEGなどの動画ファイルを、自分のパソコン端末に取り込むことなどを指しています。

 WinMXやWinnyなどの、いわゆるファイル交換ソフトの使い手も、動画ファイルのダウンロードをしているわけですから、違法性を問われる可能性がありますね。

 やっぱり新作映画は、素直に映画館で観なきゃいけないようです。

 まぁ、ソフトが自動的にダウンロードしたファイルであれば、「その事実を知りながら行」ったわけではない! という弁解は、いちおう成り立ちそうです。

 とはいえ、ファイル交換ソフトは、パソコンに保存している個人情報や機密情報の意図しない流出が常に付きまといますので、著作権問題以外でも気をつけなければなりません。

 個人的には、そういうソフトは管理が面倒だし、かぶるリスクが割に合わないなと思うんですが、それでも構わないと信じる方だけ使えばいいと思います。 あんまり好きな言葉じゃありませんが「自己責任」で。

 

 なお、Youtubeなどのストリーミング方式で観る場合は、現時点においては「複製」に当たらず、今までどおり合法だといわれています。

 皆さんもご存知のとおり、Youtubeには、テレビ番組など、放送局の著作物である動画が、山ほど違法にアップされていますけれども、それらを私たちがブラウザ上で観るだけなら、従前どおりOKだということなのでしょう。

 ただ、こんなものは解釈・運用でいくらでも変更される可能性がありますので、今後の続報に気をつけながら、普段どおりネットを活用することが肝要なのかなと思います。

 私からは、そういう一般論しか申し上げられません。

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2009年5月31日 (日)

改正薬事法が潰すもの

 6月1日、つまり明日、改正された薬事法が施行されます。

 改正の目玉は、薬の「対面販売の原則」を徹底すること。

 なので、インターネットや電話を通じての通信販売は、ビタミン剤など副作用が極めて少ない薬品をのぞき、全面的に禁止されることになります (今まで通信販売を使ってきた患者については、いちおう2年間の猶予期間あり)。

 ただ、「対面販売」というもので、薬の副作用を食い止める利益が、てんびんの片方にあるとして、もう片方に、「持病などで動くのが困難な人、過疎地で薬局が身近にない人の手元に、薬が届く利益」を乗せたとしたら、はたしてどっちに傾くのか。

 

 北陸や九州などの地方には「伝統薬」というジャンルが根強く残っています。

 基本は自然界から取れる生薬をベースに作られていますから、たとえば妊婦さんが飲んでも問題のない薬など、ケミカルな薬剤では代替できない効能が期待されるようです。

 何百年間にわたる歴史や伝統は、他の追随を許さない立派なものなのですが、基本的には先祖代々続く零細企業で、大量生産も難しいので、全国の薬局へ販路を広げるような方法をとれない。

 そこで、「電話」という販売方法が唯一の命綱になるわけです。

 しかし、薬事法の改正が、その命綱を断つことになりかねません。このままでは。

 

 なぜ、そこまでして当局は対面販売にこだわりたいのでしょう。

 薬剤師による問診なら、電話やネットでもできますよね。

 もし、副作用などの説明が、パソコン画面上に文章で示されるだけでは不十分で、口頭で聞かせないとダメというのであれば、電話販売までは認めてもいいんじゃないでしょうか。 せめて、副作用が比較的少ない伝統薬については。

 十把一絡げで、いっぺんに慌てて規制してしまう、雑な感じが気になります。 これでは、対面販売推進に「裏」があると勘ぐられても仕方がない。


 

 先週月曜日、薬品ネット販売会社のケンコーコムと有限会社ウェルネットが、国を相手どって東京地裁に提訴しています。 もちろん、薬事法改正に物申す内容です。

 患者さんの「身体の安全」を確保するとされる対面販売の徹底が、ネット販売会社の「営業の自由」を侵害する…… というありがちな構図では、本来の問題が矮小化されるでしょう。

 対面販売の徹底によって、薬品が手に入りにくくなり、かえって一部の患者さんの身体の安全を阻害してしまうリスクについて、正面から議論していっていただきたいと願います。

 しかも、ネット販売などを禁じているのが薬事法そのものでなく、薬事法施行規則と呼ばれる、厚生労働省が一方的に定めた、国会の民主的手続きを経ていないルールであるということにも問題があるでしょう。

 法律を超えるレベルの強い規制を、施行規則で行うことは、国民主権に沿わないはずです。

 ともかく、裁判の行方に注目しましょう。 裁判所は、ものの道理が通る数少ない役所のひとつだと信じております。

 

◆ 薬事法施行規則 第15条の5(薬局医薬品の販売等)
  薬局開設者は、薬局製造販売医薬品(令第三条第三号に規定する薬局製造販売医薬品をいう。以下同じ。)その他の一般用医薬品以外の医薬品 (以下「薬局医薬品」という。)を販売し、又は授与する場合には、調剤及び医薬品の販売又は授与に従事する薬剤師に、当該薬局において、対面で販売させ、 又は授与させなければならない。

◆ 薬事法施行規則 第15条の6(薬局医薬品を販売等する場合における情報提供等)
1 薬局開設者は、その薬局において薬局医薬品を販売し、又は授与する場合には、調剤及び医薬品の販売又は授与に従事する薬剤師をして、その適正な使用のために必要な情報を提供させなければならない。
2 薬局開設者は、前項の規定による情報の提供を、次に掲げる方法により、調剤及び医薬品の販売又は授与に従事する薬剤師に行わせなければならない。
 一  当該薬局内の情報提供を行う場所(薬局等構造設備規則第一条第一項第十号に規定する情報を提供するための設備がある場所をいう。次条、第十五条の十三及び第十五条の十四において同じ。)において、対面で行わせること。
 二  医薬品を購入し、又は譲り受けようとする者における当該医薬品の使用が適正なものであること又は不適正なものとならないことを確認するための質問又は説明を行わせること。
 三  次に掲げる事項を記載した書面を用いて説明を行わせること。
  イ 当該医薬品の名称
  ロ 当該医薬品の有効成分の名称(一般的名称があるものにあつては、その一般的名称。以下同じ。)及びその分量(有効成分が不明のものにあつては、その本質及び製造方法の要旨。以下同じ。)
  ハ 当該医薬品の用法及び用量
  ニ 当該医薬品の効能又は効果
  ホ 当該医薬品に係る使用上の注意のうち、保健衛生上の危害の発生を防止するために必要な事項
  ヘ その他当該医薬品を販売し、又は授与する薬剤師がその適正な使用のために必要と判断する事項

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2009年2月 5日 (木)

今年の通常国会 注目の法案たち

■民法の改正案

 

 <婚姻適齢>
 日本国内で結婚できる年齢は「男18、女16」です。これは常識になってますよね。この常識が近いうちに変わるかもしれません。 女性の婚姻適齢を引き上げ、いずれも「18歳以上」が条件とするのが、本法案のまず一つ目。

 <待婚期間>
 また、現行の民法で、女性は離婚後6カ月経たないと再婚しちゃいかんと定められています。 この待婚(再婚禁止)期間は、離婚した女性に子どもが産まれた場合、誰の父親なのかをハッキリさせるために空白を設けるものとされていますが、これを「100日」(3カ月チョイ)に縮める案も出ています。
 こちらの根拠も、「両性の本質的平等」(憲法24条)に立脚するのでしょう。

 ただ、100日間どころか、待婚期間の規定すらない(廃止された)国もあるようですね。 時代の流れにより、DNA鑑定など、客観的に父子関係を推認する手段が出てきましたし、社会常識やライフスタイルも変化しています。

 いま、性行為の根拠は、婚姻関係に基づくモノだけでしょうか。 婚姻関係が破綻寸前になっている人が、その関係修復を半ばあきらめ、配偶者以外の者と性行為に及ぶことも十分にありえます。 そのことを「不貞」「ふしだら」と非難する声だって、もはや日本国内においてもそう大きくないような気がしています。(私見)

 

 <選択的夫婦別姓>
 ほかには、選択的に夫婦別姓を認める条文も提出されています。 個人的にはこの件について保守的な意識でして、自分のかみさんになる人には「長嶺」の姓としてほしいのが本音です。

 もちろん、いろんな事情で別姓を選択する夫婦は、それはそれでいいのでしょう。 ただ、すんごい中途半端ですよね。 そんなら同棲ないし事実婚でよかろうと。

 情緒的な話ですが、苗字が統一されているために家族や親戚一同が一体性を保てる、という心理的効果は軽視できないなと思います。

 「たとえ苗字は別々でも、互いを思う感情はバッチリ溶け合ってるのよ」と、強く思いこめる人々は幸せですが、人間って、けっこうカタチから入っちゃうものだと思うので。

 いや、「苗字は一緒でも、墓は別」という夫婦もいるそうですし、一概にはいえないのかも。 いずれにせよ、これからますます、婚姻制度の意味そのものが薄れていくのは確実な流れです。

 

 <非嫡出子の法定相続分における差別規定>
 さらに、嫡出子(結婚している夫婦の間で生まれた子)と、非嫡出子(そうでない子)との間で、法定相続分が違っていましたが、それを同じに扱う案も提出されています。この問題につき最高裁はまだ違憲判決を出していませんが、少数ながら違憲とする判事がいる現状も無視できませんな。


 

■刑事訴訟法の改正案

 なんといっても、「取り調べの場に、弁護人が立ち会える」という提案は大きいですね。 ハリウッド映画などではよく見かける場面ですが、今の日本ではありえません。

 日本の弁護人は、被疑者・被告人と接見して、透明プラスチックの壁ごしに「キミはひとりじゃないからガンバレ」と励ましたり、「これに取り調べの状況を毎日メモしなさい」と、ノートを渡したりするのが精一杯。

 いや、被疑者の取り調べ段階で弁護人が就いているなら、むしろ幸せなほうです。自力で弁護士に頼めない被疑者には国選弁護人が就くことになりますが、それはさんざん取り調べが行われ、起訴された後にようやく、ですからね。

 取り調べを担当する警察官や検察官は、いったい何をやっているのか、誰も客観的に検証することはできません。
 手がかりになるのは、被告人が法廷で話した内容ぐらいのもの。もちろん、被告人が何と弁解しても、裁判官からは疑いの目で見られるのが現実です。取調官が作成した供述調書の内容も、被疑者が話した内容をどこまで忠実に再現していることやら。

 
 
 

■刑法の改正案

 大きな目玉は、「不正指令電磁的記録作成・取得罪」(いわゆるコンピュータウイルス罪)の導入案です。これはおそらく可決成立するのでしょう。

 今の法律上、コンピュータウイルスを作ること自体は犯罪じゃありません。それどころか、わざと他人のパソコンに送り込むことも、その人の仕事(業務)を妨害しない限りは、原則として罪に問えません。その規制の穴をふさごうというんですね。

 ただ、この改正をもってしても、「他人の携帯電話の番号メモリーを勝手に消去すること」や「他人のテレビゲームのセーブデータを勝手に消去すること」などは、依然として犯罪にはなりません。ご注意を。(※民事上の損害賠償責任は負うかもしれませんが)

 
 

■ 児童買春、児童ポルノ処罰法の改正案

 一時期さわがれた「児童ポルノの単純所持罪」法案です。本来は、去年の11月に成立している予定だったのですが、いろいろあって延びているみたいですね。

 ここでいう児童ポルノには、「衣服の全部又は一部を着けない児童の姿態であって性欲を興奮させ又は刺激するもの」(同法2条3項3号)まで広く含まれます。

 蒸し暑い夏の日の昼下がり、家の庭のビニールプールで無邪気に遊んでいる、わが幼い娘の写真まで、ヘタしたら「児童ポルノ」として扱われ、それをパソコン内に保存している父親に対する別件逮捕の口実に使われるのではないか?と懸念する声もあります。

 また、他人からメールなどでムリヤリ、大量の「児童ポルノ」画像を送りつけられた人も、所持罪として取り締まりの対象にするのでしょうか。

 「警察も、さすがにそこまではしないだろう」と信用したいところですが、何かの間違いで万が一でも逮捕の矛先が向けられたら、私たちは逆らえませんよね。逆らったら公務執行妨害ですからね。

 安全装置は徹底して取りつけておくに越したことはありません。 そこで当法案には「自己の性的好奇心を満たす目的で、児童ポルノを所持した者」という限定が付いています。

 性的好奇心を満たす目的というのも、非常にあいまいな表現ですので、100%の安全弁にはなりえませんが、捜査機関に対し、まったく限定なくフリーハンドの権限を託してしまうよりはマシなのでしょう。

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2006年1月22日 (日)

登録商標になれなかった「草加せんべい」

草加せんべい、偽物許さず(朝日新聞)

 そんなブランドせんべいを食べるような身分でない私が、どうこう書く話ではないでしょうが、ま、あれこれ書いてみることにいたします。

 商標(ブランド)って、なかなか面白い世界です。日本では、文字や図形など、視覚的な目印のみしか許されませんが、国によっては、音やニオイなども立派な商標として通用したりします
 たしかに、ただよってきたニオイで、「あっ、あの店のポークカレー!」という認識をすることもあるでしょうが、そんなボンヤリしたものを法律で保護しようってんですから、ちょっと不思議な感覚です。国民の嗅覚が発達したワンワン王国ならありうるでしょうか。 なんだ、ワンワン王国って。

 ただ、創作した瞬間に発生する著作権などと違って、商標は、わざわざ特許庁に登録しないと権利を持てないことになっています。めでたく登録商標として認められれば、まぎらわしい商標を勝手に騙るニセモノに対して、差し止めや損害賠償を求める強力なチカラ(商標権)が備わるのですが……。

◆ 商標法 第3条(登録商標の要件)

1 自己の業務に係る商品又は役務について使用をする商標については、次に掲げる商標を除き、商標登録を受けることができる。

 一  その商品又は役務の普通名称を普通に用いられる方法で表示する標章のみからなる商標
 二  その商品又は役務について慣用されている商標
 三  その商品の産地、販売地、品質、原材料、効能、用途、数量、形状(包装の形状を含む。)、価格若しくは生産若しくは使用の方法若しくは時期又はその役務の提供の場所、質、提供の用に供する物、効能、用途、数量、態様、価格若しくは提供の方法若しくは時期を普通に用いられる方法で表示する標章のみからなる商標
 四  ありふれた氏又は名称を普通に用いられる方法で表示する標章のみからなる商標
 五  極めて簡単で、かつ、ありふれた標章のみからなる商標
 六  前各号に掲げるもののほか、需要者が何人かの業務に係る商品又は役務であることを認識することができない商標

 『草加』が、3号にいう「産地、販売地」に該当するのでしょう。埼玉県草加市ですね。そして『せんべい』が1号の「その商品の普通名称」にあたるということだと思われます。

 草加に住んでいるせんべい屋が、自分の商品を「草加せんべい」と名付けるのは、当たり前の発想で、このような一般名詞の組み合わせは、強力な商標権を認めるほどの保護に値しないという事情があるのかもしれません。
 それに、地域の名前が付いているなら、無条件に、その地元を代表する商品だという有利なイメージが付着するでしょうから、草加のせんべい屋なら誰だって「草加せんべい」を名乗りたいと願うはずです。だとしたら、一般名詞の組み合わせを、たった一業者のみに認めるのは、不公平感がぬぐいきれません。

 というふうに考えてみると、「地域名+商品名」の商標登録は原則ダメ、とする特許庁の運用は、ある種合理的です。ただ、この商標法3条には、2項で例外が設けられているのです。これがよくわかりません。

2 前項第三号から第五号までに該当する商標であつても、使用をされた結果需要者が何人かの業務に係る商品又は役務であることを認識することができるものについては、同項の規定にかかわらず、商標登録を受けることができる。

 たとえば「西陣織」や「夕張メロン」は、消費者がその名前を聞いたときに具体的なイメージが浮かぶので、一般名詞の組み合わせでも例外的に商標登録できるのだそうです。しかし、「草加せんべい」は、そこまでの知名度がないと。だから、文字単独での登録が認められてこなかったようなのです。

 でも、九州人の私、草加せんべいは、前から知っとったばい。

  1. 文字のみの登録商標
     西陣織、夕張メロン、前沢牛、佐賀牛、笹野彫,信州味噌,三輪素麺,佐賀海苔、宇都宮餃子,富士宮やきそば,中房温泉
  2. 図形やデザイン化された文字、または他の名称と組み合わせて使用する商標登録
     桐生織,大島紬,久米島紬,八重山上布,東京染小紋,加賀繍,京くみひも,有田焼,岩谷堂箪笥,駿河竹千筋細工,井波彫刻,名古屋仏壇,京仏壇,川辺仏壇,大館曲げわっぱ、幌加内そば,山形牛,仙台牛,浜名湖うなぎ,三ケ日みかん,宇治茶,壬生菜,伏見とうがらし,関あじ,関さば、稲庭うどん,仙台みそ,草加せんべい小田原蒲鉾,島原手延素麺,信州そば

 ……うーむ、全国的な知名度につき、(1)のグループのほうが(2)よりも高いと、本当に言い切れるでしょうか。

 そもそも、草加市内の、あるひとつのせんべい屋にだけ「草加せんべい」を名乗らせる、その狭い領域での不公平感だけで語られるべき時代ではないでしょう。最初に商標法が公布された当時に想定されていたであろう「近所のせんべい屋同士の対立」という問題をすでに超えているのです。
 記事中にもありますように、異国のせんべいまで、袋にデカデカと「草加せんべい」と書き始めているそうでして、そういう外部の者がブランドの信用にタダ乗りする不利益のほうが、はるかに深刻となっているのです。だから、「せんべい組合」として、地域が誇るブランドの法的保護に向け、一丸となって動いているのでしょう。

 4月に商標法が改正され、近隣都道府県レベルの知名度があれば、一般名詞のみの組み合わせでも登録を認める方向になるのだそうです。 別に「白い恋人」や「萩の月」のような、洗練されたフレーズばかりでなくてもいいじゃないですか。地元の特産品は特産品らしく、郷土の名前を冠に付ける。骨太で素晴らしいことだと思います。

◇ 商標法 第7条の2(地域団体商標)※2006年4月1日施行
1 事業協同組合その他の特別の法律により設立された組合(※中略)又はこれに相当する外国の法人(以下「組合等」という。)は、その構成員に使用をさせる商標であつて、次の各号のいずれかに該当するものについて、その商標が使用をされた結果自己又はその構成員の業務に係る商品又は役務を表示するものとして需要者の間に広く認識されているときは、第三条の規定(同条第一項第一号又は第二号に係る場合を除く。)にかかわらず、地域団体商標の商標登録を受けることができる。
 一  地域の名称及び自己又はその構成員の業務に係る商品又は役務の普通名称を普通に用いられる方法で表示する文字のみからなる商標
 二  地域の名称及び自己又はその構成員の業務に係る商品又は役務を表示するものとして慣用されている名称を普通に用いられる方法で表示する文字のみからなる商標
 三  地域の名称及び自己若しくはその構成員の業務に係る商品若しくは役務の普通名称又はこれらを表示するものとして慣用されている名称を普通に用いられる方法で表示する文字並びに商品の産地又は役務の提供の場所を表示する際に付される文字として慣用されている文字であつて、普通に用いられる方法で表示するもののみからなる商標
2 前項において「地域の名称」とは、自己若しくはその構成員が商標登録出願前から当該出願に係る商標の使用をしている商品の産地若しくは役務の提供の場所その他これらに準ずる程度に当該商品若しくは当該役務と密接な関連性を有すると認められる地域の名称又はその略称をいう。(※以下略)

 あー、せんべい食いたくなってきた。

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2005年7月 7日 (木)

郵政民営化は憲法違反?

◆ 中央省庁等改革基本法 第33条(郵政事業)
 政府は、次に掲げる方針に従い、総務省に置かれる郵政事業庁の所掌に係る事務を一体的に遂行する国営の新たな公社(以下「郵政公社」という。)を設立するために必要な措置を講ずるものとする。
  一  郵政公社は、第17条第7号ロに定めるところによる移行の時(※この法律の施行の日から起算して5年を経過する日[2003年6月まで])に、法律により直接に設立されるものとすること。
  二  郵政公社の経営については、独立採算制の下、自律的かつ弾力的な経営を可能とすること。
  三  主務大臣による監督については、法令で定めるものに限定するものとすること。
  四  予算及び決算は、企業会計原則に基づき処理するものとし、その予算について毎年度の国会の議決を要しないものとするほか、繰越し、移用、流用、剰余金の留保を可能とするなどその統制を必要最小限のものとすること。
  五  経営に関する具体的な目標の設定、中期経営計画の策定及びこれに基づく業績評価を実施するものとすること。
  六  前各号に掲げる措置により民営化等の見直しは行わないものとすること。
(※以下略)


◆ 日本国憲法 第73条
 内閣は、他の一般行政事務の外、左の事務を行ふ。
  一 法律を誠実に執行し、国務を総理すること。
(※以下略)


 普通の感覚だと、郵政民営化法案と併せて、この中央省庁基本法の改正についても国会で審議を尽くすべきじゃないかという印象を受けてしまうのですが。
 そこで、国会の会議録の中から、関連する小泉さんの発言を探してみました。検索がヘタクソなので、見つけるのに1時間半ほどかかってしまいましたが。


■平成14年5月21日(火曜日) 衆議院本会議

○荒井聰議員(民主党)
 総理が重ねて主張してきた、中央省庁等改革基本法第33条第1項第6号の「民営化等の見直しは行わないものとする」という条項が削除されておりませんが、断念したという理解でよろしいのでありましょうか。

○小泉純一郎・内閣総理大臣
 中央省庁等改革基本法についてのお尋ねでございます。
 基本法は、郵政三事業について、国営の新たな公社を設立するために必要な措置を講ずる際の方針の一つとして、「民営化等の見直しは行わない」旨を定めておりますが、これは、公社化までのことを規定したものであります。
 したがって、民営化問題も含め、公社化後のあり方を検討すること自体は、法制局にも確認しておりますが、法律上、何ら問題はありません。
 そこで、今回の公社化関連法案には削除は盛り込まないこととしたものでありますが、郵政事業のあり方については、この条項にとらわれることなく、自由に議論を進めてまいりたいと考えております。

 どこに「郵政公社ができるまで」という限定が付いているのか不明ですが、内閣法制局がそう言っているのだそうです。1項6号だけでなく、1項の本文も一体として読んで、そのように解釈するとのこと。おぉ、ニホンゴ、ムズカシイデース。

 公社ができるまで民営化は行わないって……、何をおっしゃってるんでしょう。いずれ民営化させるために公社をつくったんでしょうが。

 浪人生が、「大学入試に合格するまで大学には行かない」と言っているようなもんでしょうか。
……いや、すいません。うまいこと言おうとして、たとえ間違えました。


■平成17年05月20日 予算委員会

○若林秀樹委員(民主党)
 …(前略)…初めて聞かれる方もいると思うんですが、資料の2の2ページ目に33条の6項ということが書かれております。「前各号に掲げる措置により民営化等の見直しは行わないものとすること。」ということで、これまでの経緯から内閣法制局では、公社化後の組織の在り方を規定するものではないという御判断をいただいておりますが、私は、この日本語、通常の日本語の読解力と常識にのっとれば、私は公社化後も規定するものであるというふうに読むのが普通ではないかなというふうに思っております。
 その上で、資料1ページ目でごらんいただきたいんですけれども、「「中央省庁等改革基本法」の帰趨」ということであります。この論文を書かれました藤田宙靖教授という方を、小泉総理はその経歴、肩書は御存じでしょうか。

○小泉純一郎・内閣総理大臣
 いえ、存じておりません。

○若林委員
 びっくりしました。藤田さんは、中央省庁等改革基本法の基となる報告書を作成した中心人物であります。行革会議の委員であります。平成8年から、11月から務めました。さらに、この改革を実行するために設置されました中央省庁改革推進本部の下に、国会の附帯決議を設けて承認された第三者機関である顧問会議のメンバーであります。
 ですから、改革会議のメンバーと顧問会議のメンバーを両方やっている人は極めて少ない。つまり、一番この一連のことについて承知している人の法学者であります。さらに、小泉内閣により平成14年9月30日に最高裁の判事に任命されております。
 小泉総理、総理が任命された判事であります。行革会議で一番尽くされて今日までやってきたを御存じないというのは私はびっくりしたところでございます。
 つまり、法学者であり法律解釈に精通、かつ中心メンバーで様々な議論を承知していた人が何を言っているか。御案内のとおり、最高裁の判事というのは、当然法律的な解釈能力とか判断能力というのは十分小泉内閣が調査をされ、そして任命されたわけであります。
 その上で、中央省庁改革基本法の帰趨の資料の3ページ目を見ていただきたいんですが、この藤田判事が、一言で言えば、公社化後の組織の在り方も規定し、民営化しないことを、民営化しないということを法律に規定したものであるということを言っております。…(後略)…

○小泉総理
 先ほど私は、藤田氏のことに対して詳しくは存じておりませんということで訂正したいと思います。個人的に親しくということではございませんが、見識のある方だということは存じております。個人的にそう詳しく知っているわけではございませんが、この辺については、今までの見識を持った方であるという程度にしか詳しくは存じておりませんということでございます。
 私は、この問題につきましては、既に法制局長官からの答弁ありますように、法制的に問題ないと、決着は付いていると思います。そういう観点から、政治的に、この郵政民営化法案におきましても、公社化の段階で見直さないということがあったとしても、民営化の問題については政治的に民営化の法案を出しても何ら問題ないものと思っております。

○若林委員
 政治的に決着ではなくて、この法律の解釈として、この藤田さんは公社化後も規定するものであるということをはっきり明言してあるわけです。
 冒頭、私、藤田さん御存じですかと言ったのは、経歴等御存じですかということに対して知らないということですから、個人的云々ということを聞いているわけではありません。
 一番この民営化にかかわった藤田さんというのは実は民営化推進論者なんです、いろんなレポートを見ますと。その方があえて民営化はしないんだということをここに書かれているというのは、非常に私は重いんではないかなというふうに思っております。
 藤田さんのホームページによりますと、「学問の世界では、真実であることにつき確信が持てない場合には、率直にそのことを告げて、最終的な判断を控えることが許されますし、むしろ、そうしなければなりません。」、はっきり言っているんですね。
 つまり、確信が持てない場合にはやっぱりコメントを差し控える、その方が、郵政民営化推進論者があえてここは明らかに改革の結果の維持、つまり公社化の後も維持をするという規定であるということを明言しているわけですよ、これは。…(※後略)…

○小泉総理
 これは、平成14年6月4日、委員会で、衆議院の総務委員会で津野内閣法制局長官の答弁がございます。その際に、この津野法制局長官いわく、ここの33条1項6号でございますけれども、これは先ほど条文を読ませていただきましたけれども、この第1項で、「政府は、次に掲げる方針に従い、」と、まず方針を言っているわけであります。その方針に従って「総務省に置かれる郵政事業庁の所掌に係る事務を一体的に遂行する国営の新たな公社を設立するために必要な措置を講ずるものとする。」。正に、次に掲げる方針に従って必要な措置を講ずるというふうになっているわけでありまして、これは、郵政三事業において国営の新たな公社を設立するために必要な措置を講ずる際の方針の一つとして、民営化等の見直しを行わない旨を定めているものでございまして、公社化以後のことまでも規定したものではないというふうに解されるわけであります。答弁しているわけであります。
 そういうことから、法制的にも問題ないと思っております。

○若林秀樹
 よくよく見ますと、例えば中期計画の策定及びこれに基づく業務評価を実施するものと書いてありますが、中期計画というのはある程度年限があって、それに対して業績評価をすると、そういうことを通じて民営化しないということを言っていますので、これは、中期計画というのはこれはかなり長いわけでありますし、明らかにこれは必ずしもそういうことだけではないというふうに思います。
 最高裁の判事が、これは公社後も規定すると、それは最高裁になる前ですけれど、はっきり明言して言っている。その方をやっぱり任命しているわけですから、これはどう見ても、これは常識的に見れば、私はやっぱり公社後のことを規定しているというふうに思いますので、もし谷垣大臣、首ひねっていますし、法律の専門家であればちょっと見解を聞かせてくださいよ、もし。

○谷垣財務大臣
 どう考えてもとおっしゃったんで首をひねったんです。
 それは、確かに藤田先生のような御見解もあるかもしれませんが、どう考えてもというところに私は疑問を持っております。

 この中で、奇しくも藤田氏と津野氏というお二人の最高裁判事が登場しています。藤田氏は、もともと行政法の御用学者で、国立大学の独立行政法人化でも、法律雑誌「ジュリスト」の中で、あたかも法人化が既定路線であるかのような論調で書き、専門家たちを騒がせました。そして、その論文を下敷きにして実際に国立大学の独立行政法人化が進められたといわれるほど、国政に対して影響力をお持ちの御仁です。
 津野氏は津野氏で、時の政府の方針に合うよう、法律の条文をどうアクロバチックに読み替えるかについて知恵を絞るのがお仕事でした。

 まぁ、藤田氏ご本人に真意を聞かず「民営化推進論者」と断言するのも、いささか強引な気がしますが、小泉内閣が犯した中央省庁基本法違反の主張を補強するためには、やむを得ない前提でしょうか。
 ただ、『公務員削減』という目標が最初にあって、その数合わせの手段として、いろいろ政府にくっついていたものを切り離していってる作業中なわけですよね。その切り離された組織が独立採算を余儀なくされるとすれば(郵便局は明治時代の昔から独立採算だったんですけど)自然なゆくえとしては、やはり民営化に進まざるをえないわけです。
 その作業に藤田教授が一貫して携わっていれば、そりゃ外から見れば「民営化推進論者」だと思われますよ。先生が何をどうしたいのかは存じませんが。

 


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2005年5月16日 (月)

会社法とパソコンと携帯電話

新会社法修正案に民主が合意、今国会での成立確実に(朝日新聞)


 法律を勉強していて、「厄介だな」と思うことのひとつに、毎年のように行われる商法改正があります。「はぁ? 端株廃止?」「額面株式も無くなる?」って感じで、毎年ちょっと切ない気持ちになっておりました。
 しかし、ご存じの通り、今回の改正は今までのものとはワケが違います。パソコンや携帯電話をつくる会社も、ちょこちょことモデルチェンジさせて、ときにはノートパソコンやiモードみたいな革新的な商品を出してくるんですが、今回の商法改正も、似たようなもんです。商法から、会社を規律する条文だけ抜き出して、「会社法」という新法をつくろうっていうんですから。

 商法の根本原理に変更はないんでしょうけど、学生時代から、せっかくシコシコ憶えた条文番号は、もう使えません。最初から覚え直すんですね。しかも、「会社法」って、1000条近くあるっていうじゃありませんか。なんだか「有限会社」を抹殺して、「合同会社」とかいう概念を仲間入りさせたり。ホリエモン騒動に合わせて、買収防衛に関する規定も急遽入れたりしてるらしいですし(詳しくは全く知りませんが)。……聞いてませんよ、そんなの。詰め込み過ぎじゃないですかねぇ。

 まぁ、期待しましょう。「会社法」が、どんなビジネス社会を創ってくれるのか。



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