2011年8月 5日 (金)

住民が裁判員になりやすい都道府県、なりにくい都道府県ランキング! (2009年実績)

 まず、前提事実として、46都府県に地方裁判所(本庁)は1つずつあります。 そして、北海道はでっかいので、4つの地方裁判所が設けられています。
 これらの裁判所では、重大刑事事件につき、一般から裁判員を召集しての裁判を行うことになっています。

 さらに、地方裁判所の支部が全国に200ぐらいあります。 そのうち、主要な支部には裁判員裁判を行える特権が与えられています。

 裁判員裁判が実施される地方裁判所は、全国に60カ所あります。

 
 

※ 裁判員裁判を実施する地方裁判所が複数ある都道府県 ※

(北海道)札幌本庁・旭川本庁・函館本庁・釧路本庁
(福島県)福島本庁・郡山支部
(東京都)東京本庁・立川支部
(神奈川県)横浜本庁・小田原支部
(静岡県)静岡本庁・沼津支部・浜松支部
(長野県)長野本庁・松本支部
(愛知県)名古屋本庁・岡崎支部
(大阪府)大阪本庁・堺支部
(兵庫県)神戸本庁・姫路支部
(福岡県)福岡本庁・小倉支部

 

※ お住まいの市町村がどの地方裁判所の管轄に入っているかは、とりいそぎ、このサイトで確認してください。 >> 裁判所の管轄区域

 

 

 以上のことを前提に、60の裁判所の各管轄にいる住民が、1年間に裁判員候補に選ばれる確率、そして、裁判員候補が最終的に裁判員(補充裁判員)に選ばれる確率を、2009年の実績をもとに計算してみました。

 明日からの話のネタにしてみてください。

 統計の参考資料は『平成21年における裁判員裁判の実施状況に関する資料』(最高裁判所事務総局 編)です。

 

 

【そこの住民が、裁判員候補者の名簿に載る確率(%)】

01.大阪      0.47
02.千葉      0.45
03.名古屋    0.40
03.津       0.40
05.東京      0.39
06.前橋      0.37
06.福岡      0.37
08.函館      0.36
09.高松      0.35
10.宇都宮    0.33
10.甲府      0.33
10.大津      0.33
10.高知      0.33
14.静岡(沼津) 0.32
14.福岡(小倉) 0.32
16.水戸      0.31
16.名古屋(岡崎)0.31
18.さいたま   0.29
18.宮崎      0.29
20.神戸      0.28
20.和歌山    0.28
20.徳島      0.28
23.横浜      0.26
23.神戸(姫路) 0.26
25.京都      0.25
26.旭川      0.24
26.福島      0.24
26.富山      0.24
26.大阪(堺)   0.24
26.大分      0.24
31.奈良      0.23
31.松山      0.23
33.札幌      0.22
33.仙台      0.22
33.山形      0.22
33.横浜(小田原)0.22
33.広島      0.22
33.岡山      0.22
39.鳥取      0.21
40.福島(郡山) 0.20
40.長野      0.20
40.長野(松本) 0.20
40.岐阜      0.20
40.松江      0.20
40.山口      0.20
40.熊本      0.20
47.那覇      0.19
48.金沢      0.18
49.東京(立川) 0.17
49.静岡      0.17
49.静岡(浜松) 0.17
49.佐賀      0.17
49.長崎      0.17
54.鹿児島    0.16
54.盛岡      0.16
56.新潟      0.15
56.釧路      0.15
56.青森      0.15
56.福井      0.15
60.秋田      0.13

<平均>   0.30

 

(((寸評)))
 やはり大阪(本庁管轄)は、不動のトップですね。とにかく、人口あたりの犯罪検挙数が多いので、裁判員制度が始まる前から住民が裁判員候補になる確率が高いことは予想されていました。 実際に始まってからもその強さは揺るぎないですね。
 このほか、千葉や名古屋などの確率が高めなのは、国際空港を擁するので裁判員対象の覚せい剤密輸事件の発覚が多いからでしょう。 去年に羽田空港も国際化されるので、これからは東京本庁も上昇すると思われます。
 なお、津(三重県)がどうして高めなのかは不明です。

 

【裁判員の候補者が、実際に法廷で裁くことになる確率(%)】

01.鳥取     1.54
02.大津     1.17
02.鹿児島    1.17
04.熊本     1.09
05.仙台     1.06
06.岐阜     1.03
07.徳島     0.98
08.青森     0.94
08.福井     0.94
10.長崎     0.90
11.岡山     0.87
12.佐賀     0.83
13.松江     0.75
14.横浜(小田原)0.74
14.甲府     0.74
16.福島(郡山) 0.72
17.広島     0.71
17.山口     0.71
19.福島     0.70
20.秋田     0.67
20.和歌山    0.67
22.宮崎     0.59
23.東京(立川) 0.57
24.札幌     0.56
25.京都     0.52
26.千葉     0.50
27.静岡(沼津) 0.49
28.静岡(浜松) 0.45
28.那覇     0.45
30.長野     0.44
31.大阪     0.41
32.山形     0.37
32.さいたま   0.37
32.神戸     0.37
35.富山     0.36
36.奈良     0.33
36.大分     0.33
38.福岡     0.30
39.松山     0.29
40.東京     0.28
40.高松     0.28
42.神戸(姫路) 0.26
43.名古屋    0.23
44.宇都宮    0.17
44.大阪(堺)  0.17
46.横浜     0.16
46.名古屋(岡崎)0.16
49.前橋     0.15
49.津       0.15
50.水戸     0.11

 

<2009年、裁判員裁判ゼロだった主要裁判所>
函館
旭川
釧路
盛岡
静岡
長野(松本)
新潟
金沢
高知
福岡(小倉)

 

(((寸評)))
 裁判員制度の施行は2009年5月で、実際に裁判員裁判がスタートしたのは東京地裁の殺人事件(2009年8月3日)です。実質5カ月間しか実施されていない中での集計です。 よって、2010年以降は、この確率が大幅に上昇するものと予想されます。
 
鳥取がダントツだという意外性。 候補者人口が50万人足らずと少ないのに、裁判員裁判が2件あったというのが原因でしょう。 管轄内の裁判員対象事件が1件増えるだけで、この数字は大きく変動します。

 これら2種類の統計から、1年間に裁判員に選ばれる確率は、「数万人に1人」レベルだということがわかりますね。
 選ばれる前から「選ばれたらどうしようか」と心配するほどの割合じゃないといえます。でも、偶然選ばれれば、その一事が万事ですので。

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2010年12月 7日 (火)

これだけ証拠が少なくても、裁判員は死刑を出せるか? 判決まであと3日

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((鹿児島老夫婦強盗殺人裁判 関連記事))
 桜島の夜明けでゴワス (2010/11/02)

 
 

>>> 否認被告に死刑求刑、裁判員3週間の重い評議へ

 裁判員の目の前で「絶対にやってない」と訴え続けた被告に、検察側が求めたのは死刑だった。17日に鹿児島地裁で結審した高齢夫婦殺害事件の裁判員裁判。重い判断を迫られる6人の市民たちは、12月10日の判決に向けて長く厳しい評議に入った。

 遺族の意見陳述には、蔵ノ下忠さん(当時91歳)と妻ハツエさん(同87歳)の4人の子ども全員が参加。「2人を殺してまで奪う物がありましたか」。強盗殺人罪などに問われた白浜政広被告(71)=写真=の前に立った長女(65)は、怒りで声を震わせた。忠さんが、育てた野菜などを子どもたちに渡すのを楽しみにしていたなどと語り、モニターに麦わら帽子姿で笑顔を見せる忠さんの写真が映し出された。

 三男(60)は裁判員に向かって「死刑をためらうかもしれないが、遺族の心の整理のためにも、死刑にすべき犯人は死刑にするしかない」と強い口調で述べた。

 続く論告で、検察官は「2人の遺体があった和室を、現場検証で見たときの状況を思い出してほしい。その光景は冷静に見られないほど残虐だったはず」などと裁判員に語りかけた。

 弁護側は最終弁論で、検察の立証に対する疑問点を書いた紙をホワイトボードに次々に張り出し、「ずさんな捜査で分からないことだらけ」と強調。「白浜さんの命がかかっている。納得するまで話し合い、一点の曇りもない結論を出してほしい」と呼びかけた。

 白浜被告は遺族の意見陳述にも表情を変えず、死刑求刑の瞬間も動揺した様子はなかった。最終意見陳述では「痛ましい被害に遭われたご夫婦には、一人の人間として心からご冥福をお祈りします」と述べ、「私のぬれぎぬを晴らし、苦しみを取り除いていただきたい」と訴えた。

 公判中、裁判員たちは硬い表情を崩さなかった。死刑求刑の際には、身を乗り出して白浜被告の方をのぞき込む人も。10日間の審理で、裁判員が裁判 官に話しかけ、裁判官が代わりに証人や被告に質問するような場面は度々見られた。ただし、裁判員が直接質問することは最後までなかった。 (2010年11月18日  読売新聞)


 
 

 先月2日から17日まで、鹿児島の現地で、全10回の審理のうち、傍聴券を入手できた6回、傍聴してきました。

 「絶対にやっていません」と淀みない口調で主張する被告人に対し、検察側が死刑を求刑した決め手としているのは、事件現場に残されていた指紋・掌紋・DNA。

 これだけ科学的な有罪証拠が揃っていて、しかも事件当日(2009年6月18日)に被告人の姿を見た人は誰もいないという事実があります。

 被告人は「パチンコでお金を使い果たし、クルマのガソリンもなく、居候していた姉とも顔を合わせづらいので、鹿児島市内を一日中散歩していた」と供述し、被告人質問では歩いたルートも地図で示しました。

 まぁ…… お金が無くて行くところもないので、急に散歩するっていう判断は自由ですが、こんなもんがアリバイといえないのは明らかです。

 また、7年前にコンビニ強盗の前科まであるところをみると、「こりゃ、やっぱり、この人がやっとるんじゃないか?」「ウソつきまくっとるんじゃないか?」と思えてきます。

 
 

 しかし、

 裏を返せば、指紋・掌紋・DNA以外で、被告人と事件を結びつける物的証拠がまるで無いのです。

 

【目撃者がいない】

 現場周辺は整備された道路が通っており、新興住宅地やアパートもあります。しかも、事件発生推定時刻の昨年6月18日(木)夜8時前後は、道路工事に伴う交通整理が行われ、作業員や警備員もいたそうです。

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 しかし、被告人らしき人物の目撃証言は皆無。 それどころか、窓ガラスが突き破られた音を聞いた人もいません。
 唯一の目撃証言は、夜11時ごろ、地元民しかわからない裏道を、殺害された老夫婦の次男らしき人物が歩いていて、クルマですれ違ったというもの。 ちなみに、その次男は法廷で「その夜は家で寝ていた」と述べました。

 

【金品が手つかずのまま】

 家人をすべて殺害しているんですから、本当に物取り目的なら、ゆっくり物色できるはずです。しかし、金庫には被告人の指紋どころか、いじった形跡すらありません。そのほか、整理ダンスなどに、現金が計10万円以上あったのに、まったく無くなっていないそうです。特に台所にはテーブルの上に小銭が4000円ほど、箱に置かれていたのに手を付けていないのです。本当に押し込み強盗なのでしょうか?

 

【被告人は、そんなに金に困っていなかった】

 たしかに、仕事が見つからないのに、2009年6月に支給された年金を、パチンコや飲み屋で3日で使い果たすなど、被告人の生活にはだらしない面があったようで、強盗の動機があったようにもみえますが、だからといって、今回の強盗殺人に結びつけるのは早計です。
 被告人は姉夫婦の家に居候していて、とりあえず衣食住には困らない生活をしていました。実際、預金残高が3桁(858円)の状態で、1カ月以上過ごした記録もあります。
 前科のコンビニ強盗は、消費者金融5社に返済を迫られて、追い込まれての犯行だったようですが、当時は消費者金融からの借り入れはなく、年金を担保にしての借り入れがあったのみで、激しい返済請求はありませんでした。

 

【逮捕当初から、一貫して否認している】

 被告人は逮捕された初日こそ黙秘していましたが、それからは一貫して否認を続けています。供述内容にもブレがほとんど無いようです。

 

【被告人は、被害者夫婦と面識がない】

 被害者宅の裏には山があって、その中腹に神社があり、家屋や庭を見渡せる位置にあります。被告人はその神社に少なくとも一度行ったことがある事実はあるようです。
 検察官は、神社から被害者宅を見下ろして、老夫婦しか住んでいなかったことを把握していたと主張しますが、遠くから眺めただけで、そこまで詳細な情報を読み取ることは可能でしょうか。

↓実際の風景 (ズーム無し)
↓中央が事件現場となった被害者宅の母屋
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【面識がないのに、殺害態様が残忍すぎる】

 被告人は、被害者夫婦や遺族のことをまったく知りません。なのに、被害者の老夫婦は、その家の庭にあったスコップで、計150回以上も殴りつけられたとみられます。ご主人のほうは部屋で寝ていたところを襲われたそうですが、壁じゅうに血痕が線状に残っており、犯人はスコップを勢いよく振り回したと推測されます。布団を持ち上げると、おびただしい量の血液が床にしたたるほどだったといいます。照明の蛍光灯も激しく割られていました。
 被害者夫婦に対して、特別な恨みがあった者の犯行と考えるほうが自然ではないでしょうか。

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【なのに、凶器のスコップから指紋やDNAが出ていない】

 検察官は、スコップが古く、表面が錆び付いていてザラザラしており、指紋が非常に付きにくい状況だったと主張します。また、鹿児島県警の指掌紋主任鑑定官は、「凶器には、かえって指紋が付きにくいもの。人の身体に勢いよくぶつけることで、握った部分が動くので」とも証言しています。
 これに対し、主任弁護人は最終弁論で「バットを150回も素振りしたら、皮膚がこすれたり、まめが出来て潰れたりするだろう。スコップに犯人のDNAぐらい残っていてもいいのではないか」と主張しました。ちなみに、凶器として使われたスコップの重さは約1・6キロ。一般的なバットよりも重いですね。

 

【前科のコンビニ強盗とは、犯行態様がだいぶ異なる】

 被告人の前科であるコンビニ強盗致傷は、灯油入りのお手製の火炎びんを持ちこんで、店員にやけどを負わせたというもの。結局お金が取れなかった点は似ていますが、今回のようなまがまがしい暴力は手段として用いられていません。
 火炎びんにしても、投げつけるでもなく、最終的にはコンビニの床に立てた状態で置いて、現場から逃走しました。しかし、店員に追いかけられ、現行犯逮捕されています。当時は軍手も着用していましたから火炎びんなどに指紋も付着しません(ただし、被告人は軍手をはめていた理由について「火炎びんが熱くなるんじゃないかと思い、仕事で使っていたクルマの中にたまたまあったのを使った」と供述していますが)。
 今回の強盗殺人事件のあった6月18日の直前5日間ほど、被告人は行方をくらませています。しかし、その翌日を境に、被告人は姉の家に戻ってきて、年金を使い込んでしまったことを謝罪し、同居を再開しました。そのまま逃亡を図ろうと思えば逃げられたのに、です。
 この「逃亡を図っていない点」は「強盗に失敗したから、お金に困って姉を頼った」と考えることもできますので、検察の主張を崩すまではいきませんが、そもそも強盗に失敗する要素があったのかどうか不明です。

 

【指紋・掌紋の発見場所が偏っている】

 犯人の侵入口(だと検察側がみる)「掃き出し窓」のガラス破片に指紋1点。整理ダンスの引き出し面に左右の掌紋5点。その引き出しに入っていた契約書封筒に掌紋1点。整理タンス下に散らかっていたメガネ店のチラシなどに指紋が計4点。以上11点が被告人のものと一致しています。
 しかし、犯罪現場はたくさんの部屋がある立派な民家なのに、それ以外に被告人の指紋や掌紋が残っていないというのは、痕跡として少なすぎないでしょうか。整理ダンス周辺だけに、11点中10点が集中しているのも不自然です。しかも、チラシや紙袋などメガネ店関連品4つに、被告人の左手人差し指の指紋が1つずつ付いているのも奇妙です。

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【被告人の指掌紋ばかり多い】

 現場から発見された被告人の指掌紋は、判別できるものだけで11点。その一方、現場を住居として長年住んでいた被害者妻の指紋は10点、夫の指紋は2点しか発見されていません。

 

【ガラス片の指紋の不自然さ】

 スコップで突き破られた掃き出し窓のガラス破片のうち、大きめの2つは、窓のそばの壁に丁寧に立てかけられていました。法廷では便宜上、それぞれ「四角ガラス片」「三角ガラス片」と呼ばれていましたが、三角ガラス片にのみ、表面を指が滑ったような指紋が1つ残っていました。それぞれ1枚ずつ運んだのであれば、四角ガラス片にも指紋が付くはずですので、2つ同時に運んだのでしょう。だとすると、2つ合計で約1.6キロの重さがありますので、運ぶのに両手を使ったのではないかと思われます。だとすると、左右の手に同じ重力がかかるわけですから、指紋も2つ以上付いていたほうが自然です。

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【被告人のDNAが見つかったのは、細胞片1つだけ】

 現場から見つかった細胞片のうち、DNAが検出されたのは886点。そのうち、被告人のDNAと一致したとされるのは1点だけです。スコップで突き破られた掃き出し窓の網戸の破れて尖ったところに引っかかっていた皮膚片だそうです。検察側は、その網戸の破れ目から手を突っ込んで、窓のクレセント錠を開けようとしたときに付いたと主張します。
 弁護人は、「網戸の破れ目に付くくらいなら、もっと鋭く尖ったガラス片にも、細胞片が付いていてしかるべきではないか」と主張します。

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【被告人の履いていた靴の足跡が見つかっていない】

 現場室内で見つかった、いくつかの足跡は、鹿児島市内でも普通に売られている安全靴と一致しました。被告人が普段履いていたのは、ニューバランスのスニーカーですが、その足跡は現場で見つかっていません。被告人は内装やリフォームの仕事をしていましたが、安全靴は一切使わないそうです。唯一履いたのが、東京で工事現場の仕事をしていたときだそう。

 もちろん、「事件が大々的に報道されたのを見て、証拠隠滅のために捨てた」と考えることもできますので、有罪を崩す決め手としては弱いのも確かです。
 ただ、弁護人は最終弁論で「現場の庭では足跡が40個も見つかりましたが、そのうち、安全靴の足跡はひとつもない、これも不思議です」と主張しています。たしかに不思議です。

 

【被告人の関連品に痕跡なし】

 被告人のクルマの中には、血液も蛍光灯ガラスのカケラも見つかっていません。わずかに蛍光反応はあったみたいですが、本件との結びつきは不明です。
 被告人の衣服や靴にも血液反応がみられませんでした。
 検察官は、「犯行時の衣服は捨てた」と主張しています。たしかにそれはありうるでしょう。

 

【警察の証拠集めがズサン】

 最もよくわからないのは、現場から見つかった状態での指紋や細胞片が、写真で残されていない点です。整理ダンスから採取したのなら、そのプロセスを写真撮影する。網戸から見つかった皮膚片なら、その付着状態を撮影する。これをやらなければ、その指紋や細胞片が本当に事件現場から採取されたものだという証拠にはなりません。

 また、皮膚片から採取したDNA溶液を全量消費しており、当時と同じ状況での再鑑定が不可能な状態にあります。これは犯罪捜査規範186条に違反します。足利事件のDNA鑑定と同じ失態を何度繰り返す気なのでしょうか。
犯罪捜査規範 第186条(再鑑識のための考慮)
 血液、精液、だ液、臓器、毛髪、薬品、爆発物等の鑑識に当たつては、なるべくその全部を用いることなく一部をもつて行い、残部は保存しておく等再鑑識のための考慮を払わなければならない。

 DNA鑑定が「6月22日終了」と書かれたDNA鑑定書の作成日付は、なぜか「7月10日」となっています。被告人の逮捕後ですね。どうして鑑定書作成をこんなに先延ばししたのか疑問です。「6月22日」という鑑定終了日は虚偽ではないか、被告人の逮捕後、細胞採取後にDNA鑑定したのでは?という疑問すら湧きます。 さすがに決めつけることはできませんが。

 DNA鑑定データ(エレクトロフェログラム)は、パソコンを介して出力されますが、その日付データは、パソコンの内蔵時計と連動しているので、「変更することは可能」と、DNA鑑定人自身が法廷で証言しました。

 現場には、警察官の足跡が7つ、鑑識官が残したと見られる指紋様の払拭痕が3つ、台所の床などにはチョークなどの線が残っていて、実況見分時の現場保存もズサンです。

 弁護人は最終弁論で「指紋が被告人のものと一致したということで安心し、ズサンな捜査しかしなかったのではないか」と指摘しています。

 

<以上より>
 弁護団は「指紋やDNA鑑定の捏造の可能性」「足跡などの偽装工作の可能性」を指摘しています。 ただし、真犯人が捏造したのか、それとも警察が捏造したのかは、あえて特定を避けました。

 これを検察側は「荒唐無稽な主張だ」と一蹴していますが、果たして荒唐無稽とまで言い切れるものかどうか?

 特にDNAは「被告人から採取した唾液をとって塗りつければいい」ので、目に見える指紋や掌紋よりも偽造が簡単だと、弁護側は主張します。 また、警察で新たに開発された指紋採取道具「JPシート」を使えば、採取した指紋を別の場所へ転写することも、「可能かどうかと聞かれれば可能」だと、県警の指掌紋主任鑑定官が証言しています。

 たしかに、足利事件と違って、被疑者が長い間見つからずに迷宮入りしていたわけではないので、捜査機関の側にインチキ有罪証拠を作り上げる動機が薄いのも確かですが……。

 やっぱりよくわかりません。

 

有罪か無罪か、よくわからない場合は、無罪判決を出す。 これが「推定無罪」という刑事裁判の基本的ルールです。

 

 先月、2週間にわたって裁判を傍聴し続けたので、本当は細かい情報を挙げようと思えば、まだまだ盛りだくさんあるのですが、キリがないのでこの辺りにさせていただきます。

 皆さんも、金曜日に示される判決に注目していただきたいと思いますね。

 「無罪を出すべきだ」と積極的に言い張るつもりはありませんが、「この程度の証拠しかないのに、有罪にしちゃいけない」とは思っています。

 では、また鹿児島へ行ってきます!

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2010年10月12日 (火)

日本に近い刑事裁判システムの米フロリダ州で、冤罪が次々に発覚!?

 「冤罪なんか他人事だ。 怪しまれるような生活を送ってるから捕まるんだ」

 「100%完璧なシステムなんてありえない。 安全な社会を最低限成り立たせるため、誰かが一種の犠牲、人柱を引き受けなければならない」

 

 ……ところで、皆さんは、社会の犠牲となって死ぬ覚悟はあるでしょうか。

 もし、誰かから、

 「ナガミネくん、一肌脱いで、この世界の人柱になって死んでくれたまえ」

 と命じられたなら、当然ギリギリまで拒み続けますし、自分の代わりに誰かいないか調査を求めると思いますが、

 どうしても私以外にはいないのなら、最終的には、ひとつだけ条件を付けるかもしれません。

 

 「代わりに、ナガミネを“伝説の大英雄”としてめちゃくちゃ祭り上げて、崇めたてまつって、皆の衆に永遠にナガミネを尊敬してほしい!!」と。

 

 必死さのあまり、かなり痛々しいことを口走るでしょう。

 同じ理不尽でも、人殺しだと世間に勘違いされたままの残酷な人柱になるのは、絶対に御免です。

 

 

 裁判員制度の下で、初めて死刑判決が示されるのも、そろそろ時間の問題となってきています。

 

● 来週の水曜日に東京地裁で初公判を控える、秋葉原「耳かきエステ」店の人気従業員と、その祖母の殺害事件。

 こちらは、店の常連客だった男の犯行で、罪を認めています。精神鑑定の結果がまだ公表されていませんが、これから法廷で明らかにされるのでしょう。判決は11月1日。

● 横浜地裁では来月、強盗殺人と覚せい剤密輸を犯した被告人の裁判が始まります。こちらも検察によって死刑が求刑されるのはほぼ確実でしょう。判決は11月16日。

● そして、鹿児島地裁では、資産家のお年寄り2人を殺害した70歳の男が、強盗殺人の罪で起訴されています。

 私はこの裁判を取材するため、鹿児島に2週間以上滞在する予定ですが、こちらの被告人は「やっていない」と無罪を主張し続けています。裁判員は「死刑か無罪か」という究極の選択を迫られることになりますね。初公判は11月2日、判決は12月10日です。

 さらに、この被告人は7年前に千葉で犯した強盗致傷の前科があるので、非常に難しい判断が求められます。

 もちろん「怪しい」のは確かですが、強盗の前科があるからといって、今回の強盗殺人をやったと結びつけられるほど、真相の解明は簡単ではありません。

 
 

 死刑囚の冤罪が後で判明して、無罪釈放された例は、国内では過去に4人います。

 言うまでもありませんが、裁判で濡れ衣を着せられた死刑囚の刑が執行されたら、もはや取り返しが付きません。「飯塚事件」の死刑囚は冤罪だったとの指摘もあります。

 だから、特に無罪を主張している被告人に死刑が求刑された場合、裁判員は、慎重に慎重を期して判断しなければなりません。

 話し合いの結果、有罪が多数派を占めたのなら、「無罪」だという意見を出した裁判員も、刑罰の内容を決める量刑判断に参加しなければならない、という理不尽もあります。

 こと、凶悪事件の裁判員裁判に関しては、「審理を分かりやすくして一般人の感覚で判断」なんて、生やさしい問題ではなくなると思います。

 

 先日、国会の議事録サイトを検索して読んでいましたら、気になる議論を見つけました。

  

>>> 参議院 - 法務委員会 - 平成21年04月16日

○近藤正道君 それでは、残りの時間は裁判員制度のことについてちょっとお聞きをしたいというふうに思っています。
 前の委員会で、私は、裁判員はその量刑についても判断を下さなければならないと。ところで、世界の国々を見たときに、国民が刑事司法に参加をしていて、そして死刑制度があって、そして量刑で多数決を採っているところ、これはアメリカのフロリダ州しかないんではないかと、こういうふうに質問をいたしました。そうしたら、大野刑事局長、フロリダ州とアラバマ州、この二つがそうではないかと、こういう答弁がございました。
 そこで私、その後、またいろいろこれ調べてみましたら、アラバマ州は多数決なんだけれども、単純多数決ではなくて特別多数決なんですね。ですから、刑事司法への国民参加があって、そして死刑という制度があって、そしてその死刑の量刑について単純多数決を採っているところ、特別じゃなくて単純多数決を採っているところはアメリカのフロリダ州だけ、このことに間違いはない。そこへ今、今度は日本も加わろうとしている、こういう現状だと思うんですが、間違いないでしょうか。

○政府参考人(大野恒太郎君) アラバマ州については、委員御指摘のとおりでございます。多数決ということであれば多数決でありますけれども、単純多数決ではございません。単純多数決ということで私どもが把握しておりますのはフロリダ州だけであります。
 ただ、何分にも外国の制度を網羅的に、完璧に把握しているわけではございませんので、それ以外に全くないかと言われると、それは分かりませんけれども、取りあえず私どもが把握しているのはフロリダ州ということになります。

○近藤正道君 私も余り勉強はしていないんですが、国会図書館とかいろんなところに、調べてみましたら、刑事司法への国民参加があって、死刑制度があって、単純多数決で死刑の量刑を決めている、この3点セットのそろっているのはフロリダ州ただ一つ、これはどうも間違いないようでございます。そこに日本が参加をこれからしていくということであります。
 ところで、アメリカのNGOが死刑情報センターというのをつくっておりまして、ここで死刑と冤罪の関係をいろいろ調べているんですが、実はアメリカでDNA鑑定によって1973年から今年の4月8日まで、実に131人の死刑囚が無罪と判明したと。これは、伊藤和子さんという弁護士がいろいろ詳しく紹介をしているんですが、アメリカでDNA鑑定を入れたら大変な死刑囚、無罪と判明したという驚くべき事実が出ておるわけでございます。
 その中で、実にフロリダが最も多いんですよ。22名だというんです。非常に突出してフロリダが多い。このように、冤罪が多発するという状況が分かって、同じ3点セットを取るフロリダがそうなら日本でもこういう事態は起きないのかなと俄然不安になったわけでございますが、法務大臣、裁判員制度の設計に当たって、日本と全く同じ制度を取っているフロリダの実態について調査はされたんでしょうか。

○国務大臣(森英介君) フロリダ州の死刑制度については、例えば死刑又は無期懲役となる事件について、先ほどお話がありましたように、陪審は過半数の一致により量刑の意見を決定すること、また、2007年の年末時点で死刑囚は389人であること、さらに、死刑は注射又は電気処刑で執行されることなどは承知しておりますが、それ以上の運用実態の詳細や、制度をめぐりどのような議論が行われているかについては承知をいたしておりません。すなわち、調査を行っておりません。


 もちろん、一般庶民のみで裁くアメリカの陪審制と、プロ裁判官と一緒になって裁く日本の裁判員裁判とを、単純に比較することはできません。

 死刑情報センターなるNGOが、DNA鑑定を駆使してどのような手法で過去の冤罪を暴いていくのかも、よくわかりません。

 足利事件の例や、最近では検察のデータ偽造事件もありますから、今やDNA鑑定すら完全に鵜呑みにはできません。 困ったものです。

 

 ただ、

 日本の裁判員裁判システムと同様に「単純多数決で死刑の量刑を決めている」フロリダ州で、冤罪の死刑囚が多く生まれているのではないか、との指摘は決して無視できませんね。

 せめて、死刑判決を出すときには、裁判員6名と裁判官3名の「全員一致」で意見が揃わなければならないことを慣習化するなど、冤罪を防ぐために考えうる最大限の
歯止めをかける工夫が求められると思います。

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2010年9月21日 (火)

9月14日『押尾学に懲役6年を求刑』…を、テレビはどう報じたか?

 もうすでに判決出ちゃってますし、ずいぶん時間が経っての番組チェックになってしまい、どうも失礼しました。

 「押尾裁判」におけるテレビの報じ方ですが、「意外と慎重にやっておいでだなぁ」というのが第一印象です。

 私のほうこそ、テレビ報道に対する先入観や予断・偏見があったようです。 どうもすみませんでした。 お詫びいたします。

 それでも、判決が出る前にもかかわらず、報道姿勢の偏りや不要と思われる演出等がj若干ながらみられ、ややもすると判断者に予断を生じさせかねない箇所が散見されましたね。

 作り手は無意識でやっているのかもしれません。 ですが、もしも無意識の偏りだとすれば、今後も修正されない可能性があるので、かえってタチが悪いわけです。
 

 なお、当日は、民主党代表選の結果が出るという大ニュースがありましたので、各番組とも、政治ニュースに大幅に時間をさいていたという、全体的な傾向があります。

 

 
 

NEWS FINE (テレビ東京17時台)

扱い:速報ニュースコーナー
時間:1分ほど
内容:客観的情報のみ
BGM:速報コーナーで共通一貫して使われているもの
押尾被告人の発言ナレーション:なし
コメンテーター:なし

 

スーパーJチャンネル (テレビ朝日17時台)

扱い:トップニュース
時間:8分ほど
内容:法廷の様子や押尾被告人の一挙手一投足を、詳細にレポート。法廷画とCGを組み合わせる工夫も。
BGM:ミステリアスで静かな曲 弁護人の無罪弁論シーンで、若干盛り上がるような曲調へ。
押尾被告人の発言ナレーション:若手アナウンサー風・誠実そうな印象
コメンテーター:VTR中に元検察官の若狭弁護士の話。
スタジオコメント:大谷昭宏氏 「求刑は8年ぐらいかと思っていたが6年。刑罰は軽くてもいいから『致死』を認定してほしいという、検察のメッセージだと受け取れる。裁判員がどう判断するか注目したい」

 

FNNスーパーニュース (フジテレビ18時台)
扱い:通常ニュース枠
時間:6分ほど
内容:法廷画や写真などを交え、オーソドックスなレポート調
BGM:サスペンスドラマのような謎めいた感じを演出するもの
押尾被告人の発言ナレーション:野太く男っぽいナレーターが読み上げ
コメンテーター:VTR中にヤメ検の若狭弁護士の話。スタジオコメントなし

 

news every. (日本テレビ18時台)
扱い:トップニュース (17時台は扱い無し)
時間:3分ほど
内容:法廷画が中心のレポート
BGM:全体的に静かでミステリアスな曲調
押尾被告人の発言ナレーション:若手アナウンサー風
コメンテーター:なし

 

NHKニュース9 (NHK総合21時台)
扱い:速報ニュースコーナー
時間:1分ほど
内容:アナウンサーが事実関係のみ述べる
BGM:なし
押尾被告人の発言ナレーション:なし
コメンテーター:なし

 

報道ステーション (テレビ朝日22時台)
扱い:通常ニュース枠
時間:1分ほど
内容:法廷の様子を淡々と説明。
BGM:静かでミステリアスな曲調。弁護人の無罪主張で少し盛り上がる曲調へ。
押尾被告人の発言ナレーション:野太い声のナレーション
コメンテーター:なし

 

NEWS23クロス (TBS23時台)
 扱い無し。

 

ワールドビジネスサテライト (テレビ東京23時台)
 私がオンタイムで確認した限りでは、扱い無し。

 

NEWS JAPAN (フジテレビ24時台)
扱い:通常ニュース枠
時間:1分ほど
内容:法廷画を交えながら、過不足のないレポート
BGM:静かで若干おどろおどろしい曲調
押尾被告人の発言ナレーション:若手アナウンサー風
コメンテーター:なし

 

おはよん (日本テレビ4時~5時半)
扱い無し。

 

めざにゅ~ (フジテレビ4時台)
扱い:速報ニュースコーナー
時間:1分ほど
内容:法廷画を交えながら、過不足のないレポート
BGM:速報コーナーで使われる共通一貫したもの
押尾被告人の発言ナレーション:なし
コメンテーター:なし

 

やじうまプラス (テレビ朝日5時台)
扱い:通常ニュース枠
時間:2分ほど
内容:法廷画などを交えながら、過不足のないもの
BGM:サスペンスドラマで使われるようなミステリアスな曲調
押尾被告人の発言ナレーション:野太く低い声
コメンテーター:なし (ただし、6時台の新聞読みコーナーで、大谷氏が前日夕方と同趣旨のコメント)

 

みのもんたの朝ズバッ (TBS6時台)
扱い:新聞読み
時間:2分+2分ほど (2回に分けて)
内容:デイリースポーツなどの記事を読み上げ
BGM:新聞読みコーナーの一貫したもの
押尾被告人の発言ナレーション:なし
コメンテーター:なし
スタジオコメント:みのもんた氏 「救命措置はしたんだよね。6年が妥当かどうか注目したいですね。薬物は再犯率が高い。薬物が簡単に手に入る世の中は何とかしなければ怖いね」
※7時台にも、オーソドックスなニュースの形で1分ほど紹介。

 

とくダネ (フジテレビ9時台)
扱い:通常ニュース枠
時間:5分ほど
内容:法廷の様子を法廷画などを交えてレポート
BGM:アクション映画のような煽る曲調
押尾被告人の発言ナレーション:ベテランアナウンサーが読み上げ
コメンテーター:若狭弁護士の「懲役6年は軽い」というコメントを紹介。
スタジオコメント:
小倉智昭氏 「この懲役6年という求刑に、この裁判の難しさが出てるんじゃないかという、うがった見方をしてしまうけどね」
高木美保氏 「被害者の遺族が最高に重い刑をって涙ながらに希望してるじゃないですか。それが非常に印象に残っていて。このぐらいの求刑にしとくから、あとはよろしく、っていう検察の考えをちょっと感じるんですけど」

 

スッキリ! (日本テレビ8時台)
扱い:通常ニュース枠
時間:15分ほど
内容:役者が実際に登場して、検察の論告求刑や弁護人の弁論を再現。さらにさかのぼって、過去の公判の様子も役者達が再現。スタジオでも解説。
BGM:ミステリアスなドラマのような曲調
押尾被告人の発言ナレーション:長髪のイケメン役者が、舌っ足らずな口調で再現
コメンテーター:
若狭弁護士「被告人自身が持ってきたMDMAを飲ませたということなら、保護責任がさらに強く認められる」
アメリカ陪審裁判を経験した国際弁護士「裁判員は科学者や専門家でないが、その常識や世界観で判断する」
スタジオコメント:
おおたわ史絵氏「致死の立証は医学的には本当は難しい。しかし、たとえ心臓が止まっていても救急車を呼んだのなら、裁判員の心証もだいぶ違った」
ロバート・キャンベル氏「井戸に落ちた子どもは理屈抜きで助ける。孟子の言葉ですが、日本人の基本的な良識でもある。本件は法律の理屈の問題だが、押尾被告人の自己保身を裁判員がどう見るか」
テリー伊藤氏「田中さんがMDMAを自ら飲んでいる。致死を認めるのは難しいかもしれない

 

ひるおび (TBS12時台)
扱い:通常ニュース枠
時間:25分ほど
内容:論告弁論のニュースは最低限。むしろ、傍聴したリポーターらによる押尾被告人の一挙手一投足をリポートする話題や、裁判員が休日返上で評議を行うニュースを中心に大きく特集。
BGM:VTR中では、ドキュメンタリー番組のような曲調
押尾被告人の発言ナレーション:なし
コメンテーター:なし
スタジオコメント:麻木久仁子氏 「もし自分が裁判員になったら、法的責任と道義的責任とをどう線引きして考えればいいか、難しいと思う。法廷は人格を裁くところでなく、行為を裁くところ」

 

ワイド!スクランブル (テレビ朝日11時台)
扱い:新聞読み
時間:2分ほど
内容:スポーツ報知などの記事を読み上げ。板倉宏教授の「求刑が軽い」とのコメントを紹介
BGM:新聞読みコーナー共通一貫のもの
押尾被告人の発言ナレーション:なし
コメンテーター:なし

 

情報ライブ ミヤネ屋 (日本テレビ15時台)
扱い:通常ニュース枠
時間:18分ほど
内容:法廷画を交えて、さらにスタジオでも解説。検察側と弁護側の主張を、丁寧に表にまとめて対比している。
BGM:アクション映画っぽい、少し大げさな印象のもの数曲 ときおりBGMなし
押尾被告人の発言ナレーション:若手アナウンサー風・誠実そう・棒読み調
コメンテーター:なし
スタジオコメント:
嵩原安三郎弁護士 「最近の検察は厳罰化の傾向があるので、懲役6年の求刑は率直に言って軽い。しかし、去年の執行猶予が取り消されることなども考え、全体のバランスを取ったのだろう。ただ、被告人と田中さん、どちらが用意したMDMAか“不明”という結論に裁判員が至る可能性もあるが、それでも被告人を保護責任者と認定する可能性はある。一緒に山登りをしていて、ひとりが足を滑らせて崖から落ちたら、もうひとりは保護責任者になる。それと同じこと」
岩田公雄解説委員 「裁判員の方はご苦労されるだろうが、一般人の感覚が求められている」
見城美枝子氏 「法律はともかく、人としてどうか。それが重要なわけでしょう。それが裁判員制度の魅力だと思う」
デーブ・スペクター氏 「薬物使用に対しては、アメリカの陪審は日本ほど大きく、保護責任の認定に影響しないだろう。密室で起こった事件だけに、わからないことが多く、法的に裁くことは難しい」

 

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 録画機材の物理的な問題で、日テレの「NEWS ZERO」や、フジテレビの「めざましテレビ」、テレビ朝日「スーパーモーニング」など、いくつかのニュース情報番組につき、チェックが抜けてしまったのが不覚です。

 この日は各局、政治ニュースに総力を注ぎ込んでいたからかもしれませんが、押尾裁判の報道に対する力の抜け具合が如実に出ていました。

 2~3分ぐらいの尺に抑えておく程度が、ちょうどいい塩梅といえそうですね。

 ヤメ検・若狭弁護士の、思わぬ売れっ子ぶりを目の当たりにするという収穫もありましたが……

 やっぱり各局、ヤメ検さんばかり重用しすぎです。

 弁護士業務一筋のベテランからコメントをあまり取らない(取り忘れている)態度も、テレビの報道姿勢に偏りを生む一要素だと指摘せざるをえません。

 各テレビ番組については、今後も同じようなことを、ちょくちょくやっていこうと思います。

 また、スポーツ紙や週刊誌、ネットメディアなどがどう伝えているかについても、検証したいですが、ひとりでやるのは限界がありそうですな。
 でも、結果が面白くなりそうな見込みがあるなら、やりますけど。

 
 (( 参考 ))

 

「押尾裁判」の報道姿勢に見る、メディアの相変わらずっぷり (9月7日)

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2010年9月16日 (木)

裁判員制度に警鐘! “直感的にわかる証拠”の罠… 『CSI効果』って何だ?

Photo

 

 本日行ってまいりました。

 慶応大学のキャンパスって、たぶん初めて行きましたけど、すごいド都会の中にあるんですなー。

 海外からやってこられた講師は、ニール・ファイゲンソン教授と、ジェイヒュン・パク准教授。

 通訳抜きで全部英語で講演しますと言われ、「これはヤバイ! 慶応義塾恐るべし」と、最初は頭の中で警戒警報が鳴り響いたのですが、配付された資料の中に、お二人のなさる話の日本語訳があらかじめ入ってまして、ホッと一安心。

 それをかろうじて目で追いかけながら聞いておりました。 悲しいかな、英語は断片的にしか聞き取れませんけど。

 

 ニール・ファイゲンソン教授のお話の中では、「CSI効果」というものが印象に残りました。

 これは、アメリカの人気社会派ドラマ「CSI:科学捜査班」にちなんだもの。 日本でも放送しているテレビ局がありますので、ご存知の方も少なくないでしょう。

 犯罪事件の隠れた背景を、劇的に、科学のメスを用いてサクサクと捌いてしまう、ああいう気持ちいいドラマに慣れてしまうと……

 陪審員(日本では裁判員)の任務に就いているときにも、目で見て直感的に認識できるような、インパクトの強い映像証拠を欲しがっちゃいがちなんだと。

 また、パソコンソフトを使って綺麗に整えられたプレゼン資料が示されることを期待してしまうのだと。

 これが「CSI効果」なんだそうです。

 むしろ、そうした映像証拠、あるいはパワーポイントで編集されたビジュアル文書が提出されなければ、そのこと自体が裁判員にとってマイナス査定となり、判断に不利に作用してしまう危険があるそうです。

 

 さらに、証拠提出者の意図する方向へ(それが“わざと”か“うっかり”かはともかく)、裁判員の心理を誘導してしまう可能性も指摘されました。

 たとえば、犯行の証拠である、被害者の身体に付けられた歯形を強調するため、フォトショップのような画像編集ソフトで、立体的に浮かび上がらせたり、ノイズとなるようなシワやシミなどを消してみたり、

 本来はカラー映像なのに、あえてモノクロ映像として提示することにより、好ましくないと思われたデータを見えにくくしてみたり、 (映像の改ざんではないので、不正として異議を唱えるのが難しい)

 あるいは、これも実際にアメリカであったケースで、ある鎮痛薬のメーカーが、その薬に心臓発作を引き起こすリスクを知りながら放置して、製造・販売を続けていた法的責任をめぐり、その責任を追及する側の代理人が、最終弁論の際、そのメーカーのテレビCMを法廷で流して、陪審員の大衆心理に訴えかけたこともあったそうです。

 

 ジェイヒュン・パク准教授は、ある興味深い心理実験の成果を紹介してくださいました。

 複雑な数式が出てきて、文系の私は途端に萎えてしまいましたが(心理学もいちおう文系だけど…)、要するに、

 ○ パワーポイントを使って、数枚の単純なスライドを見せただけで、陪審員役の被験者は、その当事者に有利な判断に傾いた。

 ○ パワーポイントを使って作成した証拠の効果が、最も顕著に出るのは、そうした類の証拠を、片方の当事者だけが提出した場合であった。

 ○ ビジュアル証拠を用いない代理人は、準備不足で説得力に欠ける印象を、陪審員役の被験者に与えてしまいがち。

 ○ ビジュアル証拠として、片方がアニメーション(動画)を用い、もう片方が静止画像を用いた場合、アニメーションのほうが判断に有利に作用する傾向がある。

 私は質問をしてみました。

 「いっそのこと、ビジュアル的な証拠を裁判所が採用しない、提出を禁止する、あるいは大幅に制限することはできないのでしょうか?」と。 (もちろん日本語です。 英語の通訳が入りました)

 ファイゲンソン教授は、「イッツ・エクセレント・クエスチョン」と、気遣ってくださった上で、

 「現在のところ、どのような映像証拠を制限すべきなのか、明確なルールは整備されていません。 映像証拠にも大きなメリットがあるので、すべて禁止するのでなく、危険性とトレードオフの関係にあることを意識して扱っていくことが大切。 また、反対側の法律家が、疑わしい映像証拠に、異議を唱えて反論できる機会を保証することが重要です」と答えてくださいました。

 そして、

 さきほどの、歯形の写真をフォトショップで編集された画像をもとに、逆質問されちゃいました。

 「では、逆にあなたに尋ねます。 この映像が証拠として提出された場合、どのような影響があるでしょうか」

 わたしは突然のことに動揺しながら、ありきたりのことを答えました。

 「証拠の提出者や、一般人の判断者にとっては有用かもしれませんが、裁かれる側にとっては必ずしも良いこととはいえないのではないでしょうか」

 それを聞いて、ファイゲンソン教授は、ビミョーな表情をしていましたが、大きく外してはいなかった模様です。

 

 今日知ったことを、いろんなメディアを通じて、書いたり話したりして、皆さんにお伝えしたいと願っています。

 最近、ようやく時間に余裕ができてますので……

 ズバリ、仕事をください。(笑)

 

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2010年9月 7日 (火)

「押尾裁判」の報道姿勢に見る、メディアの相変わらずっぷり

 裁判員制度がスタートする夜明け前の段階で、民放連は、裁判員裁判の報道姿勢について、自戒を込めてガイドラインを策定しています。

 

 ■ 2008年01月17日 (報道発表)裁判員制度下における事件報道について … (社)日本民間放送連盟

   

(1) 事件報道にあたっては、被疑者・被告人の主張に耳を傾ける。

   

(2) 一方的に社会的制裁を加えるような報道は避ける。

   

(3) 事件の本質や背景を理解するうえで欠かせないと判断される情報を報じる際は、当事者の名誉・プライバシーを尊重する。

   

(4) 多様な意見を考慮し、多角的な報道を心掛ける。

   

(5) 予断を排し、その時々の事実をありのまま伝え、情報源秘匿の原則に反しない範囲で、情報の発信元を明らかにする。また、未確認の情報はその旨を明示する。

   

(6) 裁判員については、裁判員法の趣旨を踏まえて取材・報道にあたる。検討すべき課題が生じた場合は裁判所と十分に協議する。

   

(7) 国民が刑事裁判への理解を深めるために、刑事手続の原則について報道することに努める。

   

(8) 公正で開かれた裁判であるかどうかの視点を常に意識し、取材・報道にあたる。


 民放連は、これだけ立派なことを言っていますが、さて、先週金曜日から始まった、今回の押尾学裁判員裁判の報道姿勢は、果たして、これらのガイドラインを守れているのでしょうか。

 推定無罪という、抽象的なお題目の話だけでなく、曲がりなりにも、被告人が現に無罪を主張している否認事件である以上、この「押尾裁判」は非常にデリケートな事案なのです。

 が、番組制作サイドに、そのあたりの配慮がどれだけあるのか、心配に思います。

 もちろん、押尾被告人の印象は、率直に言って悪い。 これまで思想性も哲学もカラッポなイケメン俳優が、粋がって背伸びして、ひたすら針小棒大のハッタリを言い並べてきたように見えます。

 その自信満々っぷりを、殿方の魅力として感じてしまった女性たちが近寄ってきて、大いにモテにモテた色男、遊び人のイメージもあります。

 しかし、それがいくら気にくわないからと言って、それは法廷で裁かれるべき事柄でないことは言うまでもありません。 もちろんマスメディア報道によってリンチを加えられるべき筋合いもない。

 押尾さんは女にモテる。 われわれはモテない。 これは、いくら藻掻いても、どうしようもない現実なのです。

 どうぞ広い心で受け容れてください。 野郎のジェラシーはカッコ悪いっすよ。

 今回、東京地裁104号法廷で裁かれるべきは、あくまで「保護責任者遺棄致死が成立するような行為(不作為)が、その日のその時刻の被告人にみられたかどうか」 ……この公訴事実ただ一点です。

 一部の良心的なコメンテーターの方は、「押尾被告人は、芸能人時代のイメージが強いため、なおのこと、有罪無罪の判断に先入観や偏見が入らないようにしなければいけない」といった趣旨の指摘を付け加え、必死にバランスを取ろうと、涙ぐましい努力をしています。 おつかれさまです。

 問題は、裁判の一部始終を報道するVTRの中身ですよね。

 おどろおどろしいBGMを付けてみたり、全体的な色合いで黒を基調にしてみたり、センセーショナルな証言だけを強調して採り上げたり。

 VTRの編集担当者が匿名であることをいいことに、面白がって好き勝手なことをしていないでしょうか。

 ただ、こうして私の印象論だけを書き並べても仕方がありませんよね。

 今度、各局のニュース番組を全部録画して、しっかり検証してみようと思います。 この心のモヤモヤに決着を付けたいと願いますね。

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2010年6月10日 (木)

公判前整理が長引いて、いまだに裁判が始まらない著名事件リスト

>>> 全国所長会同:「裁判員裁判、迅速に」最高裁長官が要望

 全国の裁判所トップが集まって司法行政の課題を議論する「高裁長官、地・家裁所長会同」が9日、最高裁で始まった。竹崎博允(ひろのぶ)・最高裁長官は、裁判員対象事件の公判が始まるまでに時間がかかりすぎている問題について「被告に迅速な裁判を保障するため、公判前整理手続きの機能を高め、速やかな審理を実現することが望まれる」と述べた。 (2010年6月9日 毎日.jp)



 「刑事裁判のスピードアップ」が狙いのひとつだったはずの裁判員制度。

 最新の統計によると、昨年度(2009年5月21日~2010年3月31日)に起訴された事件のうち、判決が出たのは全体の約28%にとどまるそうです。

 もちろん、1月とか2月とか、年度末まぎわに起訴された事件で、まだ判決が出ていないというのなら理解できますよ。

 そのへんの事情を差し引いて考えてたとしても、決して無視できない「渋滞」っぷりです。

 オウム事件や毒カレー事件なんかの審理がずいぶん長引いたので、「裁判って何十年もかかるんだ」という漠然としたイメージが先行してますが、ああいうのは例外なんです。

 もともと刑事裁判って、平均すると3~4カ月ほどで終了するので、早く済むほうで、むしろ、国や地方自治体を相手取る行政裁判のほうが長びきがちです。

 しかも、現在の行政裁判の結論は、国や自治体サイドの勝訴に偏っている印象がありますし。

 本気で司法判断に民意を反映させたいのなら、公害などの利害調整や税金の使い道など、(強盗殺人や覚せい剤密輸などより)よっぽど住民にとってイメージしやすい問題を審理する行政裁判に、裁判員制度を導入したほうが、はるかに筋が通っています。

 もっとも、行政裁判に一般市民を参加させたとしたら、別の問題がたくさん噴出するでしょうが……。 あくまで「筋を通すなら」という話です。

 

 それはともかく、裁判員制度推進派の竹崎さんも、現状にずいぶん焦っているようですね。

 毎年恒例になった憲法記念日の記者会見でも、竹崎長官は同様に「裁判員裁判の公判前整理が長引きすぎている。裁判が始まってからの審理や評議でツジツマを合わせようったってダメ」と発言しています。

 では、公判前整理が長引いて、未だに初公判が始まっていない事件には、どういうものがあるのか?

 調べるのが意外と大変なので、とりあえず、故意に人を死亡させた事件だけに絞ってみました。

 

※ 「ほかにもあるよ」「この事件は、もう判決出てるよ」などの追加情報もお待ちしています。



 

■ 京都・舞鶴市 女子高校生殺害・死体遺棄事件

2008年5月7日(事件発覚)
2009年4月7日(逮捕)
2009年4月29日(起訴)
 ⇒ 被告人は犯行否認中
 起訴のタイミングが裁判員法施行前なので、裁判員裁判の対象ではないが、公判前整理の回数は12回(今年5月現在)を数える。
(被告人名:中勝美)

 

■ タイ・バンコク内 岐阜県出身の日本人監禁・強盗殺人事件

2008年8月21日(事件発覚)
2009年8月4日(逮捕)
2009年8月24日(起訴)
 ⇒ 被告人らは犯行を一部否認
(被告人名:浦上剛志、森宏年)

 

■ 東京・中央大学教授殺害事件

2009年1月14日(事件)
2009年5月21日(逮捕)
 被告人を簡易精神鑑定するため、約3カ月半の留置
2009年10月2日(起訴)
(被告人名:山本竜太)

 

■ 大阪・枚方市 家族3人(妻・長女・次女)殺害事件

2009年4月17日(事件)
2009年5月8日(逮捕)
 被告人を簡易精神鑑定するため、約1カ月半の留置
2009年7月23日(起訴)
(被告人名:岡田浩幸)

 

■ 滋賀・米原市 同僚女性殺害・汚泥タンク内への遺棄事件

2009年6月12日(事件発覚)
2009年6月19日(逮捕)
2009年7月9日(起訴)
 ⇒ 被告人は犯行否認
(被告人名:森田繁成)

 

■ 東京・秋葉原 耳かき専門店女性従業員とその祖母の殺害事件

2009年8月3日(事件・逮捕)
2009年8月24日(起訴)
 ⇒ 2010年5月6日 被告人の精神鑑定実施が決定
 ⇒ 「関係者によると、初公判は早くても今年秋以降になる見通し」(読売新聞報道)
(被告人名:林貢二)

 
 
 

 起訴から初公判までのスパンが長期化している理由には、どうやら、おもに「公訴事実の否認」と「精神鑑定の実施」の2つがあるようですね。

 また、ほのかに覚えていらっしゃる方も多いでしょうが、2006年に発生した「シンドラーエレベーター」の死亡事故。

 あれも、シンドラー社やエレベーター保守会社の幹部社員らが、業務上過失致死の疑いで、昨年になって起訴され、目下、公判前整理中のようです。 知らんかった……。

 
 

■ お知らせ ■

 警視庁捜査2課は9日、振り込め詐欺の現金引き出し役「出し子」として画像を公開していた東京都小金井市東町、無職の長嶺修介容疑者(52)ら2人を詐欺容疑で逮捕した。(日本経済新聞 - 2009年6月9日)

 

 とっ……父さんがっ!! (うそ)

 

 それにしても、振り込め詐欺の「業界」も、分業化・システム化が進んでいるようですね。 ふざけたもんです。

 監視カメラに面が割れるリスクを覚悟で、だまし取った現金をATMで引き出す専門メンバーが「出し子」。

 偽造(あるいは他人名義)の身分証を使って身元を隠し、携帯電話を契約する「道具屋」。

 電話口で相手と顔を合わせずにだます、卑怯な詐欺実行犯のことは、たしか「ナキコ(鳴き子?)」とか言うらしいですね。 こないだ傍聴した振り込め詐欺の公判で、被告人が言ってました。

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2010年4月18日 (日)

裁判員対象の事件数が急減! …のナゾ

 裁判員制度の公式サイトでも公開されている、『裁判員制度ナビゲーション』(最高裁)に載っかった統計資料によると、

 ここにきて、裁判員制度の対象事件が、急速に減っているようなのです。

 2004~2008年の5年間の通しデータが出ているのですが、

 総数で、

 3800件(2004年) → 2324件(2008年)

 異様な減り方を見せています。

 

 裁判員対象事件の内訳で、最も多い強盗致傷罪は

 1146件(2004年) → 590件(2008年)

 ほぼ半減です。

 

 全体的な大幅減ですが、特に目立った減り方をしているのは、
 殺人       761件(2004年) → 543件(2008年)
 現住建造物放火 357件(2004年) → 234件(2008年)
 強姦致死傷   316件(2004年) → 189件(2008年)
 危険運転致死   38件(2004年) →  17件(2008年)
 偽造通貨行使  151件(2004年) →  36件(2008年)
 通貨偽造      53件(2004年) →  23件(2008年)

 

 うーむ…… なんだこれ。 

 以前にお伝えした、検察の秘技『罪名落とし』も一因にあるのでしょうか?

 ただ、フタを開けてみると、昨年以来、裁判員裁判では量刑の厳しい判決が続々と出ています。 だから、一概に検察が裁判員裁判を嫌がる理由もなさそうです。

 また、「強姦致傷」や「強制わいせつ致傷」など、裁判員対象の性犯罪では、できるだけ事件の詳細を一般人に知られたくない被害女性の心情に配慮し、あえて検察が「強姦(強制わいせつ)+傷害」へ切り替える場合もある模様。

 つまり、裁判員制度の下では、検察による罪名落としに積極的な意義を見いだす考え方もありうるんです。

 

 それに、殺人事件に関しては、2009年の最新統計で、警察による認知件数が前年比15%減だそうで。

 殺人そのものの発生数が減っているとすると、検察の「罪名落とし」だけに根拠を求めるのはムリがあるのでしょう。

 2008年の裁判員対象事件数データは、去年6月に公表されていますから、統計を取るのが1年ペースだとすると、今度の6月には、最新データ(2009年ぶん)が?

 今年は、ちょっと気をつけて確認してみたいと思います。

 

 世界的には凶悪犯罪が増加傾向にあると言われているのに、ホントに日本国内でだけ減っているとしたら、それはナゼ??

 なのに、ニュースやワイドショーが、猟奇的な殺人事件の話題に相当な時間を割いているのは?

 テレビのコメンテーターの先生方には、そのへんをビシッと分析していただきたい。

 うかつに分析したら、番組干されるかもしれんので、ムリにとは申しませんが。

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2010年3月30日 (火)

理屈っぽいと、裁判員になれない?

>>> 「理屈っぽそうな人除外」 弁護人、5人不選任請求

 昨年7月、ゴム袋に入れた覚せい剤をのみ込み営利目的で密輸したとして、覚せい剤取締法違反などの罪に問われ、裁判員裁判となった運転手柏倉進(かしわくら・すすむ)被告(40)の弁護人が、裁判員の選任手続きで理由を示さずに特定の候補者5人を選ばないよう東京地裁に請求し、認められていたことが19日、分かった。
 弁護人が明らかにした。選任手続きは17日で、弁護人は「候補者の雰囲気や外見から判断し、理屈っぽいような人を外し、情に厚そうな人は残した」と話している。 [後略]  (共同通信 2010/03/19)



 

◆ 裁判員の参加する刑事裁判に関する法律 第36条(理由を示さない不選任の請求)
1 検察官及び被告人は、裁判員候補者について、それぞれ、4人[中略]を限度として理由を示さずに不選任の決定の請求(以下「理由を示さない不選任の請求」という。)をすることができる。
2 前項の規定にかかわらず、補充裁判員を置くときは、検察官及び被告人が理由を示さない不選任の請求をすることができる員数は、それぞれ、同項の員数にその選任すべき補充裁判員の員数が1人又は2人のときは1人、3人又は4人のときは2人、5人又は6人のときは3人を加えた員数とする。
3 理由を示さない不選任の請求があったときは、裁判所は、当該理由を示さない不選任の請求に係る裁判員候補者について不選任の決定をする。
4 刑事訴訟法第21条第2項の規定は、理由を示さない不選任の請求について準用する。

 
 
 

 現在の裁判員裁判では、裁判員6名に加えて補充裁判員を1~2人任命する運用が多いでしょうから、裁判員法36条2項で、理由なし不選任を弁護人・検察官で5人ずつ行うことができます。

 このニュースの件でも、同じく、裁判員の候補者の中からランダムに選ぶ前に、弁護人と検察官で最大5人ずつ、いわば門前払いで外すことができることになっています。

 「理由なし不選任なのに、理由を発表してどないすんねん??」と思うわけですが、導入されたばかりの裁判員制度に対する理解を求めるため、透明化を図ろうとしているんでしょうかね。

 それにしても、理由なし不選任を、わずかな時間内に見た目やフィーリングで選別するしかないという、まるで初対面同士の集団婚活パーティーのような現状では、こうした情報公開はかえって逆効果に繋がるような気も。

 パッと見で「理屈っぽそう」「情に厚そう」と決めつけて、ムリヤリ選別するぐらいなら、初めから理由なし不選任の権利を放棄したほうがいいのでは? 弁護人さん。

 情に厚い人を残した結果、求刑:懲役8年、罰金300万円に対し……

 判決:懲役6年、罰金150万円となったそうですが、

 これは、刑の減軽を図りたい弁護方針にとって、功を奏したのかどうか……?

 放っておいても大差ない結果になったんじゃないの?

 なかなか因果関係の判断は微妙なところです。

 

 せっかく仕事や家事を休んで裁判所までやってきた候補者を、雰囲気やフィーリングを根拠に帰らせる「理由なし不選任」については、いろいろと懸念されている部分があるようです。

 もちろん、裁判の公平性を保つために、有効な使い方をすることはできます。

 たとえば、なんらかの宗教の教祖が被告人になっているとして、同宗教の信者が裁判員を務めることは、さすがに問題です。 (もっとも、その宗教独特の服装や印を付けていないと、見た目で区別できないでしょうが)

 裁判員を務めるにあたって、いろいろと介助や通訳が必要となると想像される身体障害者などについて、「作業負担を減らすため」あらかじめ検事が候補から外してしまうのではないか? など、心配される材料も尽きません。

 大阪では実際に、「富裕層っぽい候補者は、温情が得られないと考えて不選任にした」と発表した弁護人もいるようですし……

 ものすごい偏見です。 そんなもん、人によるわ。

 どこまで法律家の自律的裁量に任せるべきか、そろそろ考える時期に来ているのかもしれませんよ。

 理屈っぽそうな候補者を弁護人が外した後、それに対抗して、被告人に同情しそうな候補者を検察官が外していたら、制度の存在意義がようわからんようになりますし。

 

 理由なし不選任については、欧米の陪審制でも、同様の仕組みがあるようです。

 ハリウッド映画の法廷モノで、たまに取り上げられる「陪審コーディネーター」という職業。 陪審員の候補者の出身地や人種、家族構成や趣味嗜好などのデータを徹底的に調べあげて、被告人にとって有利な陣営で固める裏工作をするようですが、

 映画の話なので、どこまで演出が含まれているか定かではありません。

 ただ、そこは訴訟大国。 実際に陪審コーディネーターみたいな人が、かなり踏み込んだところまで噛んでいて、陪審評議に影響を及ぼしている可能性は否定できません。

 
 

 そういえば昨日、建設中の新東京タワー(東京スカイツリー)が、日本一の高さに達したと報道されました。

 今日、たまたま新橋方面で仕事があったので、ビルの谷間にかろうじて顔を出す、元祖東京タワーを撮影。

20100318134251

 

 まるで、縦横無尽に走る電線に、窮屈そうに絡まっているがごとし。

 まぁ、撮影のやり方次第なのですが。

 1958年生まれ、51歳の東京タワー。

 ちょっぴり哀愁を感じます。

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2009年9月 8日 (火)

ついに獲れたぞ、裁判員裁判の傍聴券

Photo  ようやくです。

 全国で5例目、大阪で初めての、しかも覚せい剤密輸事犯として全国初での裁判員裁判です。

 いやぁ、またまた外れても、別にいいやと半ば諦めていたんですが。

 大阪地裁にだって詐欺とか窃盗とか、他にもたくさん裁判があるから、と。

 

 なんのこたない!

 ついに無欲の勝利を果たしました。

 いやぁ、懲りずに生きてたら、たまには良いこともありますね。

 

 東京と埼玉で、5回連続で抽選に外れたときは、このブログでグチグチ愚痴って、みなさん、すみませんでした。

 

 しかも、今日の裁判長は杉田宗久さん! これほどのプレミア傍聴券は、なかなか無いですよ。

 『裁判官の爆笑お言葉集』(幻冬舎新書)を読んでくださった方なら、覚えていただいているかもしれませんが……

 生活苦でつい盗みをしてしまった主婦の被告人に、執行猶予判決を言いわたした後、

 「もう、やったらあかんで。 がんばりや」

 と声をかけながら、握手を求めたという、全国でも屈指の人情派裁判官です。

 

 肝心の裁判の中身のほうは…… 非常に興味深かったですね。 1時15分から、5時半過ぎまで審理してましたが、時間が経つのを忘れていました。

 詳しくは、裁判傍聴録のマガジンにて、近日中に配信いたします。 

 ひとことでいえば、「タダより高いものは無い」ということでしょう。

 裁判員制度、初めてナマで観てみたら、意外と良いシステムなのかもなぁと思いました。

 もちろん、裁判員が快く協力に応じてくださっている状況が前提ですが。

 情状証人の母親に、質問ではなく、ついつい説諭をなさった、ご年配の裁判員もいらっしゃいましたが、杉田裁判長はおおらかに受け止めて、さらに「今、裁判員の方がおっしゃったこと、忘れずにいてくださいね」と念を押していました。 さすが。

 杉田さんご自身もたまに、補充質問で熱が入るあまり、説諭しちゃうこともおありなのでしょうね。

 

 明日も、朝8時前から裁判所まで整理券が配られますから、早起きして獲りに行きます。 

 まぁ、奇跡は2日連続で起こらないでしょうけど。 ふふふ。

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