2012年10月 6日 (土)

日本史上に燦然と輝き、シビれる「弁護士弁論」の備忘録(4) 『極東国際軍事裁判(東京裁判)一般最終弁論』 日本側弁護人・高柳賢三弁護士 1948.3.4

025313
 (Illust ACより)

 

 東京裁判。
 太平洋戦争当時の内閣総理大臣・東条英機などの首脳陣が、アメリカなどの戦勝国などから招集された裁判官により、「戦犯」としてことごとく死刑判決を言い渡されたアレです。

 その罪名が「人道に関する罪」という、どこから引っ張り出してきたのか不明なシロモノ。少なくとも、戦争が始まった時点では存在しない罪であり、そんな守りようのないルールで人を裁けないことは、法学部の1年生でも理解できます。

 

 仮に戦争責任というものがあるとすれば、その国内において、国民一人ひとりの自省なども踏まえて問われるべき概念。 せめて、戦争で何らかの被害に遭った国の人々が追及するのなら、まだ理解の範囲内です。

 ただ、戦勝国が「日本が起こした戦争が違法なので、それによる殺害行為も違法」とし、当時の政府首脳に対し、一般的な殺人の罪を着せようというのは、無茶な企みでしょう。

 

 確かに戦争は良くない。軍人・民間人問わず、おびただしい数の人命が犠牲となった。

 ただ、勝った国による殺害を棚に上げて、敗けた国の殺害ばかりを犯罪として裁く行為を、公正な裁判と呼ぶことは不可能です。
 裁判のやり直しを求めたくても、今では法廷そのものが存在しない。 力に物を言わせた理不尽なリンチなのです。

 少なくとも、民間人を狙って焼夷弾や原爆を落としたような国に責められたくありません。

 

 というわけで、日本側弁護団のひとりである高柳氏は、一国の首相らを殺人罪に問う「裁判」に鋭い異議を唱え、次のような弁論を行いました。

 

 

 

 「兎の手品」の比喩は、今日の流行であるようだ。

 イギリス国会において国内輸送機関の国有に関する政府の計量を批判するにあたって、レディング卿は、政府は比較的短い期間に「国有という帽子の中から社会主義の兎」を取り出すことに、すこぶる堪能であることを示したと言った。

 また、全印議会において、アチャリア・クリバラニ
(原文ママ)氏は、イギリス側の提示した憲法草案を批判して、ヒンドスタン語で、イギリス人は都合の好いときにいつでも帽子の中から兎や卵を取り出すと言った。

 私もこの世界的流行を真似て、検察側の議論を特徴づける精巧に編み上げられた詭弁の網を一気に解消せしむるために、兎の手品にたとえることを許されたい。

 手品師は通常の帽子を借りてきて、これをテーブルの上に置く。そして、これに向かって何やら呪文を唱える。

 さて、帽子を取りあげる。すると、テーブルには小さな兎がうようよ走り回っている。帽子の中にもともと兎がいたのではない。手品師が兎をその中に入れたまでである。

 検察側の議論は、まさにこれと同様である。
 検察側は普通の帽子、すなわち国家国民を拘束する国際法という綺麗な、そして上品な周知のシルクハットを持ってきて、これをテーブルの上に載せる。そして、これに向かって呪文を唱える。

 その呪文の中から「違法」とか「犯罪的」とか「殺人」とかいう言葉が次第に大きく響いてくる。

 そして、帽子を取りあげると、たちまち裁判所の中には国内法のここかしこから借りてきた新生の国際法理論が現れて観衆を驚かせる。

 どこからそれらを持ってきたかは重要ではない。もともとそれらの理論がシルクハットの中に無かったことだけは確かである。検察側において、それらをシルクハットの中に入れたのである。

(『東京裁判却下未提出弁護側資料 第7巻』 国書刊行会 P.49~50)

 

 

 ……うーん、ウマイたとえなのかどうかは微妙ですが、なかなかユニークな展開の主張ですので、個人的には気になりました。

 参考資料名は「却下未提出」となっていますけど、この最終弁論は実際に法廷で行われています。

 ちなみに、「アチャリア・クリバラニ」は速記者の誤記らしいのですが、正しい氏名は不明です。

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2012年6月27日 (水)

「特別傍聴券」って、知ってますか?

 いま、被告人が犯行を否認している下関女児殺害事件の裁判員裁判が山口地裁で行われています。判決が出るのが7月下旬で、38日間にも及ぶ審理期間を経る、かなりの長期裁判となります。

 初公判は、傍聴券が抽選となるほどの注目度を集めていたそうです。

 そこへ、ジャーナリストの片岡健さんが取材に行っているのですが、興味深い報告を得ました。

 その法廷の傍聴席に、6人の検察事務官がズラリと座っていたらしいのです。みんな名札をぶら下げていたらしいので、山口地検の者だということはわかったのですが……。

 いったい何の用なのでしょう。彼らが傍聴席を占拠したことで、6人の傍聴希望者が帰らされているはずなのです。


 一般傍聴席を減らす目的、裁判の公開原則に反する目的を疑われても仕方ないでしょう。裁判の進行上、何か知られると都合が悪いことでもあるのか。
 
 ここからが片岡さんのジャーナリスト魂の真骨頂なのですが、休廷中に、何の目的で座っているのか、6人の検察事務官に尋ねたらしいんですね。

 すると、「特別傍聴券」なる紙を見せて、「裁判所から認められてるんだ」「法廷の検事をサポートする目的で待機している」という答えが返ってきたそうなのです。

 普通の傍聴券とは別に、特別傍聴券なるものが存在することを、私は初めて知ったのですが、なんでも、本来は犯罪被害者等の事件関係者が、法廷を優先的に傍聴できるよう、裁判所が気をきかせて配布するものだとのことです。

 もちろん、事件関係者が優先的に審理を傍聴できることは知っていましたが、その身元は身分証などで確認すれば済む問題で、わざわざ「特別傍聴券」という無記名のチケットを配布する必要はないわけです。
 
 そんなことをするから、検察庁から検察事務官へ、まるでダフ屋のように傍聴券が流れるような真似を許してしまうのです。
 
 そもそも、法廷の事務官に検事をサポートする目的が仮にあったとしても、1人で十分でしょう。6人も必要ありますか? タンスか何か運ぶんですか?
 
 もしかすると、犯罪被害者等の事件関係者に配るために、山口地検が特別傍聴券を6枚確保したものの、何かの都合で6人全員来られなくなったのかもしれません。

 でも、途中で急きょ駆け付ける場合も考えられるから、事務官が傍聴席を温めておいてあげた…… のかい?
 
 公正な裁判が行われているかどうかを、主権者である国民が監視することが建前である裁判公開制度ですが、結果的に一般傍聴人の入廷が制限されているとしたら、これは問題ですよ。
 
 しかも、検察事務官6人だと思われていた傍聴席占拠組の1人が、山口地検の次席検事(ナンバー2)だったとのことです。
 
 地検にどういう事情があるのか知りませんが、少なくとも、事実を公表せずにコソコソやることではない。何が「公益の代表者」だ。

 片岡さんは、法廷の取材と並行して、検察庁への抗議も行っているとのこと。お疲れ様です。気を付けて取材を続けていただきたいです。

 
 
 個人的には、そういった注目裁判の模様は、くじ引きを外してしまった傍聴希望者に向けて、特別に裁判所のロビーにあるモニターに映し出してサテライト生中継すべきだと考えています。 そうすれば傍聴席の数を気にする必要がないので。

 
 
 

※追記※ 2012/07/02

この投稿に一部不正確な面がございました。

片岡さんによると、「特別傍聴券」と書いてあるのを横から確認して、傍聴席を6席も占拠している目的を質しましたところ、「裁判所の訴訟指揮にかかわることなので、回答できない」という答えしか返ってこなかったのだそうです。

片岡さんが公判中に彼らの様子を観察していて、「法廷の検事をサポート」する目的で待機しているような印象を受けたとのことですので、その目的を検察から説明されたわけではないそうです。

現在の片岡さんは、傍聴取材と並行し、この問題について報じようとしない記者クラブに対し、取材を申し込んでいる最中だそうです。

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2010年11月18日 (木)

柳田サンの舌禍にちなんで… 歴代法務大臣お言葉集!

>>> 法相?えーっ何で俺が… 柳田法相の発言要旨

 柳田法相が14日に広島市で開かれた法相就任を祝う会合での発言要旨は次の通り。

 「9月17日(の内閣改造の際)新幹線の中に電話があって、『おい、やれ』と。何をやるんですかといったら、法相といって、『えーっ』ていったんですが、何で俺がと。皆さんも、『何で柳田さんが法相』と理解に苦しんでいるんじゃないかと思うが、一番理解できなかったのは私です。私は、この20年近い間、実は法務関係は1回も触れたことはない。触れたことがない私が法相なので多くのみなさんから激励と心配をいただいた」

 「法相とはいいですね。二つ覚えておけばいいんですから。『個別の事案についてはお答えを差し控えます』と。これはいい文句ですよ。これを使う。これがいいんです。分からなかったらこれを言う。これで、だいぶ切り抜けて参りましたけど、実際の問題なんですよ。しゃべれない。『法と証拠に基づいて、適切にやっております』。この二つなんですよ。まあ、何回使ったことか。使うたびに、野党からは責められ。政治家としての答えじゃないとさんざん怒られている。ただ、法相が法を犯してしゃべることはできないという当たり前の話。法を守って私は答弁している」 (2010年11月18日10時43分  読売新聞)


 

 きっと、良くも悪くもサービス精神の強い方なんでしょうね。

 せっかく集まってくださった地元の支援者を退屈させないようなスピーチを志向し、何か面白い冗談を交えられないかとネタを練り、「そうだ!」と思い至ったのでしょう。

 ただ、過去には『個別の事案についてはお答えを差し控えます』『法と証拠に基づいて、適切にやっております』という切り札を、実際に40回近くも使っちゃったという柳田さん。

 これらの切り札を一度も切らずに、「法務大臣はふたつ覚えておけばいいんです」発言が出ていれば、ある意味かっこよかったのですが(歴代法相に対しては、結構な侮辱でしょうけど)、残念ながら冗談が冗談になっていませんでした。

 野党からグイグイ責められ、ただいま辞任を迫られるほどのプレッシャーをかけられています。

 

 ここで、私がこれまで、秘密のネタ帳にシコシコ書き留めてきた、歴代法務大臣の失言・珍言をまとめてお送りします。

 このネタが日の目を見るべき絶好のタイミングが、ようやくやってきて、よかったよかった……??


 
 

「国会審議はお祭りみたいなもの。 予算は形式的にお祭り的に国会にかけなければならない」

 (1971年2月 小林武治氏) 自民党の演説会にて

 これも「国会軽視発言」の一種ですね。小林元法相は間もなく辞任に追い込まれますが「せいせいした。前から辞めたかったんだ。法務大臣じゃ選挙運動もロクにやれんからな」なんて、ホンネとも強がりともとれるコメントを残しています。

 

「現行憲法には欠陥が多い」

 (1975年5月 稲葉修氏) 参議院決算委員会にて

 この稲葉元法相は、柳田さんと違って、中央大学法学部の教授から政界に進出したという、プロ中のプロ。 やがて、この発言を取り消す旨を宣言しますが、野党議員から「法相は学者としての理念まで取り消すのか」とツッコまれ、「そうではない。取り消すというのは不適当な言葉であり、誤解を生じるので。できれば改正したい点もある憲法でございます、とか、他に言いようがあったんじゃないかと思う」と弁明しています。 まぁ、憲法改正こそ自民党の存在目的そのものだと聞きますし、そのポリシーが法務大臣の口から出た形のようです。

 

「刑事責任の追及段階では、捜査当局が主役であり、国会は脇役ではないのか」

 (1976年7月 稲葉修氏) 参議院ロッキード問題特別委員会

 これも国会軽視系ですけど、まぁ、正論のような気がしないでもないですね……? ともかく、国権の最高機関として証人喚問を含む国政調査権を掌握する国会のプライドを、うっかり傷つけてしまったようです。

 

「(歌舞伎町周辺は)悪貨が良貨を駆逐するというか、アメリカにクロが入ってシロが追い出されるというように、混住地になっている」

 (1990年9月 梶山静六氏) 閣議後の記者会見にて

 黒人を「悪貨」に例えてしまった人種差別発言です。 4日後に、発言の取り消しと陳謝をしていますが、そんなことでは決着が付かず、国際問題に発展。
 アメリカ黒人議員連盟の会長に、陳謝を述べる書簡を送るも、間もなく下院外交委員会にて、梶山元法相の発言を遺憾とする決議が賛成多数で採択されました。 それにしても、なんでこんなこと言っちゃうんでしょうか。

 

「南京大虐殺というのは、でっち上げだ」

 (1994年5月 永野茂門氏) 毎日新聞に掲載

 この発言により、就任わずか10日で一気に辞任に追い込まれました。 「30万人を虐殺した」という犠牲者数を問題にしているのか。 それとも、日本軍による大量殺害行為そのものを否定しているのか。 「大虐殺」の定義や史実の検証が問題になるのでしょうが、いずれにせよ、デリケートな近代史問題だけに、触れる場合は覚悟して、細心の注意が払われるべきです。

 

「聞いているか聞いていないかということも、申し上げられません」

 (2004年10月 南野知恵子氏) 衆議院予算委員会にて

 日本歯科医師連盟による自民党旧橋本派へのヤミ献金事件について、野党議員から「事件について、どう把握しているか」と尋ねられてのアンサー。 さらにしつこく聞かれて「聞いていません」「報告できません」「言えません」と、クルクル変わる苦し紛れの空虚な答弁に、このときも法務大臣としての資質を問う声が噴出しましたね。

 

「法務省でも、『らい』の問題について啓発が必要なので予算をお願いしました」

 (2005年1月 南野知恵子氏) 自民党の島根県議「新春の集い」にて

 「らい」という言葉そのものが差別用語だというより、ハンセン病が「らい」と呼ばれていた時代に、患者に対する壮絶な差別待遇が行われていたという事実の比重のほうが大きいのでしょう。ベテラン看護師出身の法務大臣ですから、かつての呼称のクセが抜けていないかもしれません。ですが、少なくとも、法律の条文上、らいという病名は1996年でハンセン病と統一されているのですから、配慮されるべきでした。

 

「男児誕生を期待しています」

 (2006年9月 杉浦正健氏) 

 秋篠宮紀子妃殿下ご出産の前日の発言。実際に親王がお生まれになりましたが、男系天皇の「お世継ぎ」を生むという妃殿下のプレッシャーに微塵も配慮していないだけでなく、端的に女性蔑視とも受け取られかねない失言です。男女平等を謳っている憲法の下の法務大臣ですから、もうチョイ慎重に。

 

「私の友人の友人が、アル・カーイダなんです。 『バリ島の中心部は爆破するから近づかないように』というアドバイスは受けてました」

 (2007年10月 鳩山邦夫氏) 日本外国特派員協会での記者会見にて

 かなりユニークな人脈をお持ちのようですが、この発言の数時間後に「(友人の友人がアル・カーイダだと)断定的に言える状況ではなかった」と修正し、さらにバリ島のディスコ爆破テロを前もって知っていたというわけでない、と釈明しています。 ようわからんです。

 

「判決確定から半年以内に執行するという法の規定が事実上、守られていない。法相が絡まなくても、半年以内に執行することが自動的、客観的に進む方法はないだろうか。順番通りにするか、乱数表なのか分からないが、自動的に進んでいけば『次は誰』という話にならない」

 (2007年10月 鳩山邦夫氏)

 死刑執行決定の重責から逃げたがるかのような、いわゆる「死刑ベルトコンベア」発言として有名ですが、鳩山さんご本人は「ベルトコンベア」という表現は使ってません。ただ、のちに「乱数表という表現を使ったのは少し反省している」とも述べています。少しかい。 人が人を裁く司法。刑罰も人が人に科すのです。その現実から目を背けてはならないのでしょう。

 死刑執行がらみの消極発言では、杉浦サンの就任会見もあります。


 

「志布志事件は、冤罪と呼ぶべきでない」

 (2008年2月 鳩山邦夫氏) 検察長官会同にて

 罪のない人に罪をかぶせるのが、冤罪という言葉の辞書的な意味ならば、やはり志布志事件も冤罪事件なのですが、「実際に起こった犯罪行為の濡れ衣を着せられた」のではなく、「実際にも存在しない罪をかぶせられた」という点で、志布志事件は、足利事件など一般的な冤罪事件とは一線を画します。 何もないところから罪をでっち上げる。いわば『創罪』とでもいうべきインチキ。『創罪』という響きは、なんだかデリカテッセンみたいですが、志布志事件という冤罪事件の特殊性を考えに入れれば、鳩山発言も納得できる……かも??

 

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 権限が権限だけに、法務大臣のポストに就く人物は、「差別」「基本的人権」「国民主権」「条文に書かれた内容」などの要素に対し、ことのほか敏感に配慮しながら発言することが求められるのでしょう。

 法務大臣お言葉集。 コンテンツは探せば、もっとあると思います。

 親切な皆さん、どうか私に力を貸してください。 よろしくお願いします!

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2010年9月26日 (日)

隣国の「ゴネ得」をあっさり許す、よわよわ法治国家 ― 尖閣諸島問題

>>> 中国人船長釈放:「独自の決定」強調 那覇地検会見

 拘置期限まで5日間も残る中、供述拒否に転じた被疑者を釈放するという異例の措置を取った那覇地検。鈴木亨次席検事は会見で「福岡高検および最高検と協議の上で決定した」としたが、日中関係への影響に言及するなど、検察当局を超えた政治判断が色濃くにじむ。

 会見では「今後の日中関係を考慮」との釈放理由について、記者から「政治的判断もあるように読める」「日中関係とはどういうことを想定しているのか」などと質問が相次いだ。

 鈴木次席検事は資料をめくりながら言葉を選ぶように説明。「今回の決定は日中両国の外交その他の関係に与える影響について、あくまで本件に関する諸事情の一つとして考慮した」などと終始政治判断を否定。検察独自の判断であることを強調した。

 拘置満期前の釈放も「必要な捜査がほぼ終結する見込みとなった」と捜査上の判断とした。

(琉球新報 2010/09/25)


 
 

◆ 刑事訴訟法 第248条(起訴便宜主義)
 犯人性格年齢及び境遇犯罪軽重及び情状並びに犯罪後情況により訴追を必要としないときは、公訴を提起しないことができる。

 

 

 えーと、もう一度お願いします。 どの事情で起訴猶予にしたんですって?

 犯人の「境遇」ですか?

 ……って、さすがにムリがある。

 「外交その他の関係に与える影響」で訴追を必要としないとき、検察は被疑者を起訴しないことにできるって、何法の何条に書かれてるんでしょう?

 それとも、法律上の根拠が無いから「独自の決定」なんでしょうか?

 

 起訴するかしないかを、担当検察官の専権で決められる起訴便宜主義は、刑事政策、つまり犯罪を防ぐという目的の限度で、ある程度の政治的な判断も許す概念です。

 もちろん、だからといって、検察官が外交官を兼務しないことは言うまでもありません。

 

 そういえば、今回の件について、政治家たち(特に閣僚や与党議員)は、「司法当局の判断を尊重」みたいなことを、及び腰で口々に言ってますね。

 まるで三権分立うんぬんを根拠にして、裁判所の出した判決にノーコメントを貫くように。

 

 司法とは、あくまで裁判所機構のことを指します。

 そりゃ、「司法当局」という特殊表現を使ったなら、そこには裁判所に加えて、警察・検察・海上保安庁・麻薬Gメンなどの捜査機関まで含む意図もあるものです。

 しかし、三権分立での一般的な分類上、検察の判断は「行政」の判断でしょう。

 だったら、行政府の長である内閣の皆さんは、検察の不起訴(起訴猶予)判断について感想を述べてもバチは当たりません。

 だから、「司法当局」という便利な言葉を隠れ蓑にして、検察の判断にコメントしないのは、なかなかズルい。

 

 残る頼みの綱は、沖縄の検察審査会ですね。

 ただ、仮に検察審査会が「不起訴不当」や「起訴相当」の議決を出したところで、中国サイドが律儀に被疑者を日本へ返してくれるとはとても思えませんし、もどかしいところです。

 尖閣諸島が日本固有の領土とされている歴史的背景などは、あいにく伝聞でしか知らず、史料などを実際に調べたことはありませんが、尖閣諸島に「領土問題は存在しない」とする日本政府の立場上、ここは領海内での海上保安庁船舶に対する妨害行為“以上でも以下でもない”刑事事件として扱い、手続き形式にのっとって粛々と裁くべきでした。

 

 幸か不幸か、日本人は島国に住んでいますので、国境や領土というものをシビアに意識しないで生活していられます。

 その半面、中国や韓国、そしてロシアは、周辺諸国との領土問題に慣れているとはいわずとも、意識は高いのかもしれません。 ですから、尖閣諸島や竹島、北方四島などのそばに引かれているはずの国境線が狡猾にグダグダにされ、いつの間にか彼の国に絡め取られつつあるんです。

 いや、国境線付近だけでなく、沖縄の米軍基地問題だって、領土問題そのものだといえます。

 

 今回の検察の不起訴処分を「司法当局」の問題ということにして、国民に向けてのノーコメントを正当化する、前述したような政府の狡猾さを、ぜひ外交にも活かしていただきたいなぁと。

 

 「領土問題はない」の一点張りで、強気なフリした見て見ぬフリをするのはやめて、いっそのこと尖閣諸島問題を、国際紛争仲介機関である「国際司法裁判所(ICJ)」に訴え出て、客観的な証拠や証言に基づき、白黒ハッキリ付けるという手もあります。

 ICJが、どのようにして領土問題を裁くのか、私は不勉強ゆえ知りませんが、今回の不起訴の件で「本気で尖閣諸島を守ろうとしてないんじゃないか?」と思われ、日本にとって不利な情状として考慮されていく可能性もあります。

 それに比べて、中国(や韓国)は、自国の島として地図に書き入れ、独自に命名し、しれっと既成事実化を図るなど、極東アジア以外へ向けた世界的なアピールに余念がありません。

 国際法というジャンルは、まだまだ整備されておらず、国家間の問題は、まだまだ弱肉強食、なだめスカシ脅しといった理不尽がまかり通ってしまう「野生の王国」です。

 ときに、目に見えない法の理屈よりも、目に見える事実としての実際的占拠のほうが、重たい価値を持ちうるのです。

 ICJも、「裁判所」というネーミングながら、国連の一機関ですし、国際政治的な動向は無視できない、いや、むしろ敏感であろうかと思います。

 ヘタに一国のみの全面勝訴を言い渡せば、新たな戦争が起こってしまう危険がありますから、普通の裁判所よりも「落としどころ」を必死に探しそうなイメージですね。 なんとなく。

 今のところ、世界各国のマスメディア報道では「中国側のやり口がひどい」という論調が大勢を占めているようですが、

 それは「日本は臆病で弱腰」という認識と、「ホントにニンジャとサムライの国デスか?」という素朴な懐疑が前提にありますから、決して日本に対して同情的ではない。

 おっとりした態度の日本を、ICJすらも救ってくれない可能性だって、予め覚悟しておく必要があるんじゃないですかね。

 歴史的背景や証拠史料はともかく、「この島は、ウチのもんだ!」という、美味しそうなモノにツバをつけるがごとき既成事実化が苦手な日本は、ICJで有利にコトが進む見込みが少ないことを、政府も薄々感づいているのでしょうか。

 それで尖閣諸島に「領土問題はない」と言っておいて、むしろICJでの解決を避けようとしているんですかね (そもそも、捕鯨の問題で今、日本がオーストラリアに訴えられてるって把握している人、少ないんでしょうか……)

 

 尖閣諸島あたりの海底には、天然ガスが大量に埋まっていると聞きます。 

 ガス田という素敵な彼女がすぐそばにいるのに、好きな気持ちをごまかして、駆け引きでもするつもりで、付かず離れずのプラトニックな関係を続けていたら、いつの間にかガタイの良い男に、半ば強引に奪われて泣きを見る……ってことにもなりかねません。 (もう奪われつつあるかも)

 

 そう考えると、今回の不起訴処分は、ますます解せませんね。

 ただ、記者会見に出てこられた、あの那覇地検の方の、渋い表情……。

 ご本人は起訴したいと願っても、その背後で、何か強大な力が作用したに違いありませんね。

 最悪のシナリオは中国との戦争勃発、米国の黙殺ってことになりますから、百歩譲って、緊急避難的な超法規的措置にて、今回の中国籍被疑者を起訴猶予処分として釈放するのを、仮に許容するにしても、です。

 勾留期限はまだ5日も残っていたわけだし……、どれほど良心的に解釈しても、「拙速な釈放」との批判は免れないでしょう。

 

 国際司法裁判所(ICJ) 現役判事一覧 (※英語です)

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2010年9月25日 (土)

そうだ! 今度は、弁護人が無罪証拠をギゾーしましょっか!

 

 このままでは、無罪判決が出て負けてしまう!

 ピンチ!

 
 …そこで、

 客観的な物証をイジって、不利な形勢を一発逆転。

 被告人を有罪にねじこもうとする悪辣検察官。

 

 ……もし、そんな小説や戯曲を誰かが書いたなら、

 

「さすがにありえない設定」
 「いくら何でも都合よすぎ」
  「そんなに検察が嫌いかよ」
   と、腹いっぱい批判されるでしょう。

 ただし、先週まではね。

 

 今週からは、そんな乱暴なキャラ設定も、俄然リアリティを帯びるようになってしまいました。


>>> 【検事逮捕】 「ひどい」「正義が感じられない」と足利事件の菅家さん

 栃木県足利市で平成2年、女児が殺害された足利事件で再審無罪となった菅家利和さん(63)は22日午前、大阪地検特捜部の主任検事による証拠品改竄(かいざん)事件について「(大阪地検検事は)ちょっとひどい。足利事件でDNA鑑定が偽造されていたら、私は完全にアウトだった。検事からは正義とか、そういうものが感じられない」と批判した。 (2010年9月22日 MSN産経


 

 警察が証拠を捏造したとみられる事件は、近年では高知白バイ事件など、チラホラ見られるわけですけど、

 検察が証拠を捏造することなど前代未聞です(被告人の供述を捏造した調書を作ることは…… まぁともかく)

 

 それでも、偽造証拠が法廷で採用されて有罪判決が出されなかっただけでも、不幸中の幸いですかね。

 というより、そんな事態が仮に起これば、不幸を通り越して、ニッポン司法が吹き飛び散らかる不祥事ですが。

 

 古今東西、自らの力を誇示したい者たちは、その立ち振る舞いをなるべく隠そうとしました。 人々に対しての権威づけとして使えるだけでなく、他人が知りえないものは、後々になって「無いもの」として工作することができます。

 「情報公開」「可視化」なんて、そうした権威づけや偽装工作に逆行する流れなので、彼らにとっては冗談じゃないわけです。

 

 自分の過去をかばいたくなるのは、人間の本性みたいなもの。 捜査・取り調べをしていれば、平気でウソをつく被告人にはいくらでも出くわすでしょう。

 そうなると、
「真面目にやっているのがバカバカしい」
「こっちだって、多少のウソや手心、お目こぼし、出任せにでっちあげに粉飾サジ加減を加えてもいいんじゃないか」
「大丈夫、被告人と違って、俺たちの『ウソ』は社会正義に基づいている」

 などという考えが頭をもたげてしまう捜査官も、一部にいておかしくありません。

 そうなると、せっかく誠実に仕事をしている貴重な検察官まで「真面目にするのがバカバカしい」と思ってしまうモラルハザードを生みかねませんよね。

 「見えないものは無いものとできる」便利さに慣れてしまうと、自分を厳しく律することが苦手になる人がいても、仕方ありません。

 でも、自分の仕事に対する誇りを失った人物なんか、警察や検察に限らず、どこにでもいるでしょ。

 そう、私たちは弱い生き物なのです。

 問題は、そういう自分自身で心にブレーキをかけられない人間に対して、なんらかの形で「外圧」が加えられてこなかったことです。

 むしろ、そうした外圧は、検察自身も徹底して拒んできたともいえます。 検察にとって都合の悪い報道をしたマスメディア関係者を出入り禁止にするような対応なんて、その格好の例ですよね。

 検察は昔から、事件のシナリオを組み立てる才能に長けているようですが、そもそもシナリオとは、人々が楽しむために書かれるべきものでしょう。

 自分たちの都合で好きなようにシナリオを書くライターなど、三流以下だと、あえて断言します。

 

 これから懸念されるのは、今度は弁護士のほうが無罪証拠を偽造したりしないか? ……ってことですが、

 せっかくリスクを冒して偽造しても、それを裁判官が黙殺して結局は有罪が出るんなら、ムダですね。証拠を偽造する動機の湧きようがないですかね。

 弁護人って、刑事法廷での立場がバカバカしくなるぐらい弱くて、私も傍聴席で時おり切なくなり、一筋の涙が流れ落ちます。

 かつては私も憧れていた職業なのに。

 
 

◆ 刑法 第104条(証拠隠滅等)
 他人の刑事事件に関する証拠を隠滅し、偽造し、若しくは変造し、又は偽造若しくは変造の証拠を使用した者は、2年以下の懲役又は20万円以下の罰金に処する。
 

◆ 検察庁法 第23条
1 検察官が心身の故障、職務上の非能率その他の事由に因りその職務を執るに適しないときは、検事総長、次長検事及び検事長については、検察官適格審査会の議決及び法務大臣の勧告を経て、検事及び副検事については、検察官適格審査会の議決を経て、その官を免ずることができる。
2 検察官は、左の場合に、その適格に関し、検察官適格審査会の審査に付される。
  一 すべての検察官について3年ごとに定時審査を行う場合
  二 法務大臣の請求により各検察官について随時審査を行う場合
  三 職権で各検察官について随時審査を行う場合
 

◆ 検察官適格審査会令 第1条
1 検察官適格審査会(以下「審査会」という。)の委員のうち、衆議院議員又は参議院議員たる委員以外の者は、次に掲げる者につき、法務大臣がこれを任命する。
  一 最高裁判所判事 1人
  二 日本弁護士連合会の会長
  三 日本学士院会員 1人
  四 司法制度に関し学識経験を有する者 2人
2 前項第一号及び第三号の委員は、それぞれ最高裁判所判事及び日本学士院会員の互選による。

◆ 検察官適格審査会令 第6条
 審査会は、審査のため必要があるときは、法務大臣又は検察庁の長に対し書類の提出を求め、又は必要な事項の報告を徴することができる。但し、捜査中の犯罪事件については、この限りでない。

◆ 検察官適格審査会令 第7条
 審査会は、審査に付された検察官及びその者の属する検察庁の長をして会議に出席して意見を述べさせることができる。
2 審査会は、審査に付された検察官に不適格の疑があるときは、当該検察官に対し、あらかじめ相当な期間を置いて会議の理由を通告した上、会議に出席して弁解し、且つ、有利な証拠を提出する機会を与えなければならない。

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2009年12月12日 (土)

朝寝坊で遅刻した裁判長

>>> 裁判長寝坊で待ちぼうけ 裁判員裁判、35分遅れ開廷:大阪地裁

 殺人未遂罪などを審理する大阪地裁の裁判員裁判で8日、裁判長の寝坊で開廷が約35分遅れた。待ちぼうけを食わされた裁判員は待合室で待機。裁判長は法廷で「個人的な事情」と説明し「今後こういうことがないようにしたい」と平謝りだった。
 開廷予定時刻の午前10時。検察官と弁護人が所定の位置に着席しても裁判官や裁判員らは姿を現さない。地裁職員から「30分ほど遅れます」と案内があり、傍聴人らはいったん退廷。
 裁判員らが入廷し、開廷したのは午前10時35分ごろ。水島和男(みずしま・かずお)裁判長は着席すると気まずそうに「開廷が遅れましたが、わたしの個人的な事情です。今後はこういうことがないようにしたいと思います」と陳謝。地裁によると理由は「寝過ごしたため」という。
 審理そのものは順調に進行。水島裁判長は途中の休廷時にも「すみませんでした」と謝罪を繰り返し、証拠調べを進めた検察側に「もしかして急いでやってくれました?」と声をかけていた。 (提供:共同通信社 2009/12/08)

 

 まぁ、決して褒められたことではありませんが、裁判長が朝寝坊なんて珍しいですよ。

 弁護人が交通渋滞で20分遅れたり、前の裁判が長引いて裁判官が15分遅れたりした場面には、傍聴席で居合わせたことありますけど。

 水島裁判長、殺人未遂という重大な裁判員裁判に臨むにあたって、夜遅くまで訴訟記録を読みこんでおられたんでしょう。

 水島判事は、けっこういかつい感じの裁判長ですが、自分のチョンボをきっちり謝罪して、ちゃんと一般常識のある方といえます。

 裁判員裁判で、一般人の厳しい目が特に注がれていますので、知らん顔できる雰囲気ではなかったのかもしれませんが……。

 もっとも、「朝寝坊」が遅刻の理由だと開けっぴろげにせず、「個人的な事情」というふうにボカした点には、ベテラン裁判長のプライドが見え隠れします。

 また、その日は被告人へ、

 「ちゃんと反省してますか?」「悪いことをした自覚はありますか?」と、厳格に質問を投げかけたとしても、

 水島裁判長だけは説得力が失われるのは仕方ないでしょう……。 残念。

 でも、遅刻した日って、そのミスを取り戻そうとして、仕事の効率とか熱意が上がったりすることもありますしね。

 一番いけないのは、こういう寝坊を繰り返して懲りないこと。

 

◆ 刑事訴訟法 第282条
1  公判期日における取調は、公判廷でこれを行う。
2  公判廷は、裁判官及び裁判所書記が列席し、且つ検察官が出席してこれを開く。

 
 

■ 『47都道府県 これマジ!?条例集』(幻冬舎新書) 好評発売中です! 

※ 今月10日付け、東京新聞の記事「全国(珍)条例白書」のなかで取り上げていただきました。

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2009年12月11日 (金)

8センチのカッターと、5センチのカッターは、何が違う?

>>> 証拠隠滅:カッターの刃折り、軽犯罪で処理 警官を処分--警視庁

 銃刀法違反事件なのに、証拠品のカッターナイフの刃を短く折り軽犯罪法違反で処理したとして、警視庁は4日、浅草署警備課の男性警部(57)を証拠隠滅と虚偽有印公文書作成・同行使(教唆)容疑で東京地検に書類送検した。警部の指示で虚偽書類を作成した部下の警部補ら3人についても書類送検した。警視庁は警部を停職1カ月の懲戒処分とし、警部は同日辞職した。
 送検容疑は、浅草署地域課課長代理として山谷地区交番(現・日本堤交番)に勤務していた07年4月4日、30代の男性が隠し持っていたカッターナイフ(刃の長さ約8センチ)の刃を自分で約3センチ折り、軽犯罪法違反で処理するよう部下に命じたとしている。
 刃の長さが6センチ以上の場合は銃刀法違反事件として生活安全課に引き継ぐ必要があった。警部は手間を省くために刃を折ったとみられ「他にも証拠品の刃物を折ったことがある」と供述しているという。(毎日新聞 2009年12月5日)

 

 

◆ 銃砲刀剣類所持等取締法 第22条(刃体の長さが6センチメートルをこえる刃物の携帯の禁止)
 何人も、業務その他正当な理由による場合を除いては、内閣府令で定めるところにより計つた刃体の長さが6センチメートルをこえる刃物を携帯してはならない。[※以下略]

◆ 銃砲刀剣類所持等取締法 第31条の18(罰則)
 次の各号のいずれかに該当する者は、2年以下の懲役又は30万円以下の罰金に処する。
  三  第22条の規定に違反した者

◆ 軽犯罪法 第1条
 左の各号の一に該当する者は、これを拘留又は科料に処する。
二  正当な理由がなくて刃物、鉄棒その他人の生命を害し、又は人の身体に重大な害を加えるのに使用されるような器具を隠して携帯していた者

 

 

 刃体の長さが6センチまでは軽犯罪法(1日~29日の拘留刑 or 1000円~9999円の科料)の縄張り。

 6センチを超えたら銃刀法の縄張り(最高で懲役2年)です。

 じゃあ、その「6センチ」という基準に、何か合理的な理由があるか?

 長さ6センチの刃と、6.1センチの刃とで、危険性に実質的な差があるか?

 というと……

 

 あるわきゃないのです。

 同様に、8センチの長さのカッターを5センチにしたからといって、事件処理に大きな区別を生じさせるほど危険性が減殺されるのかというと、?です。

 カッターナイフ会社が、カッターの刃をポキポキ折れるように細工したのは、なにも警察の仕事を簡略化させるためではないのです。

 このあたり、数値で定められた基準に振り回されている本件警部のサマは滑稽ですね。

 ちなみに、ハサミだったら「8センチ」が、携帯が認められるか否かの分かれ目になります。

 刀は「15センチ」、ダガーナイフなど両刃の剣は「5.5センチ」が、無許可で所持していいかどうかの基準です。

 ほかにも、『罪と罰の事典』(小学館)のなかで、このへんのややこしい数字について整理し、まとめてはみましたが……

 これらの数字の裏に何の根拠があるのやら、いまだに大きなナゾです。

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2009年8月 1日 (土)

それは穴埋めクイズか? 検察の“こすい?作戦”その2

>>> 起訴罪名の一部隠し発表 「名誉を配慮」と長野地検

 長野地検は24日、長野県飯田市の民家で女性にナイフを突きつけ金を奪ったとして、強盗などの疑いで逮捕された男の同地検松本支部による起訴を公表した際、起訴罪名について裁判員裁判対象事件とした上で「住居侵入、強盗■■」と2文字を黒塗りにして隠した。
 該当する罪名は強盗強姦(ごうかん)、強盗殺人などの可能性があるが、地検は説明を拒み、理由について「関係者のプライバシーと名誉」として具体的には明らかにしなかった。
 被害者名を伏せ犯行日時も「平成21年」、場所は「長野県」以下が黒塗り。犯行の中身や状況の大半も黒塗りとなり、被告がどこで何をしたことを罪に問うのか、公には不明確なままとなった。[※以降略] (2009/07/24 共同通信)

 

 いやぁ、意味不明な処理です。

 いったい何をどう保護しようとしているのか。

 裁判員対象事件だということは公表しているわけですから、「強盗未遂」とか「強盗予備」などの比較的軽い罪ではないはず。 記事にもあるとおり、強盗強姦か強盗殺人、あるいは強盗傷害などだと、おのずと絞り込めるわけです。

 しかも、被害者を匿名で保護すべきだという要請が作用するとなると、やはり性犯罪の可能性は高いですね。おそらくは強盗強姦だろうと考えるのが自然です。

 犯行日時は、今年だということだけが特定され、何月何日かは不明。犯行場所は「長野県」ということだけ特定され、市町村レベルは公表されていないそうですね。

 さらに、犯行内容については「被害者宅に侵入してナイフを顔に押しつけ金を要求し、現金12万円とキャッシュカードを奪った」という強盗部分だけ明らかにして、■■に関する犯行は明らかにされていません。

 仮に性犯罪だとして、その被害の様子を具体的に描写する必要はないですし、「被害者と泣く検察」を標榜する機関としては、それはそれでプライバシーや名誉を保護する判断としてありえます。

 そこまでは理解できるとしても、はたして、正確な罪名まで隠す必要性はあったのでしょうか。

 「被害者保護」の要請は大切ですが、こうした長野地検の扱いは、いささか過剰反応のような気がします。

 

 山下隆志次席検事は、裁判は公開であり公判が始まれば罪名も明らかになるとの記者の指摘に「検察が罪名を出すと事件が分かり、事件が分かると中身が分かる。中身が分かると関係者が保護されない」と主張した。 (2009/07/24 共同通信)

 

 保護されるべきだと検察が主張する「関係者」が、具体的に何を指しているのかも、よくわかりませんね。

 被害者やその家族を保護すべきなら、そう言えばいいはずであり、あえて「関係者」とぼかす必要もなかろうと思います。

 一方で、被告人については、住所と職業(無職)、氏名まで具体的に公表しているので、保護する気はないということがわかります。 だったら、なぜ「関係者」というアイマイな表現にしたのか。

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2009年7月31日 (金)

裁判員参加裁判をめぐる、検察の“こすい?作戦”その1

>>> 検察“罪名落とし”か 裁判員対象起訴が大幅減

 裁判員制度の施行から2カ月間に起訴された裁判員裁判の対象事件は、計276件だったことが共同通信社の集計で分かった。月平均は138件で、過去5年の月平均起訴件数(258件)を大幅に下回った。弁護士らは「検察が裁判員裁判を避けるため、強盗致傷を対象外の窃盗と傷害罪で起訴するなど“罪名落とし” をしている」と指摘している。
(※中略)
 これに対し、検察幹部は「立証ができなくて罪名を落とすことはあっても、意図的にすることはない」と罪名落としを否定する。ただ「(地検トップの)検事正が裁判員裁判にしてトラブルを起こすよりも、裁判官だけに裁いてもらった方がいいと判断した事件があるのではないか。検事正次第だ」と話す現場の検事もいる。
 元早稲田大法科大学院教授の高野隆(たかの・たかし)弁護士は「検察は『勝たねばならない』とメンツにこだわり“堅い事件”だけ起訴しているのではないか。実質的に検察官が有罪・無罪を判断していることになる。検察の有罪判断を国民に追認させる形になれば、裁判員制度も形骸(けいがい)化する」と危惧(きぐ)する。(2009/07/23 共同通信)


 

 これは、法律的になかなか面白い記事ですね。

 「強盗致傷」を「窃盗と傷害」に分解しちゃおうという話です。

 両者は、客観的な犯行内容としては、おそらく大して変わらんだろうと思います。

 要するに、「強盗致傷」をやっている犯人と、「窃盗と傷害」をやっている犯人を比べたとき、見た目で厳密に区別できる人は、あんまりいないんじゃないかと。

 

 強盗致傷とは、「暴力を手段にして」他人のモノを盗んだ結果、その被害者を含む誰かにケガを負わせてしまう犯罪です。

 一方で、窃盗と傷害の併合罪だというとき、暴力が盗みの手段になっているという関係性はありません。

 盗みと暴力(負傷つき)という、ふたつの違法行為が、たまたま近いタイミングで行われたことを示しているにすぎないのです。

 

 たとえば、日常的に妻に暴力をふるっている夫がいるとして、ある日、妻へケガを負わせた後、妻の財布からお金を抜き取った、という事案の場合、

 その日の暴力が、お金を抜き取るために行われたのか、それとも、いつものDVの延長なのか、ハッキリしません。

 ですから、その件は「強盗致傷」なのか、それとも「傷害+窃盗」なのか、見る人によって、きっと判断はわかれるんだろうなと思います。

 究極的には、夫に質問して「夫の答え次第で罪名が決まっちゃう」ってコトなんでしょうね。

 

 もっとも、盗みと暴力とが、近いタイミングで行われた事実があるなら、「盗みを完結させるために暴力がふるわれた」と考えるのが、たしかに自然です。

 たぶん、常識的な判断でしょう。

 しかし、「盗みの手段として、暴力がふるわれた」と証明するのは検察です。

 だから、検察は「手段性を証明できなかった」と言い張れば、強盗致傷を2つに分解し「罪名落とし」する、なんてことができてしまうんですね。

 

 強盗致傷の最高法定刑は無期懲役ですが、窃盗+傷害(併合罪)の最高刑は、懲役22年6カ月となります。

 無期懲役囚も、実質的には30年前後で仮釈放されることを考えに入れても、盗みと暴力を分解すれば、実質的に罪は軽くなりますね。

 裁判員裁判の対象からも外れますから、一般人を法廷に入れたくない検察官としては、うれしい選択です。

 

 このほかにも、

 殺人未遂(裁判員対象)を、傷害(対象でない)にしてみたり、

 危険運転致死(裁判員対象)を、自動車運転過失致死(対象でない)にしたり、

 覚せい剤の密輸(裁判員対象)を、覚せい剤の営利目的所持(対象でない)にしたり、

 通貨偽造(裁判員対象)を、通貨模造(対象でない)にしたり、

 「罪名落とし」のパターンは、いろいろと考えられます。

 

 あとは、傷害致死を、暴行+過失致死に分解したりとか。

 ……って、コレはさすがにムリがありそうですが。


 

 ただし、裁判官には「訴因変更命令」という権限があります。

 

◆ 刑事訴訟法 第312条
2 裁判所は、審理の経過に鑑み適当と認めるときは、訴因又は罰条を追加又は変更すべきことを命ずることができる。


 

 裁判官 「検察官は、窃盗と傷害で起訴なさってますが、被告人質問で、被告人が答えたところによると、本件は、盗みを完結させる目的で被害者にケガを負わせたという話のようです。 なので、やっぱ、強盗傷害に切り替えられないですかね?」

 

検察官 「わかりました。その方向で検討いたします」

 

裁判官 「弁護人も、それでよろしいですか?」

 

弁護人 「そうですね。しかるべく」

 

 ……という話になったら、いったいどうなるのか?

 

 この点につき、裁判員法が施行される前の2003年の段階で、司法制度改革推進本部によって開かれた「刑事検討会(第14回)」によると、

 裁判員を入れない罪名から、裁判員を入れる罪名へと訴因変更された場合、その段階から裁判員6名を召集するけれども、それまで進めてきた裁判はやり直さない、という結論に至ったようです。

 たしかに、そのへんが落としどころなんでしょうね。

 

 あしたは、検察のこすい作戦「その2」をお送りする予定です。

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2009年7月30日 (木)

司法に激震! そのとき裁判所の運命は?

 裁判員制度スタートや、一連の冤罪発覚などで、司法に激震が走って久しい昨今。

 ですが、物理的に「激震」が起きたとき、裁判所の庁舎は耐えられるか? ……調査が行われた模様です。


>>> 全国裁判所:46%が倒壊の恐れ…震度6強以上で

 最高裁は29日、全国の裁判所施設267棟に対する耐震診断の結果、46%にあたる124棟が震度6強以上の地震で倒壊・崩壊する恐れがあり、国土交通省が示した耐震安全性の基準を満たしていないと発表した。最高裁は「15年度末までに基準を満たす施設を少なくとも90%にするよう努める」としている。

 改正耐震改修促進法(06年施行)に基づき、3階建て以上で延べ1000平方メートル以上の施設について耐震診断を行った。震度6強以上で「倒壊・崩壊の危険性が高い」は大阪高・地裁本館やさいたま地・家裁本館など82棟、「危険性がある」は42棟。いずれも建築基準法の耐震基準が改められた81年より前に建てられ、うち88棟は改修や建て替えを実施中か実施予定。

 最高裁の庁舎は現在、耐震診断を進めている。 (毎日新聞 2009年7月29日)


 

 東京・霞が関の裁判所は、名前が挙がってませんが、大丈夫ですかね?

 これから、法が裁こうとしている凶悪犯の脳天に、大地震で崩れた天井が落ちてきて、割り込みで「天罰」が下るんじゃあ……、ある意味で結果オーライなのかもしれませんが、司法ってモンの立場がありません。

 全国の刑事法廷を、裁判員を含む、9人掛けの大きなものへと改修するのに、数百億円かけたようで、裁判中にも工事のドリル音がガリガリ響き、裁判官も被告人も大変そうでした。

 が、地震への備えに、またお金を使って工事をするようです。

 もちろん、耐震工事のほうを優先させるべきでしたね。もう遅いけど。

 そういえば、今から40年ほど前に完成した、最高裁の庁舎については、当時の事務総局経理局長が、「今後500年は大丈夫ですよ! 関東大震災クラスの地震が来ても平気です」と、自信たっぷりにおっしゃっていたようです。

 あの豪華絢爛な庁舎に、これから耐震診断のメスが入るとのことですが、経理局長の「大丈夫」「平気」発言は、強がりやリップサービスではなかったのかどうか?

 真相やいかに!?

 裁判所への耐震診断も、客観的な基準で公正に裁いていただきたいものです。

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