2008年2月 8日 (金)

拘置所では、「お守り」を差し入れできないらしいゾ

 映画「陰日向に咲く」を観てまいりました。じつは原作をまだ読んでおらず、「短編集のような小説」だという予備知識だけで行ったのでした。失礼な話です。

 最初のほうでトイレに行きたくなって、途中で一時退席するなど、さらに観客として失礼な行為を繰り返していたのですが、物語が進むにつれ……

 泣かされたっ! くっそー、劇団ひとりに泣かされた!!

 全体としては、とても人情味あふれる話なのですが、その裏ではかなり緻密な計算が尽くされています。よくもまぁ、あんな話をつくったなぁ。 逆にあきれました。いい意味で。

 おすすめです。

 

 (( 参考過去ログ ))

 疑わしきは、被告人の利益に (2007.12.17)

 

 今日は、葛飾区小菅の東京拘置所に行ってきました。 昨年末、東京高裁で有罪判決を支持され、最高裁に上告中の韓国人男性に会いに行くためです。 ひとりで向かうのは初めて。 ちょっとドキドキです。

 私の出した1通の年賀状に対して、便せん6枚のお返事が来て、かなりビックリ。 「日本を嫌いにならないでください」とのお願いに答えて、「嫌いというより怖いです」と。

 そりゃ怖いわよ。 犠牲者にとって一番近くにいた存在だったばっかりに。

 外の景色どころか、動くモノすらない閉鎖空間のなかでジッとしながら、有罪判決の確定を待っているかと思えば、これは私が話をしに行かねば!

 

 差し入れは、あの問題作「サイコーですか? 最高裁!」1冊。 この原稿を書いているときは、まさか彼が最高裁のお世話になるとは思ってなかったですし、「いかに最高裁は、多くの上告を門前払いにするか」を説明した本ですので、心境は複雑というか……。

 ただ、少しでも参考になればと。

 

 あのねぇ……、面会時間8分て! 足りるかーい!

 不法滞在していた外国人の立場で言うことではないが……と前置きしたうえで、彼は言ってましたよ。

 日本は世界有数の先進国だと思っていたが、人権に対する配慮は足りないと。

 事件の前は、埼玉の韓国人コミュニティのなかだけで生活し、日本人とふれあう機会など無かったが、今は、こうして日本人と話すことができると。

 皮肉やなぁ。

 私も、外国人が暮らす板橋のゲストハウスで3年間暮らしてましたけど、そこで外国人と積極的に会話を交わしたのって、最初の1カ月ぐらいですから……。 「恥ずかしがり屋の国民性」では済まされません。

 冷たくしているつもりはないけど、この高度国際化時代には、どうしても相対的にみて「外国人に冷たい国」という位置に甘んじてるのかなぁ。

 日本人が被害にあった冤罪事件は積極的に報道されるけれども、こういう外国人がからむ事件の大半は無視ないし軽視されていることは象徴的です。 というより、外国人に対して無罪判決をどれくらい出してるの? この国の裁判所は。

 彼はすごく知的な人だと思いますよ。 しかも、エネルギッシュなほど筆まめ。 こういう人が、同居女性から「セックスがへたくそ」と言われたぐらいで短絡的に殺すの? ホントなの?

 控訴審判決の前に、私が安易に告げてしまった「原田國男裁判長には期待してもいいのでは」という気休めに対して、目を赤くしてうなずいてくれたり。

 有罪判決が維持された事実を知って、我を忘れて怒りをあらわにしたり。

 ああいう振る舞いは、自分が犯した重罪をヒタ隠すために見せている、彼なりの迫真の演技なんでしょうか。

 

 きっと「そうだ、追いつめられたら感情的に反発するのが、韓国人の文化的側面なんだ」という人もいるんでしょうけど、どうなんですか? その思索を節約した単純な切り口。

 人種的・文化的偏見を乗り越えるだけの個人的差異は、必ず見られるものです。 女性に対してシャイなイタリアおやじもいるでしょう。 サッカーが苦手でサンバを踊れないブラジル人もいます。 集団に溶け込めない日本人も、ここにいます。

 だったら、ヒステリックな演技でアピールしたりするのを慎む韓国人だって……

 ……そうですね。 こんなもん、合理的な論拠ではありませんね。

 

 でも、裁判を通じて彼と知り合えたのも、なにかの縁でしょう。 裁判を通じないと知り合えないのも情けないけど。

 来週から、しばらく東京を離れますし、近いうち、取材旅行先でまた手紙を書こうと思います。 だって、向こうから「また手紙書きます」って言われちゃったもん。

 

 あまりにも、私が彼に対して力になれることが無さ過ぎて、「次は、お守りを差し入れしましょうか。日本の神様」と言ってみると、過去に同じことを考えた面会者がいたらしく、結果としてお守りは差し入れが許されなかったとのこと。 拘置所が預かってるんだそうです。

 その理由は「お守りに付いているヒモの部分が問題だから」……なんですって! 奥様!

 あんなオマケみたいな頼りないヒモ使って、どうやって自分を殺めるの? たくさん集めてつなげるんですか?

 ふーん、  そこまで面倒くさいことをやる情熱があるんなら、 生きろ!

 強度的にも不可能じゃないですかねぇ。 実験はしませんけど。

 

 じゃ、じゃあ、お守りのヒモの部分を切って持ってけばいいのかね?

 差し入れはできても、バチ当たりそうやな。


◆ 刑事施設及び被収容者等の処遇に関する法律 第44条 (金品の検査)
 刑事施設の職員は、次に掲げる金品について、検査を行うことができる。
 三 被収容者に交付するため当該被収容者以外の者が刑事施設に持参し、又は送付した現金及び物品

◆ 同 第46条(差入物の引取り等)
 刑事施設の長は、第四十四条第三号に掲げる現金又は物品が次の各号のいずれかに該当するときは、その現金又は物品を持参し、又は送付した者(以下「差入人」という。)に対し、その引取りを求めるものとする。
 一 被収容者に交付することにより、刑事施設の規律及び秩序を害するおそれがあるものであるとき。
(※以下略)

◆ 同 第47条(物品の引渡し及び領置)
2 次に掲げる金品は、刑事施設の長が領置する。
 一 前項各号に掲げる物品のうち、この法律の規定により被収容者が使用し、又は摂取することができるもの以外のもの
(※以下略)

◆ 同 第52条(領置物の引渡し)
 刑事施設の長は、被収容者の釈放の際、領置している金品をその者に引き渡すものとする。

| | コメント (0) | トラックバック (0)

2007年12月17日 (月)

疑わしきは、被告人の利益に

 立ったり座ったり着替えたり食べたり、日常生活における大半の姿勢が苦痛です。

 「こんな何気ない姿勢にも、腰が大いに関係していたとはな。 ありがとよ、腰」と、腰に感謝する気持ち半分、「もうカンベンしてくれ、腰」と、懇願する気持ち半分。

 恥ずかしいことに、きのうの晩、ギックリ腰になってしまいまして、動けません。

 一日中、座椅子に座りっぱなしでパソコンを打ってたのがマズかったようです。立ち上がろうとして、若干からだをひねった瞬間に……、やっちゃいました。

 そういえば、おととしにも一発やられてますけど、数千円の出費が惜しい時代でしたし、カイロプラクティックに行かずに治しちゃいました。 だから、ぶりかえしてしまったのかも。

 今度こそ、痛みが治まってからでも、ちゃんと骨を矯正しておかないと怖いですね。 まだまだイケると思いこんでいても、寄る年波には勝てぬぞよ。じわじわガタが来とるんです。

 あわててネットで調べたら、2~3日の安静が必要とのことなので、今回は寝床の上で横になりながらブログを更新している失礼を、どうぞお許しください。

 脇腹を下にするポジションで寝て、ゆであがったエビのように丸まり気味でいなきゃならんそうなので、片手でキーボードを打っております。

 

 あーあ、実はですね、先週青森にいたぐらいから、少し腰の筋肉がこってる感じがしてたんですよね。 あの時点で、ホテルで素直にマッサージを頼んでおけば、こんなことにならなかったろうに。

 

 マトモに日常生活も送れない状況でして、おとなしく寝ているべきなのですが、それでも、今日は無理して裁判傍聴に行ってきました。 3年半前、埼玉県で韓国人の男性が同居中の女性を殺害したとして、一審で懲役13年を言いわたされた控訴審の判決公判です。

 開廷前、以前に雑誌で対談させていただいた北尾トロさんと、少しお話を交わしました。

 「どうなるかねぇ…… 判決」 「どうなるでしょうかねぇ」と。 北尾さんも私も、今年1月の控訴審第1回公判から今日まで、裁判を断続的に観てきました。

 マスコミではほとんど採りあげられていませんが、本件は冤罪の可能性が高いです。

 被告人は、許された滞在期間を超えて日本にいたため、最初は入管難民法容疑で逮捕されましたが、殺人容疑での再逮捕後、それまでほとんど知らなかった日本語を勉強しはじめ、拘置所からマスコミ各社にあてて、無実の自分が殺人事件の犯人として拘束されている状況を説明した書簡を送っています。

 一部スポーツ紙のみが、本件を「第二のゴビンダ事件」として記事で採りあげ、そこから少しずつ支援の裾野が広がっていったのです。

 ゴビンダ事件の支援者が、彼にスーツを買って贈ったといいます。無罪が推定されているのに、着古した服で法廷に出るのは問題だという意識からです。

 10月に、小菅の東京拘置所に行って、被告人の彼と面会をしてきました。「お言葉集」とスナック菓子を差し入れ。

 「何か好きな日本語はありますか」と尋ねると、「日本語で知っているのは多くが裁判用語で、あまりない」との返事。

 11月からキムチを食べるのが解禁されるので楽しみ、と話していましたが、今度の刑事部に、裁判体には加わらないものの、一審で有罪判決を言いわたした張本人の裁判官が異動してきたとのことで、それが少し心配と話していました。

 ただ、たとえ裁判官らの雑談で、被告人を有罪に導くような話の流れになっていたとしても、それは裁判の証拠ではありませんので、認定の基礎とするのは慎んでもらわなきゃ怖いです。

 私が「原田國男裁判長は、刑事裁判の論文をたくさん書いている理論派だし、無罪判決をわりと出している方だから、期待できるんじゃないか」と言うと、彼は顔を真っ赤にして、涙声でお礼を言ってくれました。

 今となっては、単なる気休めの言葉にしかなっておらず、申し訳ない気持ちでいっぱいです。

 本日13時30分、東京高裁805号法廷。

 弁護側の控訴は棄却されました。 懲役13年という原審判決を維持する宣言です。

 被告人は、弁護人に主文の意味を小声で説明されて涙を流し、「もう聞いてられない! こんなの裁判じゃない!」と3人の裁判官を怒鳴りつけ、自主退廷しました。

 閉廷後に、3人の弁護人が憔悴しながらも、傍聴人に向けて判決理由の内容を説明してくださいました。 「何か質問はありますか」と尋ねられましたが、弁護団に対しては何もありません。 ただ、裁判官に対する質問が山ほどあるだけです。

 いちおう、被告人に「サイコーですか? 最高裁!」にサインしてプレゼントしようと思って、カバンのなかに用意してたのですが、手元に残ることになり残念です。 (こんなの

 大学で第二外国語に朝鮮語を履修していました。 今となってはハングルで自分の名前を書くぐらいが精一杯ですが、私がかの国で、殺人犯だと決めつけられたなら、やはり彼と同じように朝鮮語を勉強しなおして、理不尽と闘うほかないのでしょうか。

 ますます彼は、日本の司法を憎んだでしょうね。

 でも、わかりませんよ。 彼はこの殺人事件の真犯人であって、私たちをだまし続けているのかもしれません。

 仮に、彼がウソ八百を並べた真犯人だとしましょう。

 気になるのは、殺害の動機が見あたらない点です。

 被害者の女性は、広島で韓国エステ嬢として働いていて、彼はその店の雇われ店長でした。しかし、そのふたりの仲をねたんでか、オーナーのおばちゃんが、ふたりを追放したのです。

 結局埼玉まで逃げてきて、ひとつ屋根の下で二人は生活し始めます。一緒に買い物したり、彼女の職探しを支援したり、性交渉もあったようですが、一方で、それぞれのパソコンでチャットで会話するなど、付かず離れずの関係にあったと認定されています。判決理由でも「犯行動機は判然としない」と認めちゃってます。

 他方、被告人が埼玉に発送しようとした荷物を、オーナー側が勝手にキャンセルして取り戻した事実もあります。被告人らの居場所を突き止め、追跡しようとした可能性は捨てきれません。

 事件発生の前に、彼が部屋を出て行くときの、彼女との出来事を話す際、涙声で、しかも思わず日本語から朝鮮語に変わった被告人質問の場面が忘れられません。

 アリバイの主張も、事件当時の彼の記憶があいまいなため、客観的事実との食い違いが見られますが、一部は目撃証言と一致しています。

 被害者の首に絞められた携帯電話のコードと、被告人の指に残った筋状の痕跡が一致するそうですが、コードが強く締められ、きつい結び目をほどこうとして付いた可能性もあります。その疑問が解決されていません。

 被告人は、好意を抱く女性が変わり果てた姿になっていることに衝撃を受けながら、この状況だと自分が怪しまれると考えるのが自然です。 自分が触れてしまったコードをどうすべきか、当惑したでしょう。

 被告人は、ほどいたコードを近所のコンビニのゴミ箱に捨てていますが、それをもって裁判長は「逃亡・証拠隠滅」と認定しちゃってます。 本気で隠したければ、まず埋める場所を探すでしょう。 そもそも、なぜ逃げようとせず、あっさり捕まったのでしょう。

 また、最初の取り調べ段階で、供述内容が変遷している点を指して、真実を述べているとは言い難いとあっさり認定したようです。

 取り調べの初期段階で、被告人の供述内容の多くは証拠で裏付けられています。 少なくとも逮捕直後は、本当のこと(少なくとも、自らが認識しているとおりのこと)を話しているのです。

 では、仮に無実の罪で拘束され、本当のことを言えば、ますます捜査側から怪しまれると気づいたとしたら、人はどうするでしょう。

 供述内容が時を経るにつれ移り変わっているのは、有罪の証拠にも無罪の証拠にもならず、ただ、被告人が動揺しているのを示す資料となる程度のもの、というべきです。

 弁護人は、被告人の無罪を立証する必要はありません。 税金も人材も資材もたっぷり犯罪捜査に注ぎ込める検察のほうに、有罪の立証責任があります。 弁護人としては、その立証の合理性を少しでも突き崩せば、十分に反論として足ります。

 これだけ検察官の有罪主張に疑問があれば、裁判所は無罪を言いわたすのがルールです。 裁判官ほどの優秀な頭脳があれば、少ない情状証拠から有罪の理由付けをこじつけようと思えば、いくらでもできてしまうでしょうが、それは極めて危険です。

 「罪を犯したかどうか、証拠からは疑わしいような被告人を無罪放免にしてたら、真犯人までシャバに出してしまうことになりかねない」という批判が、当然考えられます。 残念ながら、こればっかりは、人類の知恵の限界というほかないのです。

 裁判所による有罪判決だって、ほかならぬ国家権力の発動場面ですから、あくまで必要最小限、抑制的でなくてはなりません。

 まぁ、起訴された刑事事件の99.918%が有罪判決(2005年)なんですから、日本の裁判はタテマエに反し、お世辞にも抑制的とはいえませんが。

 裁判官は、犯行現場を見たわけではありません。机のうえでキレイに整えられた数々の証拠を見たにすぎないのです。ちょっとでも真犯人であることに疑いが生じたのなら、有罪を言いわたして強制的に自由を剥奪することは、ためらわれるべきなのです。

 人類が、タイムマシンかタイムテレビでも新たに発明しない限り、「そのとき、その場所で、何が起こったのか」、物的人的証拠や、検察官が描いたストーリーを見聞きして、裁判所は「知った気」になっているだけなのです。

 もっとも、タイムテレビの記録を、裁判所が証拠能力ありと認定するかどうかは別問題ですが。

 その「知った気」が「確信」に変わらない限り、グレーが限りなく黒に染まるまでは、有罪にしないのが刑事裁判なのです。

 もしかしたら、司法作用をだまし抜いて罪を逃れる真犯人を、私は擁護しているように読み取られるかもしれません。 まぁ、そう見えたら見えたで、仕方のないことです。

 身に覚えもない罪でムリヤリ裁かれるような目に遭わされることに比べたら、そんな批判は痛くもかゆくもありません。

 極端な話、無罪を言いわたされた真犯人と、刑期を終えて出所した真犯人とで、その後の再犯のリスクにどれほどの違いがあるでしょうか。

 

 物書きという職業は、名誉毀損罪や侮辱罪などで検挙される可能性と、常に隣り合わせですが、まぁ、それは自分自身で気をつけようがあります。

 ただ、私は、明日とつぜん、いわれもない人殺しの罪で逮捕されるかもしれません。そんなリスクは、回避しようがありませんよ。 それが、ただ怖いだけなのです。

 誤認逮捕までで済むなら、まだ救いがあります。ぬれぎぬ着せたまま有罪判決を漫然と確定させてしまうなら、それは司法の敗北を意味します。

 私には同居人がいないので、「被害者に一番身近な存在が疑われる」という、多くの冤罪のパターンには当てはまらないかもしれませんが、平々凡々と生活している私の家族や近しい人間が、ムリヤリ牢屋にブチこまれるとすれば、絶対に許すわけにはいかないのです。

 だから「疑わしきは被告人の利益に」を鉄則として例外なく徹底してもらいたいと思っています。 この鉄則を軽く扱うほどの勇気は、私にはありません。

 「疑わしきは被告人の利益に」「疑わしきは罰せず」とは、人類が獲得した、いい意味での「あきらめ」だと思っています。 むしろ、そう思わないとやってられない、といいましょうか。

 

 腰痛で集中できず、文章が固く、しかも取っちらかってしまい、すみません。でも、今日だけは、どれだけしんどかろうと、なんとしても更新しなければならないと思いました。

 本件は上告されるそうですが、依然として被告人は東京拘置所にいます。

 もし、腰が痛くて動けない日があっても、きっと自由に横にはならせてくれないのでしょう。 拘置所のなかでは。

| | コメント (2) | トラックバック (0)

2007年12月14日 (金)

栃木・小山市 「昭和の巌窟王」の石碑

 きのう、宇都宮地裁でまたしても、お目当ての裁判官に出会うタイミングを外しました。 おかしいなぁ。 担当曜日のはずなのに。

 まぁ、宇都宮なら、いつでも行けるかなと思いますので、また向かうまでですけど。

 今日は、宇都宮から南へ電車で20分ほどの「小山」というところに来ました。 新幹線が停まる駅だけあって、わりと開けた街並みが広がっていますが、私のお目当ての場所までは、JR小山駅から7キロぐらい離れています。

 タクシーで行って帰ってくれば済むんですが、それじゃあ、あまりにもつまらんなと思い、ためしに自分の足で向かってみることに。 クルマで通り過ぎたら気づかない発見があるんじゃないかと。

 途中で、けっこう小ぎれいな、小山簡易裁判所の庁舎と遭遇しましたよ。 

096 
 

……うーむ、でも、そうそう面白いモノは見つからんか。 甘かった。

 それより、私が目指している「昭和の巌窟王」の石碑は、まだまだ姿が見えません。 見くびっていました。

 吉田石松さんは、大正2(1913)年に強盗殺人の罪で誤認逮捕され、無期懲役の判決を言いわたされます。

 仮出所ののちも、名誉回復のため、確定判決を覆す「再審」の申し出を繰り返し、逮捕から50年が経過した節目の年に、ついに無実が認められたのです。

 こういう場合に「節目の年」という表現が適切なのか、われながら疑問ですが。

 

 「当裁判所は、被告人否、ここでは被告人と言うに忍びず、吉田翁と呼ぼう。わ れわれの先輩が翁に対して冒した過誤をひたすら陳謝するとともに、実に半世紀の久しきにわたりよくあらゆる迫害に耐え自己の無実を叫び続けてきたその崇高 なる態度、その不撓不屈の正に驚嘆すべきたぐいなき精神力、生命力に対し深甚なる敬意を表しつつ翁の余生に幸多からんことを祈念する次第である」 

名古屋高裁 小林登一裁判長 1963.2.28 [判決理由]

 

 この吉田翁というのは「よしだおう」という読みでいいんですよね? 「翁」というのは男性老人に対する敬称を意味するそうです。 ハイ、いま、辞書引きましたよ。

 それにしても、道のりが遠い! すがすがしいまでの冬晴れで、天気はサイコーなのですが、まるでトラック物流専用のような郊外の国道に差しかかるにつれ、歩けども歩けども景色が変わらず、だんだんウンザリしてきました。

 いつしか、目はタクシーを探すようになっていたのですが、こんな雰囲気の道路を流しているわきゃないのです。 歩行者すらおらず、誰ともすれ違いませんし。

 

097

 
 

 歩みを進めること1時間半。 この道路脇の建物(卸売市場)の向こうに、翁の碑があるはずなのですが…… 案内板はないですね。

 でも、このあたりに違いないはずだと、もう少し歩いていくと、墓地のなかに大きな石碑らしきものが見えてきました。

 ただ、どうやって行けばいいんだろうか。 行く手を田んぼが1枚さえぎっています。

 国道の立体交差の脇なんですが、歩道なんてオマケ程度にしか設置されておらず、あちこちが行き止まりになっています。 ちょっとした迷路のようなルートを模索し、ついにゴールへたどり着きましたよ。

 

091  

 
 間違いありません。 「人権の神ここに眠る」とありますが、これは、小林裁判長の筆跡を写して彫られたものとのこと。

 まさに、「お墓 兼 石碑」という位置づけのようです。

 石碑の裏側には、『碑誌』と題された文章が刻まれていました。 以下、できるだけ原文に忠実に引用いたします。
 

 大正二年八月十三日の強盗殺人事件において、眞犯人の偽証のため、逮捕され、残虐きわまる拷門をうけたるも屈せず、終始犯行を否認す。しかし、その甲斐もなく無期懲役の刑確定して入獄。在監中囚人に非ずと主張して労務を拒否し、五十三回もの懲罰を受く。再審請願を繰返したるも容れられず。五十戈にして始めて文字を習い、精魂こめた手記を以て各方面に無実を訴う。犯行斗爭二十二年の後、仮出所。報道関係者の協力により、偽証した犯人の行方を突止めて詫び状をとり、それを証拠としての再審の請求数回、いづれも棄却さる。萬策つきはて、最後の悲願を日本弁護士連合會人権擁護委員會の援助に求む。かくて遂に、昭和三十八年二月二十八日完全無罪の判決をうけ、雪冤の目的をとげて天日を仰ぐ。その間実に半世記、人よんで「昭和のがんくつ王」という。
 名もなき硝子工場の一介の耺工でありながら、権力者の重圧に敢然として抵抗、自己の尊厳を護り抜いた吉田石松翁の崇髙にして毅然たる態度と不撓不屈の驚嘆すべきその精神力は、わが國の人権史上永遠に輝くであろう。
 行年八十四戈
 昭和三十九年十二月一日 弁護士 後藤信夫撰書

 

 

089  

 
 線香も何も持ってきてませんでしたが、ここはせめて、手を合わせて立ち去ることにしました。

 どうか安らかに。


 しかしですねぇ。 風がすごく強いんです。 オートシャッターが下りる瞬間を見計らったかのように、コートがめくれたり、私の薄い後頭部がめくれたりしており、見苦しく何回も撮りなおしをしてしまいました。

 結局、↑が一番マシな出来ばえ、というていたらく。

 

 「髪型など、どうでもよかろう」

 生涯をかけて冤罪と闘いつづけた吉田翁の目からは、このフリーライターは、どれだけ矮小な存在と映ったことでしょうか。 失礼しました。

 
 さて、駅に戻りましょうかね。

 えーと……

 
 そうですよね。 徒歩しかないんですよね。 とほほ。

 

102  

 
 JR小山駅の構内で、偶然「稲田みかげ」の展示品を見つけてしまいました。

 これも何かの縁だろうと、デジカメでパチリ。

 稲田みかげとは、最高裁判所庁舎の外壁にも使われている、国産の高級花崗岩です。 (※「サイコーですか? 最高裁!」より)

 ……ハイハイ、また宣伝ね。

 

 手元の万歩計に目をやると、2万6000歩と表示されていましたとさ。 うーん、過剰に健康的! めでたしめでたし。

| | コメント (0) | トラックバック (0)

2007年3月12日 (月)

「評議の秘密」って何だろう?

>>> 袴田事件支援団体の集会「無罪の心証」と元裁判官
 静岡県で1966年、みそ会社専務一家4人が殺害された「袴田事件」で、袴田巌死刑囚(71)(再審請求中)に対する1審・静岡地裁の死刑判決にかかわった元裁判官の熊本典道氏(69)が9日、東京都内で開かれた支援団体の集会に参加し、「自分は無罪の心証だったが、裁判長ともう1人の裁判官を説得できず、2対1の多数決で死刑判決を出してしまった」と明かした。
 熊本氏が、「評議の内容」を公の場で話したのは初めてで、再審支援に協力する意向も示した。
 裁判官が、判決に至るまでの議論の内容など評議の中身を明かすのは裁判所法に違反するが、熊本氏は「高裁や最高裁が間違いに気づいてくれることを願っていたが、かなわなかった。人の命を救うための緊急避難的な措置」と話した。 (読売新聞)2007年3月10日

 

 司法試験受験生にとって、袴田事件といわれたら「共産党袴田事件」でしょうが、そっちじゃないんですよ。

 あえていうなら「ボクサー袴田事件」です。

 じつは、この事件について、私もよく知らなかったんです。 最初に詳しく知ったのは、秋山賢三著「裁判官はなぜ誤るのか」や、浜田寿美男著「自白の心理学」(ともに岩波新書)がきっかけでした。

 ↓ 簡潔にまとまっています。
 袴田事件(事件史探訪)

 だいぶ昔の事件ですよ。

 今は、確定した死刑判決をもう一度見なおして欲しいという「再審」の請求(申請手続き)を、最高裁が受けつけるかどうかが待たれている段階です。

 なお、この手続きに30年近くかかっています。 もし最高裁が再審開始を決めたとしても、再審の裁判はこれから始まるんです。 地裁から。

 袴田死刑囚は今月、71歳の誕生日を迎えられました。

 

 熊本弁護士が裁判官時代、袴田事件の一審で死刑判決を書いたのは29歳のころ。

 殺人の罪で起訴された場合は、その事件を裁判官3人で審理することが義務づけられていまして(合議事件)、一番キャリアの浅い左陪席裁判官が、主任裁判官として判決文の案を書くならわしになっているようです。

 その若手裁判官の起案に、先輩の裁判長(部総括判事)や右陪席判事がツッコミを入れたりして、世に出す判決文を仕上げていくんです。 ときには、原型をとどめないほどの「修正」が行われることもあるとか。
 

 袴田事件法廷の左陪席に座って審理にあたった熊本さんは、検察側の立証をもとに袴田さんを有罪を導くのはムリがあると考え、「(検察官の主張が)疑わしきは罰せず」の鉄則を念頭に、主任裁判官として350ページの無罪判決文を起案なさったといいます。 

 しかし、すでに裁判長や右陪席が「死刑」の心証を固めていたため、2対1の多数決により、熊本さんは主文を死刑に書きなおして判決理由を導かざるをえませんでした。

 「高裁や最高裁が、この判決の間違いにきっと気づいてくれる」と信じつつ。
 

 判決前の評議で、たとえ裁判官3人の意見が分かれていたとしても、判決は、まるで何事もなかったかのように「全員一致」のものとして公判廷で出されなければなりません。

 この判決が出された後、熊本さんは裁判官をお辞めになっています。

 

◆ 裁判所法 第75条(評議の秘密)
1 合議体でする裁判の評議は、これを公行しない。但し、司法修習生の傍聴を許すことができる。
2 評議は、裁判長が、これを開き、且つこれを整理する。その評議の経過並びに各裁判官の意見及びその多少の数については、この法律に特別の定がない限り、秘密を守らなければならない。

 

 国民審査の対象である最高裁を除いては、評議の中での各裁判官の意見だけでなく、「何対何で有罪だったのか(or無罪だったのか)」との事実すら明かされません。 すべての合議判決・決定が「全員一致」ということになっています。

 「この結論が裁判所の意思だ」とする一貫した舞台演出によって、ギリギリの権威を保とうとなさっているのでしょう。 その気持ち、わからなくはありません。

 

 要するに、「ぶれない男のダンディズム」ってことでしょうか。

 今は女性の裁判官も少なくありませんが。

 

 ある裁判官が「評議の秘密」を破って、アノ裁判の裏側というものを世間に向けて語ったとしても、罰則が無いので犯罪になるわけではありません。

 ちなみに、再来年以降、裁判員が「評議の秘密」を破って、どんな話題が出てきたか、裁判長はどんな態度だったかなどを、日常会話やブログなどで明らかにした場合、こうなります。
 

◆ 裁判員の参加する刑事裁判に関する法律 第79条(裁判員等による秘密漏示罪)
 裁判員又は補充裁判員が、評議の秘密その他の職務上知り得た秘密を漏らしたときは、6月以下の懲役又は50万円以下の罰金に処する。

 

 うーむ、この扱いの差は、いったい何なのでしょうか。

 ♪教えてぇー  おじぃーさんーー
 

 裁判員はともかくとして、裁判官は評議の内容をぶっちゃけても犯罪にはなりません。

 現職の裁判官であれば、「職務上の義務に著しく違反」したということで、弾劾裁判にかけられて強制的に辞めさせられる対象にもなりかねませんが、熊本さんはすでに辞めてますので、この点では関係ありません。

 ただ、「神聖」であるべき評議の中身を公表したことは、裁判官やその経験者などから職業倫理的に責められることは仕方がないところでしょう。

 もちろん、熊本弁護士としても、その覚悟を決めた上での発言だったはずです。

 40年間、誰にも真実を打ち明けられず、「王様の耳はロバの耳」だと言えず、じっと耐えてこられたのでしょう。 しかし、70歳を前にして、冥土まで持っていくべき秘密ではない、と腹をすえての決断だったのかもしれません。

 氏は「人の命を救うための緊急避難的な措置」とおっしゃってますが、先ほども説明いたしましたとおり、評議の内容をバラすことは刑事処罰の対象ではありません。 「的」と付いていますとおり、緊急避難そのものではないんですよ。

 ただ、今回の熊本さんの発言が特別に許されるものだとしたら、どんな法律構成が考えられますかねぇ。
 

 んーと…… 

 んーーーと…………

 

 超法規的措置。

 どこが法律構成だか。

 

 たとえば内閣の構成は「一体性」というものを確保しなければならないとされています。 総理大臣の意向と違うことを言っているナントカ大臣は、国会で野党から腹いっぱいツッコまれて辞めさせられ、別の人が入って来たりね。

……まぁ、いろいろです。(←興味ないのがミエミエ)

 
 日本国民の総意の「反映」「統合」だということにされている国会議員の先生方が出す「不信任決議」によって、内閣は、いつ総辞職の憂き目にあうか知れないリスクを負いつつ存在していますから、もちろんそれなりに必死です。

 ただ、裁判所の合議はどうでしょう。 いくら個別の事件に限ったこととはいえ、裁判官らの意見が分かれているものを「みんなこう言ってますよ」として世に出すとは。
 

 これを、一般庶民の素朴な感覚で「ウソ」と呼びます。
 

 個別意見を明かさないのは、まぁ理解はできます。 特に裁判員制度が始まれば、一般人の身が危険にさらされるおそれがあります。

 それでも、せめて結論が何人対何人で分かれたのか、という最低限の情報ぐらいは知らさせてもいいはずです。

 

 「評議の秘密」は、誤判の責任をあいまいにするための隠れミノですか? 違うでしょう。

 世間で政治家の皆さんは「汚い」ものの代名詞みたいな言われようですが、彼らは仕事上の間違いをおかせば政治責任を取らされます。 裁判官はいかがでしょうか?

 

>>>>>>> みそしるオススメ本
 

自白の心理学
自白の心理学 浜田 寿美男

おすすめ平均
starsなぜ被疑者は虚偽自白するのか
stars冤罪は誰の責任なのか?
stars難しい専門知識不要の冤罪メカニズム解説書

Amazonで詳しく見る
by G-Tools

 

裁判官はなぜ誤るのか

裁判官はなぜ誤るのか 秋山 賢三

おすすめ平均
stars裁判は絶対に正しいか?
stars解決しない問題
stars裁判官が語る「裁判官」の危険な一面
stars恐るべき現状
stars良書です

Amazonで詳しく見る
by G-Tools

| | コメント (2) | トラックバック (0)

2007年3月 8日 (木)

ぬれぎぬという理不尽

>>> 強姦冤罪事件:男性が弁護士解任
 富山県警が強姦(ごうかん)、同未遂容疑で02年に逮捕した男性(39)が服役後に無実と分かった冤罪(えんざい)事件で、男性の依頼を受け再審公判に向け準備を進めていた3人の弁護士が6日、解任された。
 和醍(わだい)法律事務所の村田慎一郎弁護士によると、6日夕方に男性本人から電話で解任の連絡があったという。
(※中略)
 また、男性は今後の生活に頭を悩ませていたという。
 親類によると、男性と親類とは直接連絡が取れていない。県警によると、男性は、県警が直接謝罪した1月23日には、知人と一緒に県警本部を訪れていた。(毎日新聞)2007/03/07

 

 このブログでは、ご紹介するタイミングを逃していた出来事ですが、大変ひどい話ですよ。

 「いきなり再審をあきらめる」「連絡が取れない」というのは、とても心配な兆候です。 尋常でないほど気持ちが落ち込んでおられたり、ひどく自暴自棄になったりしているのではないでしょうか。 男性は誤認逮捕があってからというもの、家族にずっと見放されてきたそうでして。

 今から再審で無罪を勝ち取ろうにも、大変な道のりが待ちうけています。 なかなか将来に希望を抱きづらく、モチベーションが上がらないでしょうね。 すでに実刑判決を受けて服役を済ませているのですから。 「もう、遅っせぇよ!」と言いたくもなるでしょう。

 

◆ 日本国憲法 第40条(刑事補償請求権)
 何人も、抑留又は拘禁された後、無罪の裁判を受けたときは、法律の定めるところにより、国にその補償を求めることができる。
 

◆ 刑事補償法 第4条(補償の内容)
1 抑留又は拘禁による補償においては、前条(※補償しなくていい場合の規定)及び次条第2項に規定する場合を除いては、その日数に応じて、1日1000円以上1万2500円以下の割合による額の補償金を交付する。懲役、禁錮若しくは拘留の執行又は拘置による補償においても、同様である。
2 裁判所は、前項の補償金の額を定めるには、拘束の種類及びその期間の長短、本人が受けた財産上の損失、得るはずであつた利益の喪失、精神上の苦痛及び身体上の損傷並びに警察、検察及び裁判の各機関の故意過失の有無その他一切の事情を考慮しなければならない。
(※以下略)

 

 再審無罪によって、事後的に国庫から刑事補償は支払われますが、残念ながら、失われた時間や人間関係を補償する制度を人類は持ちえていません。

 この男性、誤認逮捕の直後は犯行を自白していたようなのですが、取り調べ段階では一転して容疑を否認したため、捜査官が相当腹を立てていたようです。

 捜査官の立場からすれば「往生際が悪いやっちゃな」というところでしょうか。 明らかにやっているクセに否認や黙秘をつづける被疑者を数多く見てきて、うんざりしておられる方も多いのでしょう。

 その心中はお察ししますが、ただ、物証と違って供述調書というのは「事件の後で作る証拠」です。 本来は慎重の上にも慎重をかさねて作成されるべきものです。

 なのに、「質問に『はい』か『うん』以外は言うな」と命じて調書を作成したり、「今後は発言を覆さない」という念書を書かせてみたりと、密室でやりたい放題の取り調べが行われたようですね。

 そういうのって、強要の罪に該当しないんで…………  あぁ、そうね。 正当業務行為で違法性が無くなるんですか。 なるほどなるほど。言いすぎました。

 真犯人とされる男(鳥取在住)の逮捕によって冤罪が発覚し、警察や検察、法務大臣は謝罪しました(同時に取り調べ担当官を『おとがめなし』とすることも発表)が、裁判所はまだ無罪という判断をしていません。 真犯人とされる51歳の被告人については、第5回まで公判が進んでいるようです。 裁判長は藤田敏氏。

 できれば裁判所にも謝罪していただきたいところですが、それは叶わぬ夢でしょうか。

 

 2002年11月、ぬれぎぬであるレイプの罪で、どなたか知りませんが富山地裁高岡支部の裁判官から、懲役3年を言い渡された男性。 法壇に向かって「申し訳ありません」と頭を下げたときに、どっと涙があふれてきたといいます。

 懸命に刑務をまっとうされたのでしょう。 刑期は短縮され、2年1ヶ月後の出所となりました。

 正義の法律用語辞典では、冤罪について「判決の大量生産で、どうしてもできてしまう多少の不良品」と書きましたが、もちろん皮肉をたっぷり効かせた記述です。

 検察官の出してきた証拠が十分でないなら、裁判官はキッチリ無罪を言い渡さなければなりません。

 「精密司法」をいうなら、有罪率を100%に近づけるのではなく、「疑わしきは罰せず」という鉄則の適用を100%にしていただきたい。 精密さを発揮すべきは、本来そっちでしょう。

 別に無罪判決は悪でも失策でもありません。 それを「情況証拠」だとか「推論」だとかを積み重ねて有罪に導いてみせるのですから。 頭がよすぎるのも考え物です。

 今日3月8日は、いわゆる「東電OL殺人事件」(ゴビンダさん冤罪事件)の発生から、ちょうど10年という節目です。

 裁判所の前で配られていたビラをきっかけに、私は1月に「無実のゴビンダさんを支える会」の勉強会に参加する機会がありました。 事件現場となった部屋にも入ることができましたので、近いうちに、この東電OL事件についても書いてみようと思います。

 このブログも、ウケを狙ってるだけでは幅が広がりませんからね。 こういった重たくてたまらない出来事、でも決して目をそらしてはならない現実について、どういう書き方をすれば多くの皆さんに読んでもらえるのか、悩みどころです。

 

>>>>>>> みそしるオススメ本
 

 商品を確実に売るために、お客さんのにアプローチしていく……。

 「神経経済学」 「ニューロ・マーケティング」という見慣れない合成語が登場してきます。

 脳トレブームの立役者である脳科学者が、次の新境地として開拓なさっているのでしょう。 面白い試みで、「なんだかすごい時代が来たなぁ」と思いつつも、とっても興味深く読めました。
 

欲望解剖
欲望解剖 茂木 健一郎 田中 洋 電通ニューロマーケティング研究会

おすすめ平均
stars実感のある解説だ
starsマーケティングは身近なもの
stars面白い!
starsマーケティングの未来
stars考えるヒントがちりばめられています

Amazonで詳しく見る
by G-Tools
 

| | コメント (0) | トラックバック (0)

2007年1月24日 (水)

良質のホラー映画「それでもボクはやってない」

 観てます? 日曜9時のTBSドラマ「華麗なる一族」。なかなかイイですね。

 ひさびさに「留守録してでも観たい」と思わせてくれる、しっかりしたテレビドラマが出てきました。うれしいです。

 ま、私はドラマを観ているというより、ハセキョーを観ているのですが。

 
 相変わらず美しい長谷川京子さんは、「裁判員制度の女神」の座を仲間由紀恵さんに奪われるという悲しみを乗り越え、気丈に振る舞ってられますね。

 いや、それとも余計なお荷物から解放されてセイセイしているのか。 あるいは、彼女のキャリアの黒歴史として完全に忘れ去っているのか。

 ……これ以上は言わないことにしましょう。 切なくなりますので。

 
 それにしても、西田敏行は料亭シーンが似合いますねぇ。一瞬「白い巨塔」のデジャヴかと思いましたよ。

 

 さて、裁判員制度が動き出すのも、いよいよ再来年に迫り、しかもチマタは空前の「裁判傍聴ブーム」だといいます。

 マニアの皆さんは、じつに熱心に裁判所へ通われてますよね。 感心いたします。 傍聴マニアのブログを「傍聴」するのが趣味のマニアもいるようで。

 私は近ごろ、週2回行ければイイほうですよ。 他人様の人生を傍観する前に、まずは自分の人生の建て直しを優先させにゃならんところですので。

 これだけ「裁判」というものが注目される中で、あの映画「Shall we ダンス?」で著名の周防正行監督・脚本の最新作「それでもボクはやってない」が封切られました。

 「このジャンルの映画料金なら、司法ライターとしての経費になるはず」という、個人的なセコさもあって、行ってまいりましたよ。 バイトが終わった後にレイトショーで。

 映画館へ映画を観に行くのは、ひさしぶりです。 司法浪人の最後の年に「ゼブラーマン」を観て、どんなに傷ついても何度も何度も空を飛ぶ特訓を繰り返すゼブラーマンの姿に涙して以来でしょうか。(赤恥)

 
 電車のドアにスーツがはさまってしまい、それを抜き取ろうとモゾモゾしていただけなのに、近くの女子中学生から「チカン」と誤解されてしまう男。 容疑をずっと否認しつづけていると、逮捕→勾留→起訴と、みるみる泥沼にはまっていきます。

 しかし、公判担当の裁判官は「疑わしきは罰せず」という鉄則を忠実に守り、否認事件では無罪判決を多く出すことで有名な方。 主人公に一縷の望みが出てきます……。

 日本の「決めつけ司法(命名:みそしる)」の問題点を見事にあぶりだした作品です。 その「決めつけ司法」という巨大な敵に敢然と立ち向かい、あきらめずに闘う弁護人や支援者の努力や苦悩がストレートに胸を打ちます。

 私も観ていて、………なんだか、弁護士になりたくなっちゃいました。

 

 冗談はさておき、出色の完成度なのは法廷シーンです。 東京地裁の傍聴マニアならビックリすると思います。 実際の法廷と違いがまったくわかりませんから。

 私はツッコミどころを探そうと、意地悪く細かく注目していきましたが、法壇の材質や寸法、マイク、傍聴席の柵やイス、それぞれの器材の距離関係、被告人や裁判官が出てくる扉の奥の雰囲気、壁の時計、果ては女子中学生が法廷で証言する場面での遮蔽スクリーンまで……。

 おんなじですねぇ。

 まさか東京地裁がロケに協力したってことはないでしょうし。

 唯一、壁の色が違って、新しい壁紙に見えるぐらいですか。 やっぱり撮影用のセットをつくったんでしょうね。 それにしては、よくできてます。

 ツッコミどころを探せば探すほど感心のしどおしで、一般に非公開である留置場や取り調べのシーンは、逆に「へぇ~」と、発見の連続でした。 法廷をあそこまで忠実に再現なさるぐらいですから、こちらも質量ともに尋常でない取材を重ねて、実際の様子と遜色なく描かれているのでしょう。 私のライターとしての活動が、いかに底の浅いものか思い知らされます。

 撮影セットの見た目だけでなく、ウソをつこうとしていないのに証言が現実の出来事と食い違っていくさまもリアルですし、主人公に当番弁護士を頼まれたときの警官の反応や、弁護人の「しかるべく」「差しつかえです」などのお決まりのセリフがおかしいですね。

 現実の法廷では「異議あぁぁりっ!」なんて派手に叫んだりしていません。 というより、争いのある刑事事件そのものが稀少ですし。

 時系列をぐちゃぐちゃに入れ替えて魅せるような演出に凝る映画が多い中、本作は、事件当時の回想シーンを除いて、物語が時間の進み方に素直に展開していきます。 とても見やすくできているうえに、まったく退屈しません。

 この作品は、じつはホラー映画に分類されるべきかもしれません。 一般的なホラー映画だと、突拍子もない展開につい笑ってしまう私ですが、こればかりは本気で怖かったです。 何の誇張も飾りもなく、司法の現実が淡々と描かれていますから。

 容疑者逮捕のメディア報道をもって「事件は解決した」と思いこみがちな、法律学の予備知識がない一般の皆さんにも、私が感じた怖さがわかってもらえるはずです。

 「誤認逮捕は決して他人事ではない」と痛いほど気づき、「『疑わしきは罰せず』の鉄則が守られない恐ろしさ」を理解していただけるかと思います。 そのへんを説教くさくなく仕上げているところに、人気映画監督らしい仕事の跡が見て取れます。

 そして、周防監督ご自身もおっしゃっていますが、この映画は現職の裁判官にこそ目を見開いて観ていただきたいものです。 というより、裁判官に観せるためにつくったとしか思えないのですがね。

 ラストに近づくにつれて、現実の司法を鋭くえぐるセリフの数々が飛び出します。 監督自身のお考えを、ストレートに登場人物に代弁させているのでしょう。

 ひさしぶりに映画館に行って、楽しかったです。1回分の映画代金があれば2,3日暮らせますから、ついつい私はケチってしまいますが、今度は話題沸騰、「愛ルケ」のハセキョー濡れ場でも拝見しますか?

 

 ……ただ、テレビならまだしも、カネを出してまで逢いに行く気にならない私。ハセキョーへの惜しみない愛も、それまでか。

 いっそのこと「ハセキョーライター」を名乗ったら、愛ルケ代も必要経費で…… とりあえず黙って「贅沢日和」でも飲んどこ。
 
 
 冗談はともかく、「鶴橋康夫監督作品」という要素は気になるなぁ。かつてのドラマ「リミット」や「砦なき者」が実に素晴らしかったので。

 

>>>>>>> エントリ関連書籍 <<<<<<<

それでもボクはやってない ― 日本の刑事裁判、まだまだ疑問あり!
それでもボクはやってない ― 日本の刑事裁判、まだまだ疑問あり! 周防 正行

幻冬舎 2007-01
売り上げランキング : 1222


Amazonで詳しく見る
by G-Tools
お父さんはやってない
お父さんはやってない 矢田部 孝司+あつ子

おすすめ平均
stars身につまされます
stars冤罪によって翻弄された人間模様を描いた渾身のドキュメント
stars非常に複雑・・・。
stars疑わしきは罰する現実
stars「疑わしきは罰せず」

Amazonで詳しく見る
by G-Tools
彼女は嘘をついている
彼女は嘘をついている 小泉 知樹

おすすめ平均
stars裁判で負けたとしても…
stars真摯に伝えようとする文章がこころを打ちます

Amazonで詳しく見る
by G-Tools
 

| | コメント (6) | トラックバック (1)

その他のカテゴリー

★「サイコーですか? 最高裁!」(光文社) | ★「裁判官の爆笑お言葉集」(幻冬舎新書) | ☆「裁判傍聴マガジン」(イースト・プレス) | 『話題』『重大』の判決日程表 | とほほ権力 | ぬれぎぬという理不尽 | はじめてのお改憲 | らしくない弁護士 正木ひろし | ニッポン「違法状態」探訪 | ニュース | フジサンケイ「新規参入」騒動 | ミラクルニュースの研究 | メールマガジンの追補 | 交通安全 ふしぎ発見! | 人権擁護法案の「危険部位」を検証する | 出版企画「疑似恋愛で乗り切る受験」 | 司法浪人いろはガルタ | 司法試験挫折後…… 人生再建あれこれ | 地方 ふしぎ発見! | 実定法としての皇室典範 | 文明VS大自然 | 日記・コラム・つぶやき | 書籍・雑誌 | 本日の乱暴者 | 条例で見る“地方の時代” 〔その他〕 | 条例で見る“地方の時代” (北海道) | 条例で見る“地方の時代” (東北) | 条例で見る“地方の時代” (関東) | 死刑という刑罰 | 法と実態の矛盾 | 法と生命 | 法律の種(法案) 法律の芽(新法) | 法律家の語録集 | 法科大学院 ふしぎ発見! | 泥棒 ふしぎ発見! | 私の知らないマイナー法の世界 | 第20回最高裁判事国民審査に向けて | 第21回 最高裁判事国民審査に向けて | 自由と正義の三百代言 ― 弁護士 | 自由業者の行き当たりバッタリ取材旅行 | 裁判ニュースつまみぐい | 裁判傍聴録「レペタな私」 | 裁判傍聴録「レペタな私」〔ダイジェスト版〕 | 裁判員制度を裁く! | 裁判所 このワンダーランド | 裁判所が認めた「あたりまえ」 | 逮捕ニュースつまみぐい | 18禁法律学 | 4コマまんが