きのう、宇都宮地裁でまたしても、お目当ての裁判官に出会うタイミングを外しました。 おかしいなぁ。 担当曜日のはずなのに。
まぁ、宇都宮なら、いつでも行けるかなと思いますので、また向かうまでですけど。
今日は、宇都宮から南へ電車で20分ほどの「小山」というところに来ました。 新幹線が停まる駅だけあって、わりと開けた街並みが広がっていますが、私のお目当ての場所までは、JR小山駅から7キロぐらい離れています。
タクシーで行って帰ってくれば済むんですが、それじゃあ、あまりにもつまらんなと思い、ためしに自分の足で向かってみることに。 クルマで通り過ぎたら気づかない発見があるんじゃないかと。
途中で、けっこう小ぎれいな、小山簡易裁判所の庁舎と遭遇しましたよ。
……うーむ、でも、そうそう面白いモノは見つからんか。 甘かった。
それより、私が目指している「昭和の巌窟王」の石碑は、まだまだ姿が見えません。 見くびっていました。
吉田石松さんは、大正2(1913)年に強盗殺人の罪で誤認逮捕され、無期懲役の判決を言いわたされます。
仮出所ののちも、名誉回復のため、確定判決を覆す「再審」の申し出を繰り返し、逮捕から50年が経過した節目の年に、ついに無実が認められたのです。
こういう場合に「節目の年」という表現が適切なのか、われながら疑問ですが。
「当裁判所は、被告人否、ここでは被告人と言うに忍びず、吉田翁と呼ぼう。わ
れわれの先輩が翁に対して冒した過誤をひたすら陳謝するとともに、実に半世紀の久しきにわたりよくあらゆる迫害に耐え自己の無実を叫び続けてきたその崇高
なる態度、その不撓不屈の正に驚嘆すべきたぐいなき精神力、生命力に対し深甚なる敬意を表しつつ翁の余生に幸多からんことを祈念する次第である」
名古屋高裁 小林登一裁判長 1963.2.28 [判決理由]
この吉田翁というのは「よしだおう」という読みでいいんですよね? 「翁」というのは男性老人に対する敬称を意味するそうです。 ハイ、いま、辞書引きましたよ。
それにしても、道のりが遠い! すがすがしいまでの冬晴れで、天気はサイコーなのですが、まるでトラック物流専用のような郊外の国道に差しかかるにつれ、歩けども歩けども景色が変わらず、だんだんウンザリしてきました。
いつしか、目はタクシーを探すようになっていたのですが、こんな雰囲気の道路を流しているわきゃないのです。 歩行者すらおらず、誰ともすれ違いませんし。
歩みを進めること1時間半。 この道路脇の建物(卸売市場)の向こうに、翁の碑があるはずなのですが…… 案内板はないですね。
でも、このあたりに違いないはずだと、もう少し歩いていくと、墓地のなかに大きな石碑らしきものが見えてきました。
ただ、どうやって行けばいいんだろうか。 行く手を田んぼが1枚さえぎっています。
国道の立体交差の脇なんですが、歩道なんてオマケ程度にしか設置されておらず、あちこちが行き止まりになっています。 ちょっとした迷路のようなルートを模索し、ついにゴールへたどり着きましたよ。
間違いありません。 「人権の神ここに眠る」とありますが、これは、小林裁判長の筆跡を写して彫られたものとのこと。
まさに、「お墓 兼 石碑」という位置づけのようです。
石碑の裏側には、『碑誌』と題された文章が刻まれていました。 以下、できるだけ原文に忠実に引用いたします。
大正二年八月十三日の強盗殺人事件において、眞犯人の偽証のため、逮捕され、残虐きわまる拷門をうけたるも屈せず、終始犯行を否認す。しかし、その甲斐もなく無期懲役の刑確定して入獄。在監中囚人に非ずと主張して労務を拒否し、五十三回もの懲罰を受く。再審請願を繰返したるも容れられず。五十戈にして始めて文字を習い、精魂こめた手記を以て各方面に無実を訴う。犯行斗爭二十二年の後、仮出所。報道関係者の協力により、偽証した犯人の行方を突止めて詫び状をとり、それを証拠としての再審の請求数回、いづれも棄却さる。萬策つきはて、最後の悲願を日本弁護士連合會人権擁護委員會の援助に求む。かくて遂に、昭和三十八年二月二十八日完全無罪の判決をうけ、雪冤の目的をとげて天日を仰ぐ。その間実に半世記、人よんで「昭和のがんくつ王」という。
名もなき硝子工場の一介の耺工でありながら、権力者の重圧に敢然として抵抗、自己の尊厳を護り抜いた吉田石松翁の崇髙にして毅然たる態度と不撓不屈の驚嘆すべきその精神力は、わが國の人権史上永遠に輝くであろう。
行年八十四戈
昭和三十九年十二月一日 弁護士 後藤信夫撰書
線香も何も持ってきてませんでしたが、ここはせめて、手を合わせて立ち去ることにしました。
どうか安らかに。
しかしですねぇ。 風がすごく強いんです。 オートシャッターが下りる瞬間を見計らったかのように、コートがめくれたり、私の薄い後頭部がめくれたりしており、見苦しく何回も撮りなおしをしてしまいました。
結局、↑が一番マシな出来ばえ、というていたらく。
「髪型など、どうでもよかろう」
生涯をかけて冤罪と闘いつづけた吉田翁の目からは、このフリーライターは、どれだけ矮小な存在と映ったことでしょうか。 失礼しました。
さて、駅に戻りましょうかね。
えーと……
そうですよね。 徒歩しかないんですよね。 とほほ。
JR小山駅の構内で、偶然「稲田みかげ」の展示品を見つけてしまいました。
これも何かの縁だろうと、デジカメでパチリ。
稲田みかげとは、最高裁判所庁舎の外壁にも使われている、国産の高級花崗岩です。 (※「サイコーですか? 最高裁!」より)
……ハイハイ、また宣伝ね。
手元の万歩計に目をやると、2万6000歩と表示されていましたとさ。 うーん、過剰に健康的! めでたしめでたし。
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